HOME > 新司法試験 > 平成21年度 新司法試験 選択科目試験 講評

 
 

■選択科目 倒産法

■選択科目 租税法

■選択科目 経済法

■選択科目 知的財産法

■選択科目 労働法

■選択科目 環境法

■選択科目 国際関係法(公法系)

■選択科目 国際関係法(私法系)

  
■公開:2009年6月5日

<第1問について>

1 〔設問1〕 小問(1)について
 本小問は,再生債務者の代理人弁護士として,再生債務者の事業を承継させることを念頭に置き,再生手続開始決定後に採るべき手続について問う問題です。
  民事再生法は,開始決定後に事業譲渡をするにあたり,債権者保護の観点から裁判所の許可(42条)を要求するとともに,裁判所の許可(43条)により会社法上の株主総会特別決議に代替できることとしています。そこで,本問の具体的事情を踏まえてそれぞれの許可要件を充たすか検討することになるでしょう。
 本件では,本件事業譲渡が「事業の再生のために必要」(42条1項)か,取引業者15社や地方公共団体や従業員に対する意見聴取(42条2項),労働組合等に対する意見聴取(42条3項)について検討することになるでしょう。また,A社の株式を40%保有するPの弟たちが事業譲渡に反対しており,会社法上の株主総会特別決議を経ることが困難であることから,裁判所による代替許可を得る必要がありますので,「事業の継続のために必要」(43条1項ただし書)かについて検討することになるでしょう。
 
2 〔設問1〕 小問(2)について
 本小問は,事業再生に不可欠な不動産に抵当権を設定し,不動産の時価を上回る優先弁済を主張する別除権者に対し,再生債務者としていかに対処するかを問う問題です。
 民事再生法上,このような場合に再生債務者が採り得る手段として,担保目的財産の受戻し(41条1項9号),担保権協定(88条ただし書参照),担保権消滅許可申立て(148条)及び担保権実行中止命令(31条)などがあります。そこで,本問の具体的事情を踏まえて再生債務者にとって最適な対応策について検討することになるでしょう。
 本件では,被担保債権額である2億円で受戻しをするか,B銀行の主張する1億5000万円で担保権協定を締結するか,時価である1億円で担保権消滅許可申立てをする余地があります。Q社がスポンサーとして上限1億5000万円の支援をしてくれますので,1億円の一括弁済ができます。そこで,再生債務者としては,中止命令により担保権実行を止めつつ,担保権消滅許可申立てをすることが考えられます。
 
3 〔設問1〕 小問(3)について
 本小問は,少額の再生債権に対して例外的に優先弁済することの可否について問う問題です。
 民事再生法は,再生計画外における再生債権に対する弁済を原則として禁止しつつ(85条1項),中小企業者の再生債権や少額の再生債権に関しては,合理的理由が認められれば,例外的に再生計画によらない弁済を許しています(同条2から5項)。そこで,本問の具体的事情を踏まえて例外的場合に該当するか検討することになるでしょう。
 本件では,中小企業者と考えられる庭師Cが取引相手となっていますので,85条2項の例外的場合にあたる余地があります。また,庭師Cが旅館の庭園のことを熟知していることや同人が大変な腕利きであり他の業者に代えることが再生債務者にとって大きなマイナスであることを考慮すれば,85条5項の例外的場合にあたるとする余地もあるでしょう。
 
4 〔設問2〕について
 本設問は,建物の改修工事を内容とする請負契約の履行途中で注文者に再生手続開始決定があった場合,同契約がどのように処理されるかを問う問題です。
 本件請負契約は双方未履行双務契約にあたりますので,再生債務者は,契約の履行または解除を選択することになるでしょう。なお,民法641条に基づく契約解除がなされる余地はありますが,注文者が破産したわけではないので642条の適用はありません。
 本件では,再生債務者が履行の選択をすれば,請負人Dの請負報酬債権は,仕事の不可分性から200万円全額が共益債権(49条4項)として保護されると考えることができます。また,再生債務者が解除を選択した場合(41条1項4号),すでに完成した部分を除き,未完成部分についてのみ請負契約を解除し得る(大判昭和7年4月30日民集11巻780頁)という立場を前提とすれば,再生債務者は,支払済の80万円について返還請求することができ,これにより請負人Dに損害が生じれば,請負人Dは,再生債権者として損害賠償請求(49条5項,破産法54条1項)をする余地があるでしょう。さらに,再生債務者が選択権を行使しない場合,請負人Dは催告することができ,再生債務者が期間内に確答しないときは,解除権を放棄したものとみなされます(49条2項)。
 
5 的中情報
 設問1小問(2)では,民事再生手続において別除権行使を阻止する手段について問われています。民事再生法における別除権の行使を阻止する方法については,08スタンダード論文答練(倒産法)で問われております。
 
<第2問について>
1 〔設問1〕 小問(1)について
 本小問は,破産手続開始決定当時,破産者の行った財産分与について詐害行為取消訴訟が係属している場合,破産管財人としてどのような対応を採ることが考えられるかについて,財産分与の否認可能性とともに問う問題です。
 破産手続開始決定により,係属中の詐害行為取消訴訟は中断し(45条1項),破産管財人がこれを受継すべきかが問題となります(同条2項)。財産分与の否認可能性については,民法上の財産分与と詐害行為取消権の議論(最判昭和58年12月19日民集37巻10号1532頁・民法百選U18事件参照)を参考に,財産分与の法的性質に配慮して,160条1項1号に基づき否認できるかどうかを検討することになるでしょう。
 本件では,甲マンションの実質的な購入資金はすべてBが支弁していますので,財産分与を否認できる可能性は低いと考えられます。そうすると,破産管財人としては,(45条2項の解釈として受継拒否ができることを前提として)中断した詐害行為取消訴訟の受継を拒否する対応を採ることが考えられます。
 
2 〔設問1〕 小問(2)について
 本小問は,破産手続終了後,@免責許可決定確定前及びA免責許可決定確定後に未払い養育費を被保全債権とする強制執行の可否について問う問題です。
 破産法249条1項は,破産手続終了後免責許可決定確定までの間,強制執行を禁止する旨定めています。また,免責許可決定確定後は,非免責債権(253条1項各号)を除き,自然債務となると解されます(同項柱書)。
 本件では,免責許可決定確定前(@)の強制執行は禁止されるものの,養育費(民法766条)に係る請求権は253条1項4号ハにより非免責債権となるため,免責許可決定確定後(A)の強制執行は可能と考えられます。
 
