HOME > 新司法試験 > 平成23年度 新司法試験速報

 
 
@論文式試験【公法系】 更新 7/13・10:35
    公開 5/12・20:37
       
A論文式試験【民事系】 公開 5/13・23:55
       
B論文式試験【刑事系】 公開 5/16・22:05
       
C短答式試験【公法系・民事系・刑事系】 公開 5/16・12:58
       
D論文式試験【選択科目】 更新 6/10・19:30←6/9・17:07←5/22・10:30←5/21・10:26←5/20・14:04←5/19・13:09
    公開 5/19・13:09
  
 
 ●第1問 憲法
■公開:2011年05月12日/20:37

はじめに
 今年の公法系第1問は,X社の公道から当該地域の風景を撮影した画像をインターネットで見ることができる機能に基づくサービスの法的問題点を検討させる,主として憲法の問題であり,主に問題となる人権として,表現の自由・知る権利(憲法21条),プライバシー権(憲法13条)等が挙げられます。
 この点,新司法試験の論文本試験公法系第1問(憲法)は,毎年,考査委員の関心分野や近時の学界の話題となっているテーマから出題されますが,個人の尊厳・人間の尊厳・プライバシー権・自己決定権をはじめとする憲法13条関係は,もともと考査委員の青柳幸一教授の関心が高い分野であり(同『憲法における人間の尊厳』(尚学社,2009)等参照),また,近時,高田寛「Googleマップ『ストリートビュー』の法的問題について」最先端技術関連法研究(国士舘大学)第8号P.103(2009)等の論文が出されており,学界の話題となりつつあったといえ,さらに,この問題を巡っては民事訴訟も発生しているようです(福岡地判平23.3.16(平成22年(ワ)第4971号,個人情報漏洩損害賠償請求事件,裁判所HP裁判例情報掲載))。以上のように憲法の出題テーマ自体に関する傾向に変化はないものと思われます。
 また,設問1では,本事例における訴訟選択を問うており,若干行政法との融合問題のニュアンスが感じられます。これは,昨年の民事大大問を廃止した司法試験委員会決定における,「1問は主として民法,1問は主として商法,1問は主として民事訴訟法としているので趣旨は伝わると思うのだが,1問は民法だけ,1問は商法だけ,1問は民事訴訟法だけというような誤った受け止め方をする者がいかねないのではないか,危惧される。主として民法ということは,民法を中心としつつ,それに関連する商法や民事訴訟法の分野にまたがる融合的な出題もあり得るということを強調しておきたい。」「考査委員にも,この決定の趣旨を伝える必要がある。」「やはり最も強いメッセージになるのは実際の試験問題であろう。考査委員の方々には,新たな法曹養成制度の理念を踏まえた出題をお願いしたい。」との司法試験委員会委員の発言を受けてのものと推測されるが(司法試験委員会会議(第67回)議事要旨,法務省HP内),本問が「新司法試験は,例えば,長時間をかけて,これまでの科目割りに必ずしもとらわれずに,多種多様で複合的な事実関係による設例をもとに,問題解決・紛争予防の在り方,企画立案の在り方等を論述させることなどにより,事例解析能力,論理的思考力,法解釈・適用能力等を十分に見る試験を中心とすることが考えられる」との司法制度改革審議会意見書の理念を満たすものかは評価が分かれるものと思われます。
 なお,本問の論点や答案構成に関しては,表現の自由がテーマとされた平成20年および自己情報コントロール権がテーマとされた平成21年の新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)が非常に参考になるものと思われます。

問題文
 本問の問題文については,本試験の全日程終了後の5月16日(月)以降に法務省HP上に掲載されるものと思われますが,本速報閲覧者の便宜のために,公法系第1問に関しましては,以下全文を掲載します。

【問題文本文】
 インターネット上で地図を提供している複数の会社は,公道から当該地域の風景を撮影した画像をインターネットで見ることができる機能に基づくサービスを提供している。ユーザーが地図上の任意の地点を選びクリックすると,路上風景のパノラマ画像(以下「Z機能画像」という。)に切り替わる。
 Z機能画像は,どの会社の場合もほぼ共通した方法で撮影されている。公道を走る自動車の屋根に高さ2メートル80センチ前後(地上約4メートル)の位置にカメラを取付け,3次元方向のほぼ全周(水平方向360度,上下方向290度)を撮影している。そのために,Z機能画像では,路上にいる人の顔,通行している車のナンバーや家の表札も映し出される。さらに,各家の塀を越えた高さから撮影するので,庭にいる人や庭にある物ばかりでなく,家の中の様子までもが映し出される場合がある。また,上下方向290度を撮影していることから,マンションの上の方の階のベランダにいる人やそこに置いてある物も映し出される場合がある。これにより個人が特定され得るばかりでなく,庭,ベランダ,室内等に置いてある物から,そこに住む人の家族構成や生活ぶりが推測され得る。さらに,このような情報は,犯罪を企む者に悪用されるおそれもあり得る。しかしながら,会社側は,事前にZ機能画像の撮影日時や場所を住民に周知する措置を採っていなかった。
 インターネット上で提供されるZ機能画像が惹起するプライバシーの問題に関して,会社側は,基本的には,公道から見えているものを映しているだけであり,言わば誰もが見ることのできるものなので,プライバシー侵害とはいえない,と主張している。特にX社は,以下のように,より積極的にZ機能画像が提供する情報の価値を主張している。まず,その情報は,ユーザー自身がそこを実際に歩いている感覚で画像を見ることができるので,ユーザーの利便性の向上に役立つ。また,それは,不動産広告が誇大広告であるか否かを画像を見て確かめることによって詐欺被害を未然に防止できるなど,社会的意義を有する。
 ところで,Z機能画像をめぐっては,個人を特定されないことや生活ぶりをのぞかれないことをめぐる問題ばかりでなく,次のような問題も生じている。Z機能画像には,公道上であっても,その場所にいることやそこでの行動を知られたくない人にとっては,公開されたくない画像が大量に含まれている。また,ドメスティック・バイオレンスからの保護施設など,公開されては困る施設も映されている。加えて,路上や公園で遊ぶ子供が映されていることで,誘拐等の誘因になるのではないかと案ずる親もいる。さらに,インターネット上に公開されたZ機能画像の第三者による二次的利用が,頻繁に見られるようになっている。
 こういう中,Z機能画像をインターネット上に提供することの中止を求める声が高まってきた。
20**年に,国会は,「特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する法律」(以下「法」という。)を制定した【参考資料】。法は,システム提供者に対し,Z機能画像をインターネット上に掲載する前に,A大臣に届け出ることを求めている(法第6条参照)。また,法は,システム提供者が遵守すべき事項を規定している(法第7条参照)。A大臣は,Z機能画像の提供によって被害を受けた者からの申立てがあったときは,法に定める手続に従って被害の回復のための措置を講じることとされている(法第8条参照)。
 法が制定されてから,多くの会社は,法の定める遵守事項を守り,また個別の苦情に応じて必要な修正を施している。X社も,人の顔や表札など特定個人を識別することのできる情報と車のナンバープレートについてはマスキングを施し,車載カメラの高さも法が定める高さに改めた。しかし,X社は,家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像については,法で具体的に明記されていないとして,修正しなかった。数件の申立てに応じて,X社に対して,そのような画像に必要な修正をすることを求める改善勧告がなされた。しかし,X社は,それらの修正を行わなかった。その結果,X社は,A大臣から,行政手続法の定める手続に従って,特定地図検索システムの提供の中止命令を受けた。

〔設問1〕
 あなたがX社から依頼を受けた弁護士である場合,どのような訴訟を提起するか。そして,その訴訟において,どのような憲法上の主張を行うか。憲法上の問題ごとに,その主張内容を書きなさい。

〔設問2〕
 設問1における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を,被告側の反論を想定しつつ,述べなさい。

【参考資料】特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する法律

第1章 総則
(目的)

第1条 この法律は,特定地図検索システムによる情報の提供が,インターネットの普及その他社会経済情勢の変化に伴うコンテンツに対する需要の高度化及び多様化に対応した利用者の利便の増進に寄与するものであることに留意しつつ,当該情報の提供に伴い個人に関する情報が公にされることによる被害から適確に国民を保護することの緊要性に鑑み,当該被害の防止及び回復に関し,基本理念を定め,国及びシステム提供者の責務を明らかにするとともに,システム提供者の遵守事項,被害回復のための措置,被害回復委員会の設置その他必要な事項を定めることにより,国民生活の安全と平穏の確保に資することを目的とする。

(定義)
第2条 この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。
 特定地図検索システム インターネットを通じて不特定又は多数の者に提供される地図に関する情報の検索システムであって,文字,記号その他の符号又は航空写真を用いて表現される情報提供の機能を補完するための機能として,画像の情報を提供するZ機能を有するものをいう。
 Z機能 地図に対応する道路,建築物,工作物等及びその周辺の状況を路上等を移動する車両に設置した水平方向に360度回転するカメラにより撮影した画像の情報を,電磁的方式(電子的方式,磁気的方式その他の人の知覚によっては認識することができない方式をいう。)によりインターネットを通じて不特定又は多数の者に提供するための機能をいう。
 システム提供者 インターネットを通じて特定地図検索システムを提供する事業を営む者をいう。
 個人識別情報 個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ,それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。
 個人自動車登録番号等 個人の所有する自動車に係る道路運送車両法(昭和26年法律第185号)の規定による自動車登録番号又は車両番号をいう。
 個人権利利益侵害情報 個人識別情報及び個人自動車登録番号等以外の個人に関する情報であって,公にすることにより,個人の権利利益を害するおそれのあるものをいう。
(基本理念)

第3条 特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために講ずべき措置は,Z機能の特性に鑑み,当該情報の提供が国民の生活の安全と平穏に重大な被害を及ぼすおそれがあり,かつ,国民自らその被害を回復することが著しく困難であることを踏まえ,国の関与により,その被害を適確に防止するとともに,現に発生している被害を迅速に回復することが極めて重要であるという基本的認識の下に,行われなければならない。
(国の責務)


第4条 国は,前条に定める基本理念にのっとり,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する施策を総合的に策定し,及び実施する責務を有する。
(システム提供者の責務)


第5条 システム提供者は,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復について第一義的責任を有していることを認識し,その提供すべき画像の撮影及び編集,インターネットによる当該情報の公開及び管理その他の各段階において,自らその被害の防止及び回復のために必要な措置を講じる責務を有する。


第2章 被害の防止及び回復に関する措置
(提供開始の届出)



第6条 システム提供者は,インターネットにより特定地図検索システムを提供しようとするときは,あらかじめ,その旨及びその内容をA大臣に届け出なければならない。その内容を変更しようとするときも,同様とする。
(遵守すべき事項)

第7条 システム提供者は,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために必要な次に掲げる事項を遵守しなければならない。
 提供すべき画像の撮影に当たっては,これに用いるカメラを地上から1メートル60センチメートルの高さを超える位置に設置してはならないこと。
 提供すべき画像に個人識別情報若しくは個人自動車登録番号等又は個人権利利益侵害情報が含まれている場合には,特定の個人若しくは個人自動車登録番号等を識別することができないよう,又は個人の権利利益を害するおそれをなくすよう,画像の修正その他の改善のために必要な措置をとらなければならないこと。
 インターネットにより提供した画像に個人識別情報若しくは個人自動車登録番号等又は個人権利利益侵害情報が含まれていたことが判明した場合には,特定の個人若しくは個人自動車登録番号等を識別することができないよう,又は個人の権利利益を害するおそれをなくすよう,画像の修正その他の改善のために必要な措置をとらなければならないこと。この場合において,改善のために必要な措置をとることができないときは,インターネットによる特定地図検索システムの提供を中止しなければならないこと。
 提供すべき画像の撮影又はインターネットにより画像を提供するに当たっては,適時かつ適切な方法で,対象となる地域の住民に対する周知の措置を講じるよう努めること。
 特定地図検索システムによる情報の提供に伴う被害に関し,苦情等の申出があった場合には,当該申出に対し適切な措置を講じるよう努めること。

 前各号に掲げるもののほか,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために必要な事項として政令で定めるもの
(被害回復措置)

第8条 A大臣は,特定地図検索システムによる情報の提供により被害を受けた者から申立てがあったときは,措置を講じる必要が明らかにないと認める場合を除き,当該申立てに係る被害及びこれと同種の被害を回復するために必要な措置について,被害回復委員会に諮問しなければならない。

 A大臣は,前項の規定による諮問に対する答申があった場合において,同項の申立てに係る被害及びこれと同種の被害を回復するため必要があると認めるときは,システム提供者に対し,画像の修正その他の提供に係る情報の改善のために必要な措置をとるべき旨を勧告することができる。
 A大臣は,前項の規定による勧告を受けた者が,正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において,第1項の申立てに係る被害及びこれと同種の被害を回復するため特に必要があると認めるときは,その者に対し,その勧告に係る措置の実施又はインターネットによる特定地図検索システムの提供の中止を命ずることができる。
 A大臣は,前項の規定による命令をしたときは,その旨を公表しなければならない。

第3章 被害回復委員会
(委員会の設置)



第9条 A省に,被害回復委員会(以下「委員会」という。)を置く。
(所掌事務)

第10条 委員会は,次に掲げる事務をつかさどる。
 第8条第1項の規定による諮問に応じて,調査審議し,A大臣に対し,必要な答申をすること。
 特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために国が講ずべき施策について,A大臣に意見を述べること。
 委員会は,その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは,A大臣に対し,資料の提出,説明その他必要な協力を求めることができる。
 A大臣は,第1項第一号の答申に基づき講じた措置について,委員会に報告しなければならない。
(組織等)

第11条 委員会は,委員10人をもって組織する。
2 委員は,優れた識見を有する者のうちから,A大臣が任命する。
3 委員の任期は,3年とする。
4 その他委員会の組織及び運営に関し必要な事項は,政令で定める。

3 本問の分析

〔設問1〕について
1  Xが提起する訴訟としてまず考えられるものは,処分の取消しの訴え(行政事件訴訟法3条2項,8条以下)です。
Xは,自ら行うZ機能画像のインターネット提供に対して,本問『法』に基づく大臣の中止命令を受けています。そこで,XはZ機能画像のインターネット提供をするために,受けた中止命令の効力を争うことが考えられるためです。
また,Xは,取消訴訟に加えて,処分の違法を根拠とする国家賠償請求訴訟(国家賠償法1条)も提起すると考えられます。
2  上記の訴訟においてXが主張する憲法上の主張について
 
(1)  まず,Xは,法2条6号の「個人の権利利益を害するおそれのあるもの」の規定文言が不明確であり文面無効であると主張すると考えられます。本問で中止命令の理由となった「家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像」は同条項に該当しないと考えて,「法で具体的に明記されていない」と修正に応じなかった事情があるからです。
(2)  次に,実体法上の検討となりますが,まず,問題となる権利の認定が必要となります。本問では,Z機能画像のインターネット提供が「表現」(21条1項)に当たるとする構成が考えられます。ただ,Z機能画像そのものは,無差別に周囲の画像を捉えたものにすぎず,これを「表現」と認定する積極的な作業が必要となるでしょう。その上で,Xは本問法律の規定がXの表現の自由(21条1項)を侵害し違憲であると主張すると考えられます。そして,本問法律が個人に関する情報を規制対象としていることから,内容規制に当たると認定する構成が考えられます。この立場からは,表現の自由の要保護性の重さを理由に厳格な合憲性判定基準を用いて本問法律の合憲性を否定する構成が考えられます。
また,Z機能画像のインターネット提供は利用者にとって利便性の大きいサービスであることを理由に,Z機能画像を利用する権利が利用者の知る権利(21条1項)に当たるとして,本問法律が知る権利を侵害し違憲であると主張する構成も考えられます。

〔設問2〕について
1 Xの主張に対する被告の反論
 
(1)  まず,規定の明確性の点について
 被告の反論としては,本問法律の規定は,法律の趣旨・目的などの全体構造から明確性は肯定できるとの主張が考えられます。
(2)  本問法律が表現の自由を侵害するかの点について
まず,本件Z機能画像が「表現」に当たるか争う反論が考えられます。
次に,本問法律の規制をプライバシー保護を根拠に肯定するという反論が考えられます。
 また,法律の規制が内容中立規制であること,Xの画像提供は営利性を有し要保護性が低く合憲性判定基準は緩いもので足りる,等の反論が考えられます。
更に,知る権利を理由とした主張に対しては,第三者の権利の主張適格を争う反論が考えられます。
2 私見について
 
