1 物事の背後にある法則をつかみ出す
辰已で実施している「適性試験スタンダード講座」の初回には,私たちが何気なく日常的に使っている言葉の中から,「ならば」「かつ」「または」「〜でない」「すべての〜」「ある〜」といった6つの言葉を抜き出して,その性質を改めて考えてみました。もちろん,私たちの使っている言葉は,これらの言葉以外に無数にあります。しかし,上述に取り出した6つの「言葉」は,他の言葉とは異なっています。それらは文章の背後にある「構造」を表す言葉なのです。
ただ,今の「取り出した6つの『言葉』が,他の言葉とは異なっています」という表現自体は若干不正確な表現であるとも言えます。ここで取り出したのは「言葉」自体ではなく,その背後にある「構造」だというのが本当のところです。「ならば」といった「言葉」を通じて,文の背後にある構造を取り出して考えた,というほうが正確でしょう。実際,「pならばqである」という「言葉」でなくても,「pはqだ」「pのときqである」「pとするとqだ」「pと仮定するとqとなる」「if p, then q」……などと言った他の「言葉」で表しても,その「指し示しているもの」は同じです。私たちは,これらの言葉が共通に「指し示しているもの」を取り出して考えようとしているのです。この点をしっかりと掴みましょう。そうでないと,いったい何をしているのかがわからなくなってきます。私たちは,物事の背後にある本質をつかみ出す姿勢を身につけようとしているのです。
以上のように,表面に見えているものの背後にある1つの性質に注目し,その性質を抜き出す把握・作用を「抽象」といいます(なお,1つの性質を抜き出すためには,他の性質を切り捨てることになりますが,この側面に注目した場合は「捨象」という言い方をします)。その反対は言うまでもなく「具体」となり,これは個別の特殊な形態や内容が直接明確に知覚できる状態にあることを指します。
2 抽象化の目的=道具化
では,なぜ「抽象」する(これを「抽象化」と言います)のでしょうか。「具体」のままではなぜいけないのでしょうか。
それは,物事の本質を抜き出すことができれば,そこからより広い事例に適用できる法則を導くことができるからです。個別の具体的な知識は,それだけで放っておいては単なるバラバラな知識(雑学)に過ぎません。ところが,それらの共通する側面を抽象化して取り出しておけば,他の場所で利用できるようになるのです。例えば,電気は,下敷きと紙をこすり合わせたときや,雷が生じたとき等に発生しますが,それらが電子の流れであるという本質を人間は取り出しました。その本質を把握したからこそ,その生成・制御・利用の仕方を研究することができ,現在,生活のあらゆる場所で,私たちは電気の恩恵にあずかっているのです。
このように抽象化して本質を取り出し,活用していくことを,ここでは知識の「道具化」と呼ぶことにします。そして大事なことは,抽象化の度合いが高いほど,そこから得られた知見の適用範囲は広がる,つまり「道具」の有効度は高まる,と言うことです。
3 道具を「身に付ける」=使用しつつ,再び本質の理解を深める
実は,「適性試験スタンダード講座」で学習する内容は,進行するにつれてグッと抽象度が上がります。そして,「pならばq」という言葉の背後にある構造を学ぶ段階で,おそらくは,困難を感じる人の割合もグッと上がります(ある意味,適性試験の論理的思考分野での最大の「山場」がいきなり来るとも言えます)。どうしても,考えるのが嫌になってしまうのですが,より有効な思考のための「道具」を手に入れるためには,この抽象度の上昇が必要なのです。この点を良く理解して下さい。そして,抽象化の先にある「道具」としての方法論(たとえば「真偽表」の考え方など)を「身に付ける」ようにしましょう。
「抽象的でよくわからないから,ベン図で考えればいいや」といった態度は,いずれ行き詰まってしまいます。それは表面的な理解でとどまる態度であり,本当の「理解」ではありません。実際,本試験では具体的な状況に応じた柔軟な対処が求められますが,表面的な理解では対応しきれません。本質を把握し,「道具」をきちんと身につけることが必要なのです。この点をよく頭において,学習に臨みましょう。
また,以上の態度とは別に「よくわからないけれど方法だけ覚えよう」という態度もよく見られます。道具を学ばないよりは学ぶ立場の方がより「まし」なのですが,「覚える」でとどまるべきではありません。道具を使えるようになったらもう一度「何をしているのか」の理解に立ち戻りましょう。真偽表の方法で言えば,「全てのパターンを先に網羅し,思考に漏れがないようにする。そのために真偽のパターンの生成の仕方を研究する」ということになります。これを,自分の言葉で感覚にまで落とし込んだ次元で理解する=「身に付ける」ことが目的です。いったん自分のものになった知識=知恵は,どんな状況でも応用できますし,忘れることもありません。その状態を目指しましょう。
|