HOME > 司法試験 > 平成28年度 司法試験本試験速報

  
 
@論文式試験【公法系】
・第1問   ・第2問
  公開
公開
5/13 13:10
5/13 14:15
 
  
A論文式試験【民事系】
・第1問   ・第2問    ・第3問
  公開
公開
公開
5/18 12:20
5/18 13:00
5/16 18:25

 
   
B論文式試験【刑事系】   公開
5/18 10:15  
・第1問   ・第2問   更新 5/19 11:15  
    公開 5/18 10:40  
    
C論文式試験【選択科目】        
・倒産法  

公開

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5/20 11:10
6/03 13:50
 
・租税法  

公開

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5/18 14:00

6/03 12:50

 
・経済法   公開
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5/20 11:50
6/10 11:35
 
・労働法  

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更新

5/20 18:30

6/03 14:10

 
・環境法   公開
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5/16 18:45
6/03 11:40
 
・国際関係法(公法系)   公開
更新
5/18 17:15
6/03 12:00
 
・国際関係法(私法系)   公開
更新
5/16 19:20
6/03 12:20
 
・知的財産法  

公開

更新

5/17 16:50
6/03 13:20
 
 
  
 
 ●第1問 憲法
■公開:2016年05月13日/13:10

はじめに

 今年の公法系科目第1問(憲法)は,性犯罪者にGPSを装着させる性犯罪者継続監視法に関し,〔設問1〕で性犯罪者Aの付添人(弁護士)の立場からの違憲主張を論じさせ,〔設問2〕で検察官の反論と私見を述べさせるものです。
 まず,昨年の本試験問題に付されていた配点が今年は付されていませんでした。問題文本文が2頁,参考資料が2頁となっています。
 また,難易度に関しては,一部検討すべき人権が明確でなかった昨年と比較して,本問は内容的にも分量的にも,若干難易度が低いものと思われます。
 さらに,本問に関しては,木下智史ほか編著『事例研究憲法』(日本評論社,第2版,2013)P.468〜483「〔問題11〕日本版メーガン法案」(木下智史執筆),平成16年度旧司法試験論文式試験憲法第1問と類似するものといえ,昨年までと比較して出題内容の初見性はやや薄れた感があります。また,松井茂記『性犯罪者から子どもを守る』(中公新書,2007)P.233〜5には,GPS監視に関するアメリカのフロリダ州の法律を紹介しております。

  

問題文

  平成28年5月16日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験公法系の問題文はこちら
  

3 本問の分析  
 第1 設問1(Aの付添人(弁護士)側の違憲主張)
  

 本問の性犯罪者継続監視法(以下「本法」という。)は,既に刑の執行を受け終わった者に対して,さらに行動の自由およびプライバシー権を常時制約します。
 警察本部長等により指定された地域に対する,罰則を伴った立入り禁止制限は,移動の自由(憲法22条)に対する制限であり,行政機関である警察が対象者の現在地を常時,継続して監視することは,個人のプライバシー権(憲法13条)の侵害にあたるといえるためです。
 移動の自由や個人のプライバシーは,個人の人格的生存に関わる権利であり,この規制が正当化されるためには,立法目的が,必要不可欠な「やむにやまれぬ利益」を保護することにあり,規制手段が,目的達成のために必要な最小限度のものである必要があります(芦部信喜『憲法』(岩波書店,第6版・高橋和之補訂,2015)P.125)。本法の目的は,性犯罪の再発防止,性犯罪者の社会復帰,地域社会の安全とされています(本法1条)。この目的は,性犯罪が被害者の心身に重大な影響を与える重大犯罪であるとともに,その不安が地域社会の日常生活に大きな支障を与えるものであること,および性犯罪が再犯の危険の大きいものであることから,その再犯を事前に抑止することは,必要不可欠なやむにやまれぬ利益があるということができます。しかし,その手段は,一定の心理的,病理的要因等により特定の性的衝動に対する抑制が適正に機能しにくい性犯罪者を対象に,罰則を伴う行動範囲の規制を行い(本法3条,23条,24条,31条),その体内にGPSを取り付けたうえでその者の動向を警察が監視するとともに,警察官が現場に急行できる態勢がとられるというものです。性的衝動に対する抑制が難しい者にとっては,GPSによる監視があっても自らの意思による性犯罪の抑止につながらないといえ,その一方で自らの行動が警察に常時監視されていることに伴うストレスは,対象者に過大な負担を与える規制態様であるといえます。このような者に対する再犯防止制度としては,医療機関によるカウンセリングや薬物療法といった治療行為のほうがより人権制約の程度が低く適切な手段であるといえます。また,本法3条,23条で指定される学校や公園とその周辺といった領域は,公立学校が一定の人口規模に応じて必ず設置されることを考えると,居住領域のほとんど全てに立入りが規制されることになり,性犯罪者の社会生活の維持が困難となり,かえって更生を実質的に不可能なものとしてしまうといえます。そのため,本法の規制手段は,目的達成のために必要な最小限度のものであるということはできません。
 したがって,本法は憲法13条,22条の人権に対する不当な制約であり,違憲となります。
  

 第2 設問2(想定される検察官の反論)
 

 以上のAの付添人の主張に対し,検察官としては,一定の再犯の危険性の高い者の位置情報は「公共の利害にかかわる情報」であるとして,立法目的が重要なものであり,規制手段が目的と実質的な関連性を有する場合には合憲であるといえると反論することが考えられます。
これを本法についてみると,性犯罪の再発防止,性犯罪者の社会復帰,地域社会の安全といった本法1条の立法目的は,刑事政策上重要なものであるといえます。
 次に,性犯罪は再犯可能性が高く,その再犯を事前に抑止するためには,再犯の危険性の高い者の行動を常時監視し,いつでもその者の現在地に警察官を派遣できる態勢をとらなければなりません。なぜならば,本問問題文で取り上げられた2つの事件のように,性犯罪が外部の目に付きにくい場で行われる傾向があるために,再犯可能性のある者を常時監視しなければ,性犯罪の再犯抑止という立法目的の実現が不可能であるといえるためです。また,そのための手段として,対象者選定に科学的根拠のある基準を用いた上で,健康上・生活上支障のないとされる態様でGPSを体内に埋め込むことは,対象者の人権への配慮と監視の実現を両立させうる手段であるといえ,目的と実質的関連性を有するといえます。
  

 第3 設問2(憲法上の問題点についての私見)
 

1 問題となる憲法上の規定について

        個人の私生活上の自由の一つとして,何人も,個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない利益は憲法13条の保護の対象となります(最判平20.3.6民集62−3−665,住基ネット判決)。このようなプライバシーに関する権利は,個人の人格的生存に関わる重要な私的事項であるためです。行政機関である警察が,対象者の現在位置をリアルタイムで特定できる技術手段であるGPSを用いて,個人の現在位置を常時監視することは,個人のプライバシーの制約にあたります。また,個人の移動の自由(憲法22条)は,経済的な自由であるだけでなく,私生活上の自由(憲法13条)とも関連する権利であるといえます。GPSの監視に基づく警察官の派遣の態勢,罰則を伴う立入り禁止区域の設定は,このような移動の自由に対する制約にあたります。
  2 合憲性判定基準について
     本法は,憲法13条,22条の自由に対する制限を含むため,その合憲性判定基準が問題となります。本法でとられている規制態様は,刑の執行が終わりもはや一般人同様の自由が認められるはずの段階において,「20年以内」という長期間の範囲で,警察による現在位置の常時監視がなされるものです。また,行政機関の設定した,一般居住区域における立入り禁止が予定されている点で,日常生活における行動領域が規制されています。この規制態様は,監視されている個人の自由意思に基づく移動と生活の自由に対して強い萎縮効果をもたらし,その日常生活の領域を制限することから,個人の私的生活を強く制約する,強度の人権制約といえます。
 しかしながら,性犯罪は密行性が高く事前抑止には技術的な困難があること,また性犯罪が致死傷を含め被害者にとって重大な危害を及ぼす性質を持ち,さらに再犯の危険性の大きい犯罪類型であることから,その再犯防止を実現するためには強度の手段が不可欠です。そのため,本法が憲法13条および22条に反せず合憲といえるかは,立法目的が重要なものであり,規制手段が目的と実質的な関連性を有する場合に当たるか否かで判断すべきです。
  3 具体的検討
     本法は,科学的根拠に基づき「心理的,生理的,病理的要因等により特定の性衝動に対する抑制が適正に機能しにくい」と判断された者を対象に,再犯防止と更生を図り,地域社会の安全を図るというものです。このような,自己の意思で性犯罪を抑止することが困難である者について,性犯罪という重大犯罪の再犯防止には外的な制約が必要であるといえます。そのため,本法の立法目的は重要といえます。
 次に,監視者である警察による被監視者の行動把握と同一組織に属する警察官が現場に急行できる態勢の整備は,人気のない場所で行われるなどの密行性の高い性犯罪の抑止に一定の効果があることは否定できません。
 もっとも,この規制手段は,対象者にとっては心理的な抑止効果が期待できません。なぜなら,本法のGPS取り付けの対象者は「特定の性衝動に対する適正な抑制が機能しにくい」者であるため,そもそも理性に基づく性犯罪に対する自己抑制が期待できないからです。このような者に対する,GPSを用いた監視は,被監視者にとって日常生活を常時把握されているという心理的負担を生じさせるだけの結果となります。このような者の性犯罪傾向の抑止と再犯防止には,むしろ医療手段による治療が必要かつ有効適切であるといえます。また,本法の一般的危険区域の対象となっている幼児の保育施設や学校は,地域社会の生活圏に応じて設置されているものです。児童・年少者の保護を全うするためには,学校の学区内をカバーする範囲を特定危険区域に指定し,立入り制限の対象とする必要があります。また,地域社会の安全という目的からは,社会の不安感を払拭するためにより広い範囲で立入り禁止区域の設定が要求されることになります。このことは,被監視者が一般の居住地域のほぼ全ての領域から排除される結果となり,その生活と更生が事実上不可能になってしまうため,本法の行動制限によって,性犯罪の防止及び社会の安全という立法目的と,性犯罪者の更生という立法目的とは,排他関係になってしまうことに結びつきます。したがって,本法の規制手段によっては,その立法目的を達成することができず,立法目的と規制手段の実質的関連性を認めることはできません。
 したがって,本法は,憲法13条,22条に反して違憲となります。
  
 〔参考判例〕
 


仙台弁護士会「宮城県の性犯罪者等監視条例試案に反対する会長声明」平成23年1月27日
 


法務省総合研究所 「研究部報告44 諸外国における位置情報確認制度に関する研究―フランス,ドイツ,スウェーデン,英国,カナダ,米国,韓国―」
   

4 的中情報★★★

スタ論【スタート】2016憲法3「プライバシー権」(福田俊彦先生ご担当)★★★
  
2016司法試験絶対合格直前早まくり講座公法系憲法Theme1:新しい人権(柏谷周希先生ご担当)★★
  
 ●第2問 行政法
■公開:2016年05月13日/14:15

はじめに

 今年の公法系科目第2問(行政法)は,いわゆるスーパー銭湯の建設開業に関する事例のもと,設問1として第三者の原告適格,設問2として本件例外許可の違法事由,設問3として違法性の承継,設問4として本件確認の違法事由を検討させています。
まず,設問1〜4の配点の割合は,25:30:30:15と問題文冒頭に記載されております。
 また,問題文の頁数は13頁(実質12頁)で,問題文本文,会話文の分量は例年並みですが,参考法令等の分量が例年と比較して多くなっております。
 さらに,本問は,名古屋地決平9.2.21(判タ954―267,スーパー銭湯建築差止仮処分決定)の事案を素材にしたものと思われ,本決定の判例批評を平成28年司法試験考査委員である金子正史教授が執筆されており(同「判批」自治研究75巻3号97頁),本問の分析に際して参考になるものと思われます。
 なお,本問に関しては,下記にお示ししたように,スタンダード論文答練や司法試験全国公開模試などが数多く的中致しました。特に原告適格などは,本試験での出題の周期性,考査委員の関心分野などから出題可能性が高いと思われるテーマでした。

  

問題文

  平成28年5月16日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験公法系の問題文はこちら

    
3 本問の分析 
 第1 設問1
  

 設問1では,本件例外許可の取消訴訟において,X1らとX2らそれぞれについて,原告適格が認められるか検討することになります。X1らは本件自動車車庫に隣接し,本件自動車車庫から直線距離で約6m離れた場所に居住しており,他方,X2らは本件敷地から約45m離れているものの,幹線道路から本件自動車車庫に通ずる道路沿いに居住しております。本件で指摘された事実に基づいて原告らの安全で良好な住環境を享受する利益を特定し,直接の処分の根拠法規である建築基準法のみならず,都市計画法の趣旨目的をも参酌しながら検討していくことになります。なお,両名が処分の名宛人でないことから,行訴法9条2項の考慮事項に従って,両名の原告適格の有無を丁寧に論証していく必要があるでしょう。
  

 第2 設問2
 

 設問2では,本件例外許可の取消訴訟において,想定されうる違法事由を指摘して,検討していくことが求められています。まず,手続的な瑕疵としては,建築審査会の議決にAの親族である委員Bが加わっていたことが指摘できます。公共の福祉について公平な判断を行うことが期待されるために設けられた除斥規定ですから,たとえ除斥してもなお議決の成立に必要な過半数の委員の賛成があるとしても,重大な手続規定違反であり,あるいは除斥によって結果が変わりうる可能性があったこと等が指摘できます。
 また,実体面について,建築基準法の規定上,本件例外許可の判断については特定行政庁に一定の裁量の余地が認められるものと解されます。そのため,本件例外許可の許可基準を定めた本件要綱は,裁量基準ということができます。そこで,本件自動車車庫が本件スーパー銭湯に付属するものとすれば床面積の合計が基準を超えること,および1層2段式の自動車車庫が2階建てに該当すること,本件で指摘されている,騒音やライトフレア,および排気ガス等の被害が発生し,これに対する適切な措置がなされていない,として要綱に違反するものであることも指摘できるでしょう。さらに,許可方針や根拠法規の趣旨・目的を踏まえ,本件の個別の事情を考慮すれば,許可すべきことが裁量権の逸脱・濫用に該当すること等も指摘できます。
  

 第3 設問
   設問3では,本件確認の取消訴訟において,本件例外許可の違法事由を主張することができるかが問われております。設問で指摘されたように,設問2で挙げた本件例外許可の違法事由が認められることを前提とすれば,そちらの訴訟で救済を図ればよいわけですが,そこで本件例外許可を先行処分と捉え,後続する処分である本件確認の取消訴訟において,その当該先行処分の違法性を主張できるかどうか(違法性の承継)が本問の論点となります。
 本件例外許可と本件確認の判断は,異なる機関がそれぞれの権限に基づき行っており,許可にあたっての利害関係人への意見聴取や建築審査会による同意を前提としているため,別個の処分であると主張することもできます。他方で,本件例外許可を前提に本件スーパー銭湯の建設が予定されていることからすれば,本件例外許可が本件確認の前提行為ないし準備行為にあたり,先行処分と後行処分とが連続した一連の手続をなして,ひとつの効果を実現すべく存在しているものとして違法性の承継を認めるよう主張していくことも可能でしょう。
  
 第4 設問4
   設問4では本件確認の取消訴訟について,Xらによる本件確認の違法事由を挙げた上で,本件確認が適法であるかどうかを検討するよう求められています。つまり,本件スーパー銭湯が,建築基準法別表第二(い)第7号の,第一種低層住居専用地域内に建築することができる建築物としての「公衆浴場」に該当するかどうかを検討することになります。ここでいう「公衆浴場」について,風営法が規制する施設に該当せず,本件スーパー銭湯も公衆浴場法が定義する「公衆浴場」に該当すると解することもできますが,他方で,「公衆浴場」とは地域住民の日常生活において保健衛生上必要な施設である「一般公衆浴場」のみを指すものであることも指摘できます。また,都市部における浴場建設の必要は低くなっている上,単独では第一種低層住居専用地域内に建設できない飲食施設等を完備しており,大規模な駐車場の建設によって,周辺地域のみならずより広範囲な集客を想定しているため,本来的な公衆浴場の目的を逸脱した遊興娯楽施設であること,風営法の対象施設に該当しないとしても,そのことから直ちに本件スーパー銭湯が「公衆浴場」であるとはいえず,法の趣旨目的を逸脱した施設であること等を主張していくことができるでしょう。
4 的中情報★★★
2016司法試験全国公開模試公法系第2問「原告適格」★★★
2016福田クラス直前フォロー答練:答練編公法系第2問「原告適格」(福田俊彦先生ご担当)★★★
2016スタンダード論文答練(第2クール)公法系3第2問「裁量基準意義と違法事由の書き方等」(西口竜司先生ご担当)★★★
2016スタンダード論文答練(第1クール)聴く答練・公法系第2問「違法性の承継」(西口竜司先生)★★★
  
 ●第1問 民法
■公開:2016年05月18日/12:20

はじめに

 今年の民事系科目第1問(民法)も,代理権の濫用,民法94条2項の類推適用,賭博に関する債権と異議をとどめない承諾,不当利得,連帯保証契約など,民法の財産法全体について,比較的著名な論点が問われました。全体の難易度としては若干高めかと思われます。
 そして,問題文は4頁(実質2頁半)で,判旨・会話文・関係法令・添付資料等の掲載はありません。また,設問は1と2(設問1は小問(1)と(2),設問2は小問(1)から(3)に分かれます。)で構成され,設問1と2の配点の割合は,4:6と問題文冒頭に記載されております。
  

問題文

  平成28年5月16日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験民事系の問題文はこちら
 

3 本問の分析 
 第1 設問1(1)
  