(1)  明確性について
 ここでは,徳島市公安条例判決(最大判昭50.9.10)の「通常の判断能力を有する一般人の理解において,適用を判断できるか」という規範を用いる構成と,別の判断基準を用いる構成が考えられます。ここで明確性を欠くとした場合,後述の点に触れずにXの請求を認めることができるとすることができます。
(2)  表現の自由について
 ここでは,画像が地図情報と一体のものとして扱われる点を考慮して,画像が「表現」に当たると構成することが考えられます。
 次に,プライバシー権の内容・性質に言及した上で,本問で問題となる情報の要保護性を検討する必要があるでしょう。
 実体面の合憲性判断については,プライバシーという人格権の保護を理由に緩和された合憲性判定基準を用いる構成や,規制目的・内容・程度・必要性を考慮した総合的な衡量を用いる構成が考えられます。
 検討に当たっては,本問規制の対象となる情報が,プライバシーとの関係でどの程度保護されるべきかの点,地図情報と画像が合わせて使用される点,インターネット上で公開される点,一定範囲の個人に関する情報である点,情報提供により被害を受けた者からの申立てを前提として勧告・命令がなされるという事後的規制である点,等を考慮する必要があるでしょう。また,規制によりXに生じる不利益,規制がない場合に生ずる不利益の検討も必要であると考えられます。
 知る権利については,具体的な基準を立てて,検討する必要があるでしょう。

【参考文献】
・高田 寛「Googleマップ『ストリートビュー』の法的問題について」(最先端技術関連法研究 第8号,2009,P.103〜130)
・新保史生「ネット検索サービスとプライバシー〜道路周辺映像提供サービスを中心に〜」(法とコンピュータNo.28,2010,P.71〜8)
・石田英敬「インターネットと人権 グーグル・ストリートビュー問題を中心に」(部落解放624号,2010,P.58〜71)
・北口 学「プライバシー侵害と差別への利用 グーグル・ストリートビューの人権上の問題性」(部落解放607号,2009,P.70〜75)


4 的中情報★★★

 表現の自由に関しましては,平成21年・同22年の論文本試験で正面からの出題がなく,今年出題される可能性が極めて高いものと思われ,今期のスタンダード論文答練等で数多く出題いたしました。中でも,2011スタンダード論文答練(第2クール)公法系2第1問(加藤晋介先生御担当)では,公立図書館を巡る表現の自由と少年のプライバシーの調和について問うており,受講生の方には大変有益であったものと思われます(★★★)。

  
 ●第2問 行政法
■更新:2011年07月13日/10:35
■公開:2011年05月12日/20:37
平成23年新司法試験本試験速報論文公法系第2問(行政法)設問3追加情報
【平成23年7月8日追加情報】

 本問設問3前段では,事業者に対する実効性確保,住民及び事業者の利害の適切な調整をするために,T市がどのような規定を条例に置くべきかが問われました。これは,いわゆる「政策法務」と呼ばれるあまり馴染みのない分野からの出題であり,何を論じたらよいのか,どのような観点から検討したらよいのか,現場で混乱された受験生が多かったとの声が聞かれます。
  確かにこの設問3前段につきましては,本試験分析会でお示しした受験生再現答案でも深く検討されたものも少なく,配点割合も他の設問と比較して少ないため,現場思考で素直に書かれれば一定の評価が得られるものと推測されます(もっとも,「政策法務」に関しては,「共通的な到達目標モデル(第二次案修正案)行政法」(法科大学院協会HP内に掲載)に直接的な記載はなく,昨年の住民訴訟と同様に出題の妥当性が問われる可能性があります。)。ただ,本試験分析会の受講生等から,もう少し具体的な解答を示して欲しいとの声が若干ございましたため,改めて本設問に関連しそうな文献の調査を行い,福士明「実践・条例法務J 産廃紛争予防調整条例の考え方」フロンティア180<秋季号>2006 P.59〜62を見つけました。以下では,この福士論文等を参考に,改めて本設問を検討してみます。
  まず,事業者に対する実効性確保については,@首長の事業者に対する「公表・罰則」の規定等を置くことが考えられます。次に,住民及び事業者の利害の適切な調整については,A申請者による「事業計画等の届出」に関する規定,B事業内容を住民に周知し,住民が納得できるような説明及び意見交換を行うことを目的とした「説明会の開催」に関する規定,C関係住民と事業者間での意見の調整・協定の締結に関する規定等を置くことが考えられます。
  なお,設問3後段のこれらの規定を条例に置くことによって生じる問題としては,憲法94条の「法律の範囲内」に限って認められる条例制定権との関係,憲法31条の罪刑法定主義との関係といった憲法との抵触が問題となり得ると思われます。また,「公表」規定を置くとすると,それが法律の根拠なくして条例のみで定めることができるのかといった行政法特有の問題も生じ得ると思います。
  さらに,上記福士論文の他,参考になると考えられる文献として,阿部泰隆「市町村の産廃処理監督条例」ジュリスト1055号P.17〜25,加藤幸嗣「廃棄物処理施設の設置に関する協定の意義と役割」同1055号P.26〜38,北村喜宣「法執行の実効性確保」ジュリスト1389号P.72〜9等を挙げることができます。

はじめに
 
本問は,東京高判平20.4.17(平成19年(行コ)第28号,モーターボート競走法施行規則違法確認等請求(第1事件),追加的併合請求(第2事件)控訴事件,原審:東京地判平18.12.20(平成17年(行ウ)第125号,同年(行ウ)第397号)ともに裁判所HP裁判例情報掲載,以下「モーターボート事件」という。),および,最(1小)判平21.10.15(民集63−8−1711,場外車券発売施設設置許可処分取消請求事件,原審:大阪高判平20.3.6判時2019−17,ともに裁判所HP裁判例情報掲載,以下「自転車競走事件」という。)を素材としているものと思われます。昨年の行政法の本試験問題は,法科大学院コア・カリキュラムに記載のない住民訴訟をテーマとして出題され,その当否が問われましたが,今年の本試験問題は若干従来の路線に戻った感があります。ただ,総じて分量が多く,設問2と3に至っては受験生の皆様も答案作成に苦労されたのではないでしょうか。
 まず,上記モーターボート事件ですが,本試験の素材となり得ると思われた重要下級審裁判例であり,辰已でも昨年(2010年)新司法試験全国公開模試の際に配布した出題予想ノートの中の最後に押さえる行政法裁判例2010のNo.4事件として掲載しており,事案自体はご存知だった方もいらっしゃるかと思います。行政法の論文本試験における下級審裁判例の重要性に変化はないといえるでしょう。
 次に,上記自転車競走事件ですが,平成21年度重要判例解説にも掲載され(高橋明男「判批」平成21年度重要判例解説P.58),また,原審判決について考査委員の大橋洋一教授が判例解説を執筆されており(同「判批」自治研究85巻8号P.131),内容を分析すると大橋教授の判例解説が誘導文等に相当影響を与えたものと考えられます。この点,憲法と異なり行政法に関しましては,従来あまり考査委員の関心分野からの出題はなかったのですが,今回は考査委員の関心分野から出題されたように感じられます。
 また,設問1はオーソドックスな原告適格の問題でしたが,設問2と3は受験生に初見な内容だったと思われます。従来の本試験問題は受験生に初見と思われる前年に出された下級審裁判例を素材として受験生の応用能力を試していたのですが,今回は若干前に出された裁判例を素材にしており,事案自体は知っている受験生がいることを想定して,設問を工夫して応用力を問うたものとも推測されます。
 なお,設問3は,若干憲法との融合問題的なニュアンスが感じられます。ただ,昨年の住民訴訟の事例もそうでしたが,短答式試験的な知識が充実していれば比較的有利であったものと思われます。

問題文について
 本問の問題文については,本試験の全日程終了後の5月16日(月)以降に法務省HP上に掲載されるものと思われますが,本速報閲覧者の便宜のために,公法系第2問に関しましては,以下【資料2 関係法令】【資料3 関係通達】以外の全文を掲載します。なお,【資料2 関係法令】【資料3 関係通達】については,名称・番号等のみ掲載します。

【問題文本文・設問文・【資料1 会議録】【資料2 関係法令】・【資料3 関係通達】】

(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕(1),〔設問2〕(2),〔設問3〕の配点の割合は,3.5:1.5:3.5:1.5〕)
  社団法人Aは,モーターボート競走の勝舟投票券の場外発売場(以下「本件施設」という。)をP市Q地に設置する計画を立て,平成22年に,モーターボート競走法(以下「法」という。)第5条第1項により国土交通大臣の許可(以下「本件許可」という。)を受けた。Aは,本件許可の申請書を国土交通大臣に提出する際に,国土交通省の関係部局が発出した通達(「場外発売場の設置等の運用について」及び「場外発売場の設置等の許可の取扱いについて」)に従い,Q地の所在する地区の自治会Rの同意書(以下「本件同意書」という。)を添付していた。本件許可がなされた直後に,Q地の近隣に法科大学院Sを設置している学校法人X1,及び自治会Rの構成員でありQ地の近隣に居住しているX2は,国に対し本件許可の取消しを求める訴え(以下「本件訴訟」という。)を提起した。本件訴訟が提起されたため,Aは,本件施設の工事にいまだ着手していない。
 Aの計画によれば,本件施設は,敷地面積約3万平方メートル,建物の延べ床面積約1万平方メートルで,舟券投票所,映像設備,観覧スペース,食堂,売店等から構成され,700台を収容する駐車場が設置される。本件施設が場外発売場として営業を行うのは,1年間に350日であり,そのうち300日はナイターが開催される。本件施設の開場は午前10時であり,ナイターが開催されない場合は午後4時頃,開催される場合は午後9時頃に,退場者が集中することになる。
また,本件施設の設置を計画されているQ地,X2の住居,法科大学院S,及びこれらに共通の最寄り駅であるP駅の間の位置関係は,次のとおりである。Q地,X2の住居,法科大学院Sは,いずれも,P駅からまっすぐに南下する県道(以下「県道」という。)に面している。P駅の周辺には商店や飲食店が立ち並び,住民,通勤者,通学者などが利用している。P駅から県道を通って南下した場合,P駅から近い順に,法科大学院S,X2の住居,Q地が所在し,P駅からの距離は,法科大学院Sまでは約400メートル,X2の住居までは約600メートル,Q地までは約800メートルである。逆にQ地からの距離は,X2の住居までは約200メートル,法科大学院Sまでは約400メートルとなる。
 平成23年になって,本件訴訟の過程で,本件同意書について次のような疑いが生じた。自治会Rでは,X2も含めて,本件施設の設置に反対する住民が相当な数に上る。それにもかかわらず,Aによる本件施設の設置に同意することを決議した自治会Rの総会において,同意に賛成する者が123名であったのに対し,反対する者は,10名しかいなかった。これは,自治会Rの役員が,本件施設の設置に反対する住民に総会の開催日時を通知しなかったために,大部分の反対派の住民が総会に出席できなかったためではないか,という疑いである。
 国土交通大臣は,この疑いが事実であると判明した場合,次の措置を執ることを検討している。まず,Aに対し,自治会Rの構成員の意思を真に反映した再度の決議に基づく自治会Rの同意を改めて取得し,国土交通大臣に自治会Rの同意書を改めて提出するように求める(以下「要求措置」という。)。そして,Aが自治会Rの同意及び同意書を改めて取得することができない場合には,本件許可を取り消す(以下「取消措置」という。)。
 以上の事案について,P市に隣接するT市の職員は,将来T市でも同様の事態が生じる可能性があることから,弁護士に調査検討を依頼することにした。【資料1 会議録】を読んだ上で,T市の職員から依頼を受けた弁護士の立場に立って,以下の設問に答えなさい。
なお,法及びモーターボート競走法施行規則(以下「施行規則」という。)の抜粋を【資料2 関係法令】に,関係する通達の抜粋を【資料3 関係通達】に,それぞれ掲げるので,適宜参照しなさい。

〔設問1〕
 本件訴訟は適法か。X1及びX2それぞれの原告適格の有無に絞って論じなさい。
〔設問2〕
 国土交通大臣が検討している要求措置及び取消措置について,以下の小問に答えなさい。
(1)  Aが国土交通大臣に対し,要求措置に従う意思がないことを表明しているにもかかわらず,国土交通大臣がAに対し,取消措置を執る可能性を示しながら要求措置を執り続けた場合,Aは,取消措置を受けるおそれを除去するには,どのような訴えを提起するべきか。最も適法とされる見込みが高く,かつ,実効的な訴えを,具体的に二つ候補を挙げて比較検討した上で答えなさい。仮の救済は,考慮しなくてよい。
(2)  Aが国土交通大臣に対し,要求措置に従う意思がないことを表明したため,国土交通大臣がAに対し取消措置を執った場合,当該取消措置は適法か。解答に当たっては,関係する法令の定め,自治会の同意を要求する通達,及び国土交通大臣がAに対し執り得る措置の範囲ないし限界を丁寧に検討しなさい。

〔設問3〕
 T市は,新たに条例を定めて,次のような規定を置くことを検討している。@T市の区域に勝舟投票券の場外発売場を設置しようとする事業者は,T市長に申請してT市長の許可を受けなければならない。AT市長は,場外発売場の施設が周辺環境と調和する場合に限り,その設置を許可する。
 このような条例による許可の制度が,事業者に対して実効性を持ち,また,住民及び事業者の利害を適切に調整できるようにするためには,上記@Aの規定以外に,どのような規定を条例に置くことが考えられるか。また,このような条例を制定する場合に,条例の適法性に関してどのような点が問題になるか。考えられる規定の骨子及び条例の問題点を,簡潔に示しなさい。

【資料1 会議録】
職 員 :P市は,場外舟券売場の件で大騒ぎになっていますが,我がT市にとっても他人事ではありません。公営ギャンブルの場外券売場の設置が計画される可能性は,T市にもあります。そこで,P市の事案を様々な角度から先生に検討していただいて,T市としても課題を見付け出し,将来のための備えをしたいと考えています。そのような趣旨ですから,P市の事案のいずれかの当事者や利害関係者の立場に立たずに,第三者の視点から御検討をお願いいたします。
弁護士 :公営ギャンブルの場外券売場の設置許可は,刑法第187条の富くじに当たるものの発売等を適法にする法制度である点が,通常の事業の許認可とは違うところですね。私もこれまで余り調査したことがない分野ですが,検討した上で文書を作成してみましょう。。
職 員 :早速,まず本件訴訟についてですが,これは,適法な訴えなのでしょうか。法,施行規則,それから関係する通達を読みますと,それぞれに関係しそうな規定があるのですが,これらの規定のそれぞれが,本件訴訟の適法性を判断する上でどのような意味を持つのか,どうもうまく整理できないのです。
弁護士 :問題になるのは,原告適格ですね。私の方で,法,施行規則,それから通達の関係する規定と,それらの規定が原告適格を判断する上で持つ意味を明らかにしながら,X1とX2それぞれの原告適格の有無を考えてみましょう。
職 員 :お願いします。仮に本件訴訟が適法とされた場合に,本件許可が適法と判決されそうかどうかも問題ですが,今年になって,状況が大きく変わりましたので,差し当たりその問題までは検討していただかなくて結構です。
弁護士 :状況が変わったとは,どういうことですか。
職 員 :地元の同意書の作成プロセスについて重大な疑惑が持ち上がり,今度は,紛争が国土交通大臣とAとの間で生じる可能性が出てきたのです。Aは,裁判になって対立が激化してからもう一度地元の同意書を取ることなど無理だというので,同意を取り直すつもりがないようですが,国土交通大臣の方も,地元を軽んじる姿勢は取れないので,Aに同意書を取り直すように求め続けることが予想されます。この場合,今度は,Aが何らかの訴えを起こすことはできるのでしょうか。
弁護士 :最も可能性のある訴えを検討して,具体的に挙げてみましょう。
職 員 :それから,やや極端なケースを想定するのですが,地元の同意のプロセスに重大な瑕疵があった場合,国土交通大臣は,本件許可を取り消すことができるのでしょうか。この問題については,どうも私の頭が混乱しているので,いろいろ質問させてください。まず,施行規則第12条は,許可の基準として地元の同意とは規定していないのですが,そもそも,この条文に定められた基準以外の理由で,許可を拒否できるのですか。
弁護士 :関係法令をよく検討して,お答えすることにします。
職 員 :よろしくお願いします。付け加えますと,地元の同意と定めているのは,国土交通省の通達の方であり,これもそもそもの話になるのですが,このような通達に定められたことを理由にして,許可を拒否してよいのですか。この点も教えていただければと思います。
弁護士 :問題となっている通達の法的な性格をはっきりと説明するように,文書にまとめてみます。
職 員 :通達の中身について言いますと,地元の同意を重視している点は,自治体の職員としてはとてもよく理解できます。ただ,許可の取消しという措置まで執ることができるのかと問われると,自信を持って答えられないのです。
弁護士 :法律家から見ますと,地元の同意を重視する行政手法には,問題点もありますね。国土交通大臣が本件許可の申請に際して地元自治会の同意を得ておくように求める行政手法の意義と問題点を,まとめておきましょう。その上で,疑惑が事実であると仮定して,国土交通大臣は,Aに対してどこまでの指導,処分といった措置を執ることができるのか,執り得る措置の範囲ないし限界についても綿密に検討しておきます。
職 員 :今言われた「処分」について詳しく伺いたいのですが,仮に,地元自治会の同意がない場合に,国土交通大臣が申請に対して不許可処分をする余地が多かれ少なかれあるという考え方を採ると,一度許可をした後で許可を取り消す処分もできることになるのでしょうか。
弁護士 :そこまで考えて,ようやく答えが出ますね。全体を順序立てて文書にまとめてみます。
職 員 :助かります。それでやっと,我がT市の話になるのですが,T市の区域で場外舟券売場を設置しようとする事業者が現れた場合,国が定めた法令や通達の基準だけで設置を認めるのでは,不十分であると考えています。T市としては,調和のとれた街づくりをするために,場外舟券売場が周辺環境と調和するかをしっかりと審査して,市長が調和しないと判断した場合には,設置をやめていただく制度を作りたいと考えています。このような制度を条例で定める場合に,配慮すべき点を教えていただければ幸いです。
弁護士 :解釈論だけでなく,立法論も大事ですからね。簡潔にまとめておきましょう。