3 〔設問2〕 小問(1)について
 本小問は,慰謝料請求訴訟を追行していた破産者の当事者適格が,破産手続開始決定によりどのような影響を受けるかを問う問題です。
 破産法44条1項は,破産手続開始決定により「破産財団に関する訴訟手続」は中断するとしていますので,慰謝料請求権の破産財団帰属性を検討することになるでしょう。
 判例(最判昭和58年10月6日民集37巻8号1041頁・倒産百選21事件参照)を参考にすれば,慰謝料請求権は,具体的な金額が当事者間において客観的に確定しない間は,性質上差押さえ可能性が否定されますので,破産財団帰属性は否定される(34条3項2号本文)ことになります。そうすると,破産者Bはそのまま訴訟追行をすることができると考えられます。
 
4 〔設問2〕 小問(2)について
 本小問は,破産手続開始決定後に慰謝料請求訴訟の判決が確定した場合の慰謝料請求権の破産財団帰属性について問う問題です。
 前記判例を参考にすれば,破産手続開始決定後に具体的な金額の慰謝料請求権が当事者間において客観的に確定した場合,慰謝料請求権は破産財団に帰属すると考えることができます(34条3項2号ただし書)。そうすると,慰謝料請求権の管理処分権は破産管財人に帰属し(78条1項),破産管財人はAに対して履行を求めることができることになります。
 これに対して,破産手続開始時に一身専属的である以上破産財団への帰属は否定すべきであるとする見解によれば,慰謝料請求権は破産財団に帰属しないと考えることになり,破産管財人は慰謝料請求権の管理処分権を取得しないことになります。

  
■公開:2009年6月8日

<第1問について>

1  はじめに
 租税法では例年,具体的事例の課税を通じて所得税法の基本的理解を問う問題が出題されています。今年もこの形式が踏襲されており,司法試験委員の採点雑感等に関する意見によれば,今後もこの形式が続くものと思われます。したがって,設問を解くにあたっては,出題の意図である基本的概念の理解を示すための論証が不可欠でしょう。
  また,本問におけるポーカーゲーム機による賭博の収入が所得として扱われることについては実務上争いがありませんので,それを前提に解答することが求められています。
 
2  設問1について
 本設問では,不法所得が課税される理由と本所得の分類について問われています。前段では,所得概念の理解としていかなる場合に課税対象たる「所得」を構成するのか(現行法が包括的所得概念を採用していることを踏まえた上で,所得概念について法律的に把握すべきか,それとも経済的に把握すべきか)を論じることになるでしょう(百選〔第4版〕28事件参照)。後段では,Aのポーカーゲーム機からの収入が,事業所得に該当するのか,それとも雑所得に該当するのかの基準を立てた上で(名古屋地裁昭和60年4月26日判決行集36巻4号589頁参照),喫茶店の店舗内,ポーカーゲーム機10台といった本問での具体的事情を使ったあてはめができたかが重要となるでしょう。その際,特に収入としての安定性が認められるかどうかが両者の区別のポイントとなると思われます。
 
3  設問2について
 本設問では,事業所得の性質を踏まえた上で収入金額と必要経費の理解が問われています。
 小問(1)では,収入金額(所得税法36条)につき権利確定主義を論じた上で,後払いの約束をした50万円について権利が確定しているのかを論じることになるでしょう。
  小問(2)では,各種金額が必要経費(所得税法37条)にあたり控除されるのかを論じることになるでしょう。@からBの各問を答える前に総論として事業所得における必要経費の意義について論じ,各問とリンクするようにできれば高得点が狙えると思われます。各問では,@はコインを持ち帰って次回以降にまた使えるといった本問での具体的事情を踏まえて,貸倒損失(所得税法51条2項)にあたるかどうかについて,貸倒損失の要件を踏まえた上で論じることになるでしょう。Aは犯罪行為の経営指導料という違法な支出の経費が必要経費として認められるかを論じることになるでしょう。Bは減価償却費(所得税法49条)の意義を示し,本問のポーカーゲーム機で減価償却費を計上できるか論じることになるでしょう。
 

<第2問について>

1  はじめに
 第2問では例年,所得税法と法人税法の融合問題が出されており,今年もその形式によるものでした。ただし,融合問題といっても,設問で明確に区切られているので,論じる上で混乱することはないでしょう。

  本問の特徴としては,設問内に「条文を摘示しつつ」と書かれていることが挙げられます。このように書かれていなくても条文の指摘は必要ですが,わざわざ設問として書かれているということは,条文の摘示に点数が振られている可能性が高いでしょう。租税法の条文は非常に長いものが多いですが,本文但書前段後段や括弧内等の表記を含めて正確に示すことができるようにすることが必要でしょう。
  なお,本問は最判平10.6.12の事例を参考に作成しているものと思われます。この判例は百選(第4版)58事件に載っていますが,解説を含めて,役員給与について法人税法が改正前のものであるので注意が必要です。
 
2  設問1について
  本設問では,B社からAに支給された@〜Bまでの各支給の所得分類及びその収入金額が問われています。
 
前段では,老後の生活保障のため2分の1課税という優遇課税制度を採用した退職所得の趣旨から,退職所得に該当する場合の基準を立て(最判昭58.9.9参照),Aが取締役の任期満了後に非常勤の監査役に選任されている本問での事情を考慮したあてはめをすることが必要でしょう。後段では,「収入すべき金額」(所得税法36条1項)として確定する額について,Bの土地の支給が額面額なのか時価額なのか論じることになるでしょう。
 
3  設問2について
  本設問では,支給したB社の法人税法上の処理が問われています。平成18年に改正のあった役員給与に関する問題です(百選〔第4版〕58事件参照。ただし掲載時は旧法下)。改正における趣旨を論述の中で自然に示すことができると高得点が狙えるのではないかと思われます。
 
