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@短答式試験【公法系・民事系・刑事系】

A論文式試験【公法系】

B論文式試験【民事系】

C論文式試験【刑事系】

  
■公開:2009年05月14日
 

2009年5月13日に第4回の新司法試験の短答式試験が行われました。
そこで,その概要をまとめましたので,ご参考ください。

 

☆問題数の比較

●公法系(憲法・行政法)

●民事系(民法・商法・民事訴訟法) 

●刑事系(刑法・刑事訴訟法)

40問(憲法:20問,行政法:20問)

74問(民法:36問,商法:19問,民訴:19問)

40問(刑法:20問,刑訴法:20問)

〔注:昨年の新司法試験と比較した場合,公法系・刑事系については変動はありませんでしたが,民事系は1問増加して74問となりました(昨年73問)。〕

☆配点の比較

●公法系(憲法・行政法)         

●民事系(民法・商法・民事訴訟法)   

●刑事系(刑法・刑事訴訟法)      

満点100点(憲法:50点,行政法:50点)

満点150点(民法:74点,商法:38点,民訴:38点)

満点100点(刑法:50点,刑訴:50点)

〔注:昨年の新司法試験と同様でした。〕
 
問題数のバランス
 
プレテスト
2006
本試験
2007
本試験
2008
本試験
2009
本試験
公法系
憲法
21
20
20
20
20
行政法
19
20
20
20
20
民事系
民法
36
35
35
35
36

商法

19
19
18
19
19
民訴
19
17
17
19
19
刑事系
刑法
20
20
20
20
20
刑訴
20
20
19
20
20
合計
154
151
149
153
154
 
配点のバランス
 
プレテスト
2006
本試験
2007
本試験
2008
本試験
2009
本試験
公法系
憲法
53
50
50
50
50
行政法
47
50
50
50
50
民事系
民法
72
75
74
74
74

商法

38
38
38
38
38
民訴
40
37
38
38
38
刑事系
刑法
50
50
50
50
50
刑訴
50
50
50
50
50
合計
350
350
350
350
350
 

☆ページ数の比較

●公法系(憲法・行政法)

        

●民事系(民法・商法・民事訴訟法)

 

●刑事系(刑法・刑事訴訟法)

  

 

24ページ

(昨年の22ページから2ページ増えています)

31ページ

(昨年の29ページから2ページ増えています)

26ページ

(昨年の23ページから3ページ増えています)

〔注:いずれの科目も昨年よりも頁数が増えています。〕

法務省発表による出願者数など

1 出願者数    9,734人(2009年2月4日 法務省発表)

2 受験予定者数 9,564人(2009年4月23日 法務省発表)

各科目の傾向

 公法系では,問題数は変わらず,配点のバランスも変更はありませんでした。いわゆる「1−2問題」は,昨年度よりも1問増えて19問となりました。この「1−2問題」の形式において,従来にはあまり見られなかった見解・批判・根拠などを問うものがあり(第8問,第13問,第17問,第19問),今年の特徴的な問題であったといえます。また,行政法において,個数問題が大幅に増えて5問となり,ますます,正確な知識が要求されるようになったと思われます。今年は,昨年出題されなかった行政組織法の問題が1問出されており(第40問),行政組織法も手が抜けない分野であるといえます。

 問題の内容としては,昨年と同様,条文知識や判例知識問題が中心といえますが,特に,判例の内容を詳しく聞いている問題が目立ちました(第3問の非嫡出子相続事件,第5問の「君が代」事件,第9問の酒類販売の免許制に関する判例,第16問の分限裁判に関する判例,第29問の病院開設取消しに関する判例など)。また,最新判例に関する問題も見受けられました(第30問の土地区画整理法に関する判例に関する問題など)。判例重視の傾向が顕著に出ており,判例を内容のみならず横断的に押えておくことが重要であるといえます。また,具体的な事例から条文・判例に当てはめて結論を出させる問題(第34の住民訴訟などに関する問題,第36問の仮の救済方法に関する問題,第39問の行政不服審査法に関する問題)など,行政法に関しては論文を意識した出題もなされていました。

 

 民事系では,民法が1問増えたものの,商法・民訴では問題数は変わらず,配点のバランスも変更はありませんでした。商法の中における出題バランスも,商法総則商行為が4問,有価証券法が2問,その他が会社法という点で昨年度と同じでした。

 民法は,第2問では昨年12月に施行されたばかりの一般社団法人法に関し,剰余金や残余財産に関する細かい知識問題が出されているものの,総じて基本的な問題が多く出題されています。第23問のような長い事例問題もありましたが,ほとんどは単純な知識問題であり,昨年度と傾向はあまり変わらないものと思われます。また,第19問で要件事実が問われています。商法においては,会計監査人(第45問),吸収合併・吸収分割(第48問),場屋の主人の責任(第53問)など,勉強が手薄になりがちな分野からの出題があり,正誤の判断に迷った受験生が多かったようです。また,見解論理問題が数問出題されており(第36問のような共有者の死亡と特別縁故者,第55問のような手形理論など),模試などで慣れていないとなかなか難しかったかもしれません。民訴においては,最後の第74問において,要件事実に関することが正面から問われており,与えられた長い事例を短時間に的確に分析する能力が問われているといえます。

 

 刑事系では,昨年度は23頁(解答欄は55個)でありましたが,本年度は26頁(解答欄は76個)となり,頁数も解答欄数も大幅に増加したことから,多くの受験生にとって,解答に時間がかかったものと考えられます。その理由として,本年度は出題形式の変更が顕著であり,刑法では「組合せ問題」が昨年度より4問減り,また,いわゆる「1−2問題」が昨年度より4問増え(第1問,第15問,第16問,第18問,第20問),さらに,近時は出題がなかった「順不同問題」が3問ありました(第8問,第9問,第19問)。また,刑訴では昨年度はなかった「個数問題」が2問あり(第22問,第33問),刑事系においては肢を切るのに苦労した受験生も多かったのではないかと推測されます。問われている知識は,刑法・刑訴ともにほぼ基本的な知識からの出題であると思われます。刑訴では配点4の問題(第32問)が登場し,長文事例に対し公訴事実を絡めた問題があり,刑事系全体としても,問題文をしっかりと読み,あてはめをし,解答する必要がある問題が多いと思われます。

 
 
  

辰已の直前資料がズバリ的中!(公法系第2問-行政法)

辰已作成2009新司法試験突破直前・応援企画第1弾の
「最後に押さえる行政法下級審判例Last4」No1判例が
ほぼそのまま出題されました!

 
 ●第1問 憲法  
■公開:2009年05月15日
■更新:2009年06月05日

はじめに

  新司法試験論文本試験公法系第1問・憲法については,他の教科に比較して,近時の学会のテーマや考査委員の著作物等が素材とされることが特に多く,今回テーマとされた遺伝子情報・医療も,近時,山本龍彦『遺伝情報の法理論−憲法的視座の構築と応用』(尚学社,2008)などの多くの優れた論文があり,学界の注目を浴びている分野といえます。
  この点,上記山本論文は,市川正人・工藤達朗・高見勝利「学界展望 憲法」公法研究(日本公法学会編集兼発行)70号P.243〜4で詳しく紹介されており,辰已としても,青柳幸一「生殖補助医療における自己決定権と憲法(特集 生殖補助医療の規制と親子関係法)」法律時報79巻11号P.25(2007)とともに,「参考資料 憲法学界の動向2009」(辰已専任講師・弁護士 中尾隆宏先生ご担当の「【憲法集中講義】危ない違憲審査基準」および辰已専任講師・弁護士 柳澤憲先生ご担当の「新司法試験早まくり300分憲法」で配布。)の「テーマ1 自己決定権・プライバシー権」として学界注目のテーマとして紹介させていただきました。
  設問1は,遺伝子治療に関する研究を制限する県立大学の規則及びそれに基づく本研究の中止命令の合憲性を問うものです。設問2は,遺伝子に係る個人情報の開示を制限する規則及び,同規則違反を理由になされた停職処分の合憲性を問うものです。問題形式については,当事者双方,及び自身の立場を示す点では昨年までと同様でありましたが,設問1と設問2とが分けられ,各々違う内容について論じさせる点で変化が見られました。添付資料が少なく,解答に際しての誘導となるものが少ないのも本年の特徴といえるでしょう。

設問1について

(1) X教授の主張について
 この点,X教授としては,【参考資料2】Y県立大学医学部「審査委員会規則」第8条及びこれに基づく本研究の中止命令が,憲法23条の保障する学問研究の自由を侵害するものであると主張することが考えられます。

  すなわち,学問研究は,本来,真理の探求というその性質上規制についての客観性が強く要求されるべき問題であることから,@そもそも規制されるとしても本問「審査委員会規則」ではなく法律による規制という方式が採られるべきこと,また,A優越的地位にあるとされる他の精神的自由権規制と同様に,その憲法適合性は厳格に審査されるべきこと,などを主張する必要があるでしょう。
 
(2) Y大学側の処分を正当化する主張について
  まず,@憲法23条による学問研究の自主性の要請から,大学における研究教育の自由を十分に保障するために,大学の内部行政に関しては大学の自主的な決定に任せ,大学内の問題に外部勢力が干渉することを排除しようとする「大学の自治」(芦部信喜『憲法(第4版)』P.162)が認められ,研究者の自主性や倫理観を尊重した柔軟な規制の形態である「審査委員会規則」による規制は正当であると主張することが考えられます。
  また,A遺伝子治療のような先端科学技術の研究については,研究の濫用や事故が生じた場合には,広く人々の生命・身体・環境に対して取り返しのつかない損害をもたらしかねず,また,生命倫理の見地から重大な疑念を生じさせることから,個人の尊厳,生命・身体,環境という高次の人権の価値のために制約され(戸波江二『憲法(新版)』P.277,芦部・前掲書P.161〜2参照),その研究のもたらす危険の重大性・不可逆性,危険発生の予測の困難性などに照らして,通常の研究よりも厳しい規制が許される(戸波・前掲書P.277〜8),または,より緩やかな審査基準が妥当する,などと主張することが考えられます。
 
(3) 以上を踏まえて私見の結論及び理由を説得的に論じる必要があります。

3 設問2について

(1) X教授の主張について

 この点,X教授としては,大学側の処分の取消しを求めるために,まず【参考資料2】Y県立大学医学部「遺伝子情報保護規則」及びこれに基づく1か月の停職処分の違憲性を主張することが考えられます。
  まず,1か月の停職処分によりX自身の学問研究の自由(憲法23条)に対する侵害があるといえるのかについて検討する必要があります。
  また,主張適格の問題はあるものの,本件遺伝子情報は患者C及びその家族に関する情報であり,「遺伝子情報保護規則」は,C及びその家族の「自己の情報をコントロールする権利」(情報プライバシー権)(憲法13条),ないし表現の自由(憲法21条1項)の一環たる知る権利をも侵害し,特にCについては,まさに自己の情報の開示であり,この規制は特に慎重になされるべきである,などと主張することが考えられます。
  さらに,「遺伝子情報保護規則」自体が合憲であったとしても,1か月の停職処分については,同規則に違反した場合の処分についての定めがないにもかかわらず処分が行われていること,1か月の停職処分は重きに失することなどを挙げ,処分の違憲性を主張することが考えられます。
 
