2022年司法試験本試験 速報

■INDEX
①論文式試験【公法系】 ・第1問(憲法) 公開 6/2 16:20
・第2問(行政法) 公開 6/2 16:20
②論文式試験【民事系】 ・第1問(民法) 公開 6/2 16:20
・第2問(商法) 公開 6/2 16:20
・第3問(民事訴訟法) 公開 6/2 16:20
③論文式試験【刑事系】 ・第1問(刑法) 公開 6/2 16:20
・第2問(刑事訴訟法) 公開 6/2 16:20
④論文式試験【選択科目】 倒産法 公開 6/21  13:00    NEW
・租税法 公開 6/21  13:30    NEW
・経済法 公開 6/21  13:50    NEW
・知的財産法 公開 6/21  14:30    NEW
・労働法 公開 6/21  16:00    NEW
・環境法 公開 6/21  16:30    NEW
・国際関係法〔公法系〕 公開 6/21  16:40    NEW
・国際関係法〔私法系〕 公開 6/21  17:40    NEW

・問題文は下記の法務省HP掲載のものを参照して下さい。
https://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00104.html

●第1問 憲法

■公開:2022年06月02日/16:20

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
 
1 はじめに
 今年の公法系科目第1問(憲法)は、学問の自由などをテーマとした事例問題であり、現行司法試験開始以来、最高の難易度とも評価し得るもので、解答に苦しんだ受験生も多いかと思います。
 まず、令和3年には、「日本学術会議の任命問題やコロナ対策における専門家の役割に対する関心などもあって、大学の自治・学問の自由についても注目すべき発言や論考があった」(木下昌彦ほか「特集・学界回顧2021憲法」法律時報93巻13号P.12(片桐直人執筆))ようで、学者考査委員も関心を持たれていたのでしょう。本問の分析に有益な文献として、中富公一「講座会議は教員の成績評価権を制約できるか」岡山大学法学会雑誌68巻1号(2018年)P.166~125などがあります。
 また、本問は、「〔設問1〕 X大学長Gは、X県公立大学法人の顧問弁護士Zに対して、Yとの再度の話合いに応じるつもりだが、大学としては憲法を踏まえてできるだけ丁寧な説明を行いたい、と相談した。あなたがZであるとして、X大学の立場から、決定①及び決定②それぞれについて、次回の面会においてどのような憲法上の主張が可能かを述べなさい。」、「〔設問2〕 〔設問1〕で述べられた憲法上の主張に対するYからの反論を想定しつつ、あなた自身の見解を述べなさい。」との設問で、平成30年以来続いたいわゆる相談型から変更されました。これは、後掲の木下昌彦「法律案の違憲審査において審査基準の定立は必要か―2020年度司法試験論文式試験【憲法】における出題形式の問題点」法学セミナー797号P.48~55による相談型の出題に対する理論的な批判を踏まえて変更された可能性があります。なお、辰已では、この木下論文を踏まえて、「司法試験及び予備試験『学習戦略座談会』令和4年度考査委員を踏まえて」(令和4年春YouTube放映)や2022福田ファイナル予想答練公法系第1問(憲法)などで、公法系科目第1問の出題形式変更の可能性をお伝えしておりました。
 
2 論点一覧
 
 ・学問の自由
 
3 答案の形でみる解説<司法試験合格者原案作成、研究者監修>
 
 第1 設問1
 
 1 決定①について

⑴ 決定①は、Yの研究助成金の交付を受けながら研究活動を行う権利を害しており、憲法23条に反しないかが問題となる。
 しかしながら、憲法23条によって保障されている学問の自由とは、学問の自由を妨害する国家行為の停止を請求する不作為請求権である。
 そうであるとすれば、X大学がA研究所の研究員であるYに対して研究助成金を交付する行為は、行政による助成金の給付という作為であり、学問の自由を制約するものではないため、Yが研究助成金の交付を受けることは、そもそも憲法上保障されていないといえる。

⑵ 仮に、Yが研究助成金の交付を受けながら研究活動を行う権利が憲法上保障されていたとしても、決定①は合憲である。

 ア Yが研究助成金の交付を受けながら研究活動を行う権利が憲法上保障されているとすれば、決定①によって、Yは研究助成金の交付を受けられなくなるわけであるから、その権利を侵害されるといえる。
 もっとも、研究助成金の交付を受けることは、研究活動の必要不可欠な内容を構成するものとまではいえないから、研究助成金の交付を受けながら研究活動を行う権利は、純粋な研究活動を行う権利とは保障される程度が異なると解さざるを得ない。ゆえに、権利の重要性は低下するといえる。
 そして、決定①は、Yの研究活動の自由に対する制約があるとしても、研究助成金の不交付は、Yの研究活動を直接的に制限するものではない。また、決定①は、研究助成金が、研究成果の発信のためだけでなく、Yの政治的な意見表明や団体Cの活動のため等、研究助成の趣旨に適合しない用途に使用されていることが認められることに基づく決定であり、Yの意見の内容に着目した規制ではない、内容中立規制であるといえる。

 イ 決定①の目的は、県費を原資とする研究助成金の適正な使用を行うことにあり、この目的は正当であるといえる。
そして、研究助成金を適正に使用していないと思われるYに対して、研究助成金を交付しないことは、研究助成金の適正な使用を図ることに資するといえるため、研究助成金の適正な使用という目的との関係で、合理的関連性があると認められる。

 ウ したがって、決定①は合憲である。

2 決定②について

⑴ 決定②は