  本小問(1)では,EのA及びDに対する,甲土地の所有権移転登記手続の「請求の根拠」及び「請求の当否」が問われています。
  まず「請求の根拠」ですが,平成24年2月10日にAはCの法定代理人(親権者父民法824条本文)として,Eとの間で甲土地を代金450万円で売却する旨の売買契約(以下「甲土地売買契約」という。)を締結し,甲土地の所有権はEに移転した旨を主張するものと考えられます。そうであれば,設問1の甲・乙両土地に係る各請求は,いずれも土地所有権に基づく妨害排除請求権を訴訟物とするものと理解できます(【事実】1〜11)。
    したがって,小問(1)で問われている請求の「根拠」としては,まず物権的妨害排除請求権としての甲土地所有権移転登記請求権が挙げられます。この訴訟物の場合は,甲土地売買契約当時,売主Cに甲土地所有権があった事実(いわゆる「もと所有」)も請求原因として必要になりますが,Eは「所有者C」の代理人Aとの間で甲土地売買契約を締結したと主張していますから,同時点での「C所有」については権利自白が成立します(【事実】2,4)。
  被告適格は,Cの所有権登記,C死亡による妻D(法定相続分2/3)及び父A(法定相続分1/3)の甲土地相続,によって根拠付けられます。
 

  上掲物権的請求権とは別に,小問(1)の請求の「根拠」を債権的請求権としての甲土地所有権移転登記請求権と構成することも可能です。
  この債権的登記請求権の発生原因事実は,「平成24年2月10日にAはCの法定代理人(親権者父)として,Eとの間で甲土地を代金450万円で売却する旨の売買契約を締結した。」ことで足りますから,2の物権的登記請求権の発生原因事実の中に包含されていることになります。そこで,上掲物権的登記請求権と債権的登記請求権との関係が問題となります。
  訴訟物の決定は,原告の専権に属する事項ですから(民訴法246条),上掲物権的登記請求権の請求原因が債権的登記請求権をも訴訟物として内包しているか(訴訟物の客観的併合があるか)は,Eの訴え提起という訴訟行為の解釈に帰し(注1),本件では,積極・消極いずれの解釈も可能です。ただ,本件事案の実情をみると,次の4で適示するように,Aの法定代理権行使が親権の濫用に当たるところ,この濫用につき相手方Eは悪意といえるか否かが実質的争点の核心部分であり,E,D.Aはともに,これの帰趨によって甲土地所有権の帰属をめぐる争いを決着させようと本件訴訟に臨んでいるものと理解されます。そうであれば,本件事案の訴訟物は,2の物権的請求権のみと理解することも,実務的には許されるでしょう。
  以下,この立場に立ってEの請求の当否を検討します。
  


   
  (注 1) 民訴法246条と「a+b」:攻撃防御方法にあっては,ある独立した攻撃防御方法(仮に「a」)を内包した「a+b」となる別の攻撃防御方法が主張された場合に,「a」事実で攻撃防御方法として目的を達成することができるときは,いわゆる「a+b」の関係にあるとして,「b」事実の部分を過剰な攻撃防御方法(攻撃防御方法としては無意味なもの)と扱うことも起こり得る(司法研修所編・増補民事訴訟における要件事実一巻p58(一)」)。しかし,訴訟物にあっては,そのような扱いは許されず,選択的もしくは予備的併合の有無が問題とされる(上掲書p61(二))。
  
    上記2,3の請求に対して,被告A,D側としては,甲土地売買契約は,Aが,自らの遊興を原因とする1000万円を超える借金の返済に窮して,甲土地及び乙土地をCの承諾を得ずに売却し,その代金を自己の借金の返済に充てる意図のもとに締結したものであり(事実1〜11),代理権の濫用行為であるとして,本人Cに効果は帰属しないと反論(抗弁)するものと思われます。
  そして,最判昭42.4.20(民集21−3−697,百選T26事件)は,代理人が自己または第三者の利益を図るため権限内の行為をなしたときは,「相手方が代理人の右意図を知り,または知ることをうべかりし場合に限り,本条但書の類推により,本人はその行為についての責に任じないと解すべきである。」と説き,本件のような親権者が子を代理する権限を濫用して法律行為をした場合についても,最判平4.12.10(民集46−9−2727,百選V48事件)は,民法93条ただし書の類推適用によって処理しています。
  本件はAに法定代理権が存在する場合ですから,上掲各判例が示す代理権濫用の法理に従い,甲土地売買契約の効力を定めるべき事案といえます。そうであれば,相手方Eが悪意であることの明らかな本件では(【事実】6),Dが主張する法定代理権濫用の反論(甲 土地売買契約の無効)は理由があると認められます。
    問題はAにあります。なぜなら,AがDと同様に法定代理権の濫用を主張することが許されるかは問題です。Aが法定代理人としてした代理行為を自ら「濫用」と自認することであり,このような反論(抗弁)を許して所有権(持分権)移転登記義務を免れさせることは,まさしく禁反言法理に抵触するからです。
  代理権濫用者が自分の代理権濫用行為を理由に,当該法律行為の無効を主張することは許されないとする禁反言の法理の適用を肯定するときは,上掲4の代理権濫用の主張はDの抗弁としてのみ成立し,Aの抗弁としては成立しないことになります(D・Aは通常共同訴訟人ですから,民訴法39条の適用があります。)。
  したがって,甲土地売買契約の締結後にC・Dが婚姻し,その後Cが死亡したことによって,甲土地はAとDに共同相続された場合(上掲2),甲土地のA相続分(1/3)については,Aは代理権濫用の抗弁を主張できないこととなり,甲土地売買契約はこの限度で有効(有権代理)となり,Aはその持分につき移転登記義務を負うことになります。
  
 第2 設問1(2)
 


  小問(1)で説明したとおり,Dは乙土地の所有権の3分の2の持分を相続した者ですから,この共有持分権に基づく妨害排除請求として,Fに対して丙建物収去乙土地明渡しを請求できるかが問題となります。
    相続による遺産共有の法的性質については議論があるところですが,判例及び多数説は民法上の共有と解しています(合有理論不採用)。
  民法上の共有の場合,個々の共有者は,各自が共有物全体を使用する権利を有するわけですから,各自が他の共有者に対して,共有持分権に基づき丙建物収去・乙土地明渡しのような妨害排除請求をすることはできないと解されています(最判昭41.5.19民集20−5−947,内田貴『民法T(第4版)』P.398)。ちなみに,共有者ではない不法占拠者に対しては,各共有者は保存行為として,単独で,共有持分権に基づく妨害排除請求を提起できます(民法252条ただし書)。そこで,被告Fが乙土地の共有者に当たるか否かが問題となります。
  Fは,平成24年3月30日,Eから乙土地全部を代金750万円で買い受け,所有権移転登記を経由していますが,それより前の同月5日(Cが死亡し,乙土地の相続が開始した時点)で,売主Eは乙土地について共有持分(1/3)を有していたことになり(甲土地についての第11〜5参照),その特定承継人Fは乙土地の共有者に当たることになります。
    したがって,Dは乙土地の所有権の3分の2の持分を相続しますが,その乙土地の共有者であるFに対しては,その共有持分権に基づく妨害排除請求として,丙建物収去乙土地明渡しを請求することはできないことになります。
  ちなみに,共有物の管理は,共有者の持分の価格の過半数によることと定められています(民法252条本文)。
    最後に,Fは,売主Eが乙土地につき無権利者であることについてはまったく知らず,善意であったとして,民法94条2項の類推適用により,Fが乙土地の単独所有権を取得した旨の反論をすることが考えられなくもありません。
  しかし,民法94条2項の類推適用があるためには,売主E所有との外形を作り出している状況について,E本人(本件の場合はCの相続人A及びD)の帰責性が要件となるところ,そのような帰責性の要件が存在することは全く認められません(かえって,「平成25年3月5日,Dは,Cの一周忌の法要の席上において,Aに対し,Cの遺産について尋ねたが,AはDの質問を無視した。その後も,AはDからの電話の着信や郵便物の受領を全て無視している。」「平成25年4月15日,Dは,Cの遺産に関する自らの疑問を解消したいと考え,弁護士に調査を依頼した。」との事実が認められます。)。加えて,Dには虚偽の外観を長年黙認したなどの事実も認められず,帰責性を肯定することはとうてい困難と思われます。
  よって,民法94条2項の類推適用により,Fが乙土地の単独所有権を取得する旨の反論は認められないものと考えられます。
  
 第3 設問2(1)
        本小問においては,平成26年8月1日にHは,HE間の平成26年4月1日付消費貸借契約に関する債権(本件債権)を,既発生の利息債権も含めて,400万円でMに売却(債権譲渡)し,債務者Eは,異議をとどめない承諾をしています。そこで,Mは,Eに対して,Hから譲り受けた貸金元金返還請求権,利息請求権,遅延賠償請求権に基づいて,元金500万円とそれに対する約定利息及び約定遅延損害金の支払を請求することができるでしょうか。ただし,本件債権は,賭博に使うつもりで借りたものなので,異議なく承諾したことの効力が問題です。
    この点,最判平9.11.11(民集51−10−4077)は,「賭博の勝ち負けによって生じた債権が譲渡された場合においては,右債権の債務者が異議をとどめずに右債権譲渡を承諾したときであっても,債務者に信義則に反する行為があるなどの特段の事情のない限り,債務者は,右債権の譲受人に対して右債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張してその履行を拒むことができるというべきである。
  けだし,賭博行為は公の秩序及び善良の風俗に反すること甚だしく,賭博債権が直接的にせよ間接的にせよ満足を受けることを禁止すべきことは法の強い要請であって,この要請は,債務者の異議なき承諾による抗弁喪失の制度の基礎にある債権譲受人の利益保護の要請を上回るものと解されるからである。」と判示しています。
    そして,本判決の最高裁判所調査官解説によれば,債務者に信義則に反する行為があるなどの特段の事情のあることの例として,「債務者が異議なき承諾をして譲受人を安心させ,譲渡人が譲渡の対価を受領した後に行方をくらまし,債務者は後に公序良俗違反の抗弁を主張して譲受人に損害を与えようとしたというような場合が,特段の事情のある場合の例として考えられる」(野山宏「判解」最高裁判所判例解説民事篇平成9年度(下)P.1358〜9)とされており,本問【事実】23及び24は,この例に該当するものと思われます。本件の関係者を取り巻く事情が最判平9.11.11とどれだけ近似し,また同判例の事情があてはまるかは,具体的事案を丁寧に見る必要がありますが,傾聴すべき判例であり,本小問の解答の参考にしてください。
  事情によっては,との留保をつけたうえで,Mに対し,本件債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張してその履行を拒むことがあながちできないわけではなく,関係者を取り巻く事情によっては,異議を止めない承諾をした後であっても,Mは,Eに対して,本件譲受債権に基づく500万円とそれに対する利息や遅延損害金の支払を請求しても安心はできません。
  
 第4 設問2(2)
    本小問においては,「Mは,Eに対して,法定債権に基づき,500万円とそれに対する利息や遅延損害金の支払を請求することができるか。」が問われています。
  法定債権としては,「事務管理」,「不当利得」,「不法行為」が思い浮かぶでしょうが,不当利得を論じてもらいたいというのが出題者の意図だと思います。事務管理に該当する要件事実は本事案には直接は現れませんし,不法行為は,小問(3)におけるように,はっきりした故意・過失行為が本小問に見られるわけでないから,詮索しなくてよいでしょう。
  不当利得については,賭博用資金の借入れとする本件借入れの動機(【事実】16,【事実】19)が本小問と関わってきます。
    本小問の債権買主,Mは,HE間の金銭消費貸借契約が公序良俗違反により無効であるときは,仮定的もしくは予備的に,HE間で給付があった500万円(【事実】19)の返還を請求できると解されます。ただし,この不当利得返還請求はいわゆる給付利得の返還を求める手段にとどまり,上掲約定利息及び損害金(いわゆる逸失利得)は請求できません。
  Eが弁済期を過ぎても利息を含め1円も支払っていないことを理由に,Eには利得があるとして,上掲約定利息や遅延損害金(いわゆる逸失利得)の支払を請求できるかを問題とする向きもあろうかと思われますが,いわゆる給付利得の返還を遅滞した場合は,履行遅滞を理由とする損害賠償請求によって救済されるべき事案であって,いたずらに給付利得返還債務の損害の範囲の拡大を図るべきではないと考えます。
    これに対しEは,賭博資金借入れは不法な原因に基づく給付であることを理由に,不当利得返還請求そのものが否定されるべきであるとの主張(民法708条本文)が考えられるので,付言します。
  HE間の金銭消費貸借契約は,Eが懇意にしている仕入先のHに頼み込んで,500万円を借り受けたものですから,たとえHが賭博に使われることを知っていたとしても,実際に賭博に費消したEの不法性とは比べものにならず,708条は本件には適用されないと解すべきでしょう(最判昭29.8.31民集8−8−1557)。
  
 第5 設問2(3)
    貸借契約を要物契約と理解する判例及び多数説に立てば,本小問(3)では主債務の成立がないから(KE間に金銭消費貸借の成立要件欠落),付従性によりKのLに対する保証契約上の元本・利息・損害金債権合計584万円は発生していません。
  ところが,Lは,Kの欺罔及びEの過失により,上記債務が発生しているものと誤信させられ,平成27年6月29日,同額の金銭債務合計584万円を弁済の給付金としてKに支払っています。
    LがEから本件弁済金584万円を取り戻す根拠となし得る債権があるかどうかですが,題意により不法行為に基づく請求権を除いて検討すると,Eには弁済金584万円につき利得は発生する関係にありませんから,Lは不当利得返還請求権を根拠にすることはできない相談です(注2) 。
    よって,不法行為を理由とするのであれば,別論ですが,これに拠らないで,Lが,Eに対して584万円の支払を請求することはできません。
    債権法改正を控えて,貸借契約を諾成契約と理解する学説も近年は目立ってきています(改正案587条の2参照)。一口に諾成契約説といっても説かれる内容は一律ではありませんが,例えば目的物返還債務の発生時期の点で大別してみると,次のようになります(新注民(15)p18(3)〔広中〕)]
  
   
  (1)
(2)
(3)
(4)
〔契約成立時〕 我妻p355
〔目的物交付時〕 鳩山下p397
〔目的物交付+弁済期到来時〕 星野p174,広中上掲
改正案587の2T[要式行為],[受取前解除権]
    詳論はしませんが,諾成契約説を採る受験生は,上掲を踏まえて,どの説を採り,いつの時点で主債務の成立を認定し,不当利得の成否を判断する必要があります。
  
   
  (注 2) もっとも,【事実】25で「Eは,間違えて,『事業はうまくいっておらず,Kに対する債務は利息を含め1円も支払っていない。』と説明しています。しかし,主債務の発生が証明できないのに,このような誤った説明によって,Eに584万円の不当利得返還が発生するいわれはありません。
  また,LはEに対し,『仕方がないので連帯保証債務を履行する。』と述べていますが,そのような陳述及びこれに基づく支払がKに対してなされたとしても,主債務である金銭消費貸借がKE間に成立しておらず,584万円の不当利得がLE間に発生する余地がないことは変わりません。
  
4 的中情報★★★
2016司法試験絶対合格直前早まくり講座民事系民法「Theme4:債権譲渡」「Theme7:不当利得」「Theme11:利益相反行為(旧司法試験平成14年度民法を検討)」(福田俊彦先生ご担当)★★★
  
 ●第2問 商法

■公開:2016年05月18日/13:00

はじめに

  今年の民事系科目第2問(商法)は,取締役会決議の瑕疵(設問1(1)),取締役の報酬額の変更(設問1(2)),会社法339条2項の「正当な理由」の意義(設問2(1)),取締役の解任請求手続(設問2(2)),内部統制システム構築と善管注意義務(設問3)などを検討させております。問われている論点自体は基本的であるといえますが,問題文の事実が具体的であるため,書き方が難しいといえます。
  まず,問題文は3頁で,資料はありませんでした。また,設問は1から3で構成され,配点の割合は,3.5:3:3.5と問題文冒頭に記載されております。
  また,設問1に関連するものとして,平成28年司法試験考査委員の松井秀征教授が法学教室で演習問題を執筆しており(法学教室338号P.140〜141),本設問の分析に有益かと思われます。
  さらに,本問に関しては,2016司法試験全国公開模試民事系第2問(商法)で出題した「取締役の報酬」が的中致しました。直前期に解答・復習された受講生の皆様には,極めて有利であったと思われます。
  

問題文

  平成28年5月16日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験民事系の問題文はこちら
  

3 本問の分析 
 〔設問1〕(1)
  