【資料2 関係法令】

○ モーターボート競走法(昭和26年6月18日法律第242号)(抜粋)

  (趣旨)
第1条 
  (競走の施行)
第2条 
  (競走場の設置)
第4条 
  (場外発売場の設置)
第5条 
  (競走場内等の取締り)
第22条 
  (競走場及び場外発売場の維持)
第24条 
  (秩序維持等に関する命令)
第57条 
  (競走の開催の停止等)
第58条 
  (競走場等の設置等の許可の取消し)
第59条 

○ モーターボート競走法施行規則(昭和26年7月9日運輸省令第59号)(抜粋)

  (場外発売場の設置等の許可の申請)
第11条 
  (場外発売場の設置等の許可の基準)
第12条 

【資料3 関係通達】

○ 場外発売場の設置等の運用について(平成20年2月15日付け国海総第136号海事局長から各地方運輸局長,神戸運輸監理部長あて通達)(抜粋)

7 
(注1)【資料2 関係法令】に掲げる現行のモーターボート競走法施行規則第11条を指す。以下「省令」とは現行のモーターボート競走法施行規則を指す。

○ 場外発売場の位置,構造及び設備の基準の運用について(平成20年2月15日付け国海総第139号海事局長から各地方運輸局長,神戸運輸監理部長あて通達)(抜粋)

1 場外発売場の基準

○ 場外発売場の設置等の許可の取扱いについて(平成20年3月28日付け国海総第513号海事局総務課長から各地方運輸局海事振興部長,北陸信越運輸局海事部長,神戸運輸監理部海事振興部長あて通達)(抜粋)

7 
(注2)前記の平成20年2月15日付け国海総第136号「場外発売場の設置等の運用について」を指す。

3 本問の分析
〔設問1〕について
   設問1ではX1及びX2の原告適格の有無を論じることが要求されています。ここではX1及びX2にそれぞれ「法律上保護された利益」が認められるのかを行政事件訴訟法第9条第2項を活用して論じていくこととなります。ただ,本問では,どこまで下位法規を法律解釈に読み込むことができるのか,特に,本来的には内部規則にすぎず法規ではない「通達」を,法規と趣旨・目的を共通にする関連法規によって形成される法体系の中に組み込まれていると解することが可能であるかについて意識して論述する必要があります。その上で,X1,X2それぞれについて原告適格を丁寧に検討することが求められます。
〔設問2〕(1)について
   ここでは,差止訴訟及び当事者訴訟としての確認訴訟を行うことが考えられます。その際,差止訴訟の要件と当事者訴訟の要件の違いを意識する必要があります。特に当事者訴訟の要件については,「確認の利益」の有無の判断に当たって差止訴訟に求められる「重大な損害を受けるおそれがある場合」という要件を加味すべきかが問題となり得ます。そして,差止判決の効力及び確認判決の効力を比較して,実効性の点から考察することとなります。なお,法定外抗告訴訟としての公権力発動権限不存在確認訴訟を提起するという考え方もあるでしょうが,明文には無い訴訟類型であるため,訴訟要件・判決の効力についての論述は慎重に行わなくてはならないと思われます。

〔設問2〕(2)について
   まず,国土交通大臣が,本問の事情の下で,法律に基づき本件許可の取消処分を行えるかが問題となります。そして,本問の事情の下では明文の規定からは取消しを認め得ない場合には,明文なき職権取消しあるいは撤回の可否について検討しなければなりません。例えば,会議録の誘導に従い本件設置許可の性質を講学上の「特許」と理解した上で,「特許」は本来的自由に属しない特権ないし特別の能力を行政庁が私人に付与する行政行為であり行政の側に広く裁量が認められるので,法律の要件に加え通達が要求する住民の同意の有無を本件設置許可の考慮要素とすることができるとすると,同意を欠く本件設置許可は瑕疵ある行政行為であるとして職権取消しが可能であると論じることができます。
〔設問3〕について
   まず,本問では,条例の実効性確保及び利害調整のためにどのような規定を置くことが考えられるかを述べなければなりません。この点については,T市長が許可なく場外発売場を設置しようとする者に対する中止命令を出せることを認める規定を置くことや,中止命令に従わない者及び許可なく場外発売場を設置した者に対する罰則規定,設置予定地の封鎖を認める規定を置く,事業者に公聴会を開催することを命じることができる旨の規定及び違反者に対する罰則規定を置くなど様々な手段があり得ます。そして,@このような条例を置くことがそもそも憲法第94条との関係で許されるのか,A条例により罰則規定を置くことは憲法第31条との関係で許されるのか,B条例による行政上の義務履行確保手段はどの範囲で可能なのかなどを検討し,条例の適法性を論述することとなります。なお,平成21年短答式試験第27問において類似の問題が出題されています。このことから普段の学習から短答式試験と論文式試験のリンクを意識することは非常に重要であると思われます。

【参考文献】
・大橋洋一「判批」自治研究85巻8号P.131〜149
・大沼洋一「判批」判例時報2030号(判例評論602号)P.148〜159

4 的中情報★★★

 前述のように,本問の素材裁判例であるモーターボート事件については辰已2010年新司法試験全国公開模試の際に配布した出題予想ノートの中の最後に押さえる行政法裁判例2010のNo.4事件として掲載しております(★★★)。
 また,設問1の原告適格については,平成21年の本試験で正面から問われているものの,未だ出題可能性の高い重要なテーマと思い,2011スタンダード論文答練(第2クール)公法系2第2問(加藤晋介先生御担当)と2011スタンダード論文答練(第2クール)公法系3第2問(中尾隆宏先生御担当)で敢えて正面から出題しております(★★★)。
 さらに,設問3については,今年の5月3日(火)より辰已HPにて公開しております,新司法試験2011論文問題辰已予想Note公法系のNo.3で「営業の自由・法律と条例の関係」を掲載しております(★★)。

  
 
 ●第1問 民法

■公開:2011年05月13日・23:55

はじめに
 今年の民事系第1問は,民法からの出題で,3つの設問からなり,設問1と3は小問(1)と(2)に分かれており,検討する分量は非常に多く,若干論点を詰め込みすぎの感じがいたします。おおまかなテーマとして,設問1(1)は転用物訴権,(2)は不当利得・債権者代位構成の適否,設問2は債権譲渡人の義務・解除の法的根拠,設問3(1)は土地工作物責任,(2)は過失相殺・被害者の素因等を挙げることができ,民法債権法分野の主要論点を広く網羅しているようです。民法全般についてなるべく広く問うという傾向は昨年と同様かと思われます。
 なお,年々比重が増してきたといわれる要件事実論については本問では正面から問われておらず,他の民事系教科との融合はない模様です。また,転用物訴権に関しては,内田貴『民法U』(東京大学出版会,第3版,2011)に分かりやすい説明があり,同書を使用していた方には有利であったものと思われます。
 前述のように本問については平成二桁以降の旧司法試験で問われた論点が盛りだくさんな感じがいたします。新司法試験の考査委員の中には若干旧司法試験の考査委員経験者も就任されていることをも考慮しますと,論文民法でより優位に立つためには近時の旧司法試験の本試験問題の検討も有益かもしれません。

問題文について
  本問の問題文については,本試験の全日程終了後の5月16日(月)以降に法務省HP上に掲載されるものと思われますが,本速報閲覧者の便宜のために,民事系第1問に関しましては,以下全文を掲載します。

【問題文本文】
(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,4:3:3〕)
 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。なお,解答に当たっては,利息及び遅延損害金を考慮に入れないものとする。

【事実】
  1.  AとBは,共に不動産賃貸業を営んでいる。Bは,地下1階,地上4階,各階の床面積が80平方メートルの事務所・店舗用の中古建物一棟(以下「甲建物」という。)及びその敷地200平方メートル(以下「乙土地」という。)を所有していた。甲建物の内装は剥がれ,エレベーターは老朽化して使用することができず,賃借人もいない状況であったが,Bは,資金面で余裕があったにもかかわらず,貸ビルの需要が低迷し,今後当分は賃借人が現れる見込みがないと考え,甲建物を改修せず,放置していた。Bは,平成21年7月上旬,現状のまま売却する場合の甲建物及び乙土地の市場価値を査定してもらったところ,甲建物は1億円,乙土地は4億円であるとの査定額が出た。
  2.  平成21年8月上旬,Bは,Aから,「甲建物の地下1階及び地上1階を店舗用に,地上2階から4階までを事務所用に,それぞれ内装を更新し,エレベーターも最新のものに入れ替えた建物に改修する工事を自らの費用で行うので,甲建物を賃貸してほしい。」との申出を受けた。この申出があった当時,甲建物を改修して賃貸に出せる状態にした前提で,これを一棟全体として賃貸する場合における賃料の相場は,少なくとも月額400万円であり,A及びBは,そのことを知っていた。
  3.  そこで,AとBは,平成21年10月30日,甲建物の使用収益のために必要なエレベーター設置及び内装工事費用等は全てAが負担すること,設置されたエレベーター及び更新された内装の所有権はBに帰属すること,甲建物の賃料は平成22年2月1日から月額200万円で発生し,その支払は毎月分を当月末日払いとすること,賃貸期間は同日から3年とすることを内容として,甲建物の賃貸借契約を締結した。その際,賃貸借契約終了による甲建物の返還時にAはBに対して上記工事に関連して名目のいかんを問わず金銭的請求をしないこと,Aが賃料の支払を3か月間怠った場合,Bは催告なしに賃貸借契約を解除することができること,Aは甲建物の全部又は一部を転貸することができること,契約終了の6か月前までに一方当事者から異議の申出がされない限り,同一条件で契約期間を自動更新することという特約が,AB間で交わされた。また,AB間での賃貸借契約の締結に際し,敷金として2500万円がAからBに支払われた。
  4.  平成21年11月10日,Aは,Bから甲建物の引渡しを受け,Bの承諾の下,Cとの間で,甲建物の地下1階から地上4階までの内装工事をCに5000万円で請け負わせる契約を締結し,また,Dとの間で,エレベーター設備の更新工事をDに2000万円で請け負わせる契約を締結した。いずれの契約においても,工事完成引渡日は平成22年1月31日限り,工事代金は着工時に上記金額の半額,完成引渡後の1週間以内に残金全部を支払うこととされた。そして,Aは,同日,Cに2500万円,Dに1000万円を支払った。
  5.  Cは,大部分の工事を,下請業者Eに請け負わせた。CE間の下請負契約における工事代金は4000万円であり,Cは,Eに前金として2000万円を支払った。
  6.  C及びDは,平成22年1月31日,全内装工事及びエレベーター設備の更新工事を完成し,同日,Aは,エレベーターを含む甲建物全体の引渡しを受けた。
  7.  Aは,Dに対しては,平成22年2月7日に請負工事残代金1000万円を支払ったが,Cに対しては,内装工事が自分の描いていたイメージと違うことを理由として,残代金の支払を拒否している。また,Cは,Eから下請負工事残代金の請求を受けているが,これを支払っていない。
  8.  Aは,Bとの賃貸借契約締結直後から,平成22年2月1日より甲建物を一棟全体として,月額賃料400万円で転貸しようと考え,借り手を探していたが,なかなか見付からなかった。そのため,Aは,Bに対し賃料の支払を同月分からしていない。
  9.  Bは,Aに対し再三にわたり賃料支払の督促をしたが,Aがこれを支払わないまま,3か月以上経過した。しかし,Bは,Aに対し賃貸借契約の解除通知をしなかった。その後,Bは,Aの未払賃料総額が6か月分の1200万円となった平成22年8月1日に,甲建物及び乙土地を,5億6000万円でFに売却した。代金の内訳は,甲建物が1億6000万円で,乙土地が4億円であった。甲建物の代金は,内装やエレベーターの状態など建物全体の価値を査定して得られた甲建物の市場価値が2億円であったことを踏まえ,FがBから承継する敷金返還債務の額が1300万円であることその他の事情を考慮に入れ,査定額から若干値引きすることにより決定したものである。Fは,同日,Bに代金全額を支払い,甲建物及び乙土地の引渡しを受けた。そして,同年8月2日付けで,上記売買を原因とするBからFへの甲建物及び乙土地の所有権移転登記がされた。なお,上記売買契約に際して,B及びFは,FがBの敷金返還債務を承継する旨の合意をした。
  10.  Fは,Bから甲建物及び乙土地を譲り受けるに際し,Aを呼び出してAから事情を聞いたところ,遅くとも平成22年中には転貸借契約を締結することができそうだと説明を受けた。そのため,Fは,早晩,Aが転借人を見付けることができ,Aの賃料の支払も可能になるだろうと考えた。また,Fは,甲建物及び乙土地の購入のために金融機関から資金を借り入れており,その利息負担の軽減のため,その借入元本債務を期限前に弁済しようと考えた。そこで,Fは,同年9月1日,FがAに対して有する平成23年1月分から同年12月分までの合計2400万円の賃料債権を,その額面から若干割り引いて,代金2000万円でGに譲渡する旨の契約をGとの間で締結し(以下「本件債権売買契約」という。),同日,代金全額がGからFに対して支払われた。そして,同日,FとGは,連名で,Aに対して,上記債権譲渡につき,配達証明付内容証明郵便によって通知を行い,翌日,同通知は,Aに到達した。
  11.  ところが,平成22年9月末頃,Aが売掛金債権を有している取引先が突然倒産し,売掛金の回収が見込めなくなり,Aは,この売掛金債権を自らの運転資金の当てにしていたため,資金繰りに窮する状態に陥るとともに無資力となった。そのため,Aは,Fとの間で協議の場を設け,今となっては事実上の倒産状態にあること及び甲建物の内装工事をしたCに対する請負残代金2500万円が未払であることを含め,自らの置かれた現在の状況を説明するとともに,甲建物の転借を希望する者が現れないこと,今後も賃料を支払うことのできる見込みが全くないことを告げ,Fに対し,この際,Fとの間の甲建物の賃貸借契約を終了させたいと申し入れた。Fは,Aに対する賃料債権をGに譲渡していることが気になったが,いずれにせよ,Aから賃料が支払われる可能性は乏しく,Gによる賃料債権回収の可能性はないと考え,Aの申入れを受けて,同年10月3日,A及びFは,甲建物の賃貸借契約を同月31日付けで解除する旨の合意をした。この合意に当たり,AF間では何らの金銭支払がなく,また,A及びFは,Fに対する敷金返還請求権をAが放棄することを相互に確認した。そして,同月31日,Aは,Fに甲建物を引き渡した。
  12.  Fは,Aとの間で甲建物の賃貸借契約を解除する旨の合意をした平成22年10月3日以降,直ちに,Aに代わる借り手の募集を開始した。Hは,満70歳であり,衣料品販売業を営んでいる。Hは,事業拡張に伴う営業所新設のための建物を探していたが,甲建物をその有力な候補とし,Fに対し,甲建物の内覧を申し出た。Hは,同月12日,Fを通じてAの同意をも得た上で,甲建物の内部を見て歩き,エレベーターに乗ったところ,このエレベーターが下降中に突然大きく揺れたため,Hは,転倒して右足を骨折し,3か月の入院加療が必要となった。このエレベーターの不具合は,設置工事を行ったDが,設置工程において必要とされていた数か所のボルトを十分に締めていなかったことに起因するものであった。
  13.  Hは,この事故に遭う1年ほど前から,時々,歩いていてバランスを崩したり,つまずいたりするなどの身体機能の低下があり,平成22年4月に総合病院で検査を受けていた。その検査の結果は,Hの身体機能の低下は加齢によるものであって,無理をしなければ日常生活を送る上での支障はないが,定期的に病院で検査を受けるよう勧める,というものであった。
  14.  Hは,この勧めに従って,上記総合病院で,平成22年5月から毎月1回の検査を受けていたが,特定の疾患はないと診断されていた。一方,この間,Hの妻が病気で入院したため,Hは,毎日のように病院と自宅とを往復し,時として徹夜で妻に付き添っていた。そのため,Hは,同年7月下旬頃から,かなりの疲労の蓄積を感じていた。Hが同年10月12日に甲建物のエレベーターの揺れによって転倒し,右足を骨折するほどの重傷を負ったのは,Hのここ1年ほどの身体機能の低下と妻の看病による疲労の蓄積も原因となっていた。
  15.  なお,甲建物の市場価値は,平成22年1月31日の工事完成による引渡し以降,現在に至るまで,大きな変化なく2億円ほどで推移している。乙土地の市場価値も,この間,大きな変化なく4億円ほどで推移している。
     
