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民法(債権法)改正の概要|辰已法律研究所
民法(債権法)改正の概要|辰已法律研究所
公開:2017年06月16日
更新:2017年07月05日
更新:2017年07月19日
■1総則
(1)心裡留保
 改正法93条2項には「前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」と規定されています。これは、心裡留保により無効とされる行為を前提として、新たに法律上の利害関係を持つにいたった者を保護するために、現行法94条2項を類推適用した判例(最判昭44.11.14)を明文化したものです。
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(2)錯誤
ア 改正法95条1項柱書には「意思表示は、…その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。」と規定されています。これは、錯誤の効果が本来の無効ではなく取消しに近いという判例及び学説の考え方を明文化したものです。
イ 判例は、「要素の錯誤」の意義について、各法律行為において表意者が意思表示の内容部分となし、この点につき錯誤がなかったならば意思表示をしなかったであろうと考えられ、かつ、表示しないことが一般取引の通念に照らし妥当と認められるものと判示していました(大判大7.10.3)。そこで、改正法95条1項柱書では、現行法95条にいう「法律行為の要素」の文言が「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」と改められました。
ウ 現行法では動機の錯誤についての明文はありませんが、判例は、動機の錯誤は原則、現行法95条にいう「錯誤」にはあたらないとしつつ、例外的に「表意者が当該意思表示の内容としてこれを相手方に表示した場合」には「錯誤」にあたるとしています(最判昭29.11.26等)。改正法は、 95条1項2号に「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」を取り消すことができる旨、同条2項に「前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。」と規定し、動機の錯誤が取消しの対象となること及び取り消し得る場合を明文化しました。
エ 改正法95条4項は「第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。」と規定し、現行法95条に存在しない第三者保護規定を新設しました。
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(3)代理権の濫用
 現行法では代理権の濫用についての明文はありませんが、判例は代理人が代理権限を濫用した場合に、現行法93条ただし書を類推適用することで本人保護と第三者保護との調和を図っています(最判昭42.4.20 百選Ⅰ26事件)。改正法107条は「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。」と規定し、代理権濫用についての判例法理を明文化しました。
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(4)消滅時効
 改正法166条1項には、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき(1号)及び、権利を行使することができる時から10年間行使しないとき(2号)には債権は消滅する旨が定められています。この改正に伴い、商事消滅時効(商法522条)の規定及び短期消滅時効の規定(現行法170条~174条)は削除されました。
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■2債権総論
(1)法定利率
 改正法では、現行法上「年5分」と定められている法定利率が「年3パーセント」と改められました。これは、法定利率を現在の経済情勢と合致させるためです。また、改正以降、経済情勢に合わせた法定利率の変更を可能にするため、3年ごとに3年を一期として法定利率を変更できる変動利率制が採用されました(改正法404条2項、3項、4項)。
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(2)履行の強制
 債権者は債務者に対して債務の履行を強制することができます。改正法414条1項本文には「債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。」と規定されており、債権に内在する実体的権能が明文化されています。また、ただし書では、その債務の性質が履行強制になじまない場合には履行の強制を請求することができない旨を定めています。
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(3)債務不履行による損害賠償
 改正法415条1項本文には「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。」と定められています。現行法415条では、前段の「債務の本旨に従った履行をしないとき」には、「履行をすることができな」いときが文言上含まれないと読む余地があったため、その余地を排除するために、「又は債務の履行が不能であるとき」との文言を追加したものです。そして、ただし書において、損害賠償責任の免責事由の有無は「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されることが定められました。
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(4)債権者代位権
ア 代位行使の範囲
改正法423条の2には「債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、被代位権利を行使することができる。」と定められています。これは、債権者は自己の債権額の範囲においてのみ債務者の権利を代位行使できる旨判示した判例(最判昭44.6.24 百選Ⅱ12事件)を明文化したものです。
イ 債権者への支払又は引渡し