  小問(1)に関しては,まず前提として,取締役会を招集する取締役について定款および取締役会のいずれにおいても定めをしていない甲会社では,取締役Bが本件臨時取締役会を招集する権限を有し(会社法366条1項本文),この点では問題がありません。
  BがAの海外出張を見計らって臨時取締役会の日の1週間前にAを除く各取締役及び監査役に対して取締役会の招集通知を発したこと,その招集通知には,取締役会の目的である事項について記載されていなかったことから,臨時取締役会の決議が無効となるかどうかを論じる必要があります。
    本件では,まず,臨時取締役会の招集通知がAに発せられていない点が,会社法368条1項に反するかどうかが問題となります。
  本件臨時取締役会の目的が,Aを代表取締役から解職することにあったことを重視すると,Aは会社法369条2項の「特別の利害関係を有する取締役」にあたるといえます(なお,代表取締役解職決議案の対象となった代表取締役が特別利害関係取締役に当たるかどうかの問題については,これを積極に解するのが判例・多数説ですが,有力な反対説(江頭憲治郎『株式会社法』(第6版)417頁)もあり,この立場に立った場合には,設問1(1)において結論が違ってくると思われます。)。この場合,そもそも本件臨時取締役会に加わることができなかった以上,本件招集通知がAに発せられていないとしても,会社法368条1項には反しないとも考えられます。
  しかし,取締役会の招集通知に仮に「代表取締役A解職の件」とだけ記載されて本件臨時取締役会が招集・開催された場合であっても,当該取締役会では,他の議題を随時追加して決議を行えるので(判例・通説),たとえAが代表取締役解職議案につき特別利害関係を有する取締役であって当該決議には参加できないとしても,その他の議案が追加付議されるときには,定足数の算定基礎を構成する取締役として議事に加わることができるため,Aに対しては招集通知を発しなければならないと解されています(落合誠一編『会社法コンメンタール第8巻』(商事法務,2009)274頁(森本滋),東京地判昭和56年9月22日判タ462号164頁,東京地判昭和63年8月23日金判816号18頁)。この論点は,前田雅弘他『会社法事例演習教材』15頁(有斐閣,第3版,2016)でも問われているポイントです。したがって,この点を考慮して本件招集通知がAに発せられなかったことは会社法368条1項違反となると記述できれば,説得的な論述となるでしょう。
  また,Aの海外出張中を見計らってBが本件臨時取締役会の招集を行っていることが,同取締役会決議の瑕疵に当たるかどうかも一つのポイントとなり得ます。この点については,名古屋地判平成9年6月18日金判1027号21頁(おそらく本問はこの判例の事案をモチーフにするものと思われます。)が参考になります。同判例では,取締役会の招集通知に定例の議題が明示されていたものの,取締役会の議場において代表取締役解職の議案が緊急動議により追加付議され決議が成立したことに対し,代表取締役を解職された取締役が招集通知に記載されない事項の決議は無効であるとして当該取締役会決議の無効確認を求めた事案です。名古屋地判は,取締役会の招集通知に議題を記載した場合でも,その他の事項を随時追加審議し得るとした上で,「もっとも,一部の取締役を排除し,これに反論の機会を与えないことを目的とし,かつ,当該取締役が取締役会に欠席することが見込まれる状況下で,殊更招集通知に議題を記載しないなどの濫用的な場合には違法の議論が生ずる余地もある」と付言していることから,本件はこの部分が関係していると考えられるからです。この場合は,株主総会に倣い,取締役会の招集手続の著しい不公正が取締役会決議の瑕疵に当たるとする主張をしなければなりませんが,そもそも解職の対象とされた代表取締役決議に対し解職議案について反論の機会を与える必要がないとすれば,Bの対応は問題なしとしないものの,法的にこれが取締役会決議の無効をもたらす法律上の瑕疵に当たるとはいえないのではないかと考えられます。もとより,反対の解釈もあり得るところです。
  なお,本件臨時取締役会の招集通知に取締役会の目的である事項が記載されていない点につき,取締役会決議により定められた招集権者以外の取締役が招集請求をする場合の手続を定めた会社法366条2項に反するのではないかも問題となり得ます。本問では,実務上の扱いとしては珍しく,特定の取締役を取締役会の招集権者として定めること(同条1項但書)を行っていなかったケース(事実3参照)ですから,同条1項本文が適用され,各取締役が取締役会を招集する場合は,招集通知に記載すべき具体的内容が法定されていないので(株主総会との違い),日時と場所を記載する必要があることは当然のこととしても,議題を明記する必要があるかどうかについては,これを必要としないと解されています(落合編・前掲書276頁(森本滋))。したがって,本件臨時取締役会の議題が招集通知に明示されていなかったこと自体は,法令違反に当たらないといえるでしょう。
    次に上記瑕疵により,決議が無効となるかどうかが問題となります。
  最判昭44.12.2(民集23−12−2396,百選66事件)によると,一部の取締役に対する招集通知を欠いた場合,その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情がない限り,当該決議は無効となるとされています。
  本件では,Bは,取締役会においてAを代表取締役から解職することを企て,Aには内密に,Aの解職に賛成するように他の取締役に根回しをし,Bを含めてAの解職に賛成する取締役を3名確保することができています。そして,本件臨時取締役会において,Aを代表取締役から解職する旨の議案については,賛成3名,反対2名の賛成多数により可決されており,Aが出席したとしても,判例・多数説によれば,Aは代表取締役解職決議案については特別利害関係取締役に当たり決議に参加することができないため,賛成3名,反対2名という結論は変わらないと考えられます。したがって,設問1(1)では,特段の事情が認められ,臨時取締役会決議は有効になると考えられます。
  よって,本件では,会社法368条1項違反の瑕疵があるものの,臨時取締役会の決議は有効であるといえるでしょう。
  
 〔設問1〕(2)
 


  まず,前提として,取締役の報酬等の額について,取締役会の決議によることが会社法361条1項に反しないかどうかが問題となります。
  取締役全員に対する報酬の総額又は最高限度額を株主総会決議で定めたうえで,各取締役への配分を取締役会決議に委ねることは許されます(大判昭7.6.10民集11−1365)。本件の甲社においても,取締役の報酬等の額について,株主総会決議によって定められた報酬等の総額の最高限度額の範囲内で,取締役会の決議によって役職ごとに一定額が定められ,これに従った運用がされていた以上(事実5参照),この点では会社法361条1項違反の問題はないといえます。
    次に,代表取締役を解職されたAの報酬の額を従前の代表取締役としての月額150万円から月額20万円に減額することが許されるかどうかが問題となります。
  最判平4.12.18(民集46−9−3006,百選63事件)では,「株式会社において,定款又は株主総会の決議(株主総会において取締役報酬の総額を定め,取締役会において各取締役に対する配分を決議した場合を含む。)によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には,その報酬額は,会社と取締役間の契約内容となり,契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから,その後株主総会が当該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても,当該取締役は,これに同意しない限り,右報酬の請求権を失うものではないと解するのが相当である。この理は,取締役の職務内容に著しい変更があり,それを前提に右株主総会決議がされた場合であっても異ならない。」と判示されています。
本件で,Aは代表取締役を解職され,取締役となっており,役職自体の変更があります。かかる役職自体の変更が「取締役の職務内容に著しい変更」があることとは異なると考えると,減額することが許される余地もあるといえます。代表取締役から非常勤取締役になった東京地判平2.4.20(判時1350−138)では,各取締役の報酬がその役職ごとに定められており,任期中に役職の変更が生じた取締役に対して,当然に変更後の役職について定められた報酬が支払われている場合には,こうした報酬の定め方及び慣行を了知したうえで取締役就任に応じた者は,明示の意思表示がなくとも,任期中の役職の変更に伴う取締役の報酬の変動,場合によっては減額を甘受することを黙示のうちに応諾したとみるべきであるから,会社は,このような合意に基づいて一方的に,当該取締役の役職変更を理由とした報酬減額の措置をとることができるとしています。
  本件では,甲社の運用に従えば,Aの報酬の額は,月額50万円となるところ,月額20万円にまで減額していることを重視すれば,前記東京地判平2.4.20の射程は本件には及ばず,減額は無効となり,Aが甲社に対して請求できる報酬の額は月額50万円になると考えることができます。
  
 〔設問2〕(1)
        会社法339条1項によると,株主総会によって,いつでも取締役を解任できる旨が規定されています。もっとも,解任された取締役は,その解任について正当な理由がある場合を除き,株式会社に対し,解任によって生じた損害の賠償を請求することができる旨が会社法339条2項に定められています。
  そこで,Aは甲社に対して,解任について「正当な理由」がない旨の主張を行っていくことになります。「正当な理由」とは,当該取締役に経営を行わしめるに当たって障害となるべき状況が客観的に生じた場合を意味すると考えられています。
    本件Aは海外事業の失敗を理由として解任されているものの,Aは,事業の海外展開を行うために必要かつ十分な調査を行い,その調査結果に基づき,事業の海外展開を行うリスクも適切に評価して,取締役会において,事業の拡大のために海外展開を行う旨の議案を提出し,賛成多数により可決されている点を重視すると,Aに経営を行わしめるに当たって障害となるべき状況が客観的に生じた場合にはあたらないでしょう。この場合,Aの解任は「正当な理由」を欠くものとなるため,Aは甲社に対して損害賠償請求をすることが可能となります。なお,この場合,会社法339条2項にいう「損害」の意義を明示する必要があるでしょう。また,Aの場合,残存任期の8年分の得べかりし取締役報酬に相当する損害の賠償を甲社に対して請求できるかどうかも付言できるとよいでしょう。
  
 〔設問2〕(2)
    まず,問題@では,Bが,甲社の株主として,訴えをもってAの取締役の解任を請求する際の手続について,説明することが求められています。ここでは会社法854条1項を指摘することが求められ,各要件を検討すればよいものと思われます。なお,本件甲社は公開会社でない会社であるから,会社法854条2項も示す必要があります。
    そして,問題Aでは,この訴えに関して考えられる会社法上の問題点について論じる必要があります。本件では,まず,「不正の行為」の有無が問題となりますが,Aが多額の会社資金を流用していたことが明らかとなっている以上,「不正の行為」はあるといえるでしょう。
  本件で最も問題となるのが,「解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき」にあたるか否かです。本件では定時株主総会が,定足数を満たさず,流会となっており,形式的には「否決されたとき」にはあたりません。もっとも,かかる場合の判断に関して,高松高決平18.11.27(金判1265−14)が参考になります。この決定は,「『株主総会で否決されたとき』とは,議案とされた当該役員の解任決議が成立しなかった場合をいい,多数派株主の欠席により定足数が不足したり,定足数を充たしているにもかかわらず議長が一方的に閉会を宣言するなどして流会となった場合をも含むと解するのが相当である。なぜなら,『株主総会で否決されたとき』の意義について,定足数の出席を得て解任議案を上程し,これを審議した上で決議が成立しなかった場合でなければならないと解するとすれば,多数派株主が株主総会をボイコットすることにより,取締役解任の訴えの提起を妨害することが可能となり,相当ではないからである。」と判示し,「否決されたとき」について広く解しています。
  本件でも,Aが,Aの取締役の解任に関する議案が可決されることを恐れ,旧知の仲である甲社の株主数名に対し,定時株主総会を欠席するように要請している点を重視すれば,前記決定と同じく,「否決されたとき」にあたるといえ,会社法854条1項の要件を満たすこととなるといえるでしょう。
  
 〔設問3〕
    まず,@Cの甲社に対する会社法上の損害賠償責任として,会社法423条1項に基づく責任を負うことが考えられます。特に,本件Cについて,善管注意義務違反があるかどうかが問題となります。
  本問のCの責任の有無に関しては,甲社の代表取締役社長としての監視義務を懈怠したといえるかどうかにより決まります。ここで,甲社は,大会社にあたり,内部統制システム構築義務が課されます(会社法362条5項)。それゆえ,まず,(代表)取締役の監視義務と上記内部統制システムの構築・実効性ある運用との関係について,言及した方が良いと思われます。すなわち,有効・適切な内部統制システムの構築・運用は,取締役の監視義務が履行されたと判断するための前提条件であり,このシステムが有効に機能していれば,自己の担当業務以外の業務については,当該業務を担当するほかの取締役がその任務を適切に遂行していると信頼して良いとする信頼の原則が認められるとされているからです。また,Cについては,会社法362条4項6号,会社法施行規則100条1項4号をもとに,代表取締役の監視・監督義務の射程が従業員の不正に対しても及ぶ旨を簡単に論及できるとよいと思われます。
  上記内部統制システムを構築している場合の善管注意義務違反の判断の方法に関しては,最判平21.7.9(判時2055−147,百選54事件)が参考になります。かかる判決は,「本件不正行為当時,X社は,@職務分掌規定等を定めて事業部門と財務部門を分離し,AC事業部について,営業部とは別に注文書や検収書の形式面の確認を担当するBM課及びソフトの稼働確認を担当するCR部を設置し,それらのチェックを経て財務部に売上報告がされる体制を整え,B監査法人との間で監査契約を締結し,当該監査法人及びX社の財務部が,それぞれ定期的に,販売会社あてに売掛金残高確認書の用紙を郵送し,その返送を受ける方法で売掛金残高を確認することとしていたというのであるから,X社は,通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていたものということができる。そして,本件不正行為は,C事業部の部長がその部下である営業担当者数名と共謀して,販売会社の偽造印を用いて注文書等を偽造し,BM課の担当者を欺いて財務部に架空の売上報告をさせたというもので,営業社員らが言葉巧みに販売会社の担当者を欺いて,監査法人及び財務部が販売会社あてに郵送した売掛金残高確認書の用紙を未開封のまま回収し,金額を記入して偽造印を押捺した同用紙を監査法人又は財務部に送付し,見掛け上はX社の売掛金額と販売会社の買掛金額が一致するように巧妙に偽装するという,通常容易に想定し難い方法によるものであったということができる。」「また,本件以前に同様の手法による不正行為が行われたことがあったなど,X社の代表取締役であるAにおいて本件不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情も見当たらない。」「さらに,前記事実関係によれば,売掛金債権の回収遅延につきBらが挙げていた理由は合理的なもので,販売会社との間で過去に紛争が生じたことがなく,監査法人もX社の財務諸表につき適正であるとの意見を表明していたというのであるから,財務部が,Bらによる巧妙な偽装工作の結果,販売会社から適正な売掛金残高確認書を受領しているものと認識し,直接販売会社に売掛金債権の存在等を確認しなかったとしても,財務部におけるリスク管理体制が機能していなかったということはできない。」「以上によれば,X社の代表取締役であるAに,Bらによる本件不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできない。」としている。
  本件でも,甲社は,事実9に記載があるように,法務・コンプライアンス部門を設けていること,コンプライアンス研修を定期的に実施するなどして,法令遵守に向けた取組を実施していること,下請業者との癒着を防止するため,同規模かつ同業種の上場会社と同等の社内規則を制定していることから考えると,内部統制システムを構築していると評価できます。そして,事実12記載のように,Eが甲社の関係部署を巧妙に欺いていること,甲社の会計監査人が回答書面の直接返送を求める方法で監査を行ったが,Eは,Fに対し,回答書面にEが指定した金額を記載して返送するように指示をするなど,不正が発覚することを防止するための偽装工作を行っていたこと,Cは報告を受けた後,直ちに調査を指示していることから考えると,上記判例のように,Cに善管注意義務違反を認めることはできないといえるでしょう。
    ADの甲社に対する会社法上の損害賠償責任としても,会社法423条1項に基づくものが考えられます。
  法務・コンプライアンス部門を担当しているDは,内部通報制度の担当者から甲社の従業員の実名による通報があった旨の報告を受けたにもかかわらず,法務・コンプライアンス部門に対して調査を指示せず,Cを含む他の取締役及び監査役にも知らせていない点で,任務懈怠があったといえるか,すなわち善管注意義務違反があるかどうかが問題となります。
適切な内部統制システムを構築していたとしても,構築された内部統制システムの中で個々の取締役がそれを機能させるべき職務を怠ったという事実があれば,善管注意義務違反が認められます。本件では,前記のように,EとFによる巧妙な偽装工作があったものの,Cの指示により甲社の法務・コンプラアンス部門が調査をした結果,2週間程度で事実12(1)〜(5)が判明した以上,Dが指示していたとしても,2週間程度で同様の事実が判明したと考えられます。よって,この点を捉えれば,Dに善管注意義務違反があると考えることができるでしょう。なお,善管注意義務違反の有無につき,Dが,本件通報に信ぴょう性がないと考えて調査等を指示しなかった点についても言及できれば,さらによいでしょう。
  そして,「損害」及び因果関係についても下記のように考えられます。
  Dは平成27年3月末に本件通報を受けており,上記のように2週間程度で調査が済めば,本件EとFの不正を平成27年4月中旬には把握できたといえます。事実12(4)において,甲社は,乙社に対し,平成27年4月末に残金合計3000万円を支払っています。本件下請工事について,合理的な代金が1億5000万円であり,代金5000万円が水増しされていた以上,平成27年4月末に支払った3000万円は支払う必要のなかった金銭であり,また,Dが適切に調査していれば支払わなかった金銭です。
  よって,少なくとも3000万円については「損害」及び因果関係が認められるといえるでしょう。
  なお,Dの責任については,いわゆるダスキン株主代表訴訟事件(大阪高判平18.6.9判時1979−115)を参照するとよいでしょう。
  
4 的中情報★★★
2016司法試験全国公開模試民事系第2問「取締役の報酬」★★★
スタ論【スタート】2016商法3「役員の解任の訴え」(福田俊彦先生ご担当)★★★
2016スタンダード論文答練(第2クール)民事系1第2問「内部統制システム」★★★
  
 ●第3問 民事訴訟法
■公開:2016年05月16日/18:25

はじめに

 今年の民事系科目第3問(民事訴訟法)は,総有権確認の訴えに関する諸問題(設問1),確認訴訟における訴えの利益(設問2),既判力(設問3)など,民事訴訟法の著名な論点や,最判平6.5.31民集48−4−1065など判例百選などに掲載されている重要判例を検討させております。全体の難易度はかなり高いといえます。
 まず,問題文は6頁(実質4頁と4分の1)で,会話文の占める割合が非常に大きくなっております。また,設問は1から3で構成され,配点の割合は,3:3:4と問題文冒頭に記載されております。
 また,本問に関連する判例として,最判平20.7.17民集62−7−1994を挙げることができますが,この判例に関しては,平成28年司法試験考査委員の河野正憲教授が判例批評を執筆しており(同「訴提起に同調しない者を被告として構成員全員が訴訟当事者となる形式で第三者に提起された入会権確認の訴えの許否」判例タイムズ1333号P.42〜8),本問の分析に有益かと思われます。
  