論述に当たっては,まず,退職給与が「役員に対して支給する給与」に含まれるという法人税法34条1項本文かっこ書を示すことが必要でしょう。そして,本問@〜Bの支給が同条1項3号イ(1)の利益連動給与に当たるか否かを検討し,損金算入されるか否かを論じることになるでしょう。更に,役員給与の額のうち,不相当に高額な部分の金額は損金に算入されません(法人税法34条2項)が,@〜Bまでの支給が不相当に過大か否かについて基準を立てて論じることになるでしょう。この点,本問ではAの勤続年数や貢献の度合い等様々な具体的事情が与えられていますので,これら具体的事情を使える基準を立てることが重要でしょう。
  また,役員給与として損金算入されなかった場合は,Aに対する甲土地の支給が「無償による資産の譲渡」(法人税法22条2項)に該当するか,また寄付金(法人税法37条)に該当するかどうか,関連判例を踏まえた上で論じる必要があるでしょう。その上でB社に対する法人税法上の課税関係を論じる必要があるでしょう。

  
■公開:2009年6月4日

<第1問について>

1 @部品の共同購入について
 本設問は,事業者向けの商品を製造販売する機械メーカーによる,コスト削減の方策としての部品の共同購入について,独禁法上の問題点を問う問題です。
 複数の企業間で購入を取り決めによって共同化する共同購入は,いわゆる非ハードコア・カルテルの典型例とされています。そこで,独禁法2条6項の不当な取引制限に該当し,同法3条後段に違反するかどうかを,行為要件,対市場効果要件等の該当性を通して,丁寧に検討することになるでしょう。
 共同購入が不当な取引制限になるかを検討するにあたって,特に問題となるのは,市場の画定及び実質的競争制限の有無と思われます。共同購入においては,複数の事業者が共同して部品を買い取ることにより購入者間の競争が停止する点に主眼があることから,市場支配力の生じうる市場が,商品Xの製造販売市場だけではなく,部品の買い手市場になることが考えられます。一般に,@製品の供給分野における参加者のシェアが高く,かつ,その供給に要するコストに占める共同購入の対象となる原材料の購入額の割合が高い場合には製品の供給分野において,また,A共同購入の対象となる原材料の需要全体に占める共同購入参加者のシェアが高い場合には当該原材料の購入分野において,独禁法上問題が生じる,とされています(事業者の活動に関する相談事例集(2001年)等参照)。また,実質的競争制限の検討においては,共同購入には購買量の拡大効果(=スケールメリット)を有し,それ自体競争促進的であるという側面もあるため,買い手市場支配力行使の手段かどうかを検討することが必要になると思われます。
 本件では,「商品Xの製造販売分野」と「X主要部品の販売分野」の2つの市場が考えられます。ABC各社のXの市場占有率がA50%,BC25%であること,商品Xの製造コストの80%を部品の購入費用が占め,商品Xの価格に占める部品価格の比率が高いことからすれば,上記@の場合にあたり,商品Xの製造販売分野が問題となることが考えられます。また,本件共同購入の対象部品がXのみに使用されており,部品の商品Xへの依存度が高いことからすれば,部品の販売分野についても,実質的競争制限効果が生じることも十分考えられます。

2 A共同物流会社の設立計画について
 本設問は,トラックの利用効率の向上や配送時間の短縮等を図ることを目的とした,物流会社甲を共同出資で設立するにあたって,独禁法上の問題点を問う問題です。
 共同出資は,株式による企業結合の一形態ですが,合併と違い,結合によって企業が消滅するものではなく,むしろ新規に競争者を創設し競争を促進する場合もあり,またカルテルと合併の中間形態であるため,独禁法上の評価も,企業結合規制としてだけではなく,カルテルとしての規制が及ぶ場合も考えられます。考えられる独禁法上の適用は,@共同出資会社自体が,その事業能力,市場シェア等から見て市場支配力を有する場合(私的独占),A出資会社間で価格や数量について情報交換を行い,共通の意思が形成され現実の競争を制限するような場合(カルテル効果),B競争を回避するため単独では市場に参入せず,既存の事業者と共同で会社を設立する場合(潜在競争の削減)等が挙げられます。
 本設問においては,Aの計画の本質がどこにあるかを自分なりに検討した上で,独禁法3条前段,後段及び10条の各規定の違いを踏まえ,適切な条文を選び,自分が選んだ条文の各要件に当てはめることが求められていると考えられます。
3 的中情報
 3条後段(不当な取引制限)という条文の適用を聞く部分については,09年度全国公開模試(経済法第1問),09年度スタンダード論文答練(選択科目)経済法2(第2問),08年度スタンダード論文答練(選択科目)経済法2(第2問),07年度全国公開模試(経済法第2問)で問われております。

<第2問について>

 本問において,方針(1)及び(2)を採ることとしていることから,それぞれが独禁法に違反しないかについて検討することが求められています。
 方針(1)においては仕入れ価格を下回る価格で,方針(2)においては仕入れ価格ないし総販売原価を下回る価格で各製品を販売するため,ともに不当廉売(一般指定6項)に該当し,不公正な取引方法(独禁法19条)に違反しないかが問題となると考えられます。
1 方針(1)について
 まず,方針(1)については,総販売原価は上回るが仕入れ価格を下回る価格で製品を販売することが「著しく下回る対価」にあたるかが問題となります。そのうえで,「著しく下回る対価」にあたるとすれば,1か月間週末のみの販売が「継続して供給」といえるか,「著しく下回る対価」にあたらないとすれば,「低い対価」といえるか,「低い対価」にあたるならば,新規開店セールにおいて旧型製品を販売することが「不当に」といえるかを検討することになるでしょう。このように不当廉売該当性を判断するにあたっては,各要件を正確に理解し,的確に具体的事例にあてはめることができるか,が問われています。
2 方針(2)について
 次に,方針(2)については,方針(1)と同様に不当廉売(一般指定6項)該当性が問題となるため,方針(1)と同様に各要件について解釈し,的確に具体的事例にあてはめることが求められているでしょう。本問においては,消費者がもっとも購入したい液晶テレビについて,既存店舗において,3か月間継続して液晶テレビの販売キャンペーンが行われること,37インチの液晶テレビは仕入れ価格を下回る価格で,40インチの液晶テレビはA社仕入れ価格を上回るが,他社仕入れ価格および総販売原価を下回る価格で販売されていることをどのように評価するかが問われています。
 なお,総販売原価については,問題文中に「テレビの仕入れ価格にこの諸費用2万円を加えた金額」との記述があり,不当廉売の要件の解釈を暗記することよりも,具体的事例にあてはめることのできる能力があるかに重点を置いて出題がなされていると思われます。
また,方針(2)において,不当廉売を手段とした排除型私的独占(独禁法2条5項,3条前段)が成立するかについても問題となりうると考えられます。
3 的中情報
 一般指定6項の不当廉売は,近年多くの重要判例,審決があり,辰已でも08年度全国公開模試(経済法第2問)や07年度スタンダード論文答練(選択科目)経済法1(第2問)で出題しております。

