皆さんが,適性試験の学習を始めるにあたり,冒頭に大事な話をします。みなさんのこれまでの受験の経験(中学受験・高校受験・大学受験・就職試験など)の常識に照らすとき,以下の話は信じられないような内容かもしれませんが,私たちは,このことを揺るぎなく確信しており,辰已の講義では一年中,折に触れて述べています。非常に大切なことなので,学習の節目ごとに,いつも思い出して欲しいのです。
1 重要なことは,暗記するのではなく,理解してください。
大学受験や,法律試験では,暗記を要求され,その度合いを試験で測定された経験があることでしょう。だから,試験のためには暗記が必要だと,多くの方が考えています。法科大学院入試では,この呪縛から解き放たれることが,必要なのです。
たとえば「pまたはqであり,かつpでない,ならば,qである」という選言三段論法というものがあります。これを丸暗記しても,現実のロジックとして使いこなすことはできません。何が何でも「理解」して,自分のものにして下さい。理解すれば使えます。また,理解した結果として覚えることは,すばらしいことなのです。
私たちは講義中に「これは大事なことだから覚えて下さい」とは口が裂けても言いません。「理解して下さい」と言います。その意味を,噛み締めてください。
2 知識は,階層化した上で理解を伴っていなければ,使い物になりません。
知識の少ない人は,知識の多い人をみて,すごいなあ,と思うものです。ところが,知識が単に量だけにとどまっていると,物知り君ではありますが,試験には通らないし,次のステップにも進めません。それは,法科大学院入試は,法律試験を除き,知識を問わないからです。問われないものを持っていてもしょうがないのです。
でも,問われない知識でも,間接的には使えます。知識を使うためには,それを階層化した状態で保有しなければなりません。階層化されていない知識は,その場面で必要であっても,的確にアクセスすることができない死んだ知識なのです。知識が活用可能な状態になると,それは人格の芯に染み込みます。そのとき,知識(knouledge)が知恵(wisdom)に変わるのです。
3 読解問題は構造を意識し,小論文では構造化された文章を書いて下さい。
文章を書く目的はさまざまありますが,法律家の書く文章の目的は「説得」にあります。人を感動させること,楽しませること,続きを読みたいと思わせること,それらはいずれも目的外なのです。だから,適性試験における「表現力」とは,文章構造をつくり出すことですし,小論文試験における評価は「説得力」を見るものとなります。
説得するには,伝達が必要。伝達するためには論理が必要。論理には構造が不可欠です。その対偶をとれば,構造のないところに論理はなく,だから,伝達もなく,説得もないのです。
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以上の3点は,そのことばを唱えるだけで直ちにマスターできるものではありません。何回もの講座を重ねていく中で,身につけていただくものです。適性試験対策講座も,小論文対策講座も,すべては,これらのことを身につけてもらうためにあるのです。これらは,いずれも
言語能力(competence)
の現れです。法律の学習をするための「資質」として求められる言語能力は,記憶力とは異なるのです。言うまでもなく,法律学には記憶が必須ですが,法律試験とは異なる試験が課されているのですから,区別をして下さい。
適性試験も小論文試験も,そこには,予め持っている記憶と照合することにより正誤(真偽)を判断するような場面は,ありません。この点が,皆さんがこれまでに経験したであろう受験とは異なる点です。信じられないと思う人は,実際の過去問を,ちゃんと見て下さい。あることを知っているかどうかを問う設問は,1問たりともないのです。それを確認して下さい。
以上に述べた重要事項を理解し,それを自分のものにした上で法科大学院に進学した先輩たちは,法律学について全くの未修者であっても,3年ないし4年の歳月の努力によって,司法試験にも合格しています。法律学に要求される知識は膨大なので,暗記型学習では,必ず破綻します。一方,学びにおいて理解・階層化・構造化の3点を実践すれば,膨大な知識も頭に入ります。頭の中に知識を入れるための区画整理をするのです。
この,区画整理を実践するのが,法科大学院入試における適性試験と小論文試験なのです。だから,
法曹養成は適性試験からはじまる
と言われるのです。私たちは,このような意識で,責任感とやり甲斐を抱いて,仕事をしています。
法科大学院入試で問われる能力は,知識を頭に入れる能力を持っているか否かであって,知識そのものではないのです。講座では,一定量の知識も教えますが,それより大切なこととして,知識の持ち方と使い方を教えます。しかも,理解できるように教えます。皆さんが上記の点を理解して,日々の生活態度の中に取入れることで,本当の実力を伸ばされることを願っています。
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