問題文

  平成28年5月16日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験民事系の問題文はこちら

3 本問の分析 
 第1 設問1について
  

 総有権確認において原則として構成員全員が原告とならなければならない理由
 一般的に,当事者適格の認められる正当な当事者は,原則として訴訟物たる権利関係についての法的利益の帰属者です。法人格を有していない団体であって,「団体としての組織をそなえ,そこには多数決の原則が行なわれ,構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し,しかしてその組織によって代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定している」団体は,権利能力なき社団として,その団体の資産は構成員に総有的に帰属します(最判昭39.10.15民集18−8−1671)。また,権利能力なき社団は当事者能力が認められます(民訴法29条)。本問のXは,規約に基づき会員資格が定められ,毎年作成される会員名簿によって構成員が把握され,総会員で構成する総会と,総会で選任される役員の存在と財産管理の方法も定められており,P1らの会話にあるとおり,権利能力なき社団とされる要件を満たしているといえそうです。そのため,Xの資産はXの構成員全員の総有に属します。
 総有権確認を求める訴えにおいては,総有に係る共同所有者全員に帰属する1個の権利・法律関係が観念されて,その訴訟物とされており,その全員が一体として実体的な利益帰属者となるという点が固有必要的共同訴訟となることの根拠であると考えられます(入会権について,最判昭41.11.25民集20−9−1921)。したがって,Xの構成員がYに対して総有権の確認を求めるには,原則としてその全員が原告とならなければなりません。
   構成員の中に訴え提起に反対する者がいた場合について
 この場合,訴えの提起に反対する構成員を被告に加え,構成員全員が訴訟当事者となる形式で確認を求める訴えを提起するという対応策が考えられます(最判平20.7.17民集62−7−1994)。同判例は,「このような訴えの提起を認めて,判決の効力を…構成員全員に及ぼしても,構成員全員が訴訟の当事者として関与するのであるから,構成員の利益が害されることはないというべきである。」と判示しています。
   訴訟係属後に新たにX構成員となった者が現れた場合
 訴訟係属後に新たにX構成員となった者が現れた場合には,その者が訴訟に参加する必要があるといえるでしょう。Xの総有にかかる権利関係は,新たに加わった構成員にも及ぶため,この者も含めた固有必要的共同訴訟を行う必要があるといえるためです。この場合,新たに構成員となった者がBに同調する場合には,その者について共同訴訟参加(民訴法52条)の手続をとる手段が考えられます。
 他方,Bに同調しない場合には,任意的当事者変更を行うことが考えられます。「任意的当事者変更について,以前から,『固有必要的共同訴訟において,共同訴訟人とすべき者の一部を脱落したのを補正する場合などにこれを認める実益がある』といわれてきた(兼子421頁)。任意的当事者変更についての通説の理解では,訴えの主観的追加的併合を認めることを前提とする」ことになります(和田吉弘『司法試験論文過去問 LIVE解説講義本 和田吉弘民訴法』(辰已法律研究所,2014)P.119)。ほかに,別訴を提起して,弁論併合(民訴法152条)を求めるという方法も考えられますが,裁判所の裁量によってしまうことになります。
  
 第2 設問2について
 


 Zの確認の訴えについて確認の利益が認められる理由
 確認の訴えの利益とは,確認の訴えを提起して本案判決を求める合理的な必要性があることであり,確認の利益とも呼ばれます。確認の利益を判断する観点として,一般に,@確認訴訟によることの適否(他の解決方法との比較で確認訴訟によることの適切さ),A確認対象の選択の適否(確認の対象として適切なものを選択しているか),B即時確定の現実的必要の存否(確認判決をしなければならない程度にまで原告の法的地位に危険や不安があるのか),という3つが挙げられています。
 本問では,これらのうち,@確認訴訟によることの適否が問題となります。P2が会話中で挙げている最判昭28.12.24民集7−13−1644は,「訴訟代理権の有無の如きはそれが問題となる当該訴訟においてこれを審判すべき」であり,本件訴訟当事者が,訴訟代理人に対して,別件たる当該訴訟において訴訟代理権を有しないことの確認を求める訴えを提起しても,確認の利益を欠き許されないとしたものです(和田吉弘『基礎からわかる民事訴訟法』(商事法務,2012)P.145〜8参照)。
 本件Zの確認の訴えが昭和28年判決の事案と異なる点として,その訴訟限りの訴訟代理権の問題ではなく本案に関係すること,また,別訴ではなく反訴であること,などを挙げて,Zの確認の訴えに訴えの利益が認められるという理由付けをしていくことになると思われます。
   民訴法146条1項所定の要件について
 同条項は,反訴の要件として,反訴の目的が「本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する」場合であること,口頭弁論終結前であること,本訴の係属する裁判所に対してなすべきであって他の裁判所の専属管轄に属するものではないこと,反訴の提起により著しく訴訟手続を遅滞させるものではないこと,を規定しています。
これらの要件が設けられているのは,反訴請求が追加的に本訴と併合審理され,本訴請求についての裁判資料が反訴請求についてのそれとなることが正当化されなければならないため(伊藤眞『民事訴訟法』(有斐閣,第4版補訂版,2014)P.608〜9)とされています。
 本訴の請求に関連するとは,本訴請求と反訴請求の権利関係を基礎づける法律関係または主たる事実が共通であることを意味し,反訴請求が本訴請求の防御方法に関連するとは,本訴請求に対する抗弁事由と反訴請求の請求原因との間に,同様の共通性が認められることをいいます。
 本問においては,「ZがXの会長の地位にあることの確認」が第1訴訟とどのような関係にあるのかを検討する必要があります。
  
 第3 設問3について
       @前訴判決の既判力がZに及ぶかについて
 最判平6.5.31民集48−4−1065は,総有権確認訴訟において,権利能力なき社団に当事者適格を認め,当該社団が当事者として受けた判決の効力は,当該社団の構成員全員に対して及ぶと述べています。
 これに対して,本問では,Zは本件不動産の単独所有を主張していて,Xと本案でぶつかる利益を主張しているわけですから,たまたまXの構成員でもあるだけで,実質は本来の被告となるべき第三者であると言ってもいいものと思われます。この点が,平成6年判決が本問のZに妥当しない可能性につながると思われます。
   A既判力の生じる時点と,第2訴訟に対する前訴判決の既判力の作用について
 既判力が生じるのは,前訴の事実審の口頭弁論終結時における,「主文に包含する」(民訴法114条1項)権利関係であり,確定判決ある前訴と訴訟物が同一の後訴とされています。
 第1訴訟の判決の既判力の対象となるのは,第1訴訟の事実審の口頭弁論終結時において本件不動産がX構成員の総有に属することです。ZがAから本件不動産を買い受けたことや,抵当権設定時における本件不動産の所有権者が誰であるかについては,第1訴訟判決の判決理由中の判断であり,既判力が及ばない事項です。
   B既判力以外の根拠を用いたYの主張とYがなすべきであった手段
 Yは,前訴判決の既判力が及ばないことを理由にZが矛盾した主張をすることを不当であると主張する場合,争点効の概念や信義則を根拠に第2訴訟におけるZの主張を拘束するという構成が考えられます。この場合には,民訴法114条の規定との関係でそのような主張が認められる根拠を述べる必要があります。
 第1訴訟の段階でYとして採るべき手段があったかどうかについては,Zに対する訴訟告知(民訴法53条1項)の問題とも考えられるでしょう。訴訟告知をすれば,被告知者が実際に参加するか否かにかかわらず,一定の場合には告知者と被告知者との間に参加的効力が発生することになるため,告知者はかかる効力によって被告知者との間で後に提起される訴訟を有利に進めることができるという意義があります。
  
4 的中情報★★★
2016スタンダード論文答練(第2クール)民事系3第3問「本試験問題と同様に最判平6.5.31(民集48−4−1056,百選11事件)を素材」(金沢幸彦先生ご担当)★★★
  
2016スタンダード論文答練(第2クール)WEBで「本試験出題予想」(民事系3)平成28年司法試験考査委員とその関心分野【民事訴訟法編】で河野正憲 元福岡大学大学院法曹実務研究科教授・元名古屋大学大学院法学研究科教授の「訴提起に同調しない者を被告として構成員全員が訴訟当事者となる形式で第三者に提起された入会権確認の訴えの許否」判例タイムズ1333号P.42〜8を紹介いたしました。★★★
  
 ●刑法
■公開:2016年05月18日/10:15
■更新:2016年05月19日/11:15

はじめに

  今年の刑事系科目第1問(刑法)も,事例に基づき,甲,乙,丙及び丁の罪責について,具体的な事実を摘示しつつ論じさせる出題形式です。
  そして,共謀共同正犯の成否,共犯関係からの離脱,承継的共同正犯,強盗罪全般などが論点として挙げられ,刑法全体について,比較的著名な論点が問われました。全体の難易度としては例年並みかと思われます。
  また,問題文は3頁(実質2頁)で,添付資料等の掲載はありません。
  なお,本問に関しては,2016年全国公開模試刑事系第1問「キャッシュカード及びその暗証番号についての財産上の利益の移転,共犯関係の解消」,2016スタンダード論文答練(第2クール)刑事系2第1問「承継的共同正犯,共犯関係の解消(着手前)」(本多諭先生ご担当)などが的中致しました。直前期に当該論点を復習できてよかったとの受験生の声を頂いております。
  

問題文

  平成28年5月16日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験刑事系の問題文はこちら
  

3 本問の分析 
 第1 乙の罪責について
  

  まず,V宅への住居侵入罪(刑法130条前段)の成否が問題となります。本件で乙は強盗目的であり,「正当な理由」がなく,準備した開錠道具を使用してV方の玄関扉を開錠し,V方に入っており,「侵入」したといえ,V宅への住居侵入罪は成立するでしょう。
    次に,Vに対する強盗致死罪(刑法240条後段,刑法236条1項)の成否が問題となります。
  本件で,暴力団組織である某組において組長に次ぐ立場にある甲から「Vの家に押し入って,Vをナイフで脅して,その現金を奪ってこい。」という指示を受けています。乙が,このような甲による指示に逆らうことができず,V宅から現金を奪ったといえる場合には,甲に間接正犯が成立し,乙には幇助犯(刑法62条1項)が成立するにすぎないと考えることも可能です。しかし,本件で,乙は,甲の指示に従うことにちゅうちょを覚えて,組内で上の立場にいる甲の命令には逆らえないと考えているものの,分け前も欲しいと思い,しかも玄関扉の開錠道具,果物ナイフ,奪った現金を入れるためのかばん等を自ら購入しており,自己の犯罪として実現する意思があるといえ,乙には幇助犯ではなく,正犯が成立しうると考えるべきでしょう。
  そして,本件では,23歳と若い乙が40歳のVに対し,午前2時頃という周りに人がいないであろうと考えられる時間帯に,声を出しても人に届かない室内で,準備したナイフを近づける,Vの顔面を数回蹴る,Vの右ふくらはぎをナイフで1回刺すといった行為を行っており,これによって,Vは「言うとおりにしないと,更にひどい暴行を受けるかもしれない。」と考えて,強い恐怖心を抱いたとあるので,反抗抑圧に足りる程度の「暴行」はあるといえるでしょう。また,乙はVから金庫の場所及び金庫の鍵の場所を聞いており,その結果,現金500万円を手に入れていることから,「強取」したともいえるでしょう。
  そして,Vは乙から顔面を蹴られたことによる脳内出血が原因で死亡しています。そして,この蹴りは強盗の機会にされており,「死亡させた」といえます。
  以上により,本件乙の行為にはVに対する強盗致死罪が成立します(乙は,Vを痛めつけようと考えているのみで殺意までは見て取れないので,強盗殺人罪にはならないと考えられます。)。
    以上により,乙には,V宅に対する住居侵入罪及びVの生命及び500万円に対する強盗致死罪が成立し,両罪は牽連犯(刑法54条1項)となります(甲や丙,丁との共犯関係についてはそれぞれのところで述べます。)。
   
 第2 甲の罪責について
 


  すでに乙の部分でも検討しましたが,甲に,間接正犯は成立しません。
    甲は,組長に次ぐ立場を利用して,甲の配下にある同組の組員である乙に対して「Vの家に押し入って,Vをナイフで脅して,その現金を奪ってこい。」と指示していることから,乙に成立する罪責に関する共謀共同正犯(刑法60条)の成否が問題となります。
  本件では,謀議の存在,謀議に参加した乙による実行行為が認められることに問題はないでしょう(もっとも,しっかりと事実を認定する必要はあります。)。問題は,甲に正犯意思があるかどうかです。甲の果たした役割を具体的事実に沿って丁寧に検討する必要があるでしょう。具体的には,甲が組長に次ぐ立場で,甲の配下にある乙に対して指示をしていること,奪った現金は甲が組長への工面のために必要だったこと,乙が奪った現金のうち7割を手に入れようとしていること,甲は乙に対してV宅への強盗の準備のために現金3万円を渡していること,乙が「準備した物と実際にやる前には報告しろ。」と指示しており,乙による実行を甲が自ら監督していることなどを指摘・評価し,甲に正犯意思があることが肯定できるでしょう。
  以上により,甲に,共謀共同正犯が成立しえます。
    しかし,甲は,乙がV方に入る前に,乙に対して,「犯行を中止しろ。」と言っています。そのため,甲が共犯関係から離脱するかどうかが問題となります。
  乙が甲の配下であるため,参考判例として,最決平元.6.26(刑法百選T 95事件)が考えられるものの,この判例は被告人が舎弟分と共同して被害者に暴行を加えたのちに共犯からの離脱が認められるかという,いわゆる着手後の離脱を問題とするものであるため,乙がいまだ住居侵入すらしていない本件には用いにくいです。むしろ,松江地判昭51.11.2の判例が参考となるでしょう。この判例は,一般的には,犯罪の実行を一旦共謀したとしても,その着手前に他の共謀者に離脱の意思を表明し,他の共謀者もこれを了承して残余の者だけで犯罪を実行した場合,他の共謀者の実行した犯罪について責任を問うことはできないが,離脱しようとする者が,共謀者団体の頭にして他の共謀者を統制支配する立場にあるので,離脱者が,共謀関係がなかった状態に復元しなければ,共謀関係の解消がされたとはいえないとしています。共謀関係がなかった状態に復元するとは,共犯関係における処罰根拠を物理的因果性や心理的因果性に求める立場からすれば,これらの要素が解消されているかどうかで判断されることになるでしょう。本件で,甲は乙に対して「犯行を中止しろ。」と言い,離脱の意思を表明し,乙も甲に対して,「分かりました。」と返事しており,他の共謀者の了承もあります。しかしながら,甲は乙の上司であること,甲自らVをターゲットに決めていること,甲が乙に対して渡した準備費用3万円で犯行道具を購入していることから考えると,電話で「犯行を中止しろ。」と告げただけでは,少なくとも物理的因果性を排除しているとまでは言えず,共謀関係がなかった状態に復元したとまではいえないでしょう。これらの事情から,甲には共犯関係からの離脱は認められないことになります。
    次に,乙に強盗致死罪が成立しますが,甲もVの死の結果を帰責されるかどうかが問題となります。この部分は事実認定次第でどちらの結論も取ることができるでしょう。
  乙がVに対して何らかの暴行を加えることを,甲が認識しえたと考えると,甲にもVの死の結果が帰責できるでしょう。他方,甲は乙に対して,「Vをナイフで脅して,…」とのみ述べ,特にVに対して暴行を加える旨の指示をしていないことを重視すると,甲にはVの死の結果が帰責できなくなるでしょう。強盗を行う際,乙が行ったような顔面を数回蹴るといった暴行が行われることが通常であると考えられることや,ナイフで脅すことを指示していることからも,場合によって被害者の対応次第ではナイフで相手を刺すことも甲としては想定していたと考えるのが相当であるので,甲は暴行を認識し得たといえ,甲はVの死の結果を帰責されると考えられます。
    以上により,甲には,乙に成立するV宅に対する住居侵入罪及びVの生命及び500万円に対する強盗致死罪が成立し,乙との間で共謀共同正犯が成立します。乙は,甲に対し,丙を強盗に誘ったことについては言っておらず,甲自身が丙の存在を認識し得るような状況もないので,丙に成立する罪について,甲は責任を負わないでしょう。
  
 第3 丙の罪責について
    まず,丙はV方の玄関扉からV方に入っており,この行為には,乙と同様に住居侵入罪が成立します。
    次に強盗(致死)罪について考えます。
  事実2の段階では,丙は,犯行日に用事があったことから,乙の頼みを断っています。よって,この段階では乙・丙間に共謀はなく,共同正犯は成立しません。
  もっとも,事実5において,丙は,予定よりも早く用事が済んだため,乙が強盗するのを手伝おうという気持ちが新たに生じるとともに,分け前がもらえるだろうと考え,V方に行き,現金500万円をV方から運び出しています。この丙の行為に共同正犯が成立しないかどうかをまず検討します(共同正犯が成立しない場合には,幇助犯の成立を検討することになります。)。
  まず,丙はVに対して反抗抑圧に足りる程度の暴行・脅迫を加えておらず,現金500万円をV方から運び出すことのみを行っています。このように強盗罪の実行行為のうち一部しか行っていないので,丙に強盗罪が成立するためには,承継的共同正犯の成立を認める必要があります。承継的共同正犯に関する学説は多々あるものの,単に関与前の状態を認識しているにとどまらず,これを自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用したような場合には,承継的共同正犯を認めてよいでしょう。本件で,丙は,Vがふくらはぎから血を流して身動きが取れない状態であるのを見た上,乙からもナイフで刺した経緯を説明されたことから,Vの反抗できない状態が乙による暴行の結果生じていることを十分認識しています。その上で,丙は乙と一緒にV宅から現金500万円を運び出しています。丙は,報酬を得るという自己目的をもって乙から聞いていた強盗の計画に加担する意思で参加したもので,そして,分け前として500万円の3割に当たる150万円を受け取っており,正犯意思を肯定でき,関与前の反抗抑圧状態を自己の犯罪を遂行する手段として積極的に利用したといえるでしょう。よって,丙には強盗罪の承継的共同正犯が成立します。
  では,Vに生じた傷害結果や死の結果まで,丙は帰責されるでしょうか。丙はあくまで,Vが身動きできない状態を利用したにすぎず,Vにすでに生じていた傷害結果との間に因果関係を有しないので,Vに生じた傷害結果や死の結果までは帰責されないでしょう。
    以上により,丙にはV方への住居侵入罪及び500万円に対する強盗罪が成立し,両罪は牽連犯となります。また,強盗罪に関しては,乙との間で共同正犯となります。
  