 
■公開:2009年6月4日

<はじめに>

 知的財産法は,例年と同様,第1問は特許法,第2問は著作権法から出題されました。いずれも,条文・判例の基本的な理解に加えて,現場思考が強く要求される問題でした。もっとも,論じるべき点が多く,当事者の立場での主張・反論を検討させるなど,従来の本試験と比べて,やや難化した印象を受けます。

<第1問(特許法)について>

1 問題文について
 本問は,いわゆる冒認出願に関する応用問題です。典型的な冒認出願の論点の処理に加え,共同発明や職務発明といった事情を考慮する必要があり,難易度の高い問題といえるでしょう。

2 本問の分析
(1) 設問1について
 設問1は,小問1と小問2に分かれています。
 小問1では,まず,@特許を受ける権利がA社B社に承継されているか否かが問題となります。結論としては,いずれでもかまいませんが,承継を肯定することも可能だと思われます。なぜなら,本件発明が職務発明に当たることは明らかですので,本件勤務規則は有効といえるからです(特許法35条2項参照)。また,本件発明は共同発明なので33条3項の適用の余地がありますが,本問ではA社B社間の共同開発の合意や職務発明に当たるといった事情があるので,同条項の規制が及ばないと考えることも可能だからです(小泉ほか『知的財産法演習ノート』P.9〜10参照)。次に,A本問では,発明者たる甲乙が共同出願しているので,「発明者」による出願がそもそも冒認出願(49条7号,123条1項6号)に当たるか否かを論じることもできると思われます。この点については,条文の文言などを理由に,消極に解するのが多数説です(前掲『知的財産法演習ノート』P.8〜9参照)。最後に,B上記の検討を踏まえて,いかなる請求ができるかを検討することになります。論点@Aでいずれの立場に立つにせよ,問題文の指示に従い,設定登録の前後に分けて論じる必要があります。
 小問2では,第一に,35条1項の法定通常実施権の成否が問題となります。73条3項との関係でA社・B社に35条1項の法定通常実施権が成立しているか否かを検討することになるでしょう(前掲『知的財産法演習ノート』P.15,17参照)。第二に,特許無効の抗弁(104条の3第1項,123条1項6号)の成否を検討することができます。なお,小問1の論点Aで消極説に立つ場合,当該抗弁を成立させると矛盾が生じますので,注意が必要です。
(2) 設問2について
 設問2は,設問1と異なり,発明者ではない丙が単独発明として出願しており,冒認出願に該当するのは明らかです。そこで,まず,@甲,乙,A社又はB社のいずれに特許を受ける権利が帰属しているかを検討することになります。この点は,設問1で述べたところと同様の議論があてはまるものと思われます。次に,A冒認出願に当たることを前提にした上で,設定登録前は,特許を受ける権利の確認請求の可否・出願人名義変更請求の可否を,設定登録後は,特許権移転登録請求の可否を論ずることになると思われます。本問では真の権利者が自ら出願していないので,この事情をいかに評価するかがポイントとなるでしょう。
 なお,設問2では,共同発明者の一人である甲が単独発明として出願した場合との対比が要求されています。この点については,たとえば38条違反が上記各請求に与える影響を検討することが可能と思われます。
3 関連判例
 冒認出願に関する主要な裁判例としては,東京地判昭38.6.5(粉末定量供給事件,特許百選26事件),東京地判昭60.10.30(プラスチックエレメント製造法事件,特許百選27事件),最判平13.6.12(生ゴミ処理装置事件,特許百選23事件),東京地判平14.7.17(ブラジャー事件,特許百選24事件)等があります。
4 的中情報
 冒認出願と特許権移転登録請求の問題については,07スタンダード論文答練(知的財産法2)で出題されております。また,職務発明と共同発明の関係については,06選択科目集中答練(知的財産法2)で出題されております。

<第2問(著作権法)について>

1 問題文について
 本問は,美術の著作物を中心として,複数の著作権・著作者人格権について検討させる問題です。

2 本問の分析
(1) 設問1について
 設問1は,小問1と小問2に分かれています。いずれの小問も「著作権法上いかなる請求をすることができるか」という問いなので,結論として,差止請求もしくは侵害組成物の廃棄請求等(112条1項2項)または損害賠償請求(民法709条)の可否を明示する必要があったと思われます。
 小問1では,著作権について,展示権侵害の有無(著作権法25条,なお22条と2条5項も参照),譲渡権侵害の有無(26条の2,同2項3号参照),著作者人格権について,公表権侵害の有無(18条),氏名表示権侵害の有無(19条)が問題となり得ます。また,本問では,甲乙間に譲渡禁止及び展示禁止の特約があるので,これと45条,26条の2第2項3号,18条2項2号との関係が問題となると思われます。
 他方,小問2では,翻案権侵害の有無(27条),展示権侵害の有無(28条,25条),同一性保持権侵害(20条)が問題となり得ます。
(2) 設問2について