(2) Y大学側の処分を正当化する主張について
  この点,遺伝子に係る情報は,これを開示すると,当該個人,血縁者,ひいてはこれらの子孫の将来をもある程度予測し得ることなどから,特に病的因子に関する情報など個人の尊厳(13条)を全うするために秘匿性が強いものであることなどを主張して,「遺伝子情報保護規則」は必要最小限度の制約であり,学問研究の自由,情報プライバシー権及び知る権利の侵害にあたらないと主張することが考えられます。
  さらに,定められた手続に従い慎重に審査した上での1か月の停職処分であり,処分に関しての違憲性はない,などと主張することが考えられます。
 
(3) 以上を踏まえて私見の結論及び理由を説得的に論じる必要があります。

4 出題の背景

 近年における遺伝子研究の進展に伴い生じているプライバシー侵害の問題について,アメリカの学説・判例に依拠しつつ,「遺伝情報」について憲法的な考察を加えている文献として,山本龍彦「遺伝情報の法理論−憲法的視座の構築と応用」(尚学社,2009)参照。
 また,先端技術等の研究の自由をめぐる憲法上の諸問題について論じるものとして,保木本一郎「遺伝子研究の自由とその憲法的統制」現代立憲主義の展開(上)P.109以下(有斐閣,1993),戸波江二「憲法」P.276〜9(ぎょうせい,新版,1998)を参照。
 加えて,大学教授の身分に関する処分の適法性と,大学の自治及び司法審査の限界については,仙台地判平11.12.22(判時1727−158,平成12年度重要判例解説憲法1事件)を参照。

5 的中情報

 大学における部分社会の法理については,09辰已・スタンダード論文答練(第2クール)公法系1第1問で問われています。受講生の方は,この点についての検討は準備できていたものと思われます。また,辰已スタンダード答練,全国公開模試において,精神的自由の制約に対する違憲審査基準については度々問うており,当事者双方,私見で使うべき審査基準の検討については,受講生の方は十分勉強を積まれていたものと思われます。

 
 ●第2問 行政法
■公開:2009年05月15日
■更新:2009年06月05日

はじめに

  毎年,新司法試験論文式試験公法系科目第2問(行政法)は,直近に出された裁判所のホームページ登載の下級審裁判例を素材としています。例えば,平成19年公法系科目第2問については,東京地判平18.8.30(平成17(行ウ)368,退去強制令書発付処分取消等請求事件)が,また,平成20年公法系科目第2問については,宇都宮地決平19.6.18(平成19(行ク)1,仮の差止め命令申立事件(本案事件:平成19年(行ウ)第3号 取消及び差止め請求事件))が素材であると考えられます。
  辰已としては,このような状況を踏まえ,スタンダード論文答練や新司全国公開模試などで近時の下級審を重視した出題をし,辰已専任講師・弁護士の中尾隆宏先生による「【行政法集中講座】危ない下級審判例」などを開講し,受講生の皆様から好評を得てまいりました。
  そして,本年受験を予定される辰已受講生の皆様に少しでもお役に立とうと,「問題文と資料から基本的な事実関係を把握した上で,…法や関連法令の趣旨を読み解き,適切な救済手段を選択し,それと結び付いた本案の主張を展開する力を試すものである。」との平成20年新司法試験公法系科目第2問の出題趣旨に適合する裁判所のホームページ登載の行政法下級審裁判例をセレクトし,その判旨等を載せた冊子(「最後に押さえる行政法下級審判例Last4」)を作成し,先日郵送させていただきました。
  結果として,本試験論文公法系科目第2問では,同冊子No1判例として掲載した,東京高判平20.7.9(平成19年(行コ)第316号,建築確認処分取消等請求控訴事件(原判決・東京地判平19.9.7・平成19年(行ウ)第161号,第301号))の事案を,ほぼそのまま素材としており,同判例を事前に見ておいた受験生の方は非常に有利だったものと思われます。
  今後このような出題傾向が続く可能性が高く,近時の下級審判例の検討は不可避な状況と思われ,辰已答練問題の出題に際しても,引続きこの点を特に重視し,本試験に即した出題を目指してまいります。
  本問は,建築物の周辺に居住する住民らが,建築を阻止するためにいかなる手段を採り,いかなる主張を展開すべきかを問題としています。以下,設問ごとに本問を分析していきます。

2 設問1について

  設問1では,建築を阻止するための手段(訴訟及び仮の救済)を検討することとなります。この点については,建築確認に対する取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項)を提起し,建築確認の効力の執行停止(同法25条2項)を求めるという手段を採ることが考えられます。
  取消訴訟については,各原告が処分の名宛人でないことから原告適格(同法9条)の有無が争点となります。すなわち,建築基準法が,1条で「国民の生命,健康及び財産の保護」を目的としつつ,建築確認制度を採用して,その内容として,建築物の構造,建築物の高さ制限,日照への配慮等を規定し,また条例でも接道等について規定していることを指摘した上で,どの範囲の者に原告適格が認められるのかを論述することが必要です。その後,各原告に原告適格が認められるか否かを,各原告の個別の事情を引用し,説得的に論述することになります。Fについては,建築物の倒壊や火災時に被害を受ける可能性の高い建物の住人である点を指摘する必要があります。Gについては,Fが居住している建物の居住者ではないものの,その建物の所有者であることから,本件建築物の倒壊等により財産的利益が侵害されるおそれがあることを指摘する必要があります。Hについては,建築物の倒壊による被害の危険性は少ないが,交通被害を受ける可能性が高いとして,本件児童教室がB県建築安全条例27条4号の「その他これらに類するもの」にあたるとの主張を展開することになるでしょう。Iについては,Hの保護者であるという点を指摘する必要があります。
  執行停止に関しては,建築物が完成してしまっては訴えの利益(行政事件訴訟法9条1項かっこ書参照)が無くなるという点を指摘しつつ,各要件を検討することとなります。

3 設問2について

  設問2では,建築確認の違法性を,実体上及び手続上の事由から争いつつ,主張制限(行政事件訴訟法10条1項)について検討することとなります。すなわち,まず違法事由として@本件建築物は接道要件を満たしていないのでB県建築安全条例4条2項に違反する,A本件児童教室はB県建築安全条例27条4号の「その他これらに類するもの」に該当するにもかかわらず,本件建築物は同条の要件を満たしていないので,本件建築物は同条に違反する,B説明会が形式的なものであり不十分なものであったことは,B県中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例6条に違反する,C原告らの利害を考慮すべく公聴会の開催等の意見を聴く機会を設けなかったことが,行政手続法10条(努力義務規定)に違反する,という四つの違法主張が考えられます。その上で,原告Fについて,Aの違法事由に関しては行政事件訴訟法10条1項により主張が制限されるのではないかという点を検討する必要があります。

4 参考判例

 東京地判平19.9.7(平成19(行ウ)161等)。全文は,下記の裁判所のホームページにてご覧になれます。
【http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080623144910.pdf
 
【判 旨】
  「そこで,まず,建築確認の処分の取消訴訟における原告適格について検討する。
  …同法6条の2第1項は,同項による確認に係る建築物並びにその居住者の生命又は身体の安全及び健康を保護し,その建築等が市街地の環境の整備改善に資するようにするとともに,当該建築物に火災が発生したり倒壊した場合に延焼又は損傷したりするなどの直接的な被害が及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住者の生命及び身体の安全並びに財産としてのその建築物並びに当該建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物に居住する者の健康を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解するのが相当である。
  …建築基準法43条1項は,…規定しているところ,…同項の規定は,当該建築物及びこれに隣接する建築物等における日照,通風,採光等を良好に保つことのほかに,当該建築物に災害が発生した場合に,当該建築物及びその隣接する建築物等についてその居住者等の生命,身体の安全等及び財産としてのその建築物を保護することをもその目的に含むものと解するのが相当である。また,同条2項は,『…条例で,必要な制限を付加することができる。』と規定しているところ,これは,…各地方の実情に合わせて必要な制限を付加することができる旨規定したものと解するのが相当である。上記規定を受けて,本件条例4条1項は,…同条2項は,…と規定しているところ,これらの規定が設けられたのは,建築基準法43条2項の趣旨も考慮すると,そのような一定の規模を超える建築物について,平常時における通行を確保するためだけではなく,火災等の災害が発生した場合に,これに隣接する建築物等やその居住者等に重大な被害が及ぶことのないように避難,消火及び救助の活動を迅速かつ適切に行うことができるようにするためである…。
  以上のような本件条例4条1項及び2項の趣旨や目的,これらの規定を通して保護しようとしている利益の内容や性質等を考慮すると,これらの規定は,当該建築物の火災等による被害が直接的に及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住者の生命,身体の安全等及び財産としてのその建築物を,個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むものと解するのが相当である。
  そうすると,建築物の火災等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し,又はこれを所有する者は,当該建築物の建築確認の処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するものと解するのが相当である。
  …以上のとおりであり,建築確認に係る建築物の倒壊又は炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する他の建築物に居住し,又はこれを所有する者並びに当該建築物により日照を阻害される周辺の他の建築物の居住者は,当該建築確認の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消しの訴えにおける原告適格を有すると解するのが相当である。
  …
オ(ア) 原告Aらを除くその余の原告らについて
  …原告Aらを除くその余の原告らが居住する建築物は,いずれも本件建築物が炎上又は倒壊すれば,直接損傷を受ける蓋然性がある範囲内に在る…。
  …
(イ) 原告Aらについて
 …原告Aらの居住する建築物は,本件建築物が炎上又は倒壊したとしても,直接損傷を受ける蓋然性がある範囲外に在るというべきであるし,本件建築物により日照の被害を受けることがないことも明らかである(乙3)。
  …本件児童室に通っているのは,原告Bらであるというのであるから,…原告Bらが交通事故に遭遇する危険があるという事情は,原告Aの原告適格を基礎付ける事情とはならない…。
  そこで,本件児童室に通う原告Bらの本件条例27条4号を根拠とする原告適格の有無を判断する上で,本件駐車場の出入口の設置位置に関し,本件児童室の専用出入口との関係において同号の規定が適用されるか否か,すなわち,本件児童室が同号の『その他これに類するもの』に該当するか否かを検討する。
  …本件児童室を一部に含む図書館が本件条例27条4号の『その他これに類するもの』に該当しないというだけでなく,本件児童室自体としてもこれに該当しない…。
  そうすると,原告Bらは,本件敷地から道路への自動車の出入口の規制に関し,本件児童室の専用出入口との関係において本件条例27条4号が適用されることを前提に,同号を根拠に原告適格を有する旨主張するものであるが,その前提を欠くというべきである。
 