 第4 丁の罪責について
    丁もV方の金品を盗もうと考え,玄関からV方に入っており,丁には住居侵入罪が成立します。
    では,丁が本件キャッシュカードをポケットに入れ,丁から暗証番号を聞き出した行為につき,いかなる犯罪が成立するでしょうか。本問を検討する上で,東京高判平21.11.16(平23重判刑法4事件)が参考になります。これは,被告人が,深夜,金品窃取目的で民家に侵入し,被害者の寝室の隣室で,財布を発見したが,財布には6000円前後しか入っていなかったことから,財布に入っていた数枚のキャッシュカードの暗証番号を被害者を脅して聞き出し,その後被告人は取得したキャッシュカードをもって銀行のATMから聞き出した暗証番号で預金を引き出そうとしたが残高が数百円であったことから,預金を引き出すことはできなかったというものです。第1審では2項強盗罪の成立が否定され,強要罪(刑法223条1項)が成立するにとどまると判示しました。しかし,第2審(本判決)では,「キャッシュカードを窃取した犯人が,被害者に暴行,脅迫を加え,その反抗を抑圧して,被害者から当該口座の暗証番号を聞き出した場合,犯人は,現金自動預払機(ATM)の操作により,キャッシュカードと暗証番号による機械的な本人確認手続を経るだけで,迅速かつ確実に,被害者の預貯金口座から預貯金の払戻しを受けることができるようになる。このようにキャッシュカードとその暗証番号を併せ持つ者は,あたかも正当な預貯金債権者のごとく,事実上当該預貯金を支配しているといっても過言ではなく,キャッシュカードとその暗証番号を併せ持つことは,それ自体財産上の利益とみるのが相当であって,キャッシュカードを窃取した犯人が被害者からその暗証番号を聞き出した場合には,犯人は,被害者の預貯金債権そのものを取得するわけではないものの,同キャッシュカードとその暗証番号を用いて,事実上,ATMを通して当該預貯金口座から預貯金の払戻しを受け得る地位という財産上の利益を得たものというべきである。」と判示しました。本問でも,この高裁判決に沿った検討をするべきでしょう。この判決に沿うと,本件では,丁がVから暗証番号を聞き出した段階で,丁に2項強盗罪が成立します。
  なお,2項強盗が成立するためには,財産上の利益が被害者から行為者にそのまま移転することは必ずしも必要ではなく,行為者が利益を得る反面において,被害者が不利益を被るという関係があれば足りると解すべきであるので,本件では,丁が預金の払戻しを受けることができる地位を得る反面,Vは,自らの預金債権に対する支配力が弱まるという財産上の損害を被るので,2項強盗が成立すると考えられます。
  なお,本件では,丁の行為は,Vをにらみ付けながら,「金庫の中にあったキャッシュカードの暗証番号を教えろ。」と強い口調で申し向けたというものですが,これは強盗罪における「脅迫」といえるかが問題になります。
  丁は,開けっ放しの玄関扉や,扉の開いた金庫を見た上で,右ふくらはぎから血を流して横たわっているVのそばにしゃがみ込んでVの顔を見ただけでVが恐怖で顔を引きつらせるのを見たことから,Vが直前に強盗の被害に遭ったことを十分に想像できたと考えるのが相当であり,Vがかなりの程度反抗抑圧状態かそれに近い状態にあることを認識していたと考えられるでしょう。そして,Vも,「先ほどの男にされたようなひどい暴力をまた振るわれるかもしれない。」と思っており,丁の上記言動はすでに相当程度抑圧されていたVの反抗を十分抑圧する程度のものであったと考えることができるでしょう。
  なお,キャッシュカードを先に窃取した後,Vを脅迫して暗証番号を聞き出した2項強盗とは吸収関係にあると考えられます。
  また,丁が,本件キャッシュカードを利用して銀行のATMから現金1万円を引き出した行為は,銀行の占有する財物である現金の占有を奪った行為であるので,別に銀行に対する窃盗罪が成立し,住居侵入と2項強盗との牽連犯とは併合罪になるでしょう。
    丁は,甲,乙及び丙とは面識がなく,V方前を偶然通りかかった際に本件行為に及んでいる以上,Vに生じた傷害結果や死の結果との間に因果関係を持たないといえます。よって,Vに生じた傷害結果や死の結果までは帰責されないでしょう。
    以上により,丁にはV宅に対する住居侵入罪及びVの口座に入金されている現金に対する2項強盗罪が成立し,両罪は牽連犯となります。また,これとX銀行に対する窃盗罪とは併合罪になります。
  
4 的中情報★★★
2016年全国公開模試刑事系第1問「キャッシュカード及びその暗証番号についての財産上の利益の移転,共犯関係の解消」★★★
2016スタンダード論文答練(第2クール)刑事系2第1問「承継的共同正犯,共犯関係の解消(着手前)」(本多諭先生ご担当)★★★
2016スタンダード論文答練(第1クール)刑事系1第1問「共謀共同正犯における正犯性」(張谷俊一郎先生ご担当)★★
2016スタンダード論文答練(第2クール)刑事系3第1問「共謀共同正犯の成立要件」(福田俊彦先生ご担当)★★
  
  
 ●刑事訴訟法
■公開:2016年05月18日/10:40

はじめに

 今年の刑事系科目第2問(刑事訴訟法)は,事例を読んで〔設問1〕から〔設問4〕まで解答させる問題で,設問数は昨年より増加しております。
  そして,職務質問に伴う有形力行使の適法性,接見指定,伝聞法則,公判前整理手続などを問うております。中でも接見指定や公判前整理手続が問われたことは,法科大学院課程や司法試験予備試験科目である法律実務基礎科目を意識したものとも思われます。
  また,問題文は5頁(実質4頁と3分の1)で,参照条文と【資料】甲の証人尋問の内容が添付されております。
  

問題文

  平成28年5月16日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験刑事系の問題文はこちら
  


3 本問の分析 
〔設問1〕
 

  本問では,職務質問に伴う有形力の行使の適法性が問題となります。
    まず,職務質問の根拠条文は警察官職務執行法2条1項にあるので,この条文の要件を当てはめて,そもそも職務質問自体が許されるのかを論じる必要があります。本件では,甲には,目の焦点が合わず異常な量の汗を流すなど,覚せい剤使用者特有の様子が見られており,「何らかの犯罪を犯し…ていると疑うに足りる相当な理由」があるといえるでしょう。
    次に,職務質問に伴う有形力の行使が許されるのかどうかについては,最決昭53.9.22(刑集32巻6号1774頁),最決平6.9.16(刑集48巻6号420頁 刑訴法百選2事件)が参考になります。これらの判例は,警察官による停止行為が,身体拘束ないし強制手段には当たらないとの判断を前提に,その比例原則に照らしての適否を判断したものと解されています。Pらが甲を留め置いた措置が必要最小限度といえるかどうかを検討していくこととなります。事実2の最初の段階,事実2の後半の段階と事実3の段階では状況が違うので別個に検討すると論述に深みが出ると思います。
  まず事実2の最初の段階では,甲には,目の焦点が合わず異常な量の汗を流すなど,覚せい剤使用者特有の様子が見られ,また,甲には,覚せい剤取締法違反の有罪判決を受けた前科がある旨の無線連絡が入っており,甲につき,覚せい剤の使用及び所持の疑いがあるといえます。もっとも,この段階では嫌疑はそこまで高くないといえます。他方,この段階でPらの行った措置は,甲が甲車を降りてH警察署とは反対方向に歩き出し,2,3メートル進んだところ,甲の前に立ち,進路を塞いだことのみであり,必要最小限度といえます。甲も「仕方ねえ。」とのみ言い,特に反抗はしていません。
  次に,事実2の後半の段階では,Pは,甲の左肘内側に赤色の真新しい注射痕を認めており,さらに覚せい剤使用等の疑いが強まっています。この段階でPらは応援警察官4名を臨場させるように求めているものの,その4名が乗ったパトカーはPらの乗ってきたパトカーの後方に停車しており,甲車を挟んではいません。また,警察官4名もパトカー内で待機しています。そして,甲が,再び甲車を降りて歩き出したところ,Pは甲の前に立って,進路を塞いでいますが,いまだ甲の体には触れていません。よって,これらのPらの措置も必要最小限度といえるでしょう。この段階でも甲は「警察に行くくらいなら,ここにいる。」とのみ言っており,特に反抗はしていません。
  最後に,事実2の最後の段階では,Pは,甲車助手席上のバッグ内に注射器を認めています。甲はこの注射器について,「献血に使った注射器だ。」と不合理な弁解を行っており,覚せい剤使用等の疑いが一層強まっています。そして,事実3の段階に至って,Pは,応援警察官が乗って来た2台のパトカーを,甲車の前後各1メートルの位置に,甲車を挟むようにして停車させ,甲車が容易に移動できないようにした上,応援警察官4名を甲車周囲に立たせる,Pが甲の前に立ち,甲がPの体に接触すると,足を踏ん張り,それ以上甲が前に進めないように制止するなどの行為をしています。もっとも,甲も「仕方ねえな。」と言いながら,甲車運転席に戻っており,それ以上の反抗はしていないので,Pらの行為は必要最小限度といえるでしょう。その後,甲が弁護士Rと連絡を取り,帰ろうとしたところ,Pは,甲がPの体に接触すると,足を踏ん張り,それ以上甲が前に進めないように制止し,更に胸部及び腹部を前方に突き出しながら,甲の体を甲車運転席前まで押し戻し,「座っていなさい。」と言っており,これに対して,甲は「車から降りられねえのか。」と言い,反抗しています。また,その後,甲が甲車を降りて歩き出した際にも,Pは同様の行動をとっています。それに対して,甲は「帰れねえのか。」と言っています。この段階に至って甲は反抗しているため,Pらの行為が必要最小限度かを丁寧に認定する必要があります。上述のような甲の覚せい剤使用の嫌疑の高さを指摘し,いまだこのような措置は必要最小限度であるとすればよいでしょう。
    また,Pが甲に対して職務質問を行ったのが,午前11時であり,Pが捜索差押許可状に基づいて甲車の捜索を開始したのが午後4時30分であることから,Pは甲を5時間半もその場に留め置いたといえます。この問題に関しては,前掲の最決平6.9.16(刑集48巻6号420頁 刑訴法百選2事件)が参考になります。本決定では,任意同行を求めて約6時間半以上にわたり,被告人を職務質問の現場に留め置いており,その警察官の措置を任意捜査として許容される範囲を逸脱し違法である旨述べています。この決定と同様に考えると,5時間半留め置いた本問でも違法となりそうですが,交通渋滞という理由のため通常より1時間多くの時間を要した本問では,平成6年決定とは事案が違うという結論をとることも可能かと思います。
  
〔設問2〕
 


  まず,@について検討します。
  まず,@は接見指定に当たります。このような接見指定が許されるかどうかが問題となります。刑訴法39条3項本文では,「捜査のため必要があるとき」に接見指定をすることができる旨規定されています。「捜査のため必要があるとき」の解釈については,最判昭53.7.10(民集32巻5号820頁)が,接見の申出を受けたときに「現に被疑者を取調中であるとか,実況見分,検証等に立ち会わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な場合」と述べ,最判平3.5.10(民集45巻5号919頁)が,「捜査の中断による支障が顕著な場合」には「間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって,弁護人等の必要とする接見等を認めたのでは,右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合も含む」と判示しています。本件では,弁護士Tが「甲と接見したい。」と言った段階では,弁解録取手続が開始されていた以上,現に被疑者を取調中であるといえるので,「捜査のため必要があるとき」に当たるでしょう。
  もっとも,接見指定が「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限する」ものである場合には刑訴法39条3項但書に反して違法となります。本件では,弁護士Tによる接見は,被疑者が弁護人を選任するかどうかを決める憲法34条前段で保障される弁護人依頼権の出発点をなす初回接見であること,甲には平成25年4月,覚せい剤取締法違反(使用及び所持)により,懲役1年6月(3年間執行猶予)の有罪判決を受けた前科があり,平成27年7月3日現在執行猶予中であることを踏まえると,即時に接見を認める必要があるといえます。本件では,Sは,弁解録取手続後,午前11時には接見させようとしているので,即時に接見を認めているといえるでしょう。
  以上により,@の接見指定に違法はないと考えられます。
    次に,Aについて検討します。
  本件では,弁解録取手続は午前10時20分に終了しており,取調べは終わっています。そこで,そもそも「捜査のため必要があるとき」といえるかどうかが問題となります。前記平成3年判決によると,間近い時に取調べをする確実な予定があるときには「捜査のため必要があるとき」といえることになります。本件では,取調べを行おうとしているものの,Sは,甲が自白しようか迷っていると察し,この機会に自白を得たいと考えたため,急に取調べの予定を入れていることを考えると,「捜査のため必要があるとき」とはいえない方向での評価が可能でしょう。
  また,仮に取調べを行うことが「捜査のため必要があるとき」に当たると考えたとしても,本件ではSはTに対して既に午前11時に接見指定をしたこと,初回接見であること,甲は執行猶予中であることを考えると,Aの接見指定は,「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限する」ものであるとの認定が可能でしょう。
  どちらにせよ,Aの接見指定は違法になるものと考えられます。
  
〔設問3〕
        まず,Bに関して想定される要証事実が問題となります。
  公判前整理手続において,本件争点の1つに,「その際,乙に,覚せい剤であるとの認識があったか。」が挙げられています。この争点を立証するためにBが用いられると考えられます。そのため,要証事実は,「乙が甲に覚せい剤を渡した際,乙に覚せい剤であるとの認識があったこと」となります。
    この要証事実との関係で考えた場合,Bの証言が伝聞証拠(刑訴法320条1項)に当たれば,その証拠能力は原則として否定されることになります。
  伝聞証拠とは,公判期日における供述に代えて利用される書面または公判廷外の供述を内容とする供述で,要証事実との関係で,その供述の内容の真実性を立証しようとするものを言います。本件Bの証言は「お前が捕まったら,俺も刑務所行きだから気を付けろよ。」という乙の発言内容が含まれているものの,前記要証事実との関係では乙が刑務所行きかどうかが真実かどうかは問題とはなりません。すなわち,乙のそのような発言は,乙が自己の行為が違法であること,すなわち譲渡した物が覚せい剤であると認識していたという事実を推認させるのであって,発言の内容が真実かどうかを問題としていません。
  以上により,本件Bの証言は伝聞証拠には当たらないといえ,関連性があれば,証拠能力は認められるでしょう。
 
〔設問4〕
    刑事訴訟法295条1項では,裁判長の権限により,訴訟関係人のする尋問又は陳述につき,「相当でないときは,訴訟関係人の本質的な権利を害しない限り,」制限できると規定しています。
  そこで,本件で,弁護人がした被告人質問が,「相当でない」と言えるかどうかが問題となります。その際,質問の制限が「訴訟関係人の本質的な権利を害さないかどうか」の考慮をする必要があります。
  そこで,まず,公判前整理手続の経過及び結果を検討する必要があります。
  公判前整理手続では,裁判所から,「アリバイ主張について可能な限り具体的に明らかにされたい。」との求釈明を受け,「平成27年6月28日は,終日,丙方にいた。その場所は,J県内であるが,それ以外覚えていない。『丙』が本名かは分からない。丙方で何をしていたかは覚えていない。」旨釈明しており,その結果,本件争点として,「平成27年6月28日に,乙方において,乙が甲に覚せい剤を譲り渡したか」が挙げられています。このような公判前整理手続の経過及び結果を考えると,乙が平成27年6月28日に丙方にいたかどうかが争点となるといえます。
  この被告人及び弁護人による「丙」方にいたとのアリバイ主張は,316条の17第1項による主張明示義務の履行の結果です。
    公判前整理手続では,証拠調べの請求は原則として公判前整理手続において行わなければならず,当事者は,「やむを得ない事由」によって同手続において請求することができなかったものを除き,同手続終了後には証拠調べを請求することができなくなります(刑訴法316条の32)。この規定を見ると,逆に公判前整理手続後における当事者の主張変更について制限はありませんが,整理手続を経た後の公判においては,充実した争点整理や審理計画の策定がされた趣旨を没却するような主張の変更をして,明示されなかった主張に応じた被告人質問を許すことは許されないと考えられます。
  どのような場合に,公判前整理手続の意味を失わせるような主張の変更とみるかについては,当該主張の状況や,新たな主張がなされるに至った経緯,新たな主張の内容などを総合的に考慮するべきです。
  本件では,被告人は,捜査段階では,犯行日には「終日,外出していて自宅にはいなかった。」と主張していたところ,裁判所の求釈明を受けて,「終日,丙方にいた。その場所は,J県内であるが,それ以外覚えていない。『丙』が本名かは分からない。丙方で何をしていたかは覚えていない。」と釈明したものです。そして,争点の一つとして,「乙(被告人)方において,乙が甲に覚せい剤を譲り渡したか」としたものです。
  このように,被告人のアリバイ主張については,争点を明確にするために求釈明がなされた結果,より具体的なアリバイ主張をさせて公判審理における充実化を図ったにもかかわらず,全く異なる「戊」方にいたとのアリバイ主張に転じたのは,求釈明までした意義を失わせかねない主張であるとも考えられます。しかも,「丙」方ではなく,「戊」方であったとなれば,検察官の反論は,単に被告人の公判供述の信用性の弾劾だけでは不十分であり,新たな裏付け捜査に基づく立証の必要性も出てくるところでもあります。このように考えると,弁護人が,被告人質問の期日以前に,新たに主張の変更の必要性を申し出るなどすべきであって,それをしないまま漫然と全く異なる主張をしてそれに沿った質問をすることは相当ではないというべきであると考えられます(最決平27.5.25)。
  他方,この新たな主張に沿った被告人質問を制限することが「訴訟関係人の本質的な権利を害しないか」も検討する必要があります。アリバイ主張は,被告人の有罪無罪を決する重要な主張でありますから,必要以上に制限するのは相当ではありません。本件では,前回公判期日後,戊から来た手紙によって戊方にいたことを思い出したと質問に答えており,公判前整理手続の段階で主張することもできなかった事実と言えるでしょう。このように考えると,新たな主張に即した被告人質問を制限することは被告人の本質的な権利を害すると認められるとして制限できないと考えることもできるでしょう。
4 的中情報★★★
2016スタンダード論文答練(第2クール)刑事系2第2問「職務質問における有形力行使の可否・限界,強制採尿のための留め置き」(本多諭先生ご担当)★★★
2016スタンダード論文答練(第1クール)刑事系2第2問「接見指定の適法性」(原孝至先生ご担当)★★
2016福田クラス直前フォロー答練総仕上げ講義2刑事系第2問「接見指定の適法性」(福田俊彦先生ご担当)★★★
2016スタンダード論文答練(第2クール)刑事系1第2問「伝聞法則」(貞永憲祐先生ご担当)★
2016スタンダード論文答練(第2クール)刑事系3第2問「伝聞法則」(福田俊彦先生ご担当)★★
2016年全国公開模試刑事系第2問「伝聞法則」★★
  