〔設問1〕 【事実】1から11まで及び【事実】15を前提として,以下の(1)及び(2)に答えなさい。なお,解答に当たっては,敷金返還債務はGに承継されていないものとして,また,【事実】7に示したAのCに対する支払拒絶には合理的理由がないものとして考えなさい。民法第248条に基づく請求については,検討する必要がない。
(1)  Cは,不当利得返還請求の方法によって,Bから,AC間の請負契約に基づく請負残代金に相当する額を回収することを考えた。Cが請求する場合の論拠及び請求額について,Bからの予想される反論も踏まえて検討しなさい。
(2)  Cは,不当利得返還請求以外の方法によって,Fから,AC間の請負契約に基づく請負残代金に相当する額を回収することを考えた。Cが請求する場合の論拠及び請求額について,Fからの予想される反論も踏まえて検討しなさい。
 
〔設問2〕 Gは,平成23年4月1日,Aに対して,同年1月分から同年3月分までの未払賃料総額計600万円の支払を求めた。しかし,Aは,そもそも当該期間に対応する賃料債務が発生していないことを理由に,これを拒絶した。そこで,Gは,Fの債務不履行を理由として,本件債権売買契約を解除し,Fに対し代金相当額の返還を求めることにした。
【事実】1から11までを前提として,Gに上記解除の主張を支える法的根拠を1つ選び,それについて検討しなさい。その際,Fのどのような債務についての不履行を理由とすることができるか,また,解除の各要件は充足されているかを検討しなさい。
なお,検討に当たって,本件債権売買契約は有効であること及びAF間の賃貸借契約の合意解除は有効であることを前提とするとともに,敷金については考慮に入れないものとする。また,GからFに対する損害賠償請求については,検討する必要がない。
 
〔設問3〕 【事実】1から14までを前提として,以下の(1)及び(2)に答えなさい。
(1)  Hは,【事実】12に示したエレベーター内での転倒により被った損害の賠償を請求しようと考えた。Hが損害賠償を請求する相手方として検討すべき者を挙げ,そのそれぞれに対して損害賠償を請求するための論拠について,予想される反論も踏まえて論じなさい。
(2)  Hの損害賠償請求が認められる場合に,Hの身体機能の低下及び疲労の蓄積が損害の発生又は拡大を招いたことを理由として,賠償額が減額されるべきか,理由を明らかにしつつ結論を示しなさい。
3 本問の分析
 本年度の民法は,登場人物が多く,法律関係も複雑であるため,事案を正確に把握することが困難であり,受験生の方々も苦労されたのではないかと思われます。また,平成20年度から昨年度までは,〔事実〕を特定してその法的評価を問う形式が続いていましたが,本年度は,問いに答える中で,積極的に事実を抽出して評価する形式が採用されています。その意味で,受験生の負担は,一層増加するとともに,難易度も上がっているものと思われます。このような問題に解答するにあたっては,設問を先に読み,問題点を先に把握した上で事案を読み込む等の工夫が必要となるでしょう。
 以下,設問ごとに検討を加えていきます。

〔設問1〕
小問(1)
 本問において,Cは,Bに対してAC間の請負契約に基づく残代金債権相当額の請求をしようとしています。ところが,BはCに対する請負契約の注文者の地位にはないので,Cの給付の直接の相手方ではなく,右請求は認められないはずです。
 もっとも,契約上の給付が契約の相手方のみならず第三者の利益となった場合に,給付をした契約当事者が当該第三者に利得の返還請求ができるとする見解があり(転用物訴権肯定説),これによって,Cの上記請求が認められないか問題となります。
 ここでは,問題文の指示にしたがって,転用物訴権が認められる根拠から丁寧に論じる必要があります。また,請負契約残債権相当額全額(2500万円)を請求したいCに対して,Bとしては,@そもそも転用物訴権という考え方は成り立たないと否定する,ACの請負内装工事代金をAが負担する代わりに,賃料を通常の半額に抑えている事情があるため(事実3)対価関係があり,転用物訴権を肯定する見解に立ったとしても全額の請求は認められない等の反論をすることが考えられます。
 請求額の検討に際しては,不当利得が公平の理念を趣旨とすることを念頭において,問題文の事情を詳細に分析しつつ検討することが必要となるでしょう。
小問(2)
 本小問では,CはFに対してAC間の請負契約に基づく残代金債権相当額の請求をしようとしています。「不当利得返還請求以外の方法」による検討が必要とされているため,Cは,AのFに対する敷金返還請求権を代位行使する構成が考えられるでしょう。
 Cとしては,まず,判例法理によって,BからFへ甲建物が譲渡される際,Aの未払い賃料が当然に控除された敷金残額がFに承継されていることを論じる必要があります。したがって,Cは,被担保債権の一部である1300万円の請求をしていくこととなるでしょう。
 これに対して,Fは,10月3日の解除の合意に際して,AはFに対する敷金返還請求権を放棄しているから,そもそもCが代位行使できる債権は不存在であるとの反論が考えられます。これに対しては,CからAによる敷金返還請求権の放棄が詐害行為(424条)に当たるから取り消すとの再反論をすることが考えられます。もっとも,この詐害行為取消権は,再抗弁として主張することは出来ず,別訴によるべきであることまで論じられれば高く評価されるでしょう。
 なお,請求額の認定にあたっては,甲建物及び乙土地譲渡代金が,市場価値から4000万円値引きされていること,F・B間におけるその他の事情を考慮した上で,公平の見地から妥当な結論を導くことが求められているといえます。

〔設問2〕
 GはAに対して,平成23年1月分から3月分までの未払い賃料600万円の支払を求めているところ,Aは,そもそも当該期間における賃料債務が発生していないことを理由にこれを拒絶しています。これは,A・F間の賃貸借契約が平成22年10月31日を始期として合意解除されていることを理由とすると思われます。
 そこで,Gは,Fの債務不履行を理由として本件債権譲渡契約を解除しようとしています。このGの解除の根拠としては,給付の目的物が消滅させられていることに着目して,543条解除によることが出来るでしょう。
 次に,Fにどのような債務不履行が考えられるかを検討する必要があります。Fは,債権譲渡にあたり,債務者の資力についてまで,責任を負わないのが原則です。しかし,Fは,Gに対して自己が将来Aに対して有するであろう債権を譲渡した譲渡人ですので,自ら当該債権の発生原因である賃貸借契約を解除することは売主としての給付義務を自ら解消させることになり,許されないと考えるのが相当でしょう。
 もっとも,そのような債務は通常の基本書等で論じられているところではありません。したがって,受験生としては現場思考を最大限巡らせて妥当な結論を導くよう努力することが重要といえるでしょう。
 その上で,本件解除の要件がみたされているか,慎重に検討することが求められているといえます。

〔設問3〕
小問(1)
  Hが損害賠償請求する相手方としては,本件甲建物の占有者A,所有者F,エレベーター設備更新工事請負人Dが考えられます。
  占有者A・所有者F(間接占有者)に対する請求の根拠としては,717条の工作物責任があげられるでしょう。これに対して,占有者Aとしては,Aは専門業者Dに発注したことをもって,「損害の発生を防止するのに必要な注意をした」(717条1項ただし書)と反論とすることが考えられます。この他,所有者Fからは,エレベーターは土地の工作物に当たらないと反論することが考えられます。この考え方は,エレベーターのように可動的な物は,土地に接着しておらず,「土地の工作物」に当たらないという考え方を前提にしいると思われますが,判例はこの考え方と異なる結論を採っていることは意識すべきであると思われます。
 請負人Dに対しては,不法行為責任(709条)を追及することが考えられるでしょう。
 これに対してDは,不法行為における損害賠償についても416条が類推適用されることを前提に,エレベーターが揺れたことにより搭乗者が骨折する事態は,予見可能性を欠き,相当因果関係の範囲外であると反論することが考えられるでしょう。
 この他,Aが不法行為責任を負うとして,DがAに対して請負人の瑕疵担保責任を負うことを前提に,Hがこれを代位行使するという法的構成が考えられます(423条)。
小問(2)
 Hの損害賠償が認められるとしても,Hには,身体的・心因的素因があり,被害者側に過失があるとして,過失相殺(722条)が認められないか問題となります。
 この点は,被害者側に通常の体質と異なる身体的特徴があっても,疾患に当たらない限り減額のために斟酌することはできないとする判例を意識した論述が求められるでしょう。
 これに対して,高裁判決であるいわゆる「あるがまま判決」をも意識した議論ができれば,より説得的な論述が可能となると思われます。
 身体的素因(加齢に伴う身体機能の低下)と心因的素因(妻の看病による心労)に分けた上,事実を的確に抽出して評価することにより高い評価が得られるでしょう。

【参考文献】
・内田貴『民法U』(東京大学出版会,第3版,2011) P.85〜108,442〜6,512〜520,589〜593
・内田貴『民法V』(東京大学出版会,第3版,2005) P.214〜6,273〜331

4 的中情報★★★
  本問の設問1(2)で問題となり得る詐害行為取消権に関しては,2010スタンダード論文答練(第2クール)民事系3第2問(山本和敏先生)で出題しています(★)。
 
 ●第2問 商法
■公開:2011年05月13日/23:55

はじめに
 今年の民事系第2問は,商法(会社法)からの出題で,自己株式の取得に関する株主総会決議の無効事由,当該自己株式の処分の効力等が問われました。昨年は株式会社の設立という若干マイナーな分野からの出題でしたが,今年は比較的メジャーな分野からの出題であり,また,論点数等の分量を考慮しても,昨年よりは受講生の皆様は解答しやすかったのではないでしょうか。
 本問は,例年と異なり,1つの設問に@〜Bの検討事項が列挙されているものの,配点割合が記載されておらず,受験生としては自ら解答する量を判断する必要があります。そして,【資料@】として株主総会参考書類,【資料A】および【資料B】として貸借対照表が記載されており,多くの資料が添付されるという商法の本試験問題の傾向に変化はありません。なお,本問においては他の民事系教科との融合はない模様です。
 また,本問は,理論面よりも会社法の条文・制度等の正確な理解を問うという出題者の意図が強く感じられます。正確に解答するのであれば,論文のみならず短答対策の強化が急務かと思われます。

問題文について
 本問の問題文については,本試験の全日程終了後の5月16日(月)以降に法務省HP上に掲載されるものと思われますが,本速報閲覧者の便宜のために,民事系第2問に関しましては,以下全文を掲載します。

【問題文本文】

1.  甲株式会社(以下「甲社」という。)は,携帯電話の販売を目的とする会社法上の公開会社であり,その株式をP証券取引所の新興企業向けの市場に上場している。
 Aは,甲社の創業者として,その発行済株式総数1000万株のうち250万株の株式を有していたが,平成21年12月に死亡した。そのため,Aの唯一の相続人であるBは,その株式を相続した。
 なお,甲社は,種類株式発行会社ではない大会社である。
2.  甲社は,携帯電話を低価格で販売する手法により急成長を遂げたが,スマートフォン市場の拡大という事業環境の変化への対応が遅れ,平成22年に入り,その経営に陰りが見え始めた。そこで,甲社の代表取締役であるCは,甲社の経営を立て直すため,大手電気通信事業者であり,甲社株式30万株を有する乙株式会社(以下「乙社」という。)との間で資本関係を強化して,甲社の販売力を高めたいと考えた。
 そこで,Cは,乙社に対し資本関係の強化を求め交渉したところ,乙社から,「市場価格を下回る価格であれば,更に甲社株式を取得してよい。ただし,Bに甲社株式を手放させ,創業家の影響力を一掃してほしい。」との回答を受けた。
3.  これを受けて,CがBと交渉したところ,Bは,相続税の支払資金を捻出する必要があったため,Cに対し,「創業以来のAの多大な貢献を考慮した価格であれば,甲社株式の全てを手放しても構わない。」と述べた。そこで,甲社は,Bとの間で,Bの有する甲社株式250万株の全てを相対での取引により一括で取得することとし,その価格については,市場価格を25%上回る価格とすることで合意した。
4.  そこで,甲社は,乙社と再交渉の結果,乙社との間で,甲社が,乙社に対し,Bから取得する甲社株式250万株を市場価格の80%で処分することに合意した。
5.  甲社は,平成22年6月1日に取締役会を開催し,同月29日に開催する予定の定時株主総会において,(ア)Bから甲社株式250万株を取得すること及び(イ)乙社にその自己株式を処分することを議案とすることを決定した。
 なお,甲社の定款には,定時株主総会における議決権の基準日は,事業年度の末日である毎年3月31日とすると定められていた。
6.  5の(ア)を第1号議案とし,5の(イ)を第2号議案とする平成22年6月29日開催の定時株主総会の招集通知並びに株主総会参考書類及び貸借対照表(【資料@】及び【資料A】は,それぞれその概要を示したものである。)等が同月10日に発送された。
 なお,甲社は,B以外の甲社の株主に対し,第1号議案の「取得する相手方」の株主に自己をも加えたものを株主総会の議案とすることを請求することができる旨を通知しなかった。
7.  甲社は,同月29日,定時株主総会を開催した。第1号議案の審議に入り,甲社の株主であるDが,「私も,値段によっては買ってもらいたいが,どのような値段で取得するつもりなのか。」と質問したところ,Cは,Bから甲社株式を取得する際の価格の算定方法やその理由を丁寧に説明した。採決の結果,多くの株主が反対したものの,Bが賛成したため,議長であるCは,出席した株主の議決権の3分の2をかろうじて上回る賛成が得られたと判断して,第1号議案が可決されたと宣言した。
8.  続いて第2号議案の審議に入り,Cは,株主総会参考書類の記載に即して,乙社に特に有利な金額で自己株式の処分をすることを必要とする理由を説明したが,再びDが,「処分価格を市場価格の80%と定めた根拠を明らかにされたい。」と質問したのに対し,Cが「企業秘密に関わるため,その根拠を示すことはできない。」と述べて説明を拒絶したことから,審議が紛糾した。その結果,多くの株主が反対したものの,乙社が賛成したため,Cは,出席した株主の議決権の3分の2をかろうじて上回る賛成が得られたと判断して,第2号議案が可決されたと宣言した。
9.  甲社は,定時株主総会の終了後引き続き,同日,取締役会を開催し,Bの有する甲社株式250万株の全てを同月30日に取得すること,同月28日のP証券取引所における甲社株式の最終の価格が1株800円であったため,この価格を25%上回る1株当たり1000円をその取得価格とすることなどを決定した。これに基づき,甲社は,Bから,同月30日,甲社株式250万株を総額25億円で取得した(以下「本件自己株式取得」という。)。
 なお,同年3月31日から同年6月30日までの間,甲社は,B以外の甲社の株主から甲社株式を取得しておらず,また,甲社には,分配可能額に変動をもたらすその他の事象も生じていなかった 。
10.  また,甲社は,同年7月20日,乙社に対し,250万株の自己株式の処分を行い,その対価として合計16億円を得た(以下「本件自己株式処分」という。)。
 その後,乙社は,同年8月31日までに,50万株の甲社株式を市場にて売却した。
11.  ところが,甲社において,同年9月1日,従業員の内部告発によって,西日本事業部が平成21年度に架空売上げの計上を行っていたことが発覚した。そこで,甲社は,弁護士及び公認会計士をメンバーとする調査委員会を設けて,徹底的な調査を行った上で,平成22年3月31日時点における正しい貸借対照表(【資料B】は,その概要を示したものである。)を作り直した。
 調査委員会の調査結果によれば,今回の架空売上げの計上による粉飾決算は,西日本事業部の従業員が会計監査人ですら見抜けないような巧妙な手口で行ったもので,甲社の内部統制の体制には問題がなく,Cが架空売上げの計上を見抜けなかったことに過失はなかったとされた。
12.  その後,甲社では,その業績が急激に悪化した結果,甲社の平成23年3月31日時点における貸借対照表を取締役会で承認した時点で,30億円の欠損が生じた。