(1) 争点3(建築基準法42条1項5号の趣旨違反の有無)について
  …同法42条1項5号の位置指定道路は,特定行政庁が行政処分によって私道の存否又は位置を明確にするためにするものであり,建築基準法上の『道路』とされているのであるから,同法43条の『道路』に含まれており,同法に基づく条例である本件条例上の『道路』として扱うことができる…。…
  したがって,本件敷地が位置指定道路により接道義務を満たすとすることは許されず,建築基準法42条1項5号の趣旨に違反するという原告Aらを除くその余の原告らの主張は,根拠がないものというほかなく,失当である。
 
(2) 争点4(本件条例4条及び10条の2違反の有無)について
ア 前記(1)のとおり,本件敷地と道路との関係では,本件敷地は本件条例4条1項及び2項により幅員6m以上の道路に10m以上の長さで接しなければならず,また,証拠(甲3,4,乙4,5)によると,自動車駐車場の用途に供する部分の床面積の合計が3367.49m2であるから,同条例10条の2第1項の表(い)欄2号により,幅員6m以上の道路に接し,かつ,当該道路に面して自動車の出入口を設けなければならないところ,証拠(甲3から5まで,9)によると,本件敷地は,その東部から東南部において,渋谷区により幅員6mとして道路位置の指定を受けた位置指定道路に102.86mの長さで接しており,当該道路に面して自動車の出入口が設けられていることが認められるから,本件条例4条及び10条の2第1項に違反していないということができる。

 
(3) 争点5(本件条例27条4号違反の有無)について
…ところで,取消訴訟は,原告とのかかわりを離れて広く違法な処分の是正を図ることを目的とするというものではなく,違法な処分によって侵害された原告の権利利益を救済するための訴訟であるから,行政事件訴訟法10条1項は,原告が自己の法律上の利益に関係のない違法を取消しの理由として主張することができない旨規定している。そして,この『自己の法律上の利益に関係のない違法』とは,行政庁の処分に存する違法のうち,原告の権利利益を保護する趣旨で設けられたものではない法規に違反した違法を意味するものと解される。
  そうすると,原告Aらを除くその余の原告らの上記違法事由の主張は,自己の法律上の利益に関係のない違法をいうものであることは明らかであるから,行政事件訴訟法10条1項により主張自体失当というべきである。
  したがって,原告Aらを除くその余の原告らの上記主張は理由がない。」
 
※ なお,本判決の控訴審(東京高判平20.7.9(平成19(行コ)316))も参照。下記の裁判所のホームページでご覧になれます。
【http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090206162434.pdf】

5 的中情報

 本問の素材となっていると思われる東京高判平20.7.9(原審東京地判平19.9.7)につきましては,辰已から郵送させていただきました冊子(「最後に押さえる行政法下級審判例Last4」)のbP判例として掲載されています。
  設問1で問われているような,個別法の仕組みから,原告適格を導く問題については,09新司全国公開模試で出題されています。参照法令と事例に即して,個別具体的に考える素材として適していたといえるでしょう。
  また,執行停止の要件については,08スタンダード論文答練(第2クール)公法系1第2問で問われています。
  設問2については,建築基準法の個別的解釈論については,スタンダード論文答練では,直接には問われなかったものの,個別法の仕組みから解釈論を問う方向性は,スタンダード論文答練・辰已全国公開模試でもそのように出題をしていたので,受講生は,出題形式に戸惑うことはなかったと思います。特に,08スタンダード論文答練(第2クール)公法系2第2問(青梅市ダストボックス事件を素材)と08辰已全国公開模試公法系第2問(横浜市地下室マンション事件を素材)は,個別法の解釈を正面から問うており,受講生の方にはよい演習になったものと思われます。
  なお,行政事件訴訟法10条1項の主張制限については,09スタンダード論文答練(第2クール)公法系1第2問で問われました。

  
 
 ●第1問 民事訴訟法  
■公開:2009年05月17日

はじめに

 新司法試験の民事系科目においては,平成18年と19年が第1問・商法,第2問・民法&民事訴訟法の組合せで,昨年(平成20年)は第1問・民法,第2問・商法&民事訴訟法の組合せでした(この時には受験生は相当戸惑ったようです。)。
そして,今回は第1問・民事訴訟法,第2問・民法&商法という組合せで,平成17年の夏に実施された新司法試験プレテストと出題教科に関しては同一の組合せであり,若干戸惑われた受験生もいらっしゃったかもしれませんが,昨年以降,民事系の出題教科の組合せは固定したものではない点が受験生に浸透したこと,今期のスタンダード論文答練でもこの組合せは2回出題していること(第1クール・民事系2,第2クール・民事系3)などから,大きな混乱にはならなかったものと思われます。
また,昨年は主観的追加的併合や文書提出命令に関する民事訴訟法224条などに関する判例・学説などのかなり応用的理論的な知識等が正面から問われましたが,今回は,弁論主義・自白,既判力論等の基礎的な知識を基にして,現場での事案分析力・思考力をより重視するものとなったようです。実体法の事案に左右される大大問形式と異なり民事訴訟法単独の大問での出題となったこと等が理由ではないかと推測されます。
さらに,出題に当たって,詳細な誘導が施されている点は昨年までと変わりませんが,添付資料が充実している点(「【別紙】訴状」と「【資料】借地法」が添付されています。)が今年の特徴といえます。

問題文について 
 問題文の頁数は7頁で,事実1(本文と裁判長と修習生の会話)とこれに関する〔設問1〕,事実2(本文とD弁護士と司法修習生の会話)・「【別紙】訴状」とこれに関する〔設問2〕(小問(1)〜(3)),および「【資料】借地法」から構成されています。また,設問1と設問2の配点の割合は,4:6とされています。
 なお,本問の問題文は本試験全日程終了後に法務省のホームページ上に掲載されるものと思われますが,会話の部分と設問文を見れば概ね本問事案を把握できるものと思われますので,本ホームページ閲覧者の便宜のため,以下に掲載いたします。

事実1の会話文
 以下は,第4回弁論準備手続の期日が終了した直後に,裁判長と傍聴を許された司法修習生との間で交わされた会話である。

裁判長:

本期日におけるXの主張についてはどのように理解すればよいでしょうか。

修習生:

Xの主張は,Yが,Xに対し,平成20年4月27日,本件建物の買取請求権を行使する旨意思表示をしたという主張であると理解できます。

裁判長:

そうですね。この主張は,本件訴訟の主張立証責任との関係ではどのような意味を有するのでしょうか。

修習生:

本件訴訟において,Xは,所有権に基づく建物収去土地明渡しを請求しています。これに対し,Yは,本件土地の占有権原に関する主張として,建物の所有を目的とする本件賃貸借契約をYとの間で締結し,それに基づき本件土地の引渡しを受けたと主張していますが,Xは,更に本件賃貸借契約が存続期間の満了により終了し,その更新拒絶について正当事由があると主張しています。Yによる建物買取請求権の行使は,本件賃貸借契約の存続期間が満了し,契約の更新がないことを前提として,借地権者であるYが,借地権設定者であるXに対し,本件建物を時価である500万円で買い取ることを請求するものです。

裁判長:

建物買取請求権の行使は,本件訴訟のように建物収去土地明渡請求がされている場合には,いずれの当事者が主張すべきものですか。

修習生:

建物買取請求権の行使の事実を主張するのは,本来,借地権者であるYのはずです・・・。しかし,本件訴訟ではXが主張しています。

裁判長:

Xとしては,本件賃貸借契約が認められるのであれば,とにかくYに建物から早期に退去してもらい,土地を明け渡してほしいと望むことも考えられますが,Yによる建物買取請求権の行使の事実が認められると,本件建物の所有権は建物買取請求権の行使と同時にXに移転することになりますから,少なくとも,XはYに対し建物収去を求めることはできなくなりますね。ところで,仮に,裁判所が,Yに対し,本件建物の買取請求権の行使について釈明を求めた場合,Yとしては,どのような対応をすることが考えられるでしょうか。

修習生:

Yの対応としては,@Yが本件建物の買取請求権を行使したというXの主張する事実を争う場合,AXの主張する事実を自ら援用する場合,B裁判所が釈明を求めたにもかかわらず,Xの主張する事実を争うことを明らかにしない場合,の3通りが考えられるのではないでしょうか。

裁判長:

そうですね。本件賃貸借契約の終了が認められる場合において,Yが本件建物の買取請求権を行使したというXの主張する事実を,証拠調べをすることなく,判決の基礎とすることはできますか。あなたの考えた3通りの各場合について検討してください。

修習生:

はい。わかりました。

 

〔設問1〕
 前記会話を踏まえた上で,本件賃貸借契約の終了が認められる場合において,「YはXに対して本件建物を時価である500万円で買い取るべきことを請求した」というXの主張する事実を,(@)Yが否認したとき,(A)Yが援用したとき,(B)Yが争うことを明らかにしなかったときについて,それぞれ,証拠調べをすることなく,判決の基礎とすることができるかどうかについて論じなさい。

事実2の会話文
 以下は,Xから相談を受けたD弁護士と同弁護士の下で修習中の司法修習生との会話である。

弁護士:

Xは,第1訴訟の判決確定後に新たな事実が判明したとの理由から,Yに対して第2の訴えを提起したのですね。

修習生:

はい。第2訴訟は,賃料不払による賃貸借契約の解除の場合には建物買取請求権の行使ができないことを前提とする訴訟です。建物買取請求権は,誠実な借地人の保護のための規定ですので,借地人の債務不履行による賃貸借契約の解除の場合には,借地人には建物買取請求権は認められないとする最高裁判所の判例があります。

弁護士:

よく勉強していますね。次に,第2訴訟の訴訟物について考えてみましょう。第2訴訟において,Xは,Yに対し,本件土地の所有権に基づき,本件建物の収去と本件土地の明渡しを求めていますが,土地所有者が,土地上に建物を所有してその土地を占有する者に対して,所有権に基づき建物収去土地明渡しを請求する場合の訴訟物については,どのように考えられますか。

修習生:

はい。この場合の訴訟物については,考え方が分かれていますが,一般的な考え方によれば,この場合の訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権1個であり,判決主文に建物収去が加えられるのは,土地明渡しの債務名義だけでは別個の不動産である地上建物の収去執行ができないという執行法上の制約から,執行方法を明示するためであるにすぎないとされています。したがって,建物収去は,土地明渡しの手段ないし履行態様であって,土地明渡しと別個の実体法上の請求権の発現ではないということになります。

弁護士:

その考え方に立つと,第2訴訟の訴訟物と第1訴訟の訴訟物とが同一かどうかについては,どのように考えるべきでしょうか。

修習生:

第1訴訟の判決は,Yに対し,本件建物の代金500万円の支払を受けるのと引換えに,本件建物を退去して本件土地を明け渡すよう命ずるものです。建物収去土地明渡訴訟の訴訟物について先ほどお話しした一般的な考え方に立つとすれば,建物退去土地明渡訴訟についても,訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権であり,「建物退去」の点については「建物収去」の点と同様に,土地明渡しの手段ないし履行態様にすぎないと考えることができますので,その訴訟物は同一であるといえるかと思います。

弁護士:

そうですね。ここでは,第1訴訟と第2訴訟の訴訟物は同一であるという考え方を前提として考えてみましょう。ところで,Yは,第2訴訟において,どのような主張をしていますか。

修習生:

Xの提起した訴えは,訴えの利益が認められないので却下されるべきであると主張するとともに,第2訴訟におけるXの請求には,Yに対し,本件建物の代金500万円の支払を受けるのと引換えに本件建物を退去して本件土地を明け渡すよう命じた第1訴訟の確定判決の効力が及ぶので,第2訴訟の請求は,少なくとも建物収去を求める部分については棄却されるべきであると主張しています。

弁護士:

Yの主張を理解するには,建物収去土地明渡請求と,建物代金の支払を受けるのと引換えに建物退去土地明渡しを命ずる判決との関係をどのように考えるかが問題となりそうですね。まず,Yのそれぞれの主張について,その論拠をまとめてみた方がよいかもしれません。その上で,それぞれの主張について,どのような反論をすべきか,検討してください。

修習生:

はい。わかりました。

 

〔設問2〕
(1)前記会話を踏まえた上で,Xには第2訴訟について訴えの利益が認められないので,その訴えは却下されるべきであるとするYの主張につき,その考えられる論拠を説明しなさい。
(2)前記会話を踏まえた上で,第2訴訟におけるXの請求には第1訴訟の確定判決の効力が及ぶので,第2訴訟の請求は,少なくとも建物収去を求める部分については棄却されるべきであるとのYの主張につき,その考えられる論拠を説明しなさい。
(3)上記(1)及び(2)の論拠を踏まえた上で,第2訴訟におけるYの主張に対し,Xとしてはいかなる反論をすべきかについて論じなさい。

本問の分析

〔設問1〕について
 本設問は,原告X(所有権者)が,被告Y(賃借人)による建物買取請求権の行使の事実を主張した事案において,被告Yの対応に応じて,原告Xの事実の主張を,証拠調べをすることなく,判決の基礎とすることができるかを問う問題です。
 事実の主張を,証拠調べをすることなく判決の基礎とするためには,当該事実の主張が@間接事実に関する自白,A主要事実(権利)に関する自白に当たる場合,の二通りが考えられますが,本問との関係では,Aについて検討することになるでしょう。
 Aについては,本問の「YはXに対して本件建物を時価である500万円で買い取るべきことを請求した」とのXの主張は,「XはYに対し建物収去を求めることはできなくなりますね」との裁判長の第4発言,及び,建物買取請求権行使の事実は通常は抗弁であることから,本問では原告Xに不利益の先行自白に当たります。
 そうすると,(@)YがXの主張する事実を否認した場合には,本問陳述は相手方の援用しない自己に不利益な事実の陳述となり,自白とはならないことから,証拠調べをすることなく判決の基礎とすることはできないと考えることになります(なお,この場合,XがYの建物買取請求権を行使した旨の事実の主張を証明した場合,自らが主張した請求原因事実である,被告Yの建物所有の事実を否定することになり,そこに矛盾は生じないのかが,別途問題となりえますが,本問との関係では特に検討する必要はないものと思われます。)。
 他方,(A)の場合には,Yの抗弁とXの自白(179条)が成立し,証拠調べをすることなく,判決の基礎とすることができることになります。
 さらに,(B)Yが争うことを明らかにしなかった場合については,擬制自白が成立するかが問題となります。この点について,Yが自己に有利と思われる相手方Xの主張を否定していないことからは,擬制自白が成立していると考えることもできるでしょう。もっとも,本問においては,請求原因のうちの「本件建物のY所有」については,自白が成立しています(文章1の第2段落)。そうすると,Yは買取請求によってY所有を否定することになるので,擬制自白の成立には疑問が出てくるので,論理的な説明が求められているといえます。
〔設問2〕について
 本設問は,小問(1)〜(3)で構成され,小問(1)及び(2)では,Yの主張の論拠を論述し,小問(3)では,Xの反論を論述させる問題です。内容につきましては,従来型司法試験平成17年度民事訴訟法第2問と類似しているといえるでしょう。
 なお,本問における第1訴訟と第2訴訟の訴訟物は同一のものであることを前提として問題に解答するように要求されていますが,判例については,本問における第1訴訟の訴訟物は建物所有権に基づく建物引渡請求権となって,第2訴訟の土地所有権に基づく明渡請求の訴訟物とは別個のものであるという理解がなされているようです(三淵乾太郎「最高裁判所判例解説(民事篇)昭和36年度」P52以下参照)。
[小問(1)について]
 まず,小問(1)においては,「Xには第2訴訟について訴えの利益が認められない」とのYの主張を検討します。この点,本問においては,第1訴訟においてXは勝訴の確定判決を得ているところ,第1訴訟の訴訟物は第2訴訟の訴訟物の一部であると考えられることから,第2訴訟のうち第1訴訟の訴訟物と重複する部分には権利保護の必要性がなく,訴えの利益が認められないとの主張をすることになるはずですが,建物明渡(引渡)と建物収去との重複は現実にはないと言わざるを得ず,結局のところ,訴えの利益を肯定することになるでしょう。
[小問(2)について]
 次に小問(2)について,「第2訴訟におけるXの請求には第1訴訟の確定判決の効力が及ぶので,第2訴訟の請求は,少なくとも建物収去を求める部分については,棄却されるべきである」とのYの主張を検討します。
 この点,第1訴訟で建物退去土地明渡請求権は既判力をもって確定します。次に,第2訴訟の建物収去土地明渡請求権のうち,第1訴訟の既判力が及ばない範囲が論理的には存在するが,それは結局建物収去部分であるといわざるを得ないという論拠が考えられます。
[小問(3)について]
 以上のYの主張を前提に,小問(3)において,訴訟物について同一性説に立った上でのXの反論を論述することになります。
 まず,小問(1)のYの主張に対する反論ですが,Xの第2訴訟は,引換給付判決ではなく,いわば無条件の勝訴判決を得ることを目的とするものであり,権利保護の必要性が認められると反論することが考えられます。
 次に小問(2)のYの主張に対する反論ですが,「建物退去」及び「建物収去」の点は,土地明渡の手段ないし履行態様に過ぎないと考えると,訴訟物の重複の問題ではなく,従って既判力の範囲外であり,建物収去を求める部分についても棄却されるべきではないと反論することが考えられるでしょう。

的中情報

 民事系第1問(民事訴訟法)では,建物退去土地明渡請求訴訟後に建物収去土地明渡請求訴訟が提起された場合の問題が問われていますが,09スタンダード論文答練(第1クール)民事系1第2問において,「建物買取請求権の行使と執行力排除の範囲」として,建物収去土地明渡請求訴訟と建物退去土地明渡請求訴訟について,執行力の観点からの問題が出題されており,受講生の方には勉強の機会になったものと思われます。

 
 ●第2問 民法&商法  
■公開:2009年05月17日

はじめに

 民事訴訟法単独の大問(第1問)に引き続き,大大問(第2問)は民法&商法の組合せでの出題となりました。もっとも,実体法同士の組合せであることから,民法部分(設問1〜3)と商法部分(設問4〜6)に直接的な事実的・論理的関連性は,現時点での分析結果ではあまり見られないようです。
民法部分は,法律行為の内容の確定,錯誤無効(95条),即時取得(192条)の要件事実,192条の過失の認定,不法行為・不当利得(709条,189条,703条)等のかなり基礎的な知識・理解を問うものです。ここでも未修者に対する配慮が働いているものと推定されます。ただ,会話文などはなく,「注文書」という資料が添付されており,資料の解釈能力が重視されています。
 商法部分は,問題文の事案自体は東京地判平18.2.13判時1928−3(UFJ信託銀行協働事業化事件第一審判決。ちなみに考査委員の野村修也教授が判例評釈を書かれている(旬刊金融法務事情1780号75〜8頁)。)の事案に若干類似しているように思われますが,設問は吸収合併に関する諸問題を問うており,必要な条文を丁寧に挙げた上での検討が要求されています。ここでも,会話文などはなく,「議決権行使書」「委任状」という資料が添付されており,資料の解釈能力が重視されています。
 なお,本問全体で設問が6つもあり,また,民事訴訟法の大問も問題文が長く,憲法でも例年の倍近い検討が要求された点などを鑑みますと,本年の受験生の方は,どの科目でも時間配分等で大変苦労されたものと思われます。この点については,スタンダード論文答練等の答案練習会で訓練していくのが一番効果的なのではないでしょうか。

問題文について

 本問の問題文は本試験全日程終了後に法務省のホームページ上に掲載されるものと思われますが,事案の概要を知っていただくため添付資料等を除いて掲載いたします。

〔第2問〕(配点:200〔〔設問1〕から〔設問6〕までの配点の割合は,1.4:4.8:3.8:3:4:3〕)
 以下の【事実】1から9までを読んで〔設問1〕から〔設問3〕までに,【事実】10から14までを読んで〔設問4〕に,【事実】15から20までを読んで〔設問5〕及び〔設問6〕にそれぞれ答えよ。