 設問2は,まず問題形式が注目に値します。すなわち,主張・反論・再反論の書き分けが要求されています。これは知的財産法において初の問題形式です。知的財産法の学習においても,当事者の立場を踏まえて,要件事実的な発想が重要であることを示唆しているものといえます。内容的には,侵害の対象となり得る支分権(28条,26条の2,25条など)を指摘した上で,46条の適否を検討することになると思われます。また,いわゆるn次的著作物と28条の関係について論じることもできると思われます(前掲『知的財産法演習ノート』P.167〜8参照)。
3 関連判例
 東京地判平13.7.25(路線バス車体絵画事件),最判平13.6.28(江差追分事件,重判平13知財5),最判平10.7.17(月刊雑誌「諸君!」事件)等があります。
4 的中情報
 著作権法2条5項の「公衆」性の問題については,09スタンダード論文答練(知的財産法1)で出題されております。また,展示権の制限(45条),譲渡権の制限(26条の2第2項),公表権の制限(18条2項2号参照)については,07スタンダード論文答練(知的財産法1)で出題されております。また,46条の解釈論については,08辰已全国公開模試(知的財産法)で出題されております。さらに,いわゆるn次的著作物の問題については,06辰已全国公開模試(知的財産法)で出題されております。

 
■公開:2009年6月4日

<第1問について>
 Xは配転命令に従わず,配転命令先の職場へ出勤しなかったことを欠勤とみなされて,解雇されています。そこで,Xの法的地位としては,従業員たる地位が認められるか否か,また,権利関係としては,欠勤とみなされた期間の賃金および解雇後から現在までの賃金請求の可否が問題となります。
 従業員たる地位確認の可否について,Y社がなした解雇が有効であるためには,客観的に合理的な理由および相当性が必要です(労働契約法(以下契約法)16条)。
本件では配転命令先の勤務場所への出勤拒否をもって欠勤とみなされ,就業規則上の解雇事由に該当するとして解雇されているので,そもそも本件配転命令が無効であり,Xは所定の勤務場所であるM店に出勤したところYがこれを拒否したものであるとして,出勤拒否にあたらず「理由」を欠くのではないかが問題となります。
(1) 本件配転命令の有効性については,まず,XY間で職種・勤務地を限定する合意が存在していたといえるかが問題となります。
 本問では,就業規則に配転条項が存在することから,一般的な配転命令権がYにあると考えられるところ,勤務地を限定する慣行が存在していたか,もしくはXY間で勤務地を限定する特約が成立していたといえるかを,Xの採用の経緯,販売員の異動に関する前例,Xに異動が困難な事情がありそのことをYにも従前から説明していたことなどを踏まえて検討する必要があるでしょう。また,Xの異動が,販売員の業務をパートに切り替えることによる余剰人員の雇用維持を目的としているとYが主張していることも考慮してもよいでしょう。
(2) 次に,Yの配転命令権が認められるとしても,本件配転命令につき@業務上の必要性が存しないか,必要性が存するとしても,A不当な動機・目的でなされたものであるか,業務上の必要性に比してB労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えるものであるときには,配転命令権の濫用として無効となる(東亜ペイント事件判決:最判昭61.7.14)ので,この点を検討する必要があります(この点については,07スタンダード論文答練(第1クール)労働法1第2問論点2参照。)。
 本問では,@,Aに該当する事情は見当たらないことから,Xの家庭の事情からBに該当するかを検討することになります。ここで,使用者の生活配慮義務(契約法3条3項)などを考慮事情として使うことも考えられます。
(3) そして,権利濫用にあたり無効となった場合,欠勤にも当たらず,解雇の理由を欠き解雇は無効となります。
 次に,解雇期間中の賃金請求については,勤務していない以上は賃金は発生しないのが原則ですが(民法624条1項),解雇が無効である場合は,民法536条2項本文により請求が可能となります。
 もっとも,Xはその期間アルバイト収入を得ていることから,同項ただし書きにより,中間収入を控除されることになります。その控除対象及び限界については,あけぼのタクシー事件判決(最判昭62.4.2)に従って,平均賃金の6割を超える部分が対象となること,また,賃金支給対象期間と時期的に対応するものに限られることに留意して,具体的金額を算定することになります(この点については,07スタンダード論文答練(第1クール)労働法1第1問論点3参照。)。
 また,欠勤中の賃金についても,配転命令が無効である以上536条2項本文によって請求することができないか検討することになります。
4 的中情報
 本文中に記載してありますので参照してください。

<第2問について>

1 小問1について
 X1らの労働契約は有期であるから,期間満了により終了するのが原則です。もっとも,有期労働契約も更新が反復継続されるなどして実質的に期間の定めのない契約に転化したと認められる場合(東芝柳町工場事件判決:最判昭49.7.22参照),または,それに至らなくとも,労働契約継続への期待が合理性を有する場合(日立メディコ事件:最判昭61.12.4参照)には,その更新拒絶には解雇権濫用法理(労働契約法16条)が類推適用されると解されます(この点については,07年全国公開模試第1問論点3を参照のこと)。また,この場合に,更新拒絶の理由が業績悪化である場合には,整理解雇法理が適用されることとなります。
 本件でも,まず解雇権濫用法理が類推適用される関係にあるかを,更新手続きや正社員との業務態様の比較等により認定し(本問の場合,平成20年10月1日に,いったん従前の契約を解約した上で,新たな労働契約を締結した際に,「平成21年3月31日をもって退職する」とされたことにつき,同契約の締結に至る過程も踏まえてどう評価するかが問題となるでしょう),適用ある場合には,整理解雇の可否を,整理解雇4要件(要素)へのあてはめにより検討することになります。この場合,正社員に先んじて期間従業員の雇用を打ち切ることの是非を踏まえて検討する必要があるでしょう。
2 小問2について
(1) R・Sの懲戒について
@ 懲戒が有効であるためには,使用者が懲戒権を有し(懲戒の根拠),かつ具体的処分について合理的理由及び相当性があることが必要です(契約法15条)。
懲戒の根拠については争いがあるものの,本件では就業規則の規定に基づくものとして肯定されるでしょう。
 次に,合理的理由については,就業規則の懲戒事由該当性を,本件ストライキの態様を具体的にあてはめて検討することになります。相当性については,懲戒委員会が行なった協議が,就業規則所定の手続きに従ったものといえるかを検討することになります。
A もっとも,ストが正当な争議行為であれば,これを理由になされた懲戒は,公序(憲法28条,民法90条)に反し無効となるため,正当な争議行為に当たるかを,従前の団体交渉の経緯及びストの具体的事情に照らし,ストの主体・目的・手続き・態様の点から検討することになります。
 本問の場合,ストの目的として,組合員ではない期間従業員の雇用にかかる問題が,正当な目的となり得るか,これがNY間において義務的団交事項となり得るかを踏まえて検討する必要があるでしょう(この点については,09年全国公開模試第2問論点1で問われているので参照のこと)。
 争議行為が違法である場合には,団体の幹部が当然に責任を負うかも問題となります。
(2) N組員らに対する賃金カットについて
 ストライキ中は労務の提供を中止していたのですから,賃金は支払われないのが原則です(ノーワーク・ノーペイの原則(民法624条,労働契約法6条))。したがって,ストが行われた5月10日の賃金につき,ストに参加した45名について賃金カットがなされることは問題ないと考えられます。
 他方,ストに参加していない120名については,労務提供の意思があったにもかかわらず(部分ストの結果として)就労不能となった際の賃金請求権の有無が問題となります。この点,本件のように部分ストである場合は,ストは使用者のいかんともし難い現象であることから,双務契約上の一方債務の履行不能の場合における債務者負担主義の原則(民法536条1項)により賃金請求はできないとするのが判例(最判昭62.7.17・ノース・ウエスト航空事件)です。
 ただし,本問の場合,非組合員については勤務免除の上,賃金を支給していることから,同じようにストに参加せず労務提供の用意があったにもかかわらず,N組合員である120名のみ賃金を支給しなかった(賃金カットを行った)ことが,N組合員であることを理由とした不利益取扱であるとして,不当労働行為(労働組合法7条1号)に該当する可能性を検討する必要があるでしょう。
3 的中情報
 本文中にも記載してありますが,義務的団交事項については,09辰已全国公開模試第2問で正面から問われており,受講生にとって大変有益であったものと思われます。