 ●倒産法

■公開:2016年05月20日/11:10

■更新:2016年06月03日/13:50

はじめに

  今年の倒産法は,例年通り,破産法と民事再生法から1問ずつ,かつ,倒産実体法,倒産手続法双方の理解を問う問題が出題されました。倒産実体法では,別除権の取扱い,双方未履行双務契約,相殺権といった典型的な論点についての基本知識,条文知識を問うものが中心で,ある程度勉強が進んだ受験生であればそれなりの答案が書けたと思われます。倒産手続法では,再生計画認可後の手続に関する条文知識が問われました。この分野は準備が手薄な受験生も多く,現場で必要な条文を探して答案を構成できたか否かで差がついたと思われます。
  

問題文

  平成28年5月16日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
  

3 本問の分析
〔第1問〕
 1 設問1について
  

  小問(1)では,B社が破産者であるA社に対して有する売買代金債権の回収方法の検討が求められています。B社とA社との間の売買目的物は動産であり,かつ,所有権留保等の約定担保は設定されていませんので,B社の債権回収につき考えられる法的根拠として動産売買先取特権(民法311条5号,同法321条)が挙げられます。また,動産売買先取特権は別除権として破産手続開始後も実行可能ですから,民事執行法に基づく担保権実行により権利行使をすることになります。
  ここで,売買目的物が買主から第三者に引き渡された場合,先取特権の追及力は否定されます(民法333条)。まず,破産管財人の第三者性が問題となります。破産管財人は,売買目的物についての差押債権者類似の地位を認められるにすぎず,目的物についての第三取得者としてその占有を承継した者とはみなされないので,破産管財人の手元にあっても,追及力は否定されません。次に,D社との関係が問題となります。本件では,平成28年3月15日にA社・D社間において売買目的物の売買契約があるものの,所有権の移転時期は平成28年4月15日とされており,いまだ所有権の移転も,買主から第三者への引渡しもありません。そのため,先取特権の追及力は否定されず,B社は別除権として動産売買先取特権を行使することができます。さらに,行使の方法に関して,不足額責任主義(破産法108条1項)に触れられればよいでしょう。
  小問(2)は,破産管財人Xが債権回収をする際の手続及び効果を問う問題です。破産者A社とD社との売買契約は双方未履行双務契約ですから,破産管財人Xが同契約の履行を請求するためには,破産法78条2項9号に基づき裁判所の許可を得る必要があります。この場合,D社の機械αの引渡請求権は財団債権となりますが(同法148条1項7号),この点について,双方未履行双務契約の制度趣旨を踏まえた論述が求められています。制度趣旨としては,双務契約における両当事者の義務が同時履行の関係にあり,相互に担保視し合っているにもかかわらず,破産管財人が完全な履行を受けられる以上,相手方の権利を破産債権から財団債権に格上げして,契約当事者間の公平を図るというものが考えられます。
  小問(3)では,B社が動産売買先取特権を行使して優先的に代金債権の弁済を受けられるか論じる必要があります。破産管財人Xの反論として,小問(1)でも述べたように,動産売買先取特権に追及効がない,物上代位のためには買主が代金の「払渡し又は引渡し」を受ける前に差押えをしなければならない,との主張が考えられます。本件で破産管財人は,Dから機械αの代金1500万円を回収しています。よって,動産売買先取特権者が転売代金債権を差し押さえる前に,破産管財人が既に当該債権を取り立てて破産財団に組み入れる行為が「払渡し又は引渡し」にあたるか否かを論じる必要があるでしょう。
  また,代金の回収が「払渡し又は引渡し」にあたるとした場合,先取特権者は,破産管財人の不法行為を理由として,財団債権者として弁済を受けることができるかがさらに問題になります(破産法148条1項4号)。この点は,見解が分かれており,自己の見解を説得的に論じる必要があるでしょう。
  

 2 設問2について
 

  本問では破産手続における相殺の取扱いについて,破産法の条文の構造を踏まえて論じることが求められています。
  破産管財人Xとしては,剰余金返還債権は機械βの売却時点で発生したのであるから,C社の相殺は破産手続開始後に生じた債権を受働債権とするもので,同法71条1項1号により禁止されると主張することが考えられます。これに対して,剰余金返還債権は本件譲渡担保契約時点で条件付債権として発生したと考えれば,同法67条2項後段によりC社の相殺は認められることになります。これらの規定の関係については争いがあるため,自説を論じるべきでしょう。仮に,合理相殺期待の有無によって相殺の可否を判断する立場に立つ場合には,問題文の事実に照らして合理的相殺期待の有無を具体的に論じることが必要になるでしょう。本問の検討に関しては,最判昭47.7.13(民集26巻6号1151頁)が参考になるでしょう。
  

〔第2問〕
 1 設問1について
    本問は,裁判所による再生計画案を決議に付する決定の可否を論じさせることで,再生計画条項に関する民事再生法の条文の理解を問うものです。裁判所が再生計画案を決議に付する旨の決定をするための要件は民事再生法(以下,省略)169条1項に定められていますが,本問では同項3号,174条2項を挙げた上で155条1項但書の要件を充足するか検討することになります。
  具体的には,本件再生計画案2のうち,@は「84条2項に掲げる請求権」,Aは「少額の再生債権」,Bは「不利益を受ける再生債権者の同意がある場合」に該当することを指摘します。
  本件再生計画案2CについてはY社が同意していないため,155条1項但書のうち「その他これらの者の間に差を設けても衡平を害しない場合」にあたるかについて,X社とY社の関係や再生手続開始申立てに至る経緯を踏まえて検討する必要があります。具体的には,X社に破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれが発生したのは,X社の総売上高の30パーセント余りを占めていたZ社の破綻によるものであること,Z社が放漫経営をしていたこと,Z社の代表取締役はBであること,BはY社の取締役でもあること,Y社は,X社の発行済株式の70パーセントを有するいわゆる支配株主であることなどを指摘し,評価することとなります。
 2 設問2について
    小問(1)では,まず,再生計画認可後の再生手続においては再生債務者であるX社が再生計画遂行の義務を負うこと(186条1項),監督委員Kが再生債務者の再生計画遂行を監督すべき役割を担うこと(186条2項)を指摘する必要があります。そして,本問のように再生計画認可後の再生手続において再生計画の遂行が困難になった場合には,再生債務者は再生計画変更の申立てをすることが考えられます(187条1項)。その他,遂行の見込みがないことが明らかになったときは,再生手続の廃止を申し立てることも考えられます(194条)。
  小問(2)では,届出再生債権者は再生計画変更の申立てができること(187条1項),また,再生債権者は再生債務者が再生計画の履行を怠った場合に再生計画取消しの申立てができること(189条1項)を指摘する必要があります。前者は再生計画の変更により再生手続の継続を望む場合に,後者は再生手続を終了させ破産手続への移行を望む場合に採り得ることも論じるべきでしょう。牽連破産(249条,250条)についても触れられるとよいでしょう。
  
4 的中情報★★★
〔第1問〕
2016司法試験全国公開模試(倒産法)第2問
「無委託保証人の事後求償権と相殺制限」★★

2016選択科目集中答練第1回(倒産法)第2問
「別除権者(根抵当権者)の債権の再生計画における取扱い」★★

  

〔第2問〕
2016全国公開模試(倒産法)第1問
「支配会社の債権の取扱い」★★★
2016選択科目集中答練第1回(倒産法)第2問
「再生計画の権利の変更に関する平等原則の例外」★★★
2016選択科目集中答練第6回(倒産法)第2問
「民事再生法174条2項3号の『不正の方法』の解釈」★★
  
 ●租税法
■公開:2016年05月18日/14:00
■更新:2016年06月06日/12:50

はじめに

  所得分類と年度帰属を含む所得税法の出題を中心としつつも、法人税法につき若干の出題を行う、という租税法の基本的な出題スタンスは例年通りです。
  第1問は、特許法上の権利に関する所得分類・年度帰属、及び役員報酬を問う問題です。法令・規程の仕組み解釈を求める点では平成24年度第1問や平成25年度第1問の出題傾向・出題形式と共通します。特許法の解釈を問うものではないとの注がありますが、特許法上の職務発明の理解が問われている点で難易度はやや高いといえるでしょう。
  第2問は、一時所得と譲渡所得を題材に、清算課税の理解を問う問題です。「どのような問題点があるか」というやや漠然とした問いの下、理論面の考察も求められていると考えられ、例年とは出題傾向・出題形式を異にするといえるでしょう。判例百選掲載裁判例における一時所得の場合の取得費に関する結論を踏まえ、譲渡所得における取得費にかかる条文解釈をすることが求められます。判例百選掲載事件の結論のみならず、その事実関係や条文解釈を丁寧に学習しておくことが重要です。
  

問題文

  平成28年5月16日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
  

3 本問の分析 
〔第1問〕
 1 設問1(1)について
  

  本件出願報償金については、その法的性質を巡って譲渡所得、給与所得等が候補となります。改正前特許法及び本件規程の仕組みを重視すると、出願報償金は、発明者に帰属した「特許を受ける権利」を会社に承継する対価と解されるため、譲渡所得に該当します。他方、Aの職務に密接に関連する支給であるとして、給与所得と構成する余地もあります。
  本件実績報償金についても、同様にその法的性質が問題となります。発生要件や効果(金額算定方法)に照らせば、労務対価性を肯定するのは困難であり、給与所得は否定されるでしょう。B社からD社への特許権譲渡という実績に対する対価性があり、Aに事業者性はないことから、雑所得に該当します。他方、AがB社を通じてD社に「特許を受ける権利」を譲渡したとして、本件出願報償金と同様、譲渡所得と構成する余地もあります。

 2 設問1(2)について
 

  設問前段(年度帰属)では、所得実現のメルクマールである権利確定主義(所得税法36条1項)に従って解答することになります。「相当の対価」請求権は特許を受ける権利の承継時に発生するが(特許法35条3項)、同時点では金額算定が困難であり(同条5項)、本問でも、訴訟提起を経て、訴訟上の和解により金額が確定していることが重要となります。
  設問後段(所得分類)では、当該請求権の法的性質がポイントとなります。特許法35条5項の考慮要素から、その法的性質を実施利益の分配金と考えると、結論として雑所得に該当します。なお、和解金の名目を以て直ちに一時所得となるわけではなく、和解金の内容・趣旨の実質的な検討が必要となります。また、設問1(1)で解答した所得分類との関係にも注意する必要があります。

 3 設問2について
    同族会社の役員の自家消費に関して、D社からEへの経済的利益の移転を給与(賞与)たる一般管理費となるかまたは損失となるか、その上で、これが損金に算入されるかを検討することになります。Eの属性、立場や行為態様を踏まえれば、当該利益移転をD社の行為と評価できるため、給与(賞与)たる一般管理費となります。そして、「別段の定め」である法人税法34条1項各号に当たらない限り、損金算入できないため、これに当たるかを検討します。本問では、自社の商品を単に使用目的で入手し、費消したものであり、1項各号のいずれにも当たらず、損金不算入となるでしょう
  
 
※ 参考文献等
  設問(1)(2)
    ・大阪高判平24・4・26、大阪地判平23・10・14
・事前照会に対する広島国税局の回答(平成17年10月3日)
https://www.nta.go.jp/hiroshima/shiraberu/bunshokaito/joto-sanrin/003/besshi.htm
・タックスアンサーNo2592(使用人等の発明に対して報償金などを支給したとき)
http://www.nta.go.jp/taxanswer/gensen/2592.htm
  設問2
    ・大淵論文
http://www.mjs.co.jp/Portals/0/data/seminar/kenkyukai/misc/pdf/07052502.pdf
・タックスアンサーNo5202(役員に対する経済的利益)
http://www.nta.go.jp/taxanswer/hojin/5202.htm
  
〔第2問〕
 1 設問1について
    時効取得に係る利益は一時所得に該当します。当てはめでは、原始取得という私法上の効果に着目して一時所得該当性を肯定するとよいでしょう。
 2 設問2について
  (1) 取得費について
      相続による資産取得の場合には、被相続人の取得費が引き継がれます(所得税法60条1項1号)。
  時効取得の場合の取得費については、明文上の根拠を欠き解釈問題となりますが、文理解釈と趣旨解釈のいずれを重視するかがポイントです。条文の文言に忠実に従えば、「別段の定め」たる同号の適用はなく、取得費は0円です(38条1項)。しかし、この場合、設問1の一時所得課税が時価で生じる以上(36条2項)、一時所得と譲渡所得の二重課税を余儀なくされてしまいます。
  そこで、結論の妥当性を重視し、取得費を当該時価とする趣旨解釈論が考えられ
ます。東京地判平成4年3月10日は、趣旨解釈論を展開したものではないですが、
この結論をとっており、同結論をひとまず踏まえることで論じやすくなるでしょう。
  (2) 含み益に対する課税について
      A及びBの支配下で生じた甲土地の含み益については、清算課税説の考え方との関係で、例えば次の問題点が考えられます。
@ Bが、当該含み益を享受していたにもかかわらず、清算課税を免れること
A しかも、実質的に見れば、当該含み益が、Bの譲渡所得ではなくCの一時所得として課税に反映されること(納税者及び所得分類の転換)
B その際に、Aの取得費は「直接要した金額」(34条2項かっこ書)に該当せず、CにおいてAの取得費を費用控除する機会が永久に失われること

  なお、以上の問題点を踏まえ、Bにおいて含み益3000万円の譲渡所得を観念しつつ、Cの時効利益を2000万円(Aの取得費相当額)と捉える二重利得法的な発想もあり得ますが、時効取得が原始取得であることや所得税法36条2項の規定に整合せず、かかる結論をとることは困難でしょう。

 
※ 参考文献等
  設問2
    ・東京地判平4.3.10(百選(第5版)50事件)
・浅妻論文
http://ci.nii.ac.jp/els/110006619041.pdf?id=ART0008634639
&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=
0&lang_sw=&no=1463305615&cp=

  
4 的中情報★★★
〔第1問〕
2016司法試験全国公開模試(租税法)第1問
「所得の年度帰属」★★
2016スタンダード論文答練(租税法2)第1問、第2問
「所得の年度帰属」★★
2016スタンダード論文答練(租税法1)第2問
「役員報酬」★★
  
〔第2問〕
2016司法試験全国公開模試(租税法)第2問
「一時所得と雑所得の区別基準」★★
  
 ●経済法
■公開:2016年05月20日/11:50
■更新:2016年06月10日/11:35

はじめに

  本年は,不当な取引制限分野から1問,私的独占及び不公正な取引方法分野から1問の出題となりました。いずれの問題においても,独占禁止法の基本的な概念,判例法についての知識に基づき事実関係を丁寧に当てはめることが求められており,スタンダードな問題であるといえるでしょう。
  

問題文

  平成28年5月16日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
 

3 本問の分析
〔第1問〕
  

  競合他社同士の行為が独占禁止法上の不当な取引制限(2条6項)に該当するか否かを問う問題で,スタンダードな論点についての理解が問われる問題です。
  まず,C社とD社が一致協力してA社との交渉に当たるべきであるとの認識で一致し,その後具体的な提示価格を含む価格交渉についての情報交換を行っていたことが,「共同して」すなわち意思の連絡に該当するかを論じることになります。東芝ケミカル事件(東京高裁平成7年9月25日)の判示に基づき,各段階(営業担当取締役間の会話,営業課長間のやり取り等)における情報交換の内容を丁寧に当てはめることが求められるでしょう。
  また,本件におけるC社・D社の行為によって一定の取引分野における競争が実質的に制限されたかを論じる必要があります。一定の取引分野については,不当な取引制限事案における市場画定方法に基づく検討を行い,競争の実質的制限については,本件における特殊事情(例えば,E社の牽制力の有無,価格交渉力のあるA社による値下げ交渉等)をどのように評価するかを説得的に論じることがポイントになるでしょう。
  