【事実】
1.X株式会社(以下「X社」という。)は,機械を製造して販売する事業を営む会社である。X社が製造する機械のうち,金属加工機械は,25の機種があり,それぞれの機種に1つの型番が付されていて,その型番はPS101からPS125までである。
 Y株式会社(以下「Y社」という。)は,ナイフやフォークなど金属製の食器を製造する事業を営む会社である。Y社が製造する商品の中でも,合金を素材とするコップは,特徴的なデザインと独特の触感が好評を得ていて,人気の商品である。
 A株式会社(以下「A社」という。)は,物品を販売する事業を営む会社である。A社は,従来,Y社に物品を納入してきた実績がある。
2.Y社は,数年ぶりに,主力商品のコップを製造するために使用する金属加工機械を更新することを決定し,これをA社から調達する方針を固め,Y社の役員であるBが,その実行に携わることとなった。Bは,これまでA社との折衝に当たってきた従業員のCに対し,A社との交渉においては,Y社の主力商品の製造に使用する高額の機械の調達であるから,諸事について慎重を期するよう指示した。
3.Cは,A社の担当者と相談したところ,X社製の型番PS112という番号で特定される機種の金属加工機械を調達することが適切であると考えるに至った。Cの意向を知ったA社の担当者は,X社に問い合わせをし,型番PS112の機械の在庫があることを確認した。
4.このようにして,YAの両社間で交渉が進められた結果,Y社は,平成20年2月1日,A社との間で,X社製の型番PS112の金属加工機械1台(新品)を代金1050万円(消費税相当額を含む。)で買い受ける旨の契約を締結した。売買代金は,まず,そのうち200万円を契約締結時に,また,残金の850万円は目的物の引渡しを受ける際に,それぞれ支払うこととされた。そして,Y社は,同日,A社に代金の一部として200万円を支払った。
 なお,A社は,前記の売買契約を締結する際,型番PS112の機械をX社から近日中に売買により調達することをY社に伝えていた。
5.A社の担当者は,Y社との売買契約が締結された平成20年2月1日の夕刻,改めてX社の担当者に電話をし,Y社に転売する予定であることを告げた上,X社から同社製の型番PS112の金属加工機械1台(新品)を購入するに当たっての契約条件を協議した。この契約条件の中には,AX間の売買代金額(消費税相当額を含む。)を840万円とすること,内金100万円は銀行振込みとし,残金740万円についてはA社が支払のために約束手形1通を振り出して交付すること,引渡しの時期及び場所のほか,次に示す注文書の備考欄@Aの内容の条件が含まれていた。契約条件の協議が整った後,A社の担当者はX社の担当者に対し,「後ほど発注権限のある上司の決済を得て,正式に注文書をお送りしますのでよろしくお願いします。」と述べた。A社の担当者は,発注権限のある上司に対し,Y社に売り渡す型番PS112の機械をX社から調達するための協議が整ったことの報告をし,その上司の決済を得た上,次の注文書を作成し,これをX社の担当者に送付した。この注文書の記載は,担当者間の前記の協議内容を反映するものであるが,品名欄には,型番の誤記があった。

注 文 書
省略

6.この注文書を受け取ったX社の担当者は,受注を決定する権限のある上司に対し,A社の担当者と協議した契約条件で型番PS112の機械の販売を受注したいと説明し,その決済を得た上,平成20年2月7日,【事実】5記載の注文書と同一内容である注文請書をA社に送付した。なお,この注文請書においても,「? 品 名 弊社製の金属加工機械(型番PS122)」と記載されていた。同月8日,これを受け取ったA社の担当者は,確かに注文請書を受け取った旨をX社に連絡した(以下このXA間の売買契約を「本件売買契約」という。)。そして,A社は,X社に対し,同月12日,代金の一部として100万円をX社の銀行預金口座に振り込んだ。
7.X社の納品作業を担当する従業員は,注文請書の写しを参照しながら納品の準備を進め,平成20年2月15日の午前に,A社との約定により直接にY社の工場に,型番PS122の機械1台を搬入しようとした。しかし,Y社の側から,調達しようとしたのは型番PS112の機械であることが指摘されたため,X社の前記従業員は,X社の受注事務担当者と連絡を取ったところ,Y社の指摘のとおりであることが確認された。そこで,いったん搬入を取りやめ,改めて同日午後に型番PS112の機械1台をY社の工場に運んだ(以下この1台の機械を「動産甲」という。)。Y社の担当者が,間違いなく動産甲が型番PS112の機械であることを確認し,動産甲は,滞りなく同日中にY社の工場に搬入された。
 そこで,同日,Y社は,A社に対し,両社間の売買の残代金850万円を支払った。また,A社は,X社に対し,支払期日を平成20年4月30日とするA社振出しの額面額740万円の約束手形を交付した。
8.動産甲の取引を担当したA社の担当者は,平成20年2月20日,Y社を訪ね,搬入の過程で機種の取り違いがあった不手際を詫び,それにもかかわらず一連の取引が無事に終了したことへの謝辞を述べた。応接に当たったCは,取引を慎重に進めるように求めた【事実】2記載のBの指示を踏まえ,XAの両社間の代金決済について特にトラブルが起きていないか,ということを質した。これに対し,A社の担当者は,代金の一部が既に支払われていること,及び残代金の支払のため平成20年4月30日を支払期日とするA社振出しの約束手形を交付したことを説明したが,代金が完済されるまでX社が動産甲の所有権を留保していることは告げなかった。Cは,この説明を受けたことで一応納得し,直接にX社に対し取引経過を照会することはしなかった。
9.その後,A社は,平成20年4月30日に前記約束手形に係る手形金の支払をせず,そのころに事実上倒産した。そこで,X社は,A社に対し,【事実】5記載の注文書の備考欄Aの特約に基づき,同年5月2日到達の書面により,本件売買契約を解除する旨の意思表示をし,また,Y社に対し,同年5月7日到達の書面により,動産甲の返還を請求した。しかし,Y社がこれに応じないので,X社は,Y社に対し,所有権に基づき動産甲の返還を請求する訴訟を提起した(以下この訴訟を「本件訴訟」という。)。

〔設問1〕 本件売買契約は,何を目的物として成立したものであると考えられるか,理由を付して結論を述べなさい。その際,【事実】5記載の注文書及び【事実】6記載の注文請書にあった型番誤記が本件売買契約の効力に影響を与えるか,錯誤の成否にも言及しつつ述べなさい。

〔設問2〕
(1)X社のY社に対する本件訴訟において,Y社が,自己の即時取得によりX社が動産甲の所有権を喪失したことを主張しようとするときに,「A社が,平成20年2月1日,Y社との間で,【事実】4記載の売買契約を締結したこと」のほか,次に掲げる事実@及び事実Aを主張立証する必要があると考えられるか。それぞれ理由を付して説明しなさい。
@ A社が,Y社に対し,平成20年2月15日,【事実】4記載の売買契約に基づき動産甲を引き渡したこと。
A Y社が,@の引渡しを受ける際,A社がX社に対し代金全額を弁済していない事実を知らなかったこと。
(2)本件訴訟においてY社のする即時取得の主張に対し,X社から,それへの反論として「Y社は,A社に動産甲の所有権があると信じたことについて過失がある。」との主張がされた場合において,Y社の過失の有無を認定判断する上で,次に掲げる事実B及び事実Cは,どのように評価されるか。それぞれ理由を付して説明しなさい。
B 【事実】4記載のとおり,Y社が,A社がX社との売買により目的物を調達することを知っていたこと。
C 【事実】8記載のとおり,Y社が,本件売買契約の残代金が平成20年4月30日を支払期日とする約束手形で支払われることを知っていたこと。

〔設問3〕 X社は,本件訴訟において,Y社に対し,動産甲の使用料相当額の支払も併せて請求したいと考えた。X社は,どのような法的根拠に基づいて,いつからの使用料相当額の請求をすることができるか,考えられる法的根拠を一つ示し,その法的根拠が成り立つ理由及びいつからの請求をすることができるかの理由を付して説明しなさい。

【事実】 以下の10から14までは,【事実】1から9までのX社に関するものである。
10.X社は,監査役会設置会社であり,発行済株式総数(普通株式のみ)10万株,株主数5000人の上場企業である(単元株制度は採用していない。)。X社は,財務状況が悪化したため,同じ機械メーカーであり,X社の発行済株式の5%を長年保有して友好関係にあるZ株式会社(以下「Z社」という。)に対し,事業の柱の一つである精密機械製造事業を譲渡するとともに,同社との間に研究,開発,販売等の面における協同関係を築くことにより,この苦境を乗り切ろうと考えた。そして,X社は,平成20年6月2日,Z社との間で,事業の譲渡及び協同関係の構築に向けた交渉を始めるための基本合意を締結した(以下この合意を「本件基本合意」という。)。
11.ところが,本件基本合意の締結後,X社は,財務状況の悪化が急速に進み,キャッシュフローの確保も難しくなったため,本件基本合意に基づくZ社への事業の譲渡によって得ることができる対価による収入や,同社との協同関係の構築だけでは,企業としての存続が危うくなってきた。
12.そのような折,Z社のライバル企業である機械メーカーのD株式会社(以下「D社」という。)がX社に対して合併を申し入れてきた。合併の条件は,X社の普通株式4株にD社の普通株式1株を交付するという合併比率によって,D社を吸収合併存続株式会社とし,X社を吸収合併消滅株式会社とする吸収合併を行うというものであり,D社は,X社の精密機械製造事業に魅力を感じ,同事業を含めてX社の事業全部を吸収合併により取得することを申し入れてきたものであった。
13.X社の取締役会は,Z社よりも企業体力に優るD社に吸収合併されれば,X社は独立した企業ではなくなるものの,同社の財務状況の悪化やキャッシュフロー不足の問題が解決され,事業全体の存続や従業員の雇用の確保につながると考え,平成20年10月8日,Z社との本件基本合意を白紙撤回した上,D社から申入れのあったとおりの合併条件により,X社がD社に吸収合併されることを受け入れることを決めた。
14.これに対し,Z社は,X社の精密機械製造事業を何としても手に入れたいと考え,X社に対し,本件基本合意に基づく事業の譲渡及び協同関係の構築の実現を迫り,D社との合併に反対した。Z社は,本件基本合意に基づき,X社を債務者として,D社との合併の交渉の差止めの仮処分命令の申立てを行ったが,当該申立てが却下されたため,X社に対する本件基本合意違反を理由とする損害賠償請求の訴えの提起を準備している。また,Z社は,X社とD社の合併は,両社の企業規模や1株当たり純資産の比較,X社の培ってきた取引関係や評判等からすれば,その合併比率がX社の株主にとって不当に不利益なものとなっており,また,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)第15条第1項第1号に規定する「当該合併によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」に当たり,同法に違反するものであると主張し(独禁法違反の点は,実際に認定され得るものであった。),合併に反対している。

〔設問4〕 Z社は,X社の株主としての権利を行使し,合併契約の締結や当該合併契約の承認を目的とする株主総会の招集を阻止したいと考えている。Z社は,X社の株主として,どのような会社法上の手段を採ることができるか。理由を付して説明しなさい。

【事実】 【事実】10から14までのX社については,その後,以下の15から20までの経過があった。
15.X社は,Z社の反対にもかかわらず,D社との間で合併契約を平成20年10月15日に締結し,X社取締役会は,当該合併契約の承認を目的とする臨時株主総会を同年12月1日に開催することを決定したことから,同社取締役は,その招集通知を発するとともに,株主総会参考書類及び次の議決権行使書面を株主に交付した。

議 決 権 行 使 書
省略

16.これに対し,Z社は,合併条件がX社の株主にとって不利益であるとして,X社の株主に対し,合併契約の承認に反対する内容の委任状勧誘を行った。このZ社による委任状勧誘は,次の委任状用紙に基づいて行われており,金融商品取引法に従って行われたものであった。