  
■公開:2009年6月5日

<第1問について>
 第1問は,環境負荷物質を大気中に排出することを抑制する手法についての問題でした。

1 設問1について
  本設問では,ばい煙と有害大気汚染物質についての対応の仕方の比較(それぞれの考え方の説明と対応の仕方についての相違の説明)が求められています。
  まず,ばい煙と有害大気汚染物質に関して,法律上どのような規制が用いられているかについて資料を参照しつつ説明することが必要となるでしょう(例えば,ばい煙については排出基準についての定めがあるが,有害大気汚染物質については排出基準が定められておらず,基本的に排出抑制のための努力義務についての規定が設けられているに過ぎないことなど)。
  その上で,それぞれの規制について,なぜそのような規制が用いられたのかの考えを示すとともに,ばい煙と有害大気汚染物質の規制の仕方について説明する必要があります。その際には,分析の上で有意義な視点を自分なりに設定するなどして(ばい煙と有害大気汚染物質の科学的知見の充実の差など),明瞭・簡潔に整理できれば評価されるのではないかと思われます。
 
2 設問2について
  本設問では,二酸化炭素排出削減にとって環境基本法22条の定める手法が有効であるとの議論について,(1)その理由をばい煙と比較しつつ二酸化炭素の特質に基づいて述べるとともに,(2)設問の議論について,具体的に考えられる措置を複数挙げて長所・短所を述べることが求められています。
  (1)の点については,地球温暖化問題にとって,二酸化炭素削減が課題となっていることは周知の事実ですが,二酸化炭素の発生源はばい煙と異なり一般家庭などからも幅広く排出されること,温暖化問題は経済社会活動,地域社会,国民生活全般に深く関わることといった特色がある点に着目して,規制的手法のみではなく,様々な手法を用いて問題の対処に当たる必要があることなどについて,ばい煙と比較しつつ論じられれば良いのではないでしょうか。
  (2)の点については,上記のような点に留意しつつ,具体的にどのような手法があり得るかを長所・短所を述べつつ考えることが要求されています。その際には,「具体的に」とある以上,単に「自主的手法がある」,「経済的手法がある」などと論じるよりも,あくまで,具体的な対応策を答案上に示した上で,多様な主体・手段を考慮に入れて幅広い視点から検討を加えることができれば評価されるのではないでしょうか。
 
3 的中情報
  本問では,環境基本法22条の手法について問われています。近時環境基本法22条に,環境賦課金を含めた経済的措置に関する規定が置かれたことが注目されていることから(大塚『環境法(第2版)』P.91参照),経済的手法を中心とした規制的手段以外の手法について論じることになると思われます。規制的手段以外の手法については,08辰已全国公開模試(環境法)で問われております。
 
<第2問について>
1 設問1について
  本設問は,国定公園内において廃タイヤが野積みにされているのに対して,行政上どのような対応措置を採ることができるかを問う問題です。
  @の段階は,野積みされた廃タイヤからの自然発火により,頻繁に「ぼや」が発生している段階です。つまり,カタクリの群落に対しては,具体的な被害が生じていないといえます。そこで,カタクリに被害が生じないよう,廃タイヤの撤去等に結びつく措置を採ることが考えられるでしょう。
  ここで,廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく措置は除くものとされていることから,廃掃法以外の法律を根拠とした対応措置を考えることとなります。本問は,国定公園内での問題ですから,自然公園法に基づく措置ができると思われます。具体的には,自然公園法30条の可否等を検討することが考えられるでしょう。
  Aの段階は,野積みされた廃タイヤの自然発火により大規模な火災が発生し,B国定公園においてA県が公園事業として設置していたビジターセンターが消失するとともに,前記カタクリの群落も消失している段階です。ここでは,ビジターセンターとカタクリの群落への具体的な被害が生じています。そこで,これらの被害からの原状回復を求めることが考えられるでしょう。具体的には,27条に基づく措置の可否等を検討することが考えられるでしょう。
 
2 設問2について
  本設問は,野積みされた廃タイヤからの自然発火により,頻繁に「ぼや」が発生している段階です。カタクリの群落の保護・成育を図ることを目的とする団体(本件団体)が乙に対し,野積みされた廃タイヤの撤去を求める裁判上の請求をしたときに,その請求が認められるかが問われています。
  まず,本問では裁判上の請求が問われています。そのため,前提として本件団体に当事者適格が認められるかが問題となると考えられます。
  次に,本件団体と乙という私人間における請求が問題となっていることから,民事上の主張を考えることとなるでしょう。具体的には,人格権や不法行為に基づく請求権などが考えられると思われます。
  本件団体は,カタクリの群落の保護・生育を図ることを目的とする団体であることから,カタクリの群落の保護・生育に関わっているという事実を利用して,いかに請求権や当事者適格を肯定するかが問題になると思われます。
 