〔設問〕

 @本件自己株式取得の効力及び本件自己株式取得に関する甲社とBとの間の法律関係,A本件自己株式処分の効力並びにB本件自己株式取得及び本件自己株式処分に関するCの甲社に対する会社法上の責任について,それぞれ説明しなさい。

〔資料@〕
株主総会参考書類
議案及び参考事項
第1号議案 特定の株主からの自己の株式の取得の件
   当社は,今般,当社創業者A氏の唯一の相続人であるB氏から,同氏の有する当社株式全てについて市場価格を上回る額での売却の打診を受けました。そこで,キャッシュフローの状況及び取得価格等を総合的に検討し,以下の要領にて,市場価格を上回る額で自己の株式の取得を行うことにつき,ご承認をお願いするものであります。
  (1) 取得する相手方
    B氏
  (2) 取得する株式の数
    当社株式2,500,000株(発行済株式総数に対する割合25%)を上限とする。
  (3) 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額
    金銭とし,25億円を上限とする。
  (4) 株式を取得することができる期間
    本株主総会終結の日の翌日から平成22年7月19日まで
第2号議案 自己株式処分の件
   以下の要領にて,乙株式会社に対し,自己株式を処分することにつき,ご承認をお願いするものであります。
  (1) 処分する相手方
    乙株式会社
  (2) 処分する株式の数
    当社株式2,500,000株
  (3) 処分する株式の払込金額
     1株当たり640円(平成21年12月1日から平成22年5月31日までの6か月間のP証券取引所における当社株式の最終の価格の平均値(800円)に0.8を乗じた価格)
  (4) 払込期日及び処分の日
    平成22年7月20日
  (5) 乙株式会社に特に有利な金額で自己株式の処分をすることを必要とする理由
    当社は,……(略)。
 
〔資料A〕
貸借対照表
(平成22年3月31日現在)
(単位:百万円)
 
科目
金額
科目
金額
(資産の部)
流動資産
(略)

 




固定資産
(略)


9,000







1,000
(負債の部)
(略)


負債合計
3,000
(純資産の部)
株主資本
 資本金
 資本剰余金
  資本準備金
  その他資本剰余金
 利益剰余金
  利益準備金
  その他利益剰余金

7,000
1,500
1,500
1,500

4,000
500
3,500
純資産合計
7,000
資産合計
10,000
負債・純資産合計
10,000
(注) 「−」は金額が0円であることを示す。
 
〔資料B〕
貸借対照表
(平成22年3月31日現在)
(単位:百万円)
 
科目
金額
科目
金額
(資産の部)
流動資産
(略)

 




固定資産
(略)


6,000







1,000
(負債の部)
(略)


負債合計
3,000
(純資産の部)
株主資本
 資本金
 資本剰余金
  資本準備金
  その他資本剰余金
 利益剰余金
  利益準備金
  その他利益剰余金

4,000
1,500
1,500
1,500

1,000
500
500
純資産合計
4,000
資産合計
7,000
負債・純資産合計
7,000
(注) 「−」は金額が0円であることを示す。
 
3 本問の分析
(1) 自己株式取得の効力について
   本問自己株式の取得は,特定の株主から合意により自己株式の取得をする場合(160条1項,156条)に当たります。
 本問自己株式に関して以下の行為が問題となると考えられます。@「甲社は,B以外の株主に対し,第1号議案の『取得する相手方』の株主に自己をも加えたものを株主総会の議案とすることを請求することができる旨を通知しなかった」ことが,160条2項・3項に反すること。A自己株式取得についての第1号議案決議が,利害関係を有するBの賛成により可決されたこと(160条4項)。B後の粉飾決算の結果,自己株式取得は財源規制(461条)の要請を満たさないものであったこと。これらの瑕疵が自己株式取得にどのように影響するか問題となります。本問では,@Aの事情が自己株式取得の効力にどのような影響を与えるか検討する必要があります。
 また,財源規制に反する違法処分が無効となるかの検討が必要でしょう。この点,計算についての条文と添付の貸借対照表を用いて配当可能額を算出する必要があります。
 
(2) 株式取得に関する甲社とBの法律関係について
   株式取得の効果を無効とした場合には,甲B間で支払われた金銭の帰属が問題となることが考えられます。本問では,甲社は,自己株式取得の対象となった株式と同数の株式を処分しており,株式の返還をなし得ない情況であると考えられます。そこで,その点について考慮した結論を出す必要があるでしょう。
 
(3) 自己株式処分の効力について
   本問では,自己株式の処分を決定する総会決議がなされたにとどまらず,実際に株式の処分がなされています。そこで,自己株式の処分の効力の検討にあたっては株主総会決議取消しの訴えと株式処分無効の訴えのいずれの手段が問題となるか,両者の関係をふまえて検討する必要があるでしょう。
 本問株式処分は,乙社に対して自己株式を市価の80パーセントの価格で処分するものです。この点について,「特に有利な金額」(199条3項)に当たるか,問題文他の事情を考慮して検討する必要があるでしょう。「特に有利な金額」に当たるとした場合,第2号決議に際して,Cが,乙社に対する処分の理由の説明(199条3項)を拒否したことが株式処分の効力に影響するか検討することになるでしょう。
 また,第2号議案決議が,利害関係人である乙社の賛成により可決されたことが株式処分の効力に影響するか検討する必要があります。
 
(4) Cの甲社に対する会社法上の責任について
   Cの行為については,423条,462条の責任の有無が問題となります。ここでは,自己株式取得,自己株式処分について,会社にどのような損害が生じたか検討する必要があります。また,自己株式取得に際して,Cが架空売上を見抜けなかったことに過失がなかったという事情をどのように評価するかが問題となるでしょう。
 
【参考文献】
・神田秀樹『会社法』(弘文堂,第13版,2011)P.95〜102,127〜147,272〜282
・江頭憲治郎『株式会社法』(有斐閣,第3版,2009)P.237〜260,617〜622,672〜712
・弥永真生『リーガルマインド会社法』(有斐閣,第12版,2009)P.47〜59,283〜308,396〜401
 

4 的中情報★★★

 自己株式に関しては,今期のスタンダード論文答練・新司法試験全国公開模試では正面から出題しておりませんが,2011スタンダード論文答練(第1クール)民事系2第3問(柳澤 憲先生御担当)では,本問解答の際に十分参考となり得るテーマである新株発行無効の訴えの無効事由について正面から問うており,受講生の皆様には大変参考になったものと思われます(★★)。

 
 ●第3問 民事訴訟法
■公開:2011年05月13日/23:55

はじめに
 
今年の民事系第3問は,民事訴訟法からの出題で,3つの設問から構成され,設問1は権利自白とその撤回,設問2は債権者代位訴訟における独立当事者参加と共同訴訟参加,設問3は固有必要的共同訴訟を巡る諸問題がテーマとなります。民事訴訟法においても,今年は比較的メジャーな分野からの出題であり,昨年よりは受講生の皆様は解答しやすかったのではないでしょうか。
 民事大大問の廃止に伴い大きく傾向が変わると思われた民事訴訟法の論文本試験問題ですが,本問は,従来同様理論面が中心に問われている感があり,また,適宜詳細な誘導がなされる等,出題傾向に大きな変化はなかった模様です。なお,本問においては他の民事系教科との融合はない模様です。
 論文民事訴訟法の対策としては,判例百選,民事訴訟法の争点,その他の演習書,答案練習会等で応用能力を養いつつ,誘導文に素直に乗るように心掛ける必要があります。
 

問題文
 本問の問題文については,本試験の全日程終了後の5月16日(月)以降に法務省HP上に掲載されるものと思われますが,本速報閲覧者の便宜のために,民事系第3問に関しましては,以下全文を掲載します。

【問題文本文】
(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,3:4:3〕)
次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
       
  【事例1】
 

 Aは,医師であり,個人医院を開設しているが,将来の値上がりを期待して,近隣の土地を購入してきた。しかし,同じ市内に開設された総合病院に対抗するために,平成19年5月に借入れをして高価な医療機器を購入したにもかかわらず,Aの医院の患者数は伸び悩み,Aは,平成21年夏頃から資金繰りに窮している。
 Bは,Aの友人であり,Aが土地を購入するに際して,購入資金を貸与するなどの付き合いがある。Bは,かねてAから,甲土地は実はAの所有地である,と聞かされてきた。
 Cは,Aの弟D(故人)の子であり,Dの唯一の相続人である。
甲土地の所有権登記名義は,平成14年3月26日に売買を原因としてEからDに移転している。
 Bは,弁護士Pに依頼し,Dの単独相続人であるCを被告として,Aの甲土地の所有権に基づき,甲土地についてDからAへの所有権移転登記手続を請求して,平成22年12月8日に訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟1」という。)。
  平成23年1月25日に開かれた第1回口頭弁論期日において,Pは,次のような主張をした。

@
 Bは,平成17年6月12日に,Aに対して,平成22年6月12日に元本1200万円に利息200万円を付して返済を受ける約束で,1200万円を貸し渡した。
A
 平成22年6月12日は経過した。
B
 Aは,甲土地を現に所有している。
C
 甲土地の所有権登記名義はDにある。
D
 Aは,無資力である。
E
 CはDの子であるところ,Dは,平成18年5月28日に死亡した。
   これに対して,Cは,同期日において,「ABCEは認めるが,@Dは知らない。」旨の陳述をした。
 裁判官が,Pに対して,@の消費貸借契約について契約書があるかどうか質問したところ,Pは,「作成されていない。」と返答した。裁判官は,Pに対して,次回の口頭弁論期日に@とDの事実を立証するよう促した。

 第1回口頭弁論期日が終了した後,Cは,弁護士Qに訴訟1について相談し,Qを訴訟代理人に選任した。

F
 甲土地は,Eがもと所有していた。
G
 平成14年2月26日,Aは,Eとの間で,甲土地を2200万円で購入する旨の契約を締結した。
H
 Aは,Gの契約を締結するに際して,Dのためにすることを示した。
I
 同年2月18日,Dは,Aに対して,甲土地の購入について代理権を授与した。
   裁判官がQに対して,新たな陳述をした理由をただしたところ,Qは,次のように述べた。
     Dが死亡した後,Cは,事あるごとに,Aから,「甲土地は,Dのものではなく,Aのものだ。」と聞かされてきたので,それを鵜呑みにしてきました。しかし,私が改めてEから事情を聴取したところ,新たな事実が判明したので,甲土地の所有権がEからDへ,DからCへと移転したと主張する次第です。
   Pは,@とDの事実を証明するための文書を提出したが,FGHIに対する認否は,次回の口頭弁論期日まで留保した。
   以下は,第2回口頭弁論期日の数日後のPと司法修習生Rとの会話である。
  :第2回口頭弁論期日でのQの陳述について検討してみましょう。
  Qが,甲土地の所有権がEからDへ,DからCへと移転したと主張したので,Aに問い合わせてみました。すると,Aからは,Dから代理権の授与を受けたことはないし,Aが甲土地の購入資金を出した,という説明を受けました。Aによると,EはDの知人で,AはDの紹介でEから甲土地を購入したが,後になって思うと,DとEは共謀してAをだまして,甲土地の所有権登記名義をDに移したようだ,とのことでした。しかし,Aは,弟や甥を相手に事を荒立てるのはどうかと思い,Cに対して所有者がAであることを告げるにとどめ,登記は今までそのままにしていたそうです。
 以上のAの説明を前提にすると,次回の口頭弁論期日では,HとIを争うことが考えられます。
 しかし,そもそもQのHとIの陳述は,Cが第1回口頭弁論期日でBを認めたことと矛盾しています。そこが気になっているのです。
  :第1回口頭弁論期日で「甲土地は,Aが現に所有している。」という点に権利自白が成立しているにもかかわらず,第2回口頭弁論期日でのQの陳述は,甲土地をAが現に所有していることを否定する趣旨ですから,権利自白の撤回に当たるということでしょうか。
  :そのとおりです。もしそのような権利自白の撤回が許されないとすると,HとIについての認否が要らないことになります。ですから,私としては,被告側の権利自白の撤回は許されない,と次回の口頭弁論期日で主張してみようかと思っています。そこで,あなたにお願いなのですが,このような私の主張を理論的に基礎付けることができるかどうか,検討していただきたいのです。
  :はい。しかし,考えたことのない問題ですので,うまくできるかどうか・・・。
  :確かに難しそうな問題ですね。事実の自白の撤回制限効の根拠にまで遡った検討が必要かもしれません。「理論的基礎付けは難しい。」という結論になってもやむを得ませんが,ギリギリのところまで「被告側の権利自白の撤回は許されない。」という方向で検討してみてください。では,頑張ってください。

〔設問1〕 あなたが司法修習生Rであるとして,弁護士Pから与えられた課題に答えなさい。

【事例1(続き)】
 F銀行は,Aの言わばメインバンクであり,Aに対して医療機器の購入資金や医院の運転資金などを貸し付けてきた。現在,Fは,Aに対して2500万円の貸付金残高を有している。訴訟1が第一審に係属していることを知ったFがその進行状況を調査したところ,BがBA間の消費貸借契約締結の事実(@の事実)やAの無資力の事実(Dの事実)の立証に難渋している,との情報が得られた。そこで,Fは,Aに甲土地の所有権登記名義を得させるために,自らも訴訟1に関与することはできないかと,弁護士Sに相談した。Sは,Bの原告適格が否定される可能性があることを考慮すると,補助参加ではなく当事者として参加することを検討しなければならないと考えたが,どのような参加の方法が適当であるかについては,結論に至らなかった。

〔設問2〕 Fが訴訟1に参加する方法として,独立当事者参加と共同訴訟参加のそれぞれについて,認められるかどうかを検討しなさい。ただし,民事訴訟法第47条第1項前段の詐害防止参加を検討する必要はない。

【事例2】
 Kは,乙土地上の丙建物に居住している。Kの配偶者は既に死亡しているが,KにはLとMの2人の嫡出子があり,共に成人している。このうち,Lは,Kと同居しているが,遠く離れた地方に居住するMは,進路についてKと対立したため,KやLとほとんど没交渉となっている。
 乙土地の所有権登記名義はKの旧友であるNにあり,丙建物の所有権登記名義はKにある。
 Nは,Kを被告として,平成22年9月2日,乙土地の所有権に基づき,丙建物を収去して,乙土地をNに明け渡すことを請求して,訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟2」という。)。なお,訴訟2において,NにもKにも訴訟代理人はいない。

 平成22年10月12日に開かれた第1回口頭弁論期日において,次の事項については,NとKとの間で争いがなかった。
 



 乙土地をNがもと所有していたこと。
 Kが,丙建物を所有して,乙土地を占有していること。
 平成10年5月頃,Nが,Kに対して,期間を定めないで,乙土地を,資材置場として,無償で貸し渡したこと。
 平成22年9月8日,Nが,Kに対して,乙土地の使用貸借契約を解除する旨の意思表示をしたこと。
 同期日において,Kは,平成17年12月頃,NとKとの間で乙土地の贈与契約が締結されたと主張し,Nは,これを否認した。さらに,Kは,KとNとの間で乙土地をKが所有することの確認を求める中間確認の訴えを提起した。

  平成22年10月16日,Kは交通事故により死亡し,LとMがKを共同相続し,それぞれについて相続放棄をすることができる期間が経過した。平成23年3月7日,NがLとMを相手方として受継の申立てをし,同年4月11日,受継の決定がされた。

 平成23年5月10日に開かれた第2回口頭弁論期日において,Lは争う意思を明確にしたが,Mは「本訴請求を認諾し,中間確認請求を放棄する。」旨の陳述をした。

  以下は,第2回口頭弁論期日終了後の裁判官Tと司法修習生Uとの会話である。
  :今日の期日で,Mは本訴請求の認諾と中間確認請求の放棄をしましたね。
  :はい。しかし,Lは認諾も放棄もせず,Nと争うつもりのようですね。
  :Lがそのような態度をとっている場合に,Mのした認諾と放棄がどのように扱われるべきかは,一考を要する問題です。この問題をあなたに考えてもらうことにしましょう。
 なお,LとMが本訴被告の地位と中間確認の訴えの原告の地位を相続により承継したことによって,本訴請求と中間確認請求がどうなるかについては議論のあるところですが,当然承継の効果として当事者の訴訟行為を経ずに,本訴請求の趣旨は「L及びMは,丙建物を収去して,乙土地をNに明け渡せ。」に,中間確認請求の趣旨は「L及びMとNとの間で,乙土地をL及びMが共有することを確認する。」に,それぞれ変更される,という見解を前提としてください。
 このような本訴請求の認諾と中間確認請求の放棄の陳述をMだけがした場合に,この陳述がどのように扱われるべきか,考えてみてください。その際には,判例がある場合にはそれを踏まえる必要がありますが,それに無批判に従うことはせずに,本件での結果の妥当性などを考えて,あなたの意見をまとめてください。