委 任 状
省略

17.X社に議決権行使書面を提出して行使された議決権の数は,合計3万6000個であった。そのうち,合併契約の承認議案に賛成と記載されていた数は5000個で,同議案に反対と記載されていた数は2000個,さらに,同議案に対する賛否の記載がされていない数は2万9000個であった。これに対し,Z社に委任状を交付した株主の議決権の数は,合計1万2050個であった。そのうち,会社提案の合併契約の承認議案に反対と記載されている委任状の議決権の数は2000個で,同議案に賛成と記載されている委任状の議決権の数は50個,さらに,同議案に対する賛否の記載がされていない委任状の議決権の数は1万個であった。
18.平成20年12月1日,X社の臨時株主総会が開催された。この臨時株主総会において議決権を行使することができる者を定める基準日現在において,X社は自己株式を保有しておらず,また,相互保有株式も存在しなかった。
19.Z社は,X社の臨時株主総会の議場に1万2050株分のすべての委任状を持参し,自ら保有する5000株分と合わせて,特に留保なしに,合併契約の承認議案につき,議決権を行使して反対の意思表示を行った。当該臨時株主総会におけるZ社以外のX社株主による議決権行使(議決権行使書面によるものを除く。)は,合併契約の承認議案への賛成が6000個で,反対が1000個であった。議場においては,X社とZ社が議案の当否及び投票内容の賛否への算入方法をめぐって激しく対立し,混乱したが,定款の定めにより議長とされているX社の代表取締役社長Eは,Z社の提出した議長不信任動議や,投票数の算入方法に対する抗議を無視し,合併契約の承認決議の成立を宣言した。
20.その後,X社は,平成21年4月1日を合併の効力発生日とする合併の登記を行うこととしている。

〔設問5〕 X社の臨時株主総会において,合併契約の承認議案に対し,賛否それぞれどれだけの数の議決権の行使があったと考えるべきか。次の@及びAの場合に分け,それぞれ理由を付して説明しなさい。
@ X社株主には,X社に議決権行使書面を提出しつつ,Z社に委任状を交付した者はいなかった場合
A X社株主には,X社に議決権行使書面を提出するとともに,Z社に委任状も交付し,いずれにおいても合併契約の承認議案に対する賛否の欄に賛否を記載しなかったFがおり,同人の有する議決権が100個含まれていた場合

〔設問6〕 X社の臨時株主総会の終了後,Z社が合併の実現を阻止するためには,会社法に基づき,どのような手段を採ることができるか(〔設問4〕で解答した手段を除く。)。合併の効力が発生する前と後とで分け,それぞれ理由を付して説明しなさい。

本問の分析

<民法部分について>
設問1について
1 本件売買契約の目的物
(1)問題の所在
 本問においては,まず,法律行為の内容の確定の問題(我妻民法講義T249頁)を問うていると思われます。
 本問では,XとAは,本件売買契約締結の際,注文書及び注文請書において,両者の合意内容とは異なる型番PS122を品名として記載していることから,売買契約の目的物が,記載どおりのPS122であるか,合意内容であるPS112の機械であるかが問題となります。
(2)契約の成立について
 契約は当事者の意思表示の合致により成立します。
 本問では,AXの担当者間において,PS112の購入について口頭で協議されています。
 そうしますと,ここにおいては,口頭によりPS112を目的とする売買契約がXA間において成立したということがいえるでしょう。つまり,XAの両者間において,PS112を売買の目的物とするという真意は合致している以上,これについての契約の成立を認めることができるということがいえます。
 では,注文書,注文請書においての,品名欄におけるPS122との誤記をどう解すべきでしょうか。
2 錯誤の成否と契約の効力
 本問では,A側において,注文書品名欄に「型番の誤記」(問題文5より)がありますが,これは,単なる誤記に過ぎず,95条における錯誤を成立させるものではないということがいえるでしょう。
 すなわち,売主買主に共通して同じ表示行為についての錯誤は,95条の保護の対象外ということがいえます。
 これを敷衍しますと,95条の錯誤は,表意者の保護を趣旨とします。そうしますと,本問のような共通の錯誤は,単純な誤記に過ぎず,双方の真意に則した契約が成立し,表意者の保護の要請が働く錯誤の場合ではなく,95条の適用外ということになります。
 したがって,錯誤は成立せず,型番誤記は本件売買契約の効力に影響を与えないため,XA間の売買契約は有効となるでしょう。
設問2について
1 小問(1)について
(1)即時取得の要件事実
 民法192条は,即時取得の要件として,@取引行為,A基づく引渡し,B平穏,C公然,D善意,E無過失を規定しています。
 このうち,BCDについては,186条1項により暫定真実として推定されます。また,Eについても188条によって推定されます(紛争類型別115頁)。
 したがって,即時取得の成立に当たり主張すべきは,@及びAのみとなります。
(2)具体的検討
 これを事実@についてみますと,AY間の売買契約の事実の他には,Aの「基づく引渡」が必要ということになります。
 事実Aの,Yが,Aが代金未払いゆえに権利者でないことについて善意であることは,Yの即時取得の要件事実ではないので,主張立証は不要です。
2 小問(2)について
(1)即時取得における過失の評価根拠事実
 即時取得における無過失とは,動産の占有を始めた者において,取引の相手方がその動産につき権利者であると信じるにつき過失のなかったことをいうとされています(類型別116頁)。過失の有無は,ア調査確認義務の存在,イ調査確認義務の懈怠,の2点にかかります。以上を前提に,B,C事実を検討します。
(2)BYが,AがXから目的物を調達することを知っていたことについて
 この点,AがXから目的物を調達したとしても,これだけでは,Aが本件目的物につき,無権利者であるとはいえないとすれば,Bの事実だけでは,Yにア調査確認義務は課せられないということになるでしょう。
 したがって,Bの事実は,Yの過失ありとの評価根拠事実とは認められないことになります。
(3)CYが,本件売買契約の残代金が平成20年4月30日を支払期日とする約束手形で支払われることを知っていたことについて
C事実については,結論として,ア調査確認義務が否定され,過失の評価根拠事実としては認められないということがいえるでしょう。
 売買契約による目的物の所有権の移転時期については,契約時とするのが判例です。これを前提としますと,代金決済のために約束手形が振り出されていたとしても,所有権の留保がなされていたということは一般的にはいえないといえます。この考え方によれば,契約締結後,代金完済前に所有権を移転させる特約があるなどの特段の事情がない限り,所有者であると信じたことに過失は認められないといえます。
 他方,学説上,所有権の移転時期について,代金完済時とする考え方があります。この説を前提としますと,約束手形の交付によって代金の支払期が平成20年4月30日と約定された事実を認識していれば,同日,本件手形の支払があって始めて所有権が移転することになるので,売買契約時に売主所有であると信じただけでは,無過失とはいえないことになるでしょう。この説によれば,事実Bからは,直接にX社に対して取引経過を照会し,本件動産甲についての所有権の帰属について確認すべきであったということがいえるでしょう。
 しかし,この説による処理では,188条の規定する所有者の推定と合致しないという批判が加えられるでしょう。
設問3について
1 不法行為構成(709条)か不当利得構成(703条,704条)について
 出題の指示によれば,法的根拠は一つ示せば足りるので,不法行為構成によるか不当利得構成かで悩むところでしょう。
 この点,本問のような無権原占有者に対しての使用料の請求については,709条の不法行為構成によるのが,実務上は一般的とされています。
 すなわち,不当利得構成では,善意占有期間中の返還金額は,現存利益の範囲に縮減されることになります(703条)。そうしますと,請求者側からすれば,占有者の主観的事情によって返還金額が左右されることになりますので,現存利益の範囲に縮減されない不法行為構成を選択するのが通常といえるでしょう。
 そこで,以下では,まず不法行為構成について検討します。なお,参考として,不当利得構成の場合についても検討します。
2 XのYに対する使用料相当額の支払請求の法的根拠及び請求の時期について
(1)不法行為構成(709条)
ア 法的根拠
 Yは,動産甲について無権原で占有していることになるので,Xとしては,不法行為に基づく損害賠償請求をすることが考えられます。
 不法行為の要件は,@故意又は過失ある行為,A行為者に責任能力があること,B行為が違法であること,C損害の発生,D行為と損害の間の因果関係,です。
 Yについて,本問の事情からこれらの要件を認定していくことが求められるでしょう。
イ 請求時期
 不法行為構成では,損害発生の時期が問題となります。無権原占有においては,所有者の損害は,占有開始から発生するといえます。
 そうしますと,本問においては,平成20年2月15日にYに動産甲の引渡しがなされ,同日に占有が開始されていますので,この時よりXに損害が発生しているといえます。
(2)不当利得構成(703条)
ア 法的根拠
 Xが,Aとの本件売買契約を解除したことによって,Aは遡及的に無権利者となるので(545条1項本文),Yは本件動産について無権原で占有したことになります。そうしますと,Yについて不当利得(703条)が成立することが考えられます。
 不当利得の要件については,@受益,A損失,B因果関係,C法律上の原因を欠くことがあげられます。
 このうち,Cについては,次に述べる不当利得の発生時期との関係でも問題となります。
イ 不当利得の発生の時期
 本件の時系列上,@平成20年2月15日の本件動産甲のYへの引渡し,A5月2日のXによる本件売買契約の解除の意思表示,B5月7日のXからYに対する書面による本件動産の返還請求,の時点が挙げられます。
 この点,@からBまでの間には,Yに189条により善意占有者の果実取得権が成立することが考えられますが,189条と703条の不当利得の関係については,189条の果実取得権は,不当利得の成立を否定するだけの法律上の原因となり,不当利得の規定を排斥するものと解さなければならない(我妻民法講義U495頁)とされています。
 そうしますと,@からBの時期については,不当利得の要件である法律上の原因を欠くこととなり,Yに不当利得は成立しないといえるでしょう。
 したがって,Yに不当利得が成立するのは,B以降となり,この時点からXがYに本問の請求をできることとなるでしょう。