3 的中情報

  本問では,カタクリの群落の保護・生育を図ることを目的とする団体(a)が,大規模な火災が発生する前の段階で,乙(b)に対する,野積みされた廃タイヤの撤去を求める裁判上の請求について問われています。aとbは私人ですから,民事上の差止めについて論じることになると思われます。民事上の差止めについては,07辰已全国公開模試(環境法)で問われております。

 
■公開:2009年6月4日

<第1問について>

1 はじめに
 本問の出題の背景には,昨年のロシアの南オセチアへの軍事介入があるようにも思われます。ただし,解答すべき内容としては平成20年の本試験第1問と重なる部分が少なくなく,過去問の分析により小問(1)と(4)については解答できたと考えられます。
2 問題文について
 地域機関の決議を受けてY国が行った軍事侵攻の国際法上の評価,およびそれに対する法的な対応が問題の中心になると思われます。
3 本問の分析
(1) 小問(1)について

 国家責任条文22条,49〜53条(新司六法には未登載)に規定される,「対抗措置」を問う問題です。違法性阻却事由,X国の先行違法行為の評価,事前の交渉要請の有無,均衡性の要件等に言及することが求められるでしょう。
(2) 小問(2)について
 地域機関の決議の効力を問う,やや難しい問題です。授権というと安保理の7章決議が連想されますが,地域機関が強制行動をとるためには安保理の許可が必要となります(国連憲章53条)。武力行使禁止原則,領域主権,湾岸戦争に関する安保理決議678の文言「必要なすべての手段を採ることを授権する」との違い,A連合設立条約5条の「介入する方式を承認すること」の意味などに触れながら,国際法に違反するとの評価がなされるべきであると思われます。
(3) 小問(3)について
 国連憲章35条1項に基づき安保理の注意を促し,平和の破壊の存在の決定や軍事侵攻停止の暫定措置,非軍事的・軍事的措置などが求められると考えられます。PKOの派遣等を論じることも可能かもしれません。また,総会その他の機関による措置(国連憲章14条等)も考えられますが,これらは一般に勧告的なものにとどまります。
(4) 小問(4)について
 管轄権の基礎は,ICJ規程36条2項に基づく両国の強制管轄受諾宣言になります。ICJには,まず同41条に基づき軍事占領中止の仮保全措置命令を求め,その後本案でも同旨の判決を求めることになるでしょう。Y国が判決に従わない場合は,国連憲章94条2項を利用することも可能であると考えられます。

4 的中情報
 対抗措置の問題に関しては,まさに09辰已全国公開模試第1問で出題されたとおりです。またICJの管轄権の基礎については,07辰已全国公開模試第2問の解説の総論に記されているとおりです。

<第2問について>

1 はじめに
 本問は,シーシェパードの問題やTAJIMA号事件といった,日本の関係する国際問題を背景として出題されたものと考えられます。設問1では国家管轄権が,設問2では国連海洋法条約の内容が問われていますが,基本的な問題が多いため,正確な解答が求められます。
2 問題文について
 公海上で起きた犯罪行為への法的対応が問われています。
3 本問の分析
(1) 〔設問1〕 小問(1)について
 事例とは直接関係のない,教科書的な解答を求める問題です。属地主義,属人主義,保護主義,普遍主義およびこれらに関連する理論(旗国主義を含む)に言及しましょう。
(2) 〔設問1〕 小問(2)について
 やや難問です。A国は消極的属人主義または普遍主義を主張すると考えられますが,後者は海賊(私的目的の犯罪)等に限られるため認められません。前者は,他に競合する管轄権がないのであれば認められるとするか,一般に重大な犯罪等に限られるとして認めないかは,判断の分かれ得るところです。また,本件が国連海洋法条約97条にいう「衝突その他の航行上の事故」に該当するかの検討も必要でしょう。さらに,ロチュース号事件や客観的属地主義にも言及することが望まれます。
(3) 〔設問2〕 小問(1)について
 公海自由の原則について,国連海洋法条約87条,89条に触れながら述べ,さらにそこから旗国主義(92条)を導いてください。その際,他国の権利に妥当な考慮を払う義務(87条2項)にも言及できるとよいでしょう。
(4) 〔設問2〕 小問(2)について
 国連海洋法条約110条5項により,政府船舶Kは臨検の権利を有しますが,本件は同1項(a)〜(e)の事例に当てはまらないため,B国船舶Zへの臨検はできないと考えられます。また,公海上での拿捕は一般に海賊,無許可放送のみが対象となります(105条,109条)。97条3項も参照してください。
4 的中情報
 国連海洋法条約は,新司六法に登載されている重要条約であるにもかかわらずこれまで出題がなかったことから,06および09辰已全国公開模試においてその条約に依拠する問題が出題されています。

  
■公開:2009年6月5日

<はじめに>
 毎年,国際関係法(私法系)では,国際私法分野および国際民事手続法分野を中心として出題されます。国際私法分野では財産法関係・家族法関係の問題がそれぞれ1問ずつ,国際民事手続法の分野では主として国際裁判管轄について,それぞれ出題される傾向にあります。
 今年の問題においても,国際私法分野から財産法関係(第2問の設問1・設問2(2)・設問3)と家族法関係(第1問の設問2・設問3)および,国際民事手続法分野から国際裁判管轄(第1問の設問1・第2問の設問2(1))が出題されており,概ね従来の傾向に沿った出題がなされているといえますが,第2問の設問2(1)のような新形式での出題もなされており,実務的かつ現場思考的事案分析能力も求められるようになっている点が,今年の出題の大きな特徴であるといえます。また,法の適用に関する通則法における改正点についても例年通り出題されています(第2問の設問2(2),設問3)。
 
<第1問について>
  本問では,外国判決の承認要件における間接管轄(設問1),婚姻の実質的成立要件(設問2),婚姻の形式的成立要件(設問3)がそれぞれ問題となります。
 