改正法423条の3前段には「債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。」と定められています。これは、金銭債権の代位行使において、債権者は第三債務者に直接自己への金銭の支払を請求できるという判例法理(大判昭10.3.12)を明文化したものです。
ウ 債務者の取立てその他の処分の権限等
債権者が債権者代位権を行使した場合の債務者の被代位債権の処分権限につき、判例(大判昭14.5.16)は、債務者は、債権者の権利行使につき通知を受けたとき、又は、これを知ったときには、もはや権利の処分ができず、したがって債務者独自の訴えの提起もできないと判示していました。改正法423条の5前段には、「債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。」と規定されており、判例法理が改められています。
エ 登記又は登録の請求権を保全するための債権者代位権
改正法423条の7には「登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登記手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる。この場合においては、前3条の規定を準用する。」と規定され、債権者代位権の転用(大判明43.7.6 百選Ⅱ14事件等)が明文化されました。
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(5)詐害行為取消請求
ア 被告及び訴訟告知
詐害行為取消権の被告適格につき、判例(大連判明44.3.24 百選Ⅱ15事件)は、受益者又は転得者が被告適格を有し、債務者は被告適格を有しないと判示しました。改正法424条の7第1項1号及び2号では「受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え」の被告は「受益者」、「転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴え」の被告は「その詐害行為取消請求の相手方である転得者」であると定められており、判例法理が明文化されています。
イ 詐害行為の取消しの範囲
改正法424条の8第1項には「債権者は、詐害行為取消請求をする場合において、債務者がした行為の目的が可分であるときは、自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができる。」と定められています。これは、債権者は自己の債権の額の限度においてのみ、その行為の取消しを請求することができるという判例法理(最判昭30.10.11)を明文化したものです。
ウ 認容判決の効力が及ぶ者の範囲
詐害行為取消権の効果について、判例(大連判明44.3.24 百選Ⅱ15事件)は、詐害行為取消しの効果は訴訟当事者の債権者と受益者との間でのみ生じ、債務者に及ばない(相対的取消し)としました。しかし、改正法425条では「詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。」と規定され、判例法理が改められました。これは、改正法425条の2、改正法425条の4において、債務者の行為が取り消された場合の債務者に対する反対給付の返還請求権又はその価額の償還請求権が受益者及び転得者に認められたことに基づくものです。
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(6)多数当事者
ア 連帯債権
連帯債権について現行法には明文の規定がありません。改正法は、「債権の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有するときは、各債権者は,全ての債権者のために全部又は一部の履行を請求することができ、債務者は,全ての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる」と規定し、従来の連帯債権についての理解を明文化しました(改正法432条)。
イ 不可分債権・債務
現行法428条、430条では、不可分債権・債務には、①債権,債務の目的が性質上不可分である場合と、②当事者の意思表示によって不可分である場合の2つがある旨定められています。しかし、改正法では②当事者の意思表示によって不可分である場合は連帯債権(改正法432条)・連帯債務(同法436条)に分類されることから、不可分債権・債務とされるのは①債権、債務の目的が性質上不可分である場合に限定されることとなりました。
ウ 連帯債務の対外的効力
現行法では、連帯債務者の一人について生じた事由のうち弁済、履行の請求(現行法434条)、更改(同法435条)、相殺(同法436条1項)、免除(同法437条)、混同(同法438条)、時効の完成(同法439条)につき絶対的効力が生じる旨規定されています。これに対して、改正法は,連帯債務の人的担保機能を強化するため絶対的効力事由を減少させ、履行の請求,免除,時効の完成については,相対的効力が生じるものと改めました(相対的効力の原則 改正法441条本文)。もっとも、「債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したとき」は、その意思に従って絶対的効力が生ずるものとし、合意による例外を認める余地を残しました(同条ただし書)。また、従来の判例上、共同不法行為者相互が負担する損害賠償債務等,絶対的効力に関する一部の規定の適用のない不真正連帯債務が認められていましたが、上記の通り絶対的効力事由を減少させたこととの関係で、不真正連帯債務に関する規律を連帯債務の枠組みで処理することが可能となりました。そのため,不真正連帯債務の概念自体を観念する必要性がなくなったと考えられています。
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(7)債権の譲渡
ア 債権の譲渡性
(ア) 改正法466条2項には「当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下『譲渡制限の意思表示』という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。」と定められています。これは、資金調達目的のための債権譲渡利用を促進するため、譲渡禁止特約に反する譲渡を無効とする判例法理(最判昭52.3.17)を改めたものです。