〔設問3〕  あなたが司法修習生Uであるとして,裁判官Tから与えられた課題に答えなさい。

3 本問の分析
(1) 〔設問1〕について
   第1回口頭弁論期日において,Cは,PのBの主張を認めていることから,「甲土地は,Aが現に所有している。」との点につき権利自白(請求の当否についての判断の前提である先決的な権利・法律関係についての自白)が成立していますが,他方でCの弁護士QによるHIの陳述は,Bを認めたことと矛盾するものです。そこで,権利自白の撤回が問題となりますが,その際,問題文にもありますように,事実の自白の撤回制限効の根拠を検討した上で,「被告側の権利自白の撤回は許されない。」との方向で検討することとなります。
 裁判上の自白は審判排除効及び不可撤回効が生ずるものですが(民訴179条),権利自白が自白の対象になり得るかについては議論が分かれています。この点,否定説は,権利自白がなされた場合には相手方は一応その権利主張を根拠づける必要はないが,裁判所の事実認定権は排除されず,また当事者はいつでも撤回できるとしています。もっとも,権利自白ではあっても,所有権,売買,賃貸借のような日常的法律概念を用いている場合には具体的事実の陳述をしているものとして自白の成立を認めています。他方,肯定説は,自白の対象が事実に限られ法規や経験則に及ばないのは法的三段論法の小前提にのみ自白が成立することを意味するから,そうであれば事実ではなく法律関係が小前提となる場合にも自白は成立すると理解しています。例えば,物の引渡請求訴訟で当該物の所有権の存否は前提問題であって小前提だから自白の対象にあたるとします。
 本件で「甲土地は,Aが現に所有している。」という点に権利自白の不可撤回効を認めた場合でも,QによるEからの事情聴取により「甲土地の所有権がEからDへ,DからCへ移転した」という新たな事実が判明していることから,自白の撤回の要件の一つである,自白が真実に反し,かつ錯誤に基づく場合に当たるかを検討することとなりますが,その際,反真実の証明があれば錯誤を推認して自白の撤回を認めるのが判例です(最判昭25.7.11民集4−7−316)。
 本件では,権利自白がなされた段階においてはCによる本人訴訟であり,また,新たな事実の判明をどのように考慮するかが重要となりますが,その場合にも問題文にあります「被告側の権利自白の撤回は許されない。」との設定に配慮すべきでしょう。

(2) 〔設問2〕について
   本件において,Bは民法423条の債権者代位訴訟により,Dの単独相続人であるCを被告として,Aの甲土地の所有権に基づき,甲土地についてDからAへの所有権移転登記手続を請求しています。そこで,Fが,Aに甲土地の所有権登記名義を得させるために,自らも訴訟1に参加する方法として独立当事者参加と共同訴訟参加の可否を検討することとなります。
 まず,権利主張参加型の独立当事者参加(民訴47条1項後段)は,第三者が積極的に「訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利」であり,またはその上に権利を有すると主張するものです。本訴請求と参加人の請求が両立し得ない関係にある場合においてこの参加が認められます。この点,法定訴訟担当とされる債権者代位訴訟においては,訴訟物は債務者の第三債務者に対する請求権ですから,本件においてはこの点を検討すべきこととなるでしょう。
 次に,共同訴訟参加(民訴52条)は,「訴訟の目的が当事者の一方及び第三者について合一にのみ確定すべき場合」に認められますが,これは民訴40条1項の「合一にのみ確定すべき場合」と同じ意味であり,訴訟の目的である権利又は法律関係についての判決の内容が各人に区々別々になってはならないという関係にある場合をいいます。従って,共同訴訟参加をする第三者は,当事者適格を有していなければなりません。この点,債権者が債権者代位権に基づき,債務者の債権について給付の訴えを起こしている場合には,当該債務者の他の債権者は,債務者がその判決の効力を受ける結果として(民訴115条1項2号),反射的にその判決の効力を承認せざるを得ない関係に立ちますから,判決が合一に確定すべき関係になり,他の債権者は,本条より当該訴訟に参加することができると解されています。本件においては,訴訟物が登記請求権であるという点についても考慮しつつ(登記は債務者の下にしか戻せません。),検討すべきこととなるでしょう。
(3) 〔設問3〕について
   Mによる本訴請求の認諾がどのように扱われるべきかについては,まず,土地所有者がその所有権に基づいて地上建物所有者の共同相続人に対して提起する建物収去土地明渡請求訴訟は固有必要的共同訴訟となるかが問題となります。固有必要的共同訴訟となれば,共同訴訟人独立の原則(民訴39条)が制限されるので(民訴40条1項),Mの認諾は効力を生じないこととなるからです。
 この点,最判昭43.3.15(民集22−3−607,百選100事件)は,共同相続した建物収去土地明渡義務はいわゆる不可分債務であることに加え,手続上の不経済・不安定等の訴訟法的な考慮を理由として固有必要的共同訴訟でないとしています。この判例を踏まえると,Mの認諾は認められることとなりそうです。
 次に,Mによる中間確認請求の放棄がどのように扱われるべきかについては,共同相続人による共有権の確認請求訴訟が固有必要的共同訴訟となるかが問題となります。
この点,最判昭46.10.7(民集25−7−885,百選A32事件)は,原告が共有者である所有権確認・移転登記請求訴訟で,共有者全員の有する1個の所有権そのものが紛争の対象となっていること等を理由に固有必要的共同訴訟であるとしています。この判例を踏まえると,Mの放棄は効力を生じないこととなりそうです(民訴40条1項)。
 上記両判例の結論にそのまま従うと,中間確認の訴えは,訴訟係属中に,本来の請求の当否の判断に対し先決関係にある法律関係の存否について,原告または被告が追加的に提起する確認の訴えであり(民訴145条),その判決は既判力を有するため,判決内容によっては本件での結果に不都合が生じてしまうこと,また,LはKが死亡する以前から本件乙土地上の丙建物に居住しているのに対しMは同建物には居住していないこと,LとMはほとんど没交渉となっていたこと等の事情を考慮して,上記Mの認諾をどのように扱うべきかを検討していくことが考えられます。
【参考文献】
・裁判所職員総合研修所監修『民事訴訟法講義案』(司法協会,2010,再訂補訂版)P.182〜6,295〜307,317〜320
・高橋宏志『重点講義 民事訴訟法 上』(有斐閣,2005)P.220〜236,419〜455
・高橋宏志『重点講義 民事訴訟法 下』(有斐閣,2010,補訂第2版)P.221〜294,391〜433
・新堂幸司『新民事訴訟法』(弘文堂,2008,第4版)P.508〜517,731〜750,754〜5,781〜796

4 的中情報★★★

 まず,設問2の債権者代位訴訟については,2011新司法試験全国公開模試民事系第3問で広く問うております(★★)。
また,設問3の固有必要的共同訴訟に関しては,2011スタンダード論文答練(第1クール)民事系1第3問(稲村晃伸先生御担当)で問われており(★★),さらに,今年の5月3日(火)より辰已HPにて公開しております,新司法試験2011論文問題辰已予想Note民事系のTheme7で「通常共同訴訟と必要的共同訴訟」を掲載しております(★★★)。

  
 
 ●第1問 刑法
■公開:2011年05月15日/22:05

はじめに
 
今年の刑事系第1問は,刑法からの出題で,正当防衛が理論面での主なテーマあり,殺意の認定等の事実認定も大きく比重を占めた出題となっており,この傾向は「刑事実体法及びその解釈論の理解,具体的事案に法規範を適用する能力及び論理的思考力を試すものである。」との平成22年の出題趣旨と変化はないものと思われます。なお,2年連続で刑法総論の分野からの出題でしたが,刑法各論よりも刑法総論の方が理論的な対立が大きく,上記の平成22年の出題趣旨にあるような解釈論重視の傾向の現われなのかもしれません。
 また,正当防衛は近時重要判例が多く出て「重要判例解説」(有斐閣)等にも掲載されており,また,考査委員の山口厚教授が精力的に論文・判例評釈を書かれていることから,要注意なテーマであったと思われます。
 論文刑法の対策としては,まず,各自の基本書等で理論面を押さえつつ,重要判例や論文本試験過去問を分析し,答案練習会に臨む必要があるでしょう。なお,事実認定に関しては予備試験のサンプル問題や今年7月に実施される本試験問題の分析等も意外と有益かもしれません。
 

問題文
 本問の問題文については,本試験の全日程終了後の5月16日(月)以降に法務省HP上に掲載されるものと思われますが,本速報閲覧者の便宜のために,刑事系第1問に関しましては,以下全文を掲載します。

【問題文本文】
(配点:100)
以下の事例に基づき,甲,乙及び丙の罪責について,具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特別法違反の点を除く。)。
       
  1  甲(35歳,男)は,ある夏の日の夜,A県B市内の繁華街の飲食店にいる友人を迎えに行くため,同繁華街周辺まで車を運転し,車道の左側端に同車を駐車した後,友人との待ち合わせ場所に向かって歩道を歩いていた。
 その頃,乙(23歳,男)と丙(22歳,男)は,二人で酒を飲むため,同繁華街で適当な居酒屋を探しながら歩いていた。乙と丙は,かつて同じ暴走族に所属しており,丙は,暴走族をやめた後,会社員として働いていたが,乙は,少年時代から凶暴な性格で知られ,何度か傷害事件を起こして少年院への入退院を繰り返しており,この当時は,地元の暴力団の事務所に出入りしていた。丙は,乙の先を歩きながら居酒屋を探しており,乙は,少し遅れて丙の後方を歩いていた。
 その日は週末であったため,繁華街に出ている人も多く,歩道上を多くの人が行き交っていたところ,甲は,歩道を対向して歩いてきた乙と肩が接触した。しかし,乙は,謝りもせず,振り返ることもなく歩いていった。甲は,一旦はやり過ごしたものの,乙の態度に腹が立ったので,一言謝らせようと思い,4,5メートル先まで進んでいた乙を追い掛けた上,後ろから乙の肩に手を掛け,「おい。人にぶつかっておいて何も言わないのか。謝れ。」と強い口調で言った。乙は,振り向いて甲の顔をにらみつけながら,「お前,俺を誰だと思ってんだ。」などと言ってすごんだ。甲は,もともと短気な性格であった上,普段から体を鍛えていて腕力に自信もあり,乙の態度にひるむこともなかったので,甲と乙はにらみ合いになった。
 甲と乙は,歩道上に向かい合って立ちながら,「謝れ。」,「そっちこそ謝れ。」などと言い合いをしていたが,そのうち,甲は,興奮のあまり,乙の腹部を右手の拳で1回殴打し,さらに,腹部の痛みでしゃがみ込んだ乙の髪の毛をつかんだ上,その顔面を右膝で3回,立て続けに蹴った。これにより,乙は,前歯を2本折るとともに口の中から出血し,加療約1か月間を要する上顎左側中切歯・側切歯歯牙破折及び顔面打撲等の怪我をした。
丙は,乙がついてこないので引き返し,通行人が集まっている場所まで戻って来たところ,複数の通行人に囲まれた中で,ちょうど,乙が甲に殴られた上で膝で蹴られる場面を見た。丙は,乙が一方的にやられており,更に乙への攻撃が続けられる様子だったので,乙を助けてやろうと思い,「何やってんだ。やめろ。」と怒鳴りながら,甲に駆け寄り,両手で甲の胸付近を強く押した。
 甲は,一旦後ずさりしたものの,すぐに「何だお前は。仲間か。」などと言いながら丙に近づき,丙の腹部や大腿部を右足で2回蹴った。さらに,体格で勝る甲は,ひるんだ丙に対し,丙が着ていたシャツの胸倉を両手でつかんで引き寄せた上,丙の頭部を右脇に抱え込み,「おら,おら,どうした。」などと言いながら,両手を組んで丙の頭部を締め上げた。
丙は,たまらず,近くの歩道上にしゃがみ込んでいた乙に対し,「助けてくれ。」と言った。
乙は,丙が助けを求めるのを聞いて立ち上がり,丙を助けるとともに甲にやられた仕返しをしてやろうと思い,丙の頭部を締め上げていた甲に背後から近寄り,甲の後ろからその腰背部付近を右足で2回蹴った。
 甲は,それでもひるまず,丙の頭部を締め上げ続けたので,乙は,さらに,甲の腰背部付近を数回右足で強く蹴った。
 そのため,甲は,丙の頭部を締め上げていた手をようやく離した。
丙は,甲の手が離れるや,乙に向かっていこうとした甲の背後からその頭部を右手の拳で2回殴打した。
 甲は,乙及び丙による上記一連の暴行により,加療約2週間を要する頭部打撲及び腰背部打撲等の怪我をした。また,丙は,甲による上記一連の暴行により,加療約1週間を要する腹部打撲等の怪我をした。
  2  甲は,二人組の相手に前後から挟まれ,形勢が不利になった上,周囲に多数の通行人が集まり,騒ぎが大きくなってきたので,この場から逃れようと思い,全速力で走って逃げ出した。
 乙は,「待て。逃げんのか。」などと怒鳴りながら,甲の5,6メートル後ろを走って追い掛けた。
 丙は,乙が興奮すると何をするか分からないと知っていたので,逃げ出した甲を乙が追い掛けていくのを見て心配になり,少し遅れて二人を追い掛けた。
乙は,多数の通行人が見ている場所で甲からやられたことで面子を潰されたと思って逆上しており,甲を痛めつけてやらなければ気持ちがおさまらないと思い,走りながらズボンの後ろポケットに入れていた折り畳み式ナイフ(刃体の長さ約10センチメートル)を取り出し,ナイフの刃を立てて右手に持った。
 乙の後方を走っていた丙は,乙がナイフを右手に持っているのを見て,乙が甲に対して大怪我をさせるのではないかなどと不安になり,走りながら,「やめとけ。ナイフなんかしまえ。」と何度か叫んだ。
 甲は,約300メートル離れた車道上に止めてあった自分の車の近くまで駆け寄り,車の鍵を取り出し,左手に持った鍵を運転席側ドアの鍵穴に差し込んだ。
乙は,甲に追い付き,その左手付近を目掛けてナイフで切りかかった。甲は左前腕部を切り付けられて左前腕部に加療約3週間を要する切創を負った。
 その頃,甲と乙を追い掛けてきた丙は,乙が甲に切りかかったのを見て,乙を制止するため,乙の後ろから両肩をつかんで強く後方に引っ張り,乙を甲から引き離した。
  3  甲は,その隙に車の運転席に乗り込み,運転席ドアの鍵を掛け,エンジンをかけて車を発進させた。
 甲が車を発進させた場所は,片側3車線のアスファルト舗装された道路であり,甲の車の前方には信号機があり,その手前には赤信号のため車が数台止まっていた。
 甲は,前方に車が止まっていたので,低速で車を走行させたところ,乙は,丙を振り払い,走って同車を追い掛け,運転席側ドアの少し開けられていた窓ガラスの上端部分を左手でつかみ,窓ガラスの開いていた部分から右手に持ったナイフを車内に突っ込み,運転席に座っていた甲の頭部や顔面に向けて何度か突き出しながら,「てめえ,やくざ者なめんな。逃げられると思ってんのか。降りてこい。」などと言って甲に車から降りてこさせようとした。
甲は,信号が変わり前方の車が無くなったことから,しつこく車についてくる乙を何とかして振り切ろうと思い,アクセルを踏んで車の速度を上げた。乙は,車の速度が上がるにつれて全速力で走り出したが,次第に走っても車に追い付かないようになったため,運転席側ドアの窓ガラスの上端部分と同ドアのドアミラーの部分を両手でつかみ,運転席側ドアの下にあるステップに両足を乗せて車に飛び乗った。その際,乙は、右手で持っていたナイフを車内の運転席シートとドアの間に落としてしまった。なお,甲の車は,四輪駆動の車高が高いタイプのものであった。
 甲は,乙がそのような状態にあり,ナイフを車内に落としたことに気付いたものの,乙から逃れるため,「乙が路面に頭などを強く打ち付けられてしまうだろうが,乙を振り落としてしまおう。」と思い,アクセルを更に踏み込んで加速するとともに,ハンドルを左右に急激に切って車を左右に蛇行させ始めた。
 乙は,それでも,開いていた運転席側ドア窓ガラスの上端部分を左手でつかみ,右手の拳で窓ガラスをたたきながら,「てめえ,降りてこい。車を止めろ。」などと言っていた。しかし,甲が最初に車を発進させた場所から約250メートル車が進行した地点(甲が車を加速させるとともに蛇行運転を開始した地点から約200メートル進行した地点)で,甲が何回目かにハンドルを急激に左に切って左方向に車を進行させた際,乙は,手で自分の体を支えることができなくなり,車から落下して路上に転倒し,頭部を路面に強打した。その際の車の速度は,時速約50キロメートルに達していた。甲は,乙を車から振り落とした後,そのまま逃走した。
 乙は,頭部を路面に強打した結果,頭蓋骨骨折及び脳挫傷等の大怪我を負い,目撃者の通報で臨場した救急車によって病院に搬送され,救命処置を受けて一命を取り留めたものの,意識は回復せず,将来意識を回復する見込みも低いと診断された。
 