1 設問1について
 本設問では,甲国での離婚判決の間接管轄の有無が問われています。間接管轄について判断の基準となる国は判決国か承認国かという問題,さらに,判断の基準となるのが承認国となった場合,そこでの基準は直接管轄と同じか異なるのかについて,自分の見解を示す必要があります。この点について直接判示した判例はなく,学説での議論や直接管轄における離婚事件の国際裁判管轄についての判例法理(最判昭和39.3.25,最判平成8.6.24)を踏まえた上で,離婚事件の国際裁判管轄について規範を定立し,設問の事情を丁寧にあてはめることが求められているものと思われます。
 
2 設問2について
 本設問では,YとAとの婚姻の実質的成立要件について,再婚禁止期間(小問(1))と重婚(小問(2))が問われていますが,甲国法と日本法で実質法の内容が異なることから,どのように有効性を判断すべきかが問題となります。
 このうち,小問(1)においては,婚姻の実質的成立要件については各当事者の本国法について配分的適用とされていることを示した上で,再婚禁止期間が一方的要件であるのか双方的要件であるのか,その区別についていかなる見解を採るのか自分の立場を示す必要があります。そして,双方的要件であるとされた場合にAの本国法である日本民法では再婚禁止期間が婚姻の取消事由(民法733条1項,744条1項)とされていることを踏まえた上で,YAの婚姻が成立要件を欠くもののそれは取り消され得るものにすぎないことを論じることになるものと思われます。
  そして,小問(2)においては,重婚について,Aの本国法である日本民法では取消事由とされている(民法732条,744条1項)一方で,Yの本国法である甲国法では無効とされていることを踏まえた上で,より厳格な効果を定める法を適用する厳格法の原則に照らして,YAの婚姻は無効であることを論じることになるものと思われます。
 
3 設問3について
  本設問では,法の適用に関する通則法24条2項・3項の条文構造を把握した上で,同条3項ただし書の日本人条項が適用されない限りは,婚姻挙行地法か一方当事者の本国法に適合した方式であれば有効とされていること(選択的連結)を論述する必要があるものと思われます。その際,本件ではYは甲国におけるAとの婚姻生活を望んでいるため,@・Aのいずれの方法においても婚姻挙行地は甲国であると考えられることから,日本人であるAとの婚姻であっても日本人条項は適用されないことを確認する必要があります。次に,@の方式については甲国法に適合していることを確認し,有効とされることを論じることになるものと思われます。Aの方式については,領事婚(民法741条)についての理解を示す必要があると思われます。すなわち,民法741条は,日本人同士の婚姻と規定しているため,外国において日本人と外国人とが我が国の領事等の下で領事婚をすることは,一方当事者である日本人の本国法上の方式によることとはならず,通則法24条3項本文によっても,認められないことを示して,@の方法を採るべきであると論じる必要があると思われます。
 
<第2問について>
 本問では,法人の代表者による行為の効果帰属についての準拠法(設問1),外国裁判所を専属的合意管轄とした場合のメリット・デメリット(設問2(1)),当事者間での合意がない場合の契約準拠法(設問2(2)),債権譲渡における対債務者対抗要件の準拠法(設問3)がそれぞれ問題となります。
 
1 設問1について
  本設問では,法の適用に関する通則法には明文規定がないことを踏まえた上で,法人の従属法をいかに解するかについて,自分の見解を明らかにする必要があると思われます。そして,取引保護規定の類推適用によるとの見解と,行為地法によるとの見解の対立があることを念頭に,取引相手方の保護などに留意しつつ,自説を説得的に論じることが求められていたものと思われます。
 
2 設問2について
  本設問では,X社とY社の意見が対立しているという事実関係を前提とした上で,専属的合意管轄のメリット・デメリット,および当事者に合意がない場合の契約準拠法について,丁寧な事案の分析・あてはめの能力が問われていたものと思われます。
  このうち,小問(1)においては,メリットとして次のものが挙げられます。すなわち,甲国裁判所での裁判で勝訴した場合には甲国でのY社財産への強制執行が一般的に実現しやすいこと,逆に敗訴したとしても日本での当該判決の承認(民事訴訟法118条)および日本でのX社財産への強制執行(民事執行法24条)がなされるとは限らないこと,売買目的物の製造・加工が甲国で行われていることから,証拠収集において便宜である等が考えられます。一方で,デメリットとしては次のものが挙げられます。すなわち,外国裁判所での訴訟追行には言語や費用の面で負担がかかること,外国の司法制度や法制度についての調査が必要となること等を論じることになるものと思われます。
  小問(2)においては,本件での契約交渉過程から当事者間に(黙示の意思も含めて)準拠法についての合意がないと考えられることから,法の適用に関する通則法8条の規定によって準拠法が決定されることを示した上で,日本法と甲国法のいずれが適用されるかを検討することになります。その際,同条2項に特徴的給付の理論による最密接関係地法の推定規定があることから,特徴的給付の意義を説明した上で,本問では甲国法が最密接関係地法として推定されること,およびその推定を破る事情がないかを具体的な事実に即して検討することが求められていたものと思われます。
 
3 設問3について
  本設問では,譲渡に係る本件契約の準拠法が日本法であるのに対して,債権譲渡契約の準拠法が甲国法となっていることから,債権譲渡における対債務者の対抗要件の準拠法について,法の適用に関する通則法23条にいう債権譲渡の効力の問題として捉えるべきか,同法10条にいう法律行為の方式の問題として捉えるべきかを検討させる問題であったものと推察されます。この点について,債権譲渡の第三者に対する効力は,債権の帰属を決する債権の運命の問題であるため,同法23条の適用範囲には対債務者対抗要件も含まれるというのが一般的な理解であり,このことを示すことが求められていたものと思われます。そして,それに従えば,譲渡に係る本件契約の準拠法である日本法で判断されると論じることになるものと思われます。また,このように考えることで,同法23条の,債権譲渡一般につき譲渡の対象たる債権の準拠法によって債務者を含めた第三者に対する関係を統一的に簡明に処理する要請が強いことが考慮されたという改正の趣旨にも合致するという点を指摘することが求められていたものと思われます。

 
 
 
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