(イ) 現行法466条2項には、譲渡禁止特約は善意の第三者に対抗することができない旨が定められているところ、判例(最判昭48.7.19)は、譲渡禁止特約の存在を知らないことについて重大な過失がある譲受人も譲渡によってその債権を取得することができない旨判示しています。改正法466条3項では「前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。」と定められており、判例法理が明文化されています。
イ 将来債権の譲渡性
改正法466条の6第1項には「債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。」と定められており、将来債権の譲渡を認める判例法理(最判平11.1.29 百選Ⅱ28事件)が明文化されています。
ウ 債権の譲渡における債務者の抗弁
現行法468条1項前段では、債務者が異議をとどめない承諾をしたときには債務者は譲渡人に対抗することができた一切の事由を譲受人に対抗することができないとされていました。これに対して、改正法468条1項では「債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。」と規定されているため、債務者が異議をとどめない承諾をした場合であっても、譲受人が対抗要件を備えるまでに債務者が譲渡人に対して生じた事由を譲受人に対抗することができます。
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(8)債務の引受け
 解釈上の概念であった併存的債務引受及び免責的債務引受についての判例法理が明文化されました(改正法470条~472条の4)。
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(9)相殺
ア 差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止
 現行法511条のもとで、判例は、受働債権が差し押さえられた場合に、第三債務者は、差押え後であっても、差押え前に取得した自働債権をもって、差押債権者に相殺を対抗することができる旨を判示しました(最判昭45.6.24 百選Ⅱ44事件)。改正法511条1項では、この判例法理が明文化されています。
イ 不法行為により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止
 現行法509条は「債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。」として、不法行為により生じた債権を受働債権とする相殺を禁じています。これに対し、改正法509条は「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」(1号)、「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務」(2号)に限って、これらの債務を受働債権とする相殺を禁止しており、2号において、受働債権が債務不履行により生じた債権である場合も相殺禁止の枠組みに組み込んだ上で、相殺禁止の対象を限定しています。これは、現行法509条では相殺禁止の範囲が広すぎる、債務不履行に基づく損害賠償請求の場合でも相殺禁止をすべき場面があるといった批判を受けたものです。
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■3債権各論
(1)危険負担
ア 特定物を目的とする債務が当事者双方の責めに帰することができない事由によって履行不能となった場合に債権者主義を定める現行法の不合理性は、多くの学説で指摘されています。そこで、改正法では、現行法534条及び535条が削除されました。
イ 債務者の危険負担等
現行法536条第1項において、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、「債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。」と定められているところを、改正法は「債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。」と改めました(改正法536条1項)。これは、改正法のもとでは、債務の履行が不能である場合には、債権者は、債務者の帰責事由の有無を問わずに、契約を解除することができる(改正法542条1項1号)と定められたことに基づくものです。すなわち、このような制度の下で、現行法の危険負担の制度を存置させると、債権者の意思表示による契約解除の制度と、危険負担による債権者の反対給付債務の自動消滅という2つの制度の重複が生ずることになるため、債権者が相手方の債務の履行不能を理由として債権者の反対債務を消滅させるためには、解除の意思表示をしなければならないということを前提として、債務者の帰責事由なく債務の履行が不能となったときには、債権者が債務者からの反対債務の履行請求を拒絶できるという規定に改めたということです。これに伴い、536条2項も「債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。」との規定から「債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」との規定に改められました。
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(2)契約の解除
ア 催告による解除
現行法541条に、債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときには解除することができない旨のただし書が加えられました(改正法541条)。これは、不履行が軽微なものにとどまる場合には、債権者としては、損害賠償その他の救済手段で満足するべきであるという考え方に基づくものです。
イ 催告によらない解除
(ア) 改正法では、現行法542条及び543条本文に定められている定期行為の履行遅滞、債権の全部の履行不能の場合に加え、①債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき(改正法542条1項2号)、②債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき(3号)、③その他、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき(5号)に契約の全部について無催告で解除をすることができることが認められています。