本問の分析
 本問は,正当防衛の成否,共同正犯と正当防衛などについて問うものですが,論点についての理解だけを問うものではなく,具体的な事実を評価する能力やその事実を要件へ当てはめる力を問うものであると思われます。そのため,事実を丁寧に分析してその事実に評価を加えながら論述を進めていくことが要求されていると考えられます。

甲の罪責について
甲は,@乙に加療約1か月間を要する怪我を負わせる傷害行為,A丙に加療約1週間を要する怪我を負わせる傷害行為,B乙を自動車から振り落として瀕死の重傷を負わせる行為を行っています。このうち,Bについては,殺意の有無の認定,正当防衛の要件を満たすか(「急迫不正の侵害」が存在するか,相当性があるか,自招侵害なのではないか)を検討して罪責を論じる必要があります。

乙の罪責について
 乙は,@甲に加療約2週間の怪我を負わせる行為,A甲の左前腕部に加療約3週間を要する切創を負わせる傷害行為,B自動車の運転席にいる甲にナイフを突き出す行為を行っています。これらの行為については正当防衛の成否が問題となるでしょうが,@については「甲にやられた仕返しをしてやろう」と思っていた事情が正当防衛の成否にどのような影響を与えるのか,A・Bについては@と一体のものとして評価することができるのかなどが特に問題になると考えられます。
 また,乙丙間に防衛行為を共同する意思が認められるとすると,乙は丙の行為Aについても責を負うのかが問題となります。

丙の罪責について
 丙は,@甲の胸付近を強く押すという暴行行為,A甲の頭部を殴打し加療2週間を要する怪我を負わせる行為を行っています。これらの行為については事実を拾いつつ正当防衛の成否を検討することとなるでしょう。また,乙丙間に防衛行為を共同する意思が認められるとすると,丙は乙の行為A・Bについても責を負うのかが問題となります。これについては,そもそも乙の行為A・Bは当初の共同防衛行為とは別に行われたものであり,また新たな共謀も認定できないので丙は乙の行為A・Bについて責を負わない,などの構成が考えられます。
 
的中情報★★★
 正当防衛に関しては,2011スタンダード論文答練(第1クール)刑事系2第1問(新庄健二先生御担当)で正面から問われており,受講生の皆様には大変有益であったものと思われます(★★★)。さらに,今年の5月3日(火)より辰已HPにて公開しております,新司法試験2011論文問題辰已予想Note刑事系のTheme2で「正当防衛・過剰防衛」を掲載しております(★★★)。
 
 ●第2問 刑事訴訟法
■公開:2011年05月15日・22:05
はじめに
 
今年の刑事系第2問は,刑事訴訟法からの出題で,設問1の捜査法に関しては別件逮捕が主なテーマとなっており,設問2の証拠法は伝聞法則,特に再伝聞が主なテーマとなっております。検討する分量が多いこと,証拠法に関して伝聞法則を問うていること,資料が多数添付されているという特徴は昨年と変化はありません。昨年同様に2時間で本問を全て正確に検討するのは中々困難だったのではないでしょうか。
 論文刑事訴訟法の対策としては,判例百選・重要判例解説等で主要判例を押さえた後,本試験過去問(特に伝聞法則)をしかりと分析した上で,答案練習会で検討方法や時間配分等の訓練をしていく必要があるように思われます。
 

問題文
 本問の問題文については,本試験の全日程終了後の5月16日(月)以降に法務省HP上に掲載されるものと思われますが,本速報閲覧者の便宜のために,刑事系第2問に関しましては,以下全文を掲載します。
 
【問題文本文】
(配点:100)
次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
       
  1  平成22年5月1日,A女は,H県警察本部刑事部捜査第一課を訪れ,同課所属の司法警察員Pに,「2か月前のことですが,午後8時ころ,結婚を前提に交際していたBと電話で話していると,Bから『甲が来たから,また,後で連絡する。』と言われて電話を切られたことがありました。甲は,Bの友人です。その3時間後,Bが私の携帯電話にメールを送信してきました。そのメールには,Bが甲及び乙と一緒に,甲の奥さんであるV女の死体を,『一本杉』のすぐ横に埋めたという内容が書かれていました。ちなみに,『一本杉』は,H県I市内にあるJ山の頂上付近にそびえ立っている有名な杉です。また,乙も,Bの友人です。私は,このメールを見て,怖くなったので,思わず,メールを消去しました。その後,私は,このことを警察に伝えるべきかどうか迷いましたが,Bとは結婚するつもりでしたので,結局,警察に伝えることができませんでした。しかし,昨日,Bとも完全に別れましたので,警察に伝えることに踏ん切りがつきました。Bが私にうそをつく理由は全くありません。ですから,Bが私にメールで伝えてきたことは間違いないはずです。よく調べてみてください。」などと言った。その後,司法警察員Pらは,直ちに,前記「一本杉」付近に赴き,その周辺の土を掘り返して死体の有無を確認したところ,女性の死体を発見した。そして,女性の死体と共に埋められていたバッグにV女の運転免許証が在中していたことなどから,女性の死体がV女の死体であることが判明した。
 そこで,同月3日,司法警察員Pらは,Bから事情を聞くため,Bが独り暮らしをしているKマンション403号室に赴き,BにH県警察本部への任意同行を求めたところ,Bは,突然,司法警察員Pらを振り切ってKマンションの屋上に駆け上がり逃走を試みたが,同所から転落して死亡した。。
  2  同日,司法警察員Pは,死体遺棄の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,部下と共に,前記Kマンション403号室を捜索し,Bのパソコンを差し押さえた。
 そして,同日,司法警察員Pは,H県警察本部において,差し押さえたBのパソコンに保存されていたメールの内容を確認したところ,A女とBとの間におけるメールの交信記録しか残っていなかったが,Bが甲及び乙からV女を殺害したことを聞いた状況や甲及び乙と一緒にV女の死体を遺棄した状況等を記載したA女宛てのメールが残っていた。そこで,司法警察員Pは,このメール[メール@]を印刷し,これを添付した捜査報告書【資料1】を作成した。また,司法警察員Pは,直ちに,[メール@]をA女に示したところ,A女は,「[メール@]には見覚えがあります。[メール@]は,Bが作成して私に送信したものに間違いありません。Bのパソコンは,B以外に使用することはありません。私がパソコンに触れようとしただけで,『触るな。』と激しく怒ったことがありますので,Bのパソコンを他人が使用することは,絶対にないと断言できます。」などと供述した。
  3  V女に対する殺人,死体遺棄の犯人として甲及び乙が浮上したことから,司法警察員Pらは,直ちに,甲及び乙の前歴及び前科を照会したところ,甲には,前歴及び前科がなかったものの,乙には,平成21年6月,窃盗(万引き)により,起訴猶予となった前歴1件があることが判明した。
 また,司法警察員Pは,差し押さえたBのパソコンにつき,Bと甲との間におけるメールの交信記録,Bと乙との間におけるメールの交信記録が消去されているのではないかと考え,直ちに科学捜査研究所に,消去されたメールの復元・分析を嘱託した。
 さらに,司法警察員Pらは,前記メールの復元・分析を進めている間に,甲及び乙が所在不明となることを避けるため,甲及び乙に対する尾行や張り込みを開始した。
  4  その一方,司法警察員Pは,V女に対する殺人,死体遺棄事件を解明するため,甲及び乙を逮捕したいと考えたものの,まだ,[メール@]だけでは,証拠が不十分であると判断し,V女に対する殺人,死体遺棄事件以外の犯罪事実により甲及び乙を逮捕するため,部下に対し,甲及び乙がV女に対する殺人,死体遺棄事件以外に犯罪を犯していないかを調べさせた。その結果,乙については,V女に対する殺人,死体遺棄事件以外の犯罪の嫌疑が見当たらなかったが,甲については,平成22年1月10日にI市内で発生したコンビニエンスストアLにおける強盗事件の2人組の犯人のうちの1名に酷似していることが判明した。そこで,同年5月10日,司法警察員Pは,コンビニエンスストアLに赴き,被害者である店員Wに対し,甲の写真を含む複数の写真を示して犯人が写った写真の有無を確認したところ,Wが甲の写真を選択して犯人の1人に間違いない旨を供述したことから,その旨の供述録取書を作成した。
 その後,司法警察員Pは,この供述録取書等を疎名資料として,前記強盗の被疑事実で甲に係る逮捕状の発付を受け,同月11日,同逮捕状に基づき,甲を通常逮捕した【逮捕@】。そして,その際,司法警察員Pは,逮捕に伴う捜索を実施し,甲の携帯電話を発見したところ,前記強盗事件の共犯者を解明するには,甲の交遊関係を把握する必要があると考え,この携帯電話を差し押さえた。なお,この際,甲は,「差し押さえられた携帯電話については,私のものであり,私以外の他人が使用したことは一切ない。」などと供述した。
 司法警察員Pは,直ちに,この携帯電話に保存されたメールの内容を確認したところ,Bと甲との間におけるメールの交信記録が残っており,その中には,BがV女の死体を遺棄したことに対する報酬に関するものがあった。そこで,司法警察員Pは,同月12日,殺人,死体遺棄の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,この携帯電話を差し押さえた。引き続き,司法警察員Pは,パソコンを利用して前記Bと甲との間におけるメール[メールA−1]及び[メールA−2]を印刷し,これらを添付した捜査報告書【資料2】を作成した。
 甲は,同日,H地方検察庁検察官に送致された上,同日中に前記強盗の被疑事実で勾留された。なお,甲は,前記強盗については,全く身に覚えがないなどと供述し,自己が犯人であることを否認した。
  5  同月13日,司法警察員Pの指示を受けた部下である司法警察員Qが,乙を尾行してその行動を確認していたところ,乙が,H県I市内のスーパーMにおいて,500円相当の刺身パック1個を万引きしたのを現認し,乙が同店を出たところで,乙を呼び止めた。すると,乙が突然逃げ出したので,司法警察員Pは,直ちに,乙を追い掛けて現行犯逮捕した【逮捕A】。その後,乙は,司法警察員Qの取調べに対し,犯罪事実について黙秘した。そこで,司法警察員Pは,乙の万引きに関する動機や背景事情を解明するには,乙の家計簿やパソコンなど乙の生活状況が判明する証拠を収集するよりほかないと考え,同日,窃盗の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,部下と共に,乙が単身で居住する自宅を捜索し,乙のパソコン等を差し押さえた。
 その後,司法警察員Pは,同日中に,H県警察本部内において,差し押さえた乙のパソコンに保存されたデータの内容を確認したところ,Bと乙との間におけるメールの交信記録が残っているのを発見した。そして,その中には,[メールA−1]及び[メールA−2]と同様のBがV女の死体を遺棄したことに対する報酬に関するメールの交信記録が存在した。
乙は,同月14日,H地方検察庁検察官に送致された上,同日中に前記窃盗の被疑事実で勾留された。
  6  甲に対する取調べは,司法警察員Pが担当し,乙に対する取調べは,司法警察員Qが担当していたところ,司法警察員P及びQは,いずれも,同月15日,甲及び乙に対し,「他に何かやっていないか。」などと余罪の有無について確認した。
 すると,甲は,同日,「V女の死体を『一本杉』付近に埋めた」旨を供述したため,司法警察員Pは,同日及び翌16日の2日間,V女が死亡した経緯やV女の死体を遺棄した経緯等を聴取した。これに対し,甲は,[メール@]の内容に沿う供述をしたものの,上申書及び供述録取書の作成を拒否した。そのため,司法警察員Pは,同月17日から,連日,前記強盗事件に関連する事項を中心に聴取しながら,1日約30分間ずつ,V女に対する殺人,死体遺棄事件に関する上申書及び供述録取書の作成に応じるように説得を続けた。しかし,結局,甲は,この説得に応じなかった。なお,司法警察員Pは,甲の前記供述を内容とする捜査報告書を作成しなかった。
 一方,乙は,同月15日に余罪がない旨を供述したので,司法警察員Qは,以後,V女に対する殺人,死体遺棄事件に関連する事項を一切聴取することがなかった。
  7  甲は,司法警察員Pによる取調べおいて,前記強盗の犯人であることを一貫して否認した。同月21日,検察官は,甲を前記強盗の事実により公判請求するには証拠が足りないと判断し,甲を釈放した。
 乙は,同月18日,司法警察員Qによる取調べにおいて,前記万引きの事実を認めた上,同月20日,弁護人を通じて被害を弁償した。そのため,同日,スーパーMの店長は,乙の処罰を望まない旨の上申書を検察官に提出した。そこで,検察官は,乙を勾留されている窃盗の事実により公判請求する必要はないと判断し,同月21日,乙を釈放した。
 その一方で,同日中に,甲及び乙は,V女に対する殺人,死体遺棄の被疑事実で通常逮捕された【甲につき,逮捕B。乙につき,逮捕C。】。甲及び乙は,同月23日,H地方検察庁検察官に送致された上,同日中に前記殺人,死体遺棄の被疑事実で勾留された。なお,甲及び乙は,殺人,死体遺棄の被疑事実による逮捕後,一切の質問に対して黙秘した。また,司法警察員Pは,殺人,死体遺棄の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,部下と共に,甲及び乙の自宅を捜索したものの,殺人,死体遺棄事件に関連する差し押さえるべきものを発見できなかった。その後,検察官は,Bのパソコンにおけるメールの復元・分析の結果,Bのパソコンにも,甲の携帯電話及び乙のパソコンに残っていた前記各メールと同じメールが保存されていたことが判明したことなどを踏まえ,勾留延長後の同年6月11日,甲及び乙を,殺人,死体遺棄の事実により,H地方裁判所に公判請求した。
 検察官は,公判前整理手続において,捜査報告書【資料1】につき,「殺人及び死体遺棄に関する犯罪事実の存在」,捜査報告書【資料2】につき,「死体遺棄の報酬に関するメールの交信記録の存在と内容」を立証趣旨として,各捜査報告書を証拠調べ請求したところ,被告人甲及び被告人乙の弁護人は,いずれも,不同意の意見を述べた。
  〔設問1〕  【逮捕@】ないし【逮捕C】及びこれらの各逮捕に引き続く身体拘束の適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
  〔設問2〕  捜査報告書(【資料1】及び【資料2】)の証拠能力について,具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
  【資料1】
捜査報告書
平成22年5月3日
H県警察本部刑事部長
司法警察員 警視正 S 殿
H県警察本部刑事部捜査第一課
司法警察員 警部 P 印
死体遺棄 被疑者 B
(本籍,住居,職業,生年月日省略)
 被疑者Bに対する頭書被疑事件につき,平成22年5月3日,被疑者Bの自宅において差し押さえたパソコンに保存されたデータを精査したところ,A女あてのメールを発見したので,同メールを印刷した用紙1枚を添付して報告する。
   
  【メール@】
送信者:B
宛先:A女
送信日時:2010年3月1日 23:03
件名:さっきはゴメン

 さっきは,電話を途中で切ってゴメンな。今日の午後8時に甲が家に来たやろ。ここから,すごいことが起こったんや。いずれ結婚するお前やから,打ち明けるが,甲は,俺の家で,いきなり,「30分前に,俺の家で,乙と一緒にV女の首を絞めて殺した。俺がV女の体を押さえて,乙が両手でV女の首を絞めて殺した。V女を運んだり,V女を埋める道具を積み込むには,俺や乙の車では小さい。お前の大きい車を貸してほしい。V女の死体を捨てるのを手伝ってくれ。お礼として,100万円をお前にやるから。」と言ってきたんや。甲とV女のことは知っているやろ。甲は俺の友人で,V女は甲の奥さんや。乙のことは知らんやろうけど,俺の友人に乙というのがいるんや。その乙と甲がV女を殺したんや。俺も金がないし,お前にも指輪の一つくらい買ってやろうと思い,引き受けた。人殺しならともかく,死体を捨てるだけだから,大したことないと思うたんや。その後,すぐに,甲の家に行くと,V女の死体があったわ。また,そこには,乙もいて,「俺と甲の2人で殺した。甲がV女の体を押さえて,俺が両手でV女の首を絞めて殺したんや。死体を捨てるのを手伝ってくれ。」と言ってきた。その後,俺は,甲と乙と一緒に,V女の死体を俺の車で一本杉まで運び,そのすぐ横の土を3人で掘ってV女の死体をバッグと一緒に投げ入れ,土を上からかぶせて完全に埋めたんや。V女の死体を埋めるのに,午後9時から1時間くらいかかったわ。疲れた。分かっていると思うが,このことは誰にも言うなよ。これがばれたら,俺も捕まることになるから。そうなったら,結婚もできんわ。100万円もらったら,何でも好きなもの買ってやるから,言ってな。
   