<商法部分について>
設問4について
1 Z社は,X社の株主として,@取締役会の決議無効の訴え,及びA取締役の行為の差止請求(会社法360条)という手段を採ることが考えられます。
2 @取締役会の決議無効の訴えについて
 D社に吸収合併される旨のX社取締役会決議に関しては,その合併比率がX社の株主にとって不当に不利益であり株主平等原則(109条)に違反すること,また,独禁法15条1項1号に違反することが問題となるでしょう。
3 A取締役の行為の差止請求について
 差止請求が認められるには,@取締役が「会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし,又はこれらの行為をするおそれがある」こと,A会社に回復することができない損害が生じるおそれがあること,B請求者が6箇月前から引き続き株式を有する株主であること,の3要件が必要となります。
 まず,@取締役が「会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし,又はこれらの行為をするおそれがある」ことに関しては,本件合併はその合併比率がX社の株主にとって不当に不利益なものであり株主平等原則に違反すること,また,独禁法15条1項1号に違反すること等が問題となるでしょう。
 次に,A会社に回復することができない損害が生じるおそれがあることに関しては,独禁法15条1項1号違反により課徴金が課せられ甚大な損害が生じるのか等が問題となるでしょう。
そして,B請求者が6箇月前から引き続き株式を有する株主であることに関しては,Z社はX株を長年保有していたので,かかるB要件を充足するといえるでしょう。
4 なお,少数株主権に基づく株主総会の招集請求は,答案作成に余裕があれば論じればよいものと思われます。
設問5について
1 @の場合には,議決権行使書に議案に対する賛否の記載をしていないものが2万9000個ありますが,議決権行使書には「議案につき賛否の表示をされない場合は,賛成の表示があったものとして取り扱います。」との記載があることから,これらの議決権は賛成の意思表示をしたものと取り扱ってよいでしょう。
 また,Z社は交付された委任状1万2050株分と自ら保有する5000株分のすべてにつき反対の意思表示を行っています。このうち委任状に賛否を記載していない1万個の議決権については,Z社に白紙委任をしたものとする旨の記載が認められますから問題はありませんが,委任状に賛成と記載されている50個の議決権については代理の効力が問題となります。この点については,代理人が株主の賛否の指示に違反した場合の効果につき,単なる委任関係上の義務違反があるに過ぎず議決権行使は有効とする見解と,無権代理となるとする見解があります(江頭・株式会社法P.316)。
2 Aの場合には,加えて重複して行使されているFの100個の議決権をどのように取り扱うかも問題となります。この点につき,Fは議決権行使書と委任状で矛盾した意思表示をしたと捉えれば,Fの議決権行使は無効と解することとなるでしょう。
設問6について
1 本問では,X社とD社の合併を承認する臨時株主総会(783条1項,309条2項12号)の終了後,合併の効力が発生する前後を通じてZ社が合併の実現を阻止するための手段が問われています。
2 まず,合併の効力が発生する前に採りうる手段としては,合併を承認した株主総会の決議の無効確認の訴え(830条2項)が考えられます。本問株主総会の決議には,独禁法15条1項1号違反がありますから,Z社はこれを無効原因として株主総会の決議無効確認の訴えを提起することができるでしょう。
 また,株主総会の決議取消しの訴え(831条)も考えられます。本問の株主総会においては,X社の代表取締役社長Eが,Z社の提出した議長不信任動議や,投票数の算入方法に対する抗議を無視していることから,これが「決議の方法が法令…に違反し,又は著しく不公正なとき」(831条1項1号)にあたるとして,合併を承認した株主総会決議の取消しを求めることも可能でしょう。
3 次に,合併の効力が発生するのは,株主総会決議から3か月以上経過した平成21年4月1日ですから,合併の効力が発生した後では総会決議取消しの訴えを提起することはできません。そこで,合併無効の訴え(828条1項7号)によることが考えられます。この点,本問合併を承認した株主総会決議は独禁法違反であり,また取消原因もありますから,これらを合併の無効原因と考えることができます。また,合併比率の不公正が無効原因となるとの見解に立ち,合併無効の訴えが認められると考えてもよいでしょう(弥永・リーガルマインド会社法P.426〜8)。
4 なお,Z社としては株式買取請求権(785条)を行使することや,取締役の責任(429条)を追及することなども考えられますが,これらの手段では「合併の実現を阻止する」ことはできないため,論じる必要はないものと考えられます。

的中情報

 民事系第2問(民法・商法)では,まず,設問1の錯誤の要件事実について,09スタンダード論文答練(第2クール)民事系2第1問において問われています。錯誤の要件について受講生の方は,完璧に押さえられていたはずです。また,同問で準占有者への弁済の事例ではありますが,規範的要件である過失の評価について問われており,今回の本試験では設問2において,過失の有無を認定判断するという事案分析の点で,受講生にとっては有益なものであったと思われます。さらに,設問6で問われた合併比率の不公正については,08辰已全国公開模試民事系第1問で出題しています。同模試においても,合併無効の訴えの中で主張する構成となっており,今年度本試験の出題内容との一致が顕著です。

  
 
 ●第1問 刑法 
■公開:2009年05月18日
■更新:2009年06月19日

はじめに

  本問は,過去の本試験問題と同様に,具体的事例に基づいて甲乙の罪責を問うことによって,刑事実体法の理解,具体的事実に法規範を適用する能力,論理的思考力を試すものといえます(平成20年新司法試験論文式試験刑事系第1問出題趣旨参照)。
  テーマ・論点としては,業務上横領罪の成否,刑法65条の解釈,犯人隠避罪の成否,監禁罪と被害者の同意等が考えられますが,いずれの問題点についても,論点に関する法解釈論を抽象的に論ずるにとどまることなく,事例に示された具体的な事実関係を分析し,論点の解決にとって必要な事実を抽出し,的確に法的評価をすることが求められている(前掲・出題趣旨参照)点は,これまでと同様でしょう。
  問題文の形式,分量等に昨年と大きな変化はないものの,本問における業務上横領罪の成否等,受験生を悩ました部分も多く,難化したといえ,現場での高い処理能力が要求されているといえるでしょう。これも基本書の精読・判例演習の他,答案練習会等で書く練習を積むことによって身につけるのが効果的といえるでしょう(平成20年新司法試験考査委員(刑事系科目)に対するヒアリングの概要も参照。)。

本問の分析

  本問は難問であり,受験生の皆様も色々な答案構成をなされたものと思われます。そこで,現時点で関連するものと思われる論点を挙げ,大まかな分析を試みました。
 
第1 乙がAの口座から計200万円を操作ないし引き出した行為について
1 まず,乙の行為を論じる前提として,甲が乙にAのカードやAの通帳を渡した行為について,AのカードやAの通帳についての業務上横領罪(253条)の成否を検討することが考えられます。
  その場合,甲がAのカードや通帳を持ち出す行為は一時的なものであるため,「横領した」といえるかが問題になると思われます。
  この点について「横領」とは,一般に,不法領得の意思の発現行為をいうとされ,この不法領得の意思とは,他人の物の占有者が委託信任関係に背いて所有者でなければできないような処分をする意思をいうと解されています。
  本問では,甲は200万円の不正な送金を目的としている以上,たとえ一時的な持ち出し行為であっても,不法領得の意思の発現行為とみることができます。
  以上より,甲はAのカードや通帳を横領したといえることから,甲には業務上横領罪が成立すると考えることができます。
 
2 次に,乙が銀行のATMで行った行為について検討します。
(1) 乙の罪責について
ア この点,乙のAに対する200万円の横領罪(252条1項)が成立するものと考えられます。
  まず,本問において,銀行口座に入っているAの金銭について,乙に占有があるか問題となるも,甲からカード,通帳を受け取るとともに暗証番号も聞いているので,事実上の支配が及んでいるといえ,占有はあると評価できます。そして,120万円を自己の借金返済に充て,80万円を甲が代表を務めるB社に振り込む行為は,Aの法益を侵害する行為であり,委託信任関係に背き権限を逸脱するものです。
  以上より,乙に200万円について横領罪が成立します。ここで乙に,自らのために費消した120万円だけでなく,B社に振り込んだ80万円についても横領罪を成立させるのかが問題となります。
  この点,甲が着服するためだと分かっていて,これを振り込む行為も権限逸脱行為であり横領にあたること,被害者Aにとっては,あくまで200万円が被害であり,それがどのように分配されたかは横領罪成立の金額的範囲には無関係であることなどから,200万円全額についての横領罪成立を認めるべきものと考えられます。
  なお,乙について業務上横領罪(253条)が成立するかについては,同罪における業務性は限定的に解されており,乙は経理事務を担当していないことから,業務性は否定されるでしょう。
 
イ 他方,1において甲に業務上横領罪の成立を認めた場合には,乙が銀行でATMから現金を引き出す行為は,いわば盗まれたカードで現金を引き出す行為と同じであると考え,120万円についての窃盗罪が成立すると考えることもできるでしょう。
  また,80万円の振込みについて電子計算機使用詐欺罪(246条の2)の成立を検討することも可能でしょう。
 
(2) 甲の罪責について
ア 甲には,Aに対する200万円の業務上横領罪の教唆犯(61条1項,253条)が成立すると考えられます。
  甲は,業務上横領罪の間接正犯の意図で,乙に対して200万円のB社に対する振込みを指示していますが,実際には乙は甲の意図に気付いており,甲の乙に対する行為支配性は失われていますので,甲に間接正犯は成立しないものと考えられます。
  もっとも,乙は甲の意図に気付いた上で甲の指示に従うことを決意しているので,結果的に甲は乙に対して教唆行為をしたと評価できるでしょう。そして,甲が得ることができたのは,被害額200万円のうち80万円に過ぎませんが,被害者であるAの観点からは,甲が乙に200万円の業務上横領を教唆し,実際に200万円の被害が生じていることから,甲には200万円全額が帰責でき,Aに対する200万円についての業務上横領罪の教唆犯が成立するものと考えられます。
 
イ 他方,甲については,電子計算機使用詐欺罪(246条の2)の教唆犯(61条1項,246条の2)の成否が問題となりえます。なお,乙の120万円の引出行為については,因果関係の不存在ないし抽象的事実の錯誤など,理論構成はいくつか考えられますが,甲に犯罪は成立しないと考えられます。
 
(3) 65条の共犯と身分の問題について
 乙については,単純横領罪が成立し,甲については業務上横領罪の教唆犯が成立するという結論を採った場合には,甲乙間について共犯と身分が問題になります。業務上横領については,占有の有無,業務性の有無という二重の身分の問題を意識する必要があります。処理の一例としては,65条2項の適用になるでしょう。
 
(4) 注意点
  本問は,客体を異にする複数の財産犯が成立しえますが,論述の運び方によっては,成立する犯罪間で矛盾が生じるおそれや,二重評価が生じるおそれがありますので,慎重な検討が必要でしょう。
 
第2 強盗に奪われたように装った行為について
1 乙の罪責について

  この点,乙が甲とともに,強盗に襲われた旨の狂言を演じ警察にその旨説明をした行為に,犯人隠避罪(103条)の(広義の)共犯が成立するかが問題になります。
  乙は犯人本人であり犯人隠避罪は成立しないとも思えますが,乙は共犯者甲とともにこのような行為を行っている点で自らの防御権の範囲を逸脱しており,期待可能性を一般に失わせるとはいえず,犯人隠避罪の(広義の)共犯が成立すると考えられます。
  つぎに,(広義の)共犯が成立するとしても,いかなる共犯が成立するかを検討する必要もあります。その際には,乙の甲に対する関与形態などを十分検討したうえで,結論を導くことが必要であると思われます。
  なお,この点について裁判例は,犯人自身の共同正犯を否定しております(自己隠避について共同正犯を否定して教唆犯とした東京高判昭52.12.22,証拠偽造の教唆犯を認めた最決平18.11.21)。
 