〔第2問〕
    本問は,企業による単独行為が独禁法上どう評価されるかを問う問題で,私的独占及び不公正な取引方法に関する知識が求められます。
  まず小問(1)では,製品シェア55%を有するA社が,小売業者に対して小売価格の広告禁止を要請,執行し,その結果広告における小売価格の表示がなくなった行為が問題となります。まず,A社の行為が支配型私的独占(2条5項)に該当するか否かを検討する必要があります。A社の行為が支配行為に該当するか,競争の実質的制限があるかを具体的な事実に基づき認定していく必要があります。また,同一の行為が拘束条件付取引(一般指定12項)に該当するか否かも論じる必要があります。A社の行為が「拘束」行為に該当するか,公正競争阻害性が認められるか(ブランド間競争,ブランド内競争の状況等から価格維持のおそれがあるか)などを検討する必要があります。
  小問(2)では,小売業者に対して新製品の機能を消費者に説明する義務を負わせること等が私的独占及び不公正な取引方法(拘束条件付取引)に該当するかを論じる必要があります。「不当に」の判断にあたっては,資生堂最高裁判決(最高裁平成10年12月18日)の判示や流通・取引ガイドラインに基づき,A社の行為が合理性を持つものであるか否かを説得的に論じる必要があるでしょう。特に小問(1)と異なり,価格の維持効果が明確であるものの,A社製品の消費者に対する訴求力を向上させるという正当な目的が存在するといった特殊事情をどのように評価するかが答案のポイントになるでしょう。
  全体的に論じるべき点が多い問題ですが,重複する検討事項も多いことから,効率的な答案構成を行うことも重要であると思われます。
  
4 的中情報★★★
〔第1問〕
2016司法試験全国公開模試(経済法)第2問
「不当な取引制限の行為要件」★★
2016スタンダード論文答練(経済法1)第2問
「『共同して』」,「『相互にその事業活動を拘束』」,「『一定の取引分野』の画定」★★
2016スタンダード論文答練(経済法2)第1問
「入札談合における基本合意の立証」,「『相互にその事業活動を拘束し』」,「『一定の取引分野における競争を実質的に制限すること』」★★
2016選択科目集中答練第1回(経済法)第1問
「不当な取引制限の行為要件」★★
2016選択科目集中答練第5回(経済法)第1問
「不当な取引制限の行為要件」,「市場の画定」★★
2016選択科目集中答練第8回(経済法)第1問
「『一定の取引分野における競争の実質的制限』の意義」★★
〔第2問〕
2016司法試験全国公開模試(経済法)第1問
「『拘束』(一般指定12項)の意義」,「一般指定12項にいう『不当に』の意義」★★★
2016スタンダード論文答練(経済法1)第1問
「私的独占の禁止と不公正な取引方法との関係」★★
2016スタンダード論文答練(経済法2)第2問
「一定の取引分野の画定」,「競争の実質的制限」★★
2016選択科目集中答練第5回(経済法)第2問
「拘束条件付取引の行為要件」,「拘束条件付取引の公正競争阻害性」★★
2016選択科目集中答練第6回(経済法)第2問
「『支配』の意義と認定」,「『競争を実質的に制限』の意義と認定」★★
  
 ●労働法

■公開:2016年05月20日/18:30

■更新:2016年06月03日/14:10

はじめに

  論文本試験の労働法の設問については,第1問が個別的労働関係に関する出題であることは一貫していますが,第2問については,集団的労働関係に関する出題がされるか,もしくは個別的労働関係に関する論点と集団的労働関係に関する論点との融合問題が出題される傾向にあります。本年度は,第1問が個別的労働関係に関する出題,第2問が集団的労働関係に関する出題と,オーソドックスな出題形式になりました。
  なお,近年は,労働組合法上の労働者概念,派遣法違反と派遣先の雇用責任など,学界において,また社会的にもホットイシューとなっているテーマが出題される傾向にありましたが,本年度も,長時間労働と労働者の精神疾患という社会的に関心の高いテーマに関する出題がなされています。受験生としては,多様な論点を網羅的に押さえておくと同時に,現在,学界において,また社会的に特に関心を集めているテーマについては,より深い学習をしておくことがよいのではないかと思われます。
  

問題文

  平成28年5月16日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
  

3 本問の分析 
〔第1問〕
 1 設問1について
  

  設問1は,傷病等により就労が困難となった労働者に対する解雇の有効性判断が問われています。そこで,まずXに対する解雇が,労働基準法(以下「労基法」)19条による解雇制限の対象となるかどうかが問題となります。ここでは,Xが疾病を発症しているか否か,仮に発症しているとした場合,業務起因性があるか否かが問題となるでしょう。この点については,Xは抑うつ状態で休養を要するとの診断書を提出しているにとどまり,うつ病を発症しているとの確定的な事実は示されていませんので,場合分けが必要になるものと考えられます(事例中の事実から,Xがうつ病を発症しているか否かの評価は困難でしょう)。
  Xがうつ病を発症しているとした場合,業務起因性があるか否かが問題となりますが,この点については,Xについての時間外労働に関する事実関係や私生活上のトラブルがなかったこと等,事例中に示されている事実を丹念に拾っていけば,業務起因性があるとの評価に結びつきやすいと思われます。以上の検討により,Xが業務上の事由に基づきうつ病を発症し,療養していると認められれば,労基法19条に基づき解雇は無効という結論となるでしょう。なお,当事者間で私傷病扱いをされていたとしても,客観的に業務上災害と評価される場合には,労基法19条の解雇制限が適用されると解されています(荒木尚志『労働法(第2版)』277頁;東芝(うつ病・解雇)事件・東京高判平23.2.23)。
  他方,Xがうつ病を発症していない,またはうつ病を発症しているとしても業務起因性が存在しないという場合には,労基法19条が適用されず,労働契約法16条に基づいて解雇の相当性が判断されることになります。Xの体調についてY社がどの程度認識していたかなどを踏まえて,Y社が解雇となる事態を避けるために必要な配慮を尽くしていたか否かが問題となると思われます(日本ヒューレット・パッカード事件最判(最二小判平24.4.27)参照)。
  

 2 設問2について
 

  設問2では,傷病休職が発令されており,休職期間の満了による退職措置の有効性が問題となっています。ここでも,Xが業務上災害によって休職していたかどうかがまず問題となります。仮に業務上災害によって休職していたとする場合,次に,退職扱いとされた11月11日の時点でXが「治癒」の状態にあったかが問題となるでしょう。前記した東芝(うつ病・解雇)事件では,休職期間満了による退職措置についても,労基法19条の適用が及ぶと判断しているためです。この点については,通常の勤務が可能である旨の診断書を提出していますが,このことからXが「治癒」の状態にあったか否かを直ちに認定することはできませんので,ここでも場合分けが必要になるものと考えられます。仮にXが治癒の状態になかったとすれば,労基法19条により,設問1と同様に退職扱いは無効ということになるでしょう。他方,Xが「治癒」の状態にあったか,もしくはそもそもXの休職が業務上災害によるものでなかったとすれば,休職期間満了に伴う退職扱いの有効性判断の問題となります。
  この点については,片山組事件最判(最一小判平10.4.9)で示された,債務の本旨に従った履行の可否についての判断枠組みを参考に,事例中に示された事実関係に即して判断を行う必要があるでしょう。ここでは,Xは職種を限定しない形での契約で入社していることから,Y社としてはXを配置する現実的可能性がある他の業務への配置を検討すべきこととなりますし,まして,Xが業務上災害による休職から治癒した段階にあったとした場合には,一層の配慮が求められるということになるのではないかと思われます。他方で,Xが他の職場への配置を希望したこと,Y社がこれを拒否したことについてどのように考えるべきかが問題となりますが,Xは他の職場への配置を希望したとの記述があるものの,当初の職場への復帰を明確に拒絶した旨の記載はなく,またXが他の職場への配置を希望した理由や,Y社がこれを拒否した理由についても全く示されていないことから,どのように評価するのかが難しいように思われます。出題の意図としては,Xが従前の職場では時間外労働が多く,負担が大きいことから,相対的に負担の軽い職場での復帰を希望したのに対し,Y社がこれを拒否したという趣旨ではないかと想像され,以上のような前提にそって回答するか,あるいはここでも場合分けを行うことも考えられます。いずれにしても,事実関係についての記述が曖昧に過ぎ,過剰に場合分けを要求するという点で,本問は厄介な設問と言えるでしょう。
  

〔第2問〕
 1 設問1について
    設問1は,不当労働行為の成否とその救済方法について問われた,非常にオーソドックスな設問です。
  不当労働行為の救済方法については,裁判所による司法救済と労働委員会による行政救済の2つの手段が考えられること,また救済内容として具体的にどのような申立てをするのかについては,基本的な点ですので多くの受験生が対応できたものと思われます。
  設問では,団体交渉拒否と,社長名の声明文の掲示が問題とされていますが,前者が労働組合法7条2号所定の団交拒否の成否の問題,後者が同条3号所定の支配介入の問題であることも,多くの受験生にとって容易に理解できたものと思います。
  まず,団交拒否の問題についてですが,ここでは(現時点ではまだ組合員とはなっていない)新規採用者の基本給の額について,これが義務的団交事項に該当するかどうかが最大の問題となります。この点については,下級審レベルとはいえ,根岸病院事件(東京高判平19.7.31)という著名な裁判例がありますので,この判決についてきちんと理解していれば解答はそれほど難しくなかったと思われます。非組合員の労働条件が義務的団交事項になりうるのか,なりうるとした場合,それがどのような場合に,なぜ義務的団交事項になりうるのか,という点についてきちんと説明できているかどうかが,評価の分かれ目になるものと思われます。
  次に,社長の声明文についてですが,これについては使用者の意見表明の自由(表現の自由)と支配介入の不当労働行為による制限の可否,および基準について検討する必要があります。この点については,プリマハム事件(最二小判昭57.9.10)という判例百選掲載の著名な判例がありますので,判例の考え方を正確に踏まえることが最低限必要でしょう。すなわち,まず,使用者の言論の自由と団結権の抵触問題であることを指摘し,どのような要素を考慮し,どのような場合に支配介入が成立するかについて,判例を踏まえつつ,判断規範を定立することがまず必要となります。その上で,事例中に示された事実関係に即して判断を行う必要があるでしょう。具体的には,声明を掲示した時期,声明の内容,社長名の声明であること,声明の掲示の態様,声明の掲示による効果などを摘示し,各事実が定立した規範に照らしてどのように評価されるかを示したうえで,最終的な結論に論理的に導けばよいと思われます。ここでは,具体的な判断基準の定立,過不足のない事実の摘示,各事実に対する判断基準を踏まえた的確な評価,各事実への評価を踏まえた全体としての評価への論理的なつながりがきちんと構成できているかどうかが評価の分かれ目になるものと思われます(その意味で,事実を羅列し,単に総合評価として結論を示すだけの答案は高い評価が得られなかったものと思われます)。
 2 設問2について
    設問2は,いわゆる部分スト・一部ストの場合におけるスト不参加者の賃金請求権がどうなるのかという問題です。
  この論点についても,ノース・ウエスト航空事件(最二小判昭62.7.17)という判例百選掲載の著名な判例がありますので,判例の考え方を正確に踏まえることが最低限必要でしょう。すなわち,判例の見解によれば,この問題は労働契約上の危険負担の問題として捉え,(組合員非組合員にかかわらず)スト不参加労働者の労働が不能または無価値であるか否か,仮に不能または無価値であるとした場合には,使用者が当該争議行為を惹起したなどの特段の事情があるか否かによって,民法536条2項の適用の有無を検討することになるでしょう。次に,これが適用されないとした場合について,労基法26条に基づく休業手当請求権の問題となり,判例によれば,スト不参加の組合員については休業手当請求権が否定されると解されています。
  解答にあたっては,以上の判例の見解を踏まえて論証を行えば,それほど問題がないものと思われます。
  
4 的中情報★★★
〔第1問〕
2016選択科目集中答練第1回(労働法)第1問
「私傷病による病気休職の期間満了に伴う退職扱いの適法性」★★★
2016選択科目集中答練第8回(労働法)第1問
「精神疾患を理由とする労働者に対する使用者の配慮義務」★★★
2016選択科目集中答練第3回(労働法)第1問
「労災保険法上の『労働者』該当性」★★
〔第2問〕
2016スタンダード論文答練(労働法2)第2問
「ピケッティングに伴う就労不能と金銭的請求」★★★
2016選択科目集中答練第7回(労働法)第2問
「義務的団交事項」★★★
2016選択科目集中答練第8回(労働法)第2問
「ピケッテイングに伴う別組合員の就労不能と賃金カット」★★★
2016スタンダード論文答練(労働法1)第2問
「不当労働行為の成立」★★
  
 ●環境法
■公開:2016年05月16日/18:45
■更新:2016年06月03日/11:40

はじめに

  第1問は、環境影響評価に関する政策および訴訟問題で、教科書にも載っているレベルといえます。問題文の分量は、近年の傾向に比べると少なかったです。
  第2問は、容器包装リサイクル法等を素材に、環境基本法第4条の基本理念がどのように表れているかを説明する問題で、現場思考が要求される問題であったといえます。
  昨年までは、政策的な問題と訴訟法的問題とが融合しているような出題もありましたが、本年では、第1問の設問2が純粋に訴訟法的問題で、その他の設問は全て制度趣旨を問うなどの政策的な問題であり、両者が明確に分かれた出題でした。
  

問題文

  平成28年5月16日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
  

3 本問の分析 
〔第1問〕
 1 設問1について
  

  本問では、環境影響評価法の条文から意見書提出に関する規定を見つけることが求められます。住民Eは、公表された方法書(同法5条1項)及び準備書(同法14条1項)について、意見書を提出することができます(同法8条1項、18条1項)。意見書の提出主体は「環境の保全の見地からの意見を有する者」と規定され、情報提供参画の観点から主体に制限が設けられておらず、Eは意見書を提出する機会を有します。A社から方法書・準備書及び意見書の概要等の送付を受けたB県知事は(同法6条1項、9条、15条、19条)、A社に対し環境の保全の見地からの意見を述べることとされています(同法10条1項、20条1項)。

 2 設問2について
 

  本問においてEは、A社およびF社を被告として、人格権に基づき、排出基準を超えるばい煙の排出差止(あるいは工場の操業停止)請求訴訟を提起し、同請求権に基づく差止仮処分を申し立てることが考えられます。この訴訟では、@受忍限度を超える侵害が認められるかが大きな争点となります。受忍限度を論じる際は、判断要素(侵害行為の態様、被侵害利益の性質・内容、公共性等)を明示することが重要です。環境基準違反は差止を認める重要な要素の一つであること、差止請求の場合には損害賠償請求よりも高度の違法性が必要となることに触れる必要があります。その他、A抽象的不作為請求の可否、BA社、F社にいかなる限度で汚染の差止を命ずべきか(個別的差止説、分割的差止説等)、C実質的被害の発生に対する高度の蓋然性(因果関係)にも触れるべきでしょう。  

 3 設問について
    設問3は、温室効果ガス算定排出量の報告・開示が情報的手法のひとつであることを説明する必要があります。地球温暖化対策法は学習が手薄になりがちな分野ですから、同法21条の2ないし21条の6を一読し、情報開示によって企業間の温室効果ガス排出量が比較されることとなる結果、排出量削減への(自主的な)インセンティブが働くという特質を説明する必要があります。なぜそのようなインセンティブが働くかを具体的に論じることができれば、高い評価が得られるでしょう。 
 
〔第2問〕
 1 設問1について
    小問(1)は、容器包装リサイクル法4条が、拡大生産者責任(EPR)を根拠とした規定であることを論ずる必要があります。従来、容器包装の処理責任者は地方公共団体でしたが、EPRに基づき、容器包装の構造を把握している製造事業者及び容器包装を大量に利用する利用事業者こそが、廃棄物の減量・リサイクル促進のために重要な地位にあることが認識され、これら事業者に減量・リサイクルのインセンティブを与える趣旨で同法4条が制定されました。一般消費者による適正な分別と併せて、容器包装の減量・リサイクルを効率的に進める趣旨の規定です。地球温暖化対策法20条の6第1項は、容器包装リサイクル法と同様、消費者が使用する製品等について事業者にも温室効果ガス削減のための責任を拡大しつつ、情報提供義務を付加している点が特異です。
  小問(2)は、容器包装リサイクル法10条の2が、効率的な分別収集が行われた場合、指定法人又は認定特定事業者の負担において、市町村への金銭の還元が行われることを理解し、事業者が分別収集費用を一定程度負担するシステムを説明する必要があります。EPRに基づき、廃棄物の最終的な処理責任者である自治体のみならず、事業者にも負担を求めることによって環境負荷削減へのインセンティブを与える趣旨です。
 2 設問2について
    小問(1)について、自然公園法のもとでは、保護の必要性に応じてゾーニングが行われ、特別地域においては一定の行為について許可を要します。景観保護を最優先事項とし、これによって生物多様性を保護するため、景観や生物の生育環境への悪影響を最小限に抑える趣旨です。不許可処分がなされた場合、調整手法のひとつとして、損失補償制度(同法64条)が規定されています。
  小問(2)は、区域内に立ち入る者から料金を徴収する制度について、自分の言葉で説明する必要があります。従来は公的資金のみによって行われてきた環境保全の取組について、当該自然環境を利用する者にも金銭的負担を求めることにより、公平な役割分担のもとで幅広くかつ持続的に環境保全事業を行うことができるようになるという趣旨を説明すればよいでしょう。
  