  【資料2】
捜査報告書
平成22年5月12日
H県警察本部刑事部長
司法警察員 警視正 S 殿

H県警察本部刑事部捜査第一課
司法警察員 警部 P 印

殺人,死体遺棄 被疑者 甲
被疑者 乙
(いずれも,本籍,住居,職業,生年月日省略)

被疑者甲及び同乙に対する頭書被疑事件につき,平成22年5月12日,H県警察本部において差し押さえた甲の携帯電話に保存されていた甲とBとの間におけるメールの交信記録を用紙1枚に印刷したので,これを添付して報告する。
   
 

【メールA−1】

送信者:B
宛先:甲
受信日時:2010年4月28日 22:00
件名: 早うせえ

V女の死体を埋めたお礼の100万円払え,早うせえや。
お前らがやったことをばらすぞ。

【メールA−2】

送信者:甲
宛先:B
送信日時:2010年4月28日 22:30
件名: Re:早うせえ

もう?し待ってくれ。
必ず,お礼の100万円を払うから。

 
本問の分析
〔設問1〕
 本問では,@ないしCの逮捕の適法性及び,それに引き続く身柄拘束の適法性が問われています。
 【逮捕@】
 司法警察員Pは,V女に対する殺人・死体遺棄事件を解明するため甲を逮捕したいと考えています。ところが,甲に対する本件通常逮捕は,殺人・死体遺棄事件とは異なる強盗被疑事件について行われています。そこで,逮捕@については,別件逮捕につき論じることになるでしょう。
 別件逮捕については,学説・判例が錯綜している感はありますが,いずれの見解に立つ場合でも,理論的・説得的に規範定立できれば十分であろうと思われます。
 甲自身が,V女が死亡した経緯・「V女の死体を…埋めた」旨供述していること,そのため2日間は殺人・死体遺棄事件について取り調べていること,殺人・死体遺棄事件についての上申書・供述録取書作成について一日30分間ずつ説得を続けていること等の事実を評価して妥当な結論を導くことが求められます。
 逮捕@を別件逮捕として違法であるとすれば,その後の勾留も違法となるでしょう。
逮捕@を適法とした場合は,その後の身柄拘束については,勾留(207条,60条)の要件を満たすか別途検討することになるでしょう。
 【逮捕A】
 乙は,窃盗被疑事実により現行犯逮捕されていますが,犯行を現認した司法警察員Qと逮捕者Pが異なっています。そのため,現行犯逮捕の要件(明白性)を満たすか否かが問題となるでしょう。
 現行犯逮捕が令状主義の例外として認められる趣旨から,逮捕者は犯行を現認した者に限られるのが原則であること,例外が認められるとすればその要件(時間的場所的接着性・追跡の継続性等)を説得的に論じた上で,事案を適切に評価し,結論を導くことが求められるでしょう。
 勾留の適法性については,乙に同種前科があること,単身であること等を評価して論じることとなるでしょう。
 【逮捕B】
 甲は,V女に対する殺人・死体遺棄の被疑事実で通常逮捕されています。そこで,逮捕Bについては逮捕の理由(199条1項)があるかを検討することになるでしょう。
 司法警察員Pは,A女の供述,メール@のみでは,甲を逮捕する疎明資料として不十分であると考えているので,その他に,甲自身がメール@の内容に沿う供述をしていることや,客観状況との一致,甲の携帯電話から得られたBとの通信記録等を評価して判断することになるでしょう。
 その後の勾留については,甲が殺人・死体遺棄事件のみならず,一切の質問に対して黙秘していることや,遺棄に用いた道具が発見されていない等の事情を用いて,妥当な結論を導くことが求められるでしょう。
※なお,逮捕@を違法と考えた場合には,逮捕Bでは再逮捕の適法性が問題になる余地があります。
 【逮捕C】
 乙は,V女に対する殺人・死体遺棄の被疑事実で通常逮捕されています。そこで,逮捕Cについても逮捕の理由(199条1項)があるかを検討することになるでしょう。
 ここでも,逮捕Bと同様,A女の供述,メール@のみでは乙を逮捕する疎明資料として不十分であることを前提に考えます。その他に考えられる資料としては,乙のパソコンに残っていたメールA−1,A−2と同内容の交信記録の存在ですが,これらは,窃盗の被疑事実と関連性あるものではありません。そこで,別件捜索差押えに基づいて得られた資料を疎明資料とする通常逮捕の適法性が問題になると思われます。
 別件捜索差押えの違法性を重視するか,その他の適法に得られた資料が存在することを重視するかにより結論が分かれるところでしょう。
 もっとも,乙のパソコンに残っていたメールが死体遺棄事件について逮捕する際の疎明資料になるとしても,直ちにV女に対する殺人事件による逮捕の疎明資料とはなりません。
 逮捕Cについては,その点についても悩みを見せる必要があるでしょう。
 その後の勾留については,乙が一切の質問に対して黙秘していること,乙の自宅からは殺人・死体遺棄事件に関連する差し押さえるべき物が何も見つからなかったこと等を挙げて,評価することが求められるでしょう。
〔設問2〕
 本問では,捜査報告書の証拠能力について,伝聞法則とその例外が問われています。
【資料1】は,BからA女に対して送信されたメールを印刷したものです。この印刷過程は,科学的・機械的作用により保存データを正確に印字するもので非供述証拠に当たるでしょう。もっとも,本件メール@は,V女に対する「殺人及び死体遺棄に関する犯罪事実の存在」を立証趣旨として,証拠調べ請求されています。そのため,甲及び乙が真実殺人及び死体遺棄事件に関係しているか,供述内容の真実性が問題となります。したがって,公判期日における供述に代わる書面である本件捜査報告書には,原則として証拠能力が認められないことになるでしょう(320条1項)。そこで,次に伝聞例外に当たり,例外的に証拠能力が認められないか検討していくことになります。
 その場合,殺人被疑事件については,Bの供述が甲及び乙の発言を含むため,再伝聞が問題となるでしょう。そこで,321条3項を準用した上,324条1項から322条1項の準用の有無を検討することとなるでしょう。本件捜査報告書には,署名・押印がないこと(平成21年度択一本試験36問目肢ア参照),任意になされたものでない疑いがないかについて,慎重に検討していくことが求められるでしょう。
 死体遺棄事件については,B自身の供述が問題となっているため,321条1項3号の要件を満たすか検討する必要があります。@供述不能,A不可欠性,B絶対的特信情況について,具体的事実を適切に抽出・評価することが求められています。
 【資料2】は,Bから甲宛てに送信されたメール(A−1)及び,甲からB宛てに返信されたメール(A−2)を印刷したもので,非供述証拠に当たることはメール@と同様です。もっとも,上記各メールは「死体遺棄の報酬に関するメールの交信記録の存在と内容」が立証趣旨として証拠調べ請求されていますので,やはり供述内容の真実性が問題となり,伝聞法則の適用があります。そこで,伝聞例外の検討が必要となりますが,ここでは,メールA−2は,メールA−1の存在がなければ立証趣旨との関係で意味をなさないものであることに注意する必要があります。
 以下,甲事件と乙事件とに分けて検討します。
 まず,甲事件については,メールA−1はBの供述を内容とするものですので,321条1項3号の要件を満たすか検討する必要があります。
 メールA−2については,まず,死体遺棄被疑事実そのものを内容とする供述ではありません。しかし,死体遺棄事件について報酬の受渡しがあることは,死体遺棄事件との関連性を強く推認させますので,甲にとって,不利益な事実の承認を内容とする供述であることになります。また,メールA−2は,単独では,本件死体遺棄事件の報酬として100万円を支払うものであるか判然としません。しかし,メールA−1と合わせてみると,甲にとって不利益な事実の承認を内容とする供述であることが分かります。そこで,3の22条1項の要件を満たすかを検討する必要があるでしょう。
 次に,乙事件について,メールA−1については,甲事件と同様です。
 メールA−2については,甲は乙と共犯者の関係にありますが,第三者とみることが出来ますので,321条1項3号の検討が必要になるでしょう。@供述不能,A不可欠性,B絶対的特信情況の要件を満たすか検討する必要がありますが,特に,@甲が殺人・死体遺棄事件について一切黙秘していることが供述不能に当たるか,検討する必要があるでしょう。
 
的中情報★★★
 まず,逮捕Cで問題となります別件捜索差押えについては,2011スタンダード論文答練(第1クール)刑事系2第2問(新庄健二先生御担当)で問われております(★★★)。また,逮捕@で問題となります別件逮捕については,2011スタンダード論文答練(第2クール)刑事系3第2問(菊地幸夫先生御担当)で問われております(★★★)。
 また,設問2で問題となります再伝聞については,2011スタンダード論文答練(第2クール)刑事系2第2問(新庄健二先生御担当)で問われております(★★★)。また,同一の問題で,321条1項3号の要件となります絶対的特信情況についても,問われております(★★★)。
  
■公開:2011年05月16日・12:58
 
平成23年(2011年)5月15日に第6回の新司法試験の短答式試験が行われました。
そこで,その概要をまとめましたので,ご参考ください。
☆ 問題数の比較
  公法系(憲法・行政法) 40問(憲法:20問,行政法:20問)
民事系(民法・商法・民事訴訟法)74問(民法:36問,商法:19問,民訴:19問)
刑事系(刑法・刑事訴訟法) 40問(刑法:20問,刑訴:20問)
  〔注:昨年の新司法試験と同様でした。〕
 
☆ 配点の比較
  公法系(憲法・行政法) 満点100点(憲法:50点,行政法:50点)
民事系(民法・商法・民事訴訟法)満点150点(民法:74点,商法:38点,民訴:38点)
刑事系(刑法・刑事訴訟法) 満点100点(刑法:50点,刑訴:50点)
  〔注:昨年の新司法試験と同様でした。07年以降は変化がなく,固定しています。
 
☆ 解答欄番号の比較
  公法系(憲法・行政法) 87まで(昨年は89まで→2つ減っています)
民事系(民法・商法・民事訴訟法)95まで(昨年は95まで→変化ありません)
刑事系(刑法・刑事訴訟法) 76まで(昨年は72まで→4つ増えています)
 
☆ ページ数の比較
  公法系(憲法・行政法) 22ページ(昨年の23ページ→1ページ減っています)
民事系(民法・商法・民事訴訟法)30ページ(昨年の29ページ→1ページ増えています)
刑事系(刑法・刑事訴訟法) 29ページ(昨年の23ページ→6ページ増えています)
  〔注:刑事系が大幅に増えました〕
   
☆ 法務省発表による出願者数・受験予定者数
  1 出願者数 11,892人
2 受験予定者数 11,687人
3 受験者数 8,765人(5月11日現在における報道資料による)
 
☆ 短答合格率の推移(昨年度まで)
   
受験者数
合格点
平成22年度
合格率(対受験者)
 
平成22年度
8163人
215点
5773人
70.7%
7392人
215点
5055人
68.4%
6261人
230点
4654人
74.3%
4607人
210点
3479人
75.5%
2091人
210点
1684人
80.5%
 
平成21年度
 
平成20年度
 
平成19年度
 
平成18年度
 
☆ 各科目の傾向
   公法系では,問題数は変わらず,配点のバランスも変更はありませんでした。いわゆる「1−2問題」は,昨年度よりも5問減って15問となりました。いわゆる「○×○問題」は,昨年度よりも4問増えて18問となりました。いわゆる「ab問題」の形式において,見解・帰結の組合せを問うものは4問となりました。また,行政法において,昨年同様,個数問題はなく,「主張と理由の組合せを選ば験せる問題」が,1問出題されています(第37問)。審査請求と取消訴訟の比較を問う問題は新傾向の問題形式で,今年の特徴だったといえます。今年も,行政組織法の問題が2問出されており(第39問,第40問),行政法もバランスよく準備する必要があるといえます。
 問題の内容としては,昨年と同様,条文知識や判例知識問題が中心といえますが,特に,類似事件に関する判例を横断的に聞いている問題が目立ちました(第3問のプライバシー権,第6問の政教分離,第30問の訴えの利益など)。また,最新判例に関する問題も見受けられました(第7問の表現の自由,第26問の産業廃棄物処理施設に関する判例問題,第29問の優良運転免許証の判例)。判例重視の傾向が顕著に出ていますが,行政法については,昨年と同様,条文の理解が重要だといえます(第23問・第24問の行政手続法,第27問の行政代執行法,第38問の行政事件訴訟法と行政不服審査法など)。条文を正確に押えておくことが重要であるといえます。また,具体的な事例から条文・判例に当てはめて結論を出させる問題(第33問の住民訴訟,第34問の建築確認取消訴訟)など,行政法に関しては論文を意識した出題もなされていました。
 民法については,昨年と同様,条文と判例の知識について,幅広い分野から基本的な問題が出題されています。その中でも,横断的な知識を問うもの(第4問,第5問,第17問,第19問,第28問)が特徴的な問題であるといえます。
 次に商法においては,横断的知識を問うもの(第43問,第45問)や,普段の勉強では手薄になりがちな分野につき非常に細かい知識を問うもの(解散につき第47問,合同会社につき第48問,新設分割につき49問)及び,似た制度の異同を問うもの(第40問,第44問)が特徴といえます。また,単なる条文知識を問うのではなく,その制度の経済的効果を問うもの(第41問),趣旨についての理解を問うもの(第46問)及び,具体的事例が定義に当てはまるかを問うもの(第52問)等,多彩な問い方をしています。
 民訴については,例年通り,条文の知識についての問題は,第56問の除斥及び忌避,第61問の訴状審査,第73問の再審等のように,論文での学習では手薄になりがちな分野からも出題されています。判例の見解を問う問題については,第63問のように弁論主義の具体的適用を問うものや,第74問のように具体的事例について,幅広い分野からのあてはめを問う問題も出題されています。また,第56問,第64問,第65問の肢の一部に申立ての要否を問う等,実務を意識した問題が出題されています。
 刑事系では,問題数は変わらず,配点のバランスも変更はありませんでした。刑法は,各論・総論が交互に問われ,刑訴は,捜査,公判,証拠,特別法と体系的に配列されています。刑法では,いわゆる「1−2問題」が昨年より1問減り6問でした。一方,「順不同問題」が12問あり,昨年度より6問増えました。また,刑訴では「個数問題」が昨年より2問増えて4問ありました。
 問われている知識は,刑法・刑訴ともにほぼ基本的な知識からの出題であると思われます。刑法では,事例を読ませて成立する犯罪を答えさせる問題があり(第19問,第20問),刑訴では,配点4の問題が1問(第28問)ありました。内容的にも,弁解録取書(第23問),釈放(第28問),冒頭手続(第30問)などで,これらの問題は,単に知識を問うものではなく,法科大学院における実務的な教育を意識した問題であるといえます。
 今年は,刑訴で,穴埋め問題(第39問)など事務処理を要求する問題もありましたが,過度に複雑なものにならないように配慮されており,短時間で解答できるものでした。刑訴は,捜査の端緒(第21問),捜索・差押え(第24問),即決裁判手続(第27問),保釈(第28問),冒頭手続(第30問),再審(第40問)など,捜査や手続きに関する正確な知識が重要になったといえます。普段から,実務を意識した学習を心がけ,予備校などで問題になれておく必要があるといえます。刑事系全体としては,刑法・刑訴に限らず,実務を意識しつつ,幅広く学習していくことが必要であると思われます。問題文をしっかりと読み,あてはめをし,解答する必要があると思われます。
  
■更新:2011年06月10日・19:30
■公開:2011年05月19日・13:09
  ●倒産法 公開:2011年05月20日・14:04
  ●租税法 公開:2011年05月19日・13:09
  ●経済法 公開:2011年05月20日・13:31
  ●知的財産法 更新:2011年06月10日・19:30
    公開:2011年05月19日・13:09
  ●労働法 公開:2011年05月21日・10:26
  ●環境法 更新:2011年06月09日・17:07
    公開:2011年05月19日・13:09
  ●国際関係法(公法系) 公開:2011年05月19日・13:09
  ●国際関係法(私法系) 公開:2011年05月22日・10:30
 
Copyright 2000-2004 TATSUMI Co.,Ltd. ALL Right Reserved.