2 甲の罪責について
(1) まず,甲にも乙と同じ理由により,犯人隠避罪が成立するものと考えられます

  もっとも,前段の甲と乙との財産犯の検討の結果,乙についての犯人隠避罪の検討の結果などによって,甲に成立するのが犯人隠避罪の単独正犯,共同正犯など結論が異なると思われ,矛盾のない論理的な論述が求められていると考えられます。
 
(2) 他方,甲に乙に対する監禁罪(220条後段)は成立しないと考えられます。
  甲は乙を自動車のトランクに閉じ込めていますが,この場合の乙の法益は放棄可能な身体の自由であり,かつ,乙の同意は得ているので,監禁罪の構成要件に該当しないといえます。
  もっとも,行為無価値を重視することで,乙の同意は無効であると考えれば,甲に監禁罪が成立すると考えることも可能でしょう。
 
3 そのほか,甲・乙について,偽計業務妨害罪の共同正犯(60条・233条)の成否を検討することも出来ると思われます。
 

■参考判例■

的中情報

  横領行為の意義などに関して,09スタンダード論文答練(第2クール)刑事系3第1問で問われており,受講生の皆様には直前に横領罪に関する基本的な知識を再確認でき,本問解答に際しては有益だったものと思われます。

  
 ●第2問 刑事訴訟法  
■公開:2009年05月18日

はじめに

 本問も,過去の本試験問題と同様に,捜査・公判に関する具体的事例を示して,そこに生起する刑事手続上の問題点の解決に必要な法解釈,法適用にとって重要な具体的事実の分析・評価及び具体的帰結に至る過程を論述させることにより,刑事訴訟法等の解釈に関する学識と適用能力及び論理的思考力を試すものといえます(平成20年新司法試験論文式試験刑事系第2問出題趣旨参照)。
 具体的には,「捜索・差押えの際の写真撮影の適否」が設問1の捜査法分野の主要なテーマ・論点であり,「犯行を再現する実験結果についての実況見分調書の証拠能力」が設問2の証拠法の分野での主要なテーマ・論点といえます。そして,いずれの設問についても,法解釈論や要件の存否を抽象的に論じるにとどまることなく,事例中に現れた具体的事実を指摘しつつ,個々の事実がどの要件の存否を基礎付けているのかを的確に論じることが要請されている(前掲・出題趣旨参照)点は,これまでと同様でしょう。
 問題文本文の形式,分量等に昨年と大きな変化はないものの,昨年は1点であった添付資料が2点(【資料1】供述調書,【資料2】捜索差押許可状)に増加し,資料分析能力重視の傾向が顕著となっています。この点,スタンダード論文答練では,添付資料がはじめて掲載された昨年の本試験以前からこの傾向を予測し,08スタンダード論文答練(第1クール)刑事系1(辰已専任講師・弁護士 菊地幸夫先生御担当,平成19年12月2日全国同時LIVE中継実施)の第2問問題文に添付資料として捜索差押許可状を掲載して以降,問題文に適宜資料を掲載するようにしてきました。この資料分析能力もスタンダード論文答練等の答案練習会で身につけるのが効果的かと思われます(なお,書く練習の重要性に関しては,平成20年新司法試験考査委員(刑事系科目)に対するヒアリングの概要も参照。)

問題文について

 【概 要】
 M埠頭に沈められた軽自動車内から遺体で発見されたVに対する殺人罪及び死体遺棄罪の容疑者として甲が逮捕された。
 かかる殺人及び死体遺棄事件の捜査において,司法警察員警部補Pは,甲の供述調書をもとにT社事務所に対する捜索差押許可状の発付を受け,その執行に際し,壁の文字・預金通帳・パスポート等の写真撮影を行った。
 また,Pらは,M埠頭において甲に犯行状況を再現させ,これをもとに実況見分調書を作成した。
 以上の事案について,〔設問1〕では写真撮影の適法性が,〔設問2〕では実況見分調書の証拠能力が,それぞれ問われています

※ 実際に出題された問題文は,本日(平成21年5月18日(月))法務省のホームページに掲載されました。下記のアドレスにてご覧になれます。

http://www.moj.go.jp/SHIKEN/SHINSHIHOU/h21-22-06jisshi.pdf

本問の分析

 〔設問1〕について
 捜査における写真撮影の性質は検証と解されているため,原則として検証令状(218条1項)が必要となります。本問における〔写真@〕から〔写真C〕は,いずれも検証令状なく撮影されているので,その適法性が問題となるでしょう。
 この点,通説は,捜索・差押えに付随する処分の範囲内であれば,写真撮影が認められ,適法となると解しているようです。通説に従う場合は,【資料2】の捜索差押許可状をもとに,〔写真@〕から〔写真C〕のそれぞれについて,捜索・差押えに付随する処分の範囲内といえるかを具体的に検討することが必要になるでしょう。一方,裁判例としては,下記の大津地決昭60.7.3(刑事裁判月報17−7・8−721)が参考になるでしょう。

□ 大津地決昭60.7.3(刑事裁判月報17−7・8−721)
 大津地裁は以下のように,捜索・差押えに際し,捜索差押許可状に記載されているもの及びこれらを補足,補充するもの以外の物件を,その内容等を確保する目的で,被処分者の同意なしに写真撮影することは違法であるとして,写真撮影処分を取り消した。
「三1 ところで,捜索差押の際に,捜査機関が写真撮影をすることは必ずしも許されないわけではなく,証拠物の証拠価値をそのまま保存するために証拠物をその発見された場所,発見された状態とともに写真撮影することや,捜索差押手続の適法性を証拠づける目的でその執行状況を写真撮影することは許されるし,又,書類や図面等についてその内容等を確保する目的で写真撮影する場合にも捜索差押許可状に記載されている書類や図面等そのものやこれらを補足,補充するものを写真撮影するなど限定された場合には許されるものというべきであるが,右の範囲を超えて写真撮影することは,捜索差押の目的物とされていない物件をも捜索差押したのと実質的に異ならない結果となるので許されず,任意捜査として所有者らの承諾のもとに写真撮影されたものでない限り,刑事訴訟法四三〇条一項又は二項に基き写真撮影処分の取消しを求めることができるものと解するのが相当である。
2 そこで,滋賀県大津警察署司法警察職員が昭和六〇年二月一五日大津市○丁目○番○号Kマンシヨン一階○号室申立人事務所においてした写真撮影について検討するに,前記認定のとおり,領収書及び請求書等別紙添付の写真中の各書類を除くその余の各書類については本件捜索差押許可状に記載されている物件を補足,補充するものとして写真撮影が許されるものであり,且つ申立人会社の代表取締役Uの同意のもとに写真撮影されたことが明らかであるから,右写真撮影は,適法であるものといえるけれども,別紙添付の写真中の各書類の写真撮影については,本件捜索差押許可状に記載されている物件を補足,補充するものでもなく,又,責任者として立会つた申立人会社の社員Tや,のちに右会社事務所に出社した右Uが写真撮影をすべきでない旨抗議しており,且つ写真撮影をすることについての同意書等の書面も作成されておらず,申立人の真意による承諾があつたものとは認められないから,右写真撮影処分は違法であるといわざるをえない。」

〔設問2〕について
 実況見分調書は,伝聞証拠となるため,証拠能力が認められないのが原則ですが(320条1項),判例・通説は,検証調書と同じく321条3項により証拠能力を有するとしています。
 しかし,本問の実況見分調書は,死体遺棄の手段方法を明らかにして,証拠を保全することを目的として,被告人甲に死体遺棄の状況を再現させた場面の写真が添付され,各写真の下には,説明の記載(甲の犯行状況についての供述が録取されている説明文も含む)がなされているため,さらに検討が必要となります。このような実況見分調書の証拠能力の有無については,検察官があげた「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」という立証趣旨に対し,弁護人は「被告人が本件車両を海中に沈めて死体遺棄したこと」が立証趣旨であると考え,証拠とすることに不同意の意見を述べたとあることから,検察官のあげた立証趣旨の意味を検討した上で,要件を検討することが求められているといえるでしょう。この点については,下記の最決平17.9.27(刑集59−7−753)が参考になるでしょう。

□ 最決平17.9.27(刑集59−7−753)
 電車内で隣に座った被疑者から痴漢の被害を受けたという被疑事件につき,第1審公判において,検察官は,立証趣旨を「被害再現状況」とする実況見分調書,及び立証趣旨を「犯行再現状況」とする写真撮影報告書の取調べを請求した。弁護人が,本件実況見分調書及び本件写真撮影報告書について,いずれも証拠とすることに不同意との意見を述べたため,検察官は,両書証の共通の作成者である警察官を証人として申請し,法321条3項所定の証人尋問が実施された。同証人尋問終了後,検察官は,本件両書証につき,いずれも「刑訴法321条3項により取り調べられたい」旨の意見を述べ,これに対し弁護人はいずれも「異議あり」と述べたが,裁判所は,これらを証拠として採用して取り調べた。この判断に対し,弁護人が上告したという事案について,最高裁は以下のように判示する。
 「…本件両書証は,捜査官が,被害者や被疑者の供述内容を明確にすることを主たる目的にして,これらの者に被害・犯行状況について再現させた結果を記録したものと認められ,立証趣旨が『被害再現状況』,『犯行再現状況』とされていても,実質においては,再現されたとおりの犯罪事実の存在が要証事実になるものと解される。このような内容の実況見分調書や写真撮影報告書等の証拠能力については,刑訴法326条の同意が得られない場合には,同法321条3項所定の要件を満たす必要があることはもとより,再現者の供述の録取部分及び写真については,再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の,被告人である場合には同法322条1項所定の要件を満たす必要があるというべきである。もっとも,写真については,撮影,現像等の記録の過程が機械的操作によってなされることから前記各要件のうち再現者の署名押印は不要と解される。
 本件両書証は,いずれも刑訴法321条3項所定の要件は満たしているものの,各再現者の供述録取部分については,いずれも再現者の署名押印を欠くため,その余の要件を検討するまでもなく証拠能力を有しない。また,本件写真撮影報告書中の写真は,記録上被告人が任意に犯行再現を行ったと認められるから,証拠能力を有するが,本件実況見分調書中の写真は,署名押印を除く刑訴法321条1項3号所定の要件を満たしていないから,証拠能力を有しない。」

的中情報

 設問1における捜索・差押えの際の写真撮影については,08辰已全国公開模試刑事系第2問で前掲・大津地決昭60.7.3を素材として正面から出題されています。また,設問2における,犯行を再現する実験結果についての実況見分調書の証拠能力は,08スタンダード論文答練(第2クール)刑事系1第2問で,最決平17.9.27を素材として正面から出題されています

 
 
 
 
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