(イ) 改正法には、債務の一部が履行不能となったとき、及び、債務者が債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときには契約の一部について無催告で解除をすることができる旨が定められています(改正法542条2項)。
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(3)売買
ア 特定物ドグマの否定・買主の追完請求権
 改正法では、条文上、瑕疵担保責任という規定はなくなります。そして、現行法で瑕疵担保責任で処理されていた場面は、改正法では、契約不適合として、契約責任説の考え方で処理されることになります。
 すなわち、現行法の下では、「特定物売買では目的物の性質は契約内容にならない」という特定物ドグマ(現行法483条)を基礎に、「目的物に瑕疵があったとしても当該物を引き渡せば完全な履行となる」と理解されてきました(法定責任説の帰結)。しかし、改正法483条は、特定物の品質が一次的に当事者の合意に委ねられるとして、特定物ドグマを否定しました。そのため、改正法は、契約不適合(改正法では「隠れた瑕疵」よりも広い契約不適合という概念が採用されました)時の売主の責任が債務不履行責任であるという契約責任説を採用したといえます。そして、契約責任説の当然の帰結として、改正法562条は契約不適合時の買主の追完請求権を規定しています。ただし、売主に追完方法変更の余地がある(同条1項ただし書)、買主に帰責性がある場合には同請求は不可(同条2項)といった制限がついている点、債務不履行一般に妥当する追完請求権の特則としての様相を呈している点には注意が必要です。
イ 買主の代金減額請求権
 現行法で代金減額請求権は数量不足・一部滅失(現行法565条)、一部他人の権利(現行法563条)の場合にのみ認められています。しかし、改正法では、引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合に、広く買主の代金減額請求権が認められることとなりました(改正法563条1項)。代金減額請求権は原則として相当の期間を定めて追完を催告することが要求されていますが、履行の追完が不能であるときや売主が追完を拒絶する意思を明確にした場合等、買主が催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるときには、無催告で代金の減額を求めることができます(同条2項)。
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(4)消費貸借
 現行法は消費貸借契約を要物契約としていますが、実務上、諾成的消費貸借契約が行われてきました。そこで、改正法では、消費貸借契約が書面でされる場合に諾成的消費貸借契約を認め、借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまでは、損害を賠償して消費貸借契約を解除することができるとされました(改正法587条の2第1項、2項)。
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(5)賃貸借
ア 不動産の賃貸人たる地位の移転
 改正法では、賃借権の対抗要件を備えていれば、賃貸不動産の譲渡とともに、不動産賃貸人の地位も譲受人に当然に移転するという判例法理(大判大10.5.30)が明文化されています(改正法605条の2第1項)。加えて、譲渡人と譲受人の間で賃貸人たる地位を譲渡人に留保する合意をすることができる旨も定められています(同条2項前段)。
イ 敷金
 敷金の基本的事項について現行法には明文がありません。しかし、敷金は実務上重要な概念です。そこで、改正法では、敷金の定義が定められるとともに、目的物の明渡し完了時に敷金返還請求権が発生するという判例法理(最判昭48.2.2 百選Ⅱ61事件)に従い、賃貸人は、賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき、又は、賃貸人が適法に賃借権を譲り渡したときに受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を、賃借人に返還しなければならない旨が定められました(改正法622条の2)。
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(6)請負
ア 仕事が完成していない場合の請負人の報酬請求の範囲
 仕事が未完成の場合における請負人の報酬請求権について、現行法には規定がありません。改正法では、①注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき(改正法634条1号)、②請負が仕事の完成前に解除されたとき(同条2号)において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その割合の限度で請負人が報酬請求できるとし、判例法理(最判昭56.2.17)が明文化されています。
イ 請負人の担保責任
 改正法では、請負人の担保責任について、売買における売主の契約不適合責任に関する一般規定(改正法562条以下)が準用されます(改正法559条)。これに伴い、現行法636条を除く請負人の担保責任に関する規定が削除されました。
ウ 請負人の担保責任に関する期間制限
 現行法では、請負人の担保責任につき「仕事の目的物を引き渡した時」(現行法637条1項)又は「仕事が終了した時」(同条2項)から1年以内という期間制限が定められているところ、改正法では、「注文者がその不適合を知った時から1年以内」の「通知」義務へと改められました(改正法637条1項)。これは、請負人の担保責任が売買の契約不適合責任と同様の規律に服することになったことに基づくものです。
 また、現行法では、土地工作物における請負の担保責任について、特別の期間制限が定められていましたが(現行法638条)、土地工作物についてのみ担保責任を長期に存続させる必要性が乏しいとされ、現行法638条は削除されました。
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 以上は大枠での説明にすぎませんが、現段階でも先ずは押さえておいておきたいところです。
 研究者の解釈書も今後出揃ってきますので、それらも十分に踏まえて更に掘り下げた情報提供をしていきます。
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