4 的中情報★★★
〔第1問〕
2016司法試験全国公開模試(環境法)第2問
「民事差止訴訟の根拠論」★★★
2016スタンダード論文答練(環境法2)第2問
「民事差止訴訟の根拠論」★★★
2016選択科目集中答練第1回(環境法)第2問
「民事差止訴訟の根拠論」、「民事差止訴訟と受忍限度論」★★★
2016選択科目集中答練第2回(環境法)第1問
「温室効果ガス排出算定・報告・公表制度と情報的手法」★★★
2016選択科目集中答練第5回(環境法)第1問
「民事差止訴訟の根拠論」、「民事差止訴訟と因果関係論」★★★
2016選択科目集中答練第5回(環境法)第2問
「温室効果ガス算定排出量報告制度」★★★
2016選択科目集中答練第1回(環境法)第1問
「環境基準と民事訴訟」★★
〔第2問〕
2016司法試験全国公開模試(環境法)第1問
「自動車排出ガスに関する構造規制と拡大生産者責任」★★★
2016選択科目集中答練第8回(環境法)第2問
「自然公園法上の行為規制」、「損失補償」★★★
2016スタンダード論文答練(環境法1)第1問
「特定容器利用事業者の再商品化義務」★★
2016選択科目集中答練第2回(環境法)第2問
「自然公園法64条に基づく損失補償」★★
2016選択科目集中答練第6回(環境法)第1問
「自然公園法上の許可制の趣旨」★★
2016選択科目集中答練第7回(環境法)第1問
「拡大生産者責任」★★
  
 ●国際関係法〔公法系〕
■公開:2016年05月18日/17:15
■更新:2016年06月03日/12:00

はじめに

  第1問は,竹島などの領土問題や安保法制(国連の集団的安全保障)に関係する問題であり,間接的に日本の国際法上の諸問題を想起させるような出題であったように思われます。あるいは,安保法制ではなく近年のシリア問題を背景とした出題かもしれません。第2問は,伝統的な外交関係法からの出題であり,全国公開模試で出題しているように,出題される可能性の高い問題であったといえます。いずれも難易度はそれほど高くなく,全体的に教科書レベルの知識で解答可能であったと考えられます。
 

問題文

  平成28年5月16日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
 

3 本問の分析 
〔第1問〕
 1 設問1について
  

  常任理事国の拒否権に関する問題です。本問の安保理決議案は,手続事項に関するものではないため,国連憲章27条3項に基づき投票が行われます。同項の文言を文字通りに解釈すると,すべての常任理事国が同意投票しないと決議は採択されないようにも読めます。しかし,実際の慣行では,常任理事国の棄権は拒否権の行使とみなさないものとされてきており,このことは後の慣行により合意された条約の解釈(条約法条約31条3項(b))として説明することができます。本問では,採択の条件となる9理事国を超える10理事国が賛成しており,また拒否権も発動されていないため,決議案は採択されることになります

 2 設問2について
 

  軍事行動によるX島の占拠およびA国住民らの強制退去は,武力行使または武力による威嚇であるといえ,国連憲章2条4項に違反します。ただし,X島がB国の領土であった場合には,A国人を強制退去させることは主権の行使として合法的な行為と考えられます。しかし,地理的近接性は領域権原とは認められず,またB国は長い間抗議をしていなかったため,実際にはX島は,A国の平穏かつ実効的な占有によりA国に先占されたA国領土と考えられます。
  また,武力行使禁止原則のコロラリーとして,紛争は平和的手段によって解決することが義務づけられています(国連憲章2条3項,33条)。B国は,これらの国際法違反に対して非難を受けているものといえます。

 3 設問3について
    安保理の「決定」は加盟国を法的に拘束するため(国連憲章25条),本決議によりB国は軍を撤退させ住民帰島措置をとる国際法上の義務を負います(ただし,「B国に要求する決定」が要求なのか決定なのかは十分に明らかではありません)。
  他方で,B国が決議を無視した場合,安保理はこの事態を平和に対する脅威または平和の破壊と決定し,国際の平和および安全を回復するための措置をとることができます(同39条)。具体的には,安保理は,国連憲章第7章に基づき行動し,非軍事的措置として撤退・帰島だけでなく経済制裁等を決定し,B国に義務づけることができます(同41条)。また,それでも従わない場合には,同章に基づき多国籍軍に必要なあらゆる措置をとることを加盟国に容認する決議を採択し,多国籍軍等を通じて軍事行動により問題の解決を図ることもできます。しかし,このような軍事行動が容認されるのは極めて稀です。
 4 設問4について
    安保理の優越性および平和のための結集決議について問う問題です。安保理の責任は「主要な」責任であって「排他的な」責任ではありませんが,総会の権限には一定の制限が存在し,安保理の安保理が任務を遂行する事態については,安保理が要請しない限り総会はいかなる勧告もすることができません(国連憲章12条1項)。ただし,拒否権により安保理が機能麻痺した場合には,総会が当該事態に対して強制措置を取りうるとする「平和のための結集決議」が,これまでに何度か採択されています。ここで取りうる措置は,経済制裁等の非軍事的措置にとどまり,軍事的措置はとれないという解釈が一般に支持されています。なお,拒否権ではなく純粋に多数決で安保理決議が採択されなかった場合に,総会が平和のための結集決議を採択しうるかについては必ずしも明確ではありません。本件では安保理は機能麻痺していないため,総会は安保理決議案同様の決議を採択できないとの解答が論理的であるように思われます。
  
〔第2問〕
 1 設問1について
    外交官は無条件に身体の不可侵および刑事裁判権からの免除を享有するため(外交関係条約29条,31条1項),Y大使の見解が国際法違反であると主張することは難しいものと考えられます。ただし,Y大使に対して,Xの裁判権免除を放棄し,XをA国に引き渡すよう要請することはできます。国連国際法委員会の見解によれば,ウィーン外交関係条約32条に規定される外交官の裁判権免除の放棄は,大使によっても表明されうると解釈されます。また,自己完結的制度である外交関係条約に規定されている外交関係特有の濫用防止措置によってでは十分に対処できず,重大な違法がある場合は,A国は対抗措置ないし国家責任を追及することができます。
 2 設問2について
    ウィーン外交関係条約22条2項によれば,「接受国は,侵入又は損壊に対し使節団の公館を保護するため及び公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する」ことになります。A国は,多数の警察官を派遣し適当な警備を行ったと主張することが考えられますが,ここで求められる相当の注意義務は通常の警備を超えるものであり,A国は22条2項の「特別な責務」を果たしていないといえます。テヘラン事件においては,同項の違反に対しては,侵害行為の迅速な終了と原状の回復を図る義務を伴うと判示されています。そのため,B国はA国に対して,デモ活動等の迅速な終了と,大使館の窓や外壁の原状回復の請求を行えるものと考えられます。
 3 設問3について
    設問では,@休暇中の事故とA公務中の事故に分けて解答するよう求められていますが,外交官は,公務遂行の有無にかかわりなく,無条件に身体の不可侵や接受国の刑事管轄権からの免除を享有します(ウィーン外交関係条約29条,31条1項)。また,外交官としての任務遂行時の行為に関する裁判権免除は,外交官としての特権・免除消滅後も引き続き存続します(同39条2項)。A国当局によるXの身柄の拘束および刑事訴追は,これらの規則に違反すると評価することができます。
  
4 的中情報★★★
〔第1問〕
2016スタンダード論文答練(国際関係法〔公法系〕1)第1問
「武力不行使原則」★★★
「国際機構の法主体性」,「国際機構の国際請求能力」★★
2016選択科目集中答練第5回(国際関係法〔公法系〕)第1問
「国連憲章2条4項」★★★
2016選択科目集中答練第3回(国際関係法〔公法系〕)第2問
「国連憲章上の義務」★★
2016選択科目集中答練第7回(国際関係法〔公法系〕)第2問
「武力不行使原則の例外」★★
   
〔第2問〕
2016司法試験全国公開模試(国際関係法〔公法系〕)第2問
「外交特権」,「自己完結的制度」★★★
「領事特権・免除」★★
2016選択科目集中答練第5回(国際関係法〔公法系〕)第2問
2016選択科目集中答練第6回(国際関係法〔公法系〕)第1問
「領域使用の管理責任」★★
2016選択科目集中答練第8回(国際関係法〔公法系〕)第1問
「外交特権」★★
  
 ●国際関係法〔私法系〕

■公開:2016年05月16日/19:20
■更新:2016年06月03日/12:20

はじめに

  今年度の問題も、第1問が国際家族法に関する問題(50点)、第2問が国際財産法に関する問題(50点)であり、その出題形式は例年通りであったといえます。また、国際私法・国際民事手続法・国際取引法という区分によれば、昨年度と同じく、今年度も国際取引法の分野からの出題はなかったといえます。
  しかし、今年度の問題には、次の点に特徴があったということができると思われます。
第1に、ここ数年の出題内容とは異なり、今年度の出題内容の多くは学説の対立があるものでした。しかも、そのうちの多くは、教科書に説明はあるものの記述はそれほど多くないものでした。また、第1問の設問2(2)の論点は多くの教科書では直接的には取り上げられていないものであり、第2問の設問3も通常ロースクールの授業ではあまり取り上げられない論点であり、いずれも多くの受験生にとっては見たことがない論点だったと思われます。
  第2に、国際家族法に関する問題で、問いが「準拠法決定プロセスを踏まえて答えなさい。」であったように、問われ方が例年とは異なっていた問題があり、少しとまどった受験生もいたのではないかと思われます(解答すべき内容は同じですが)。
  国際関係法(私法系)の出題範囲を幅広く勉強していたか、そして、それを十分に理解できていたかがはっきりと得点差にあらわれる出題であったように感じました。
  

問題文

  平成28年5月16日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
  

3 本問の分析 
〔第1問〕
 1 設問1について
  

  日常家事債務の連帯責任の準拠法は、法の適用に関する通則法25条によって決定されると考える見解と、同法26条によって決定されると考える見解があることを指摘し、自説を論じればよいでしょう。その際、日常家事債務の連帯責任は、夫婦以外の第三者との関係で問題となることを十分に踏まえる必要があります。
  なお、「準拠法決定プロセスを踏まえて答えなさい。」と問われていることから、法性決定・連結点の確定・準拠法の特定・準拠法の適用という準拠法決定プロセスを明らかにしながら、解答すればよいでしょう。

 2 設問2(1)について
 

  父母の財産管理権の有無の準拠法は、法の適用に関する通則法32条によって決定されることを指摘した上で、法性決定・連結点の確定・準拠法の特定・準拠法の適用という準拠法決定プロセスに沿って説明しながら、解答すればよいでしょう。
  なお、Cが未成年者であるかどうかが本問の前提として問題となることも指摘しなければなりません。Cが未成年者であるかどうかという問題の準拠法は、同法4条1項によって決定されることを説明し、Cは未成年者であると結論すればよいでしょう。

 3 設問2(2)について
    多くの教科書には、後見は親権を補充する二次的な制度であることから、法の適用に関する通則法32条が同法35条に優先して適用される旨の説明があります。これをふまえて、32条の適用範囲はどこまでであるかを考え、自説を論じればよいでしょう。なお、本問の論点の説明としては、木棚照一=松岡博編『基本法コンメンタール国際私法』125頁(日本評論社・1994年)[海老沢美広執筆]等を参照。
  そして、手続法上の問題としては、日本は本問の法的措置について国際裁判管轄権を有するかという国際裁判管轄権の問題や、日本の裁判所は日本法にはない法的措置の手続をどのように行うか(手続の代行可能性)という適用問題を指摘し、それらについて説明すればよいでしょう。
 
〔第2問〕
 1 設問1について
    Y1に対する請求については、Y1の主たる営業所が日本にあることを理由に、民事訴訟法3条の2第3項により、日本は国際裁判管轄権を有することを説明すればよいでしょう。
  それをもとに、Y2に対する請求については、同法3条の6によりY1に対する請求に併合(主観的併合)されるとして、日本は国際裁判管轄権を有することを説明すればよいでしょう。
 2 設問2について
   まずは、本問が法人格否認の準拠法を問うものであることを指摘することが必要になります。そして、法人格否認の準拠法についての明文の規定がないことを指摘し、法人格否認の準拠法については、法人格が否認される会社の従属法によると考える見解と、問題状況に応じて準拠法を決定すべきと考える見解があることを説明することが必要になります。その上で、自説を論じればよいでしょう。なお、本問に関する論点については、百選23事件(東京地判平22.9.30判時2097−77)で解説がなされておりますので参照してみてください。
 3 設問3について
   まずは、本問が代用給付権(日本民法でいうと403条)の準拠法を問うものであることを指摘することが必要になります。そして、代用給付権の準拠法は債権の内容に関わるものとみて債権の準拠法によると考える見解と、履行の態様に関わるものとみて履行地法によると考える見解があることを説明することが必要になります。その上で、自説を論じればよいでしょう。なお、本問に関する論点については、百選49事件(最判昭50.7.15民集29−6−1029)で解説がなされておりますので参照してみてください。
  
4 的中情報★★★
〔第1問〕
2016選択科目集中答練第1回(国際関係法〔私法系〕)第1問
「日常家事債務に関する準拠法」★★★
〔第2問〕
2016スタンダード論文答練(国際関係法〔私法系〕1)第2問
「国際財産事件の国際裁判管轄」★★
 
 ●知的財産法
■公開:2016年05月17日/16:50
■更新:2016年06月03日/13:20

はじめに

 第1問(特許法)は、手続面を問う問題が多数出題され、出題形式・傾向共に例年とは異なるものといえます。全体的にやや難化したように思われます。
 第2問(著作権法)の出題形式及び難易度は、従来と同程度であると思われます。また、出題分野も十分予測できたといえるでしょう。
  

問題文

  平成28年5月16日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
  

3 本問の分析 
〔第1問〕
 1 設問1について
  

  主に機能的クレームの論点を問う問題です。製品Aだけでなく、警報によって人間心理的に「硬貨の投入行為を妨げる」製品Bについても文言侵害の成否が問題となります。「妨げる手段」は機能的クレームにあたり、磁気媒体リーダー事件(東京地判平成10年12月22日)等の裁判例を意識して、クレーム解釈をする必要があります。
  機能的クレームは、発明の外延が不明瞭であり、記載要件違反(明確性要件、36条6項2号)を指摘し、これを無効理由とする無効の抗弁を主張する必要もあります。
  製品Bについて文言侵害を否定した場合、均等侵害の成否が問題となりえますが、第3要件を満たさないことが設問上明らかなので、簡単な記載でよいでしょう。

 2 設問2(1)について
 

 クレームの減縮に関する問題です。前段は、特許無効審判における訂正の請求(134条の2)について指摘すべきです。この際、実施権者Zの承諾が必要であることを指摘すべきです(134条の2第9項、127条)。後段は、訂正の再抗弁について指摘すべきです。多関節装置事件(東京地判平成19年2月27日)等を意識した要件の定立が求められ、特に新規事項追加の禁止(126条5項)について問題となることを触れるべきでしょう。また、実施権者の承諾の要否についても検討すべきです。

 3 設問2(2)について
    特許権の共有者の1人が提起する、無効審決取消訴訟の可否について問う問題です。パチンコ装置事件(最判平成14年2月22日)を意識した論述が求められます。
 4 設問3について
    再審の訴え等における主張の制限(104条の4)について問う問題です。損害賠償金については、104条の4により、取り戻せません。他方、差止めについては、無効審決の確定により何人でも自由に特許権を実施できる以上、効力を失うと考えられるでしょう。

  

〔第2問〕
 1 設問1について
    パロディー小説を題材に、どのような著作権侵害がありうるかを検討させる問題で、元ネタ判例は東京地決平成13年12月19日(『チーズはどこへ消えた?』事件)です。参考になる判例として、最判昭和55年3月28日(パロディー事件)も挙げられます。
  小説cについては、小説bにおける創意工夫を凝らした表現が小説cに用いられていないことから、類似性要件を満たすかが主に問題となり、最判平成9年7月17日(『ポパイネクタイ』事件)を意識する必要があるでしょう。題号cについては、小説bの「題号」としての同一性保持権の侵害や、題号c自体の著作物性の有無が問題となるでしょう。ブックカバーcについては、美術の著作物として、その侵害の成否が問題となるでしょう。その他、引用も問題になる可能性があります。
  パロディーを検討するにあたり、言語の著作物と美術の著作物の違いに着目できると好印象でしょう。
 2 設問2(1)について
    自炊代行の問題です。知財高裁平成26年10月22日判決の事例と類似しており、同判決を意識した論述が求められるでしょう。特に、複製行為を物理的に行っているのが利用者ではなくZ1である点をどう考えるかについては、設問2(2)との比較という観点からも、論述の必要性が高いといえます。
 3 設問2(2)について
    スペースを貸し出すタイプの自炊についての問題です。設問2(1)とは異なり、複製行為を物理的に行っているのがZ2ではなく利用者であることから、間接侵害の成否が主要な論点となり、ロクラクU事件(最判平成23年1月20日)等を意識した論述が求められます。また、店舗内での貸し出しが貸与にあたるかの論点(著作権法入門152頁参照)も問題になります。貸与にあたるとした場合は、貸与権の消尽の論点について一言触れてもよいでしょう。
  
4 的中情報★★★
〔第1問〕
2016司法試験全国公開模試(知的財産法)第1問
「機能的クレーム」★★★ 
2016選択科目集中答練第5回(知的財産法)第1問
「訂正の再抗弁」★★★ 
〔第2問〕
2016司法試験全国公開模試(知的財産法)第2問
「貸与該当性、貸与権の消尽」★★★
2016スタンダード論文答練(知的財産法1)第2問
「侵害主体、二次的著作者の権利」★★★
  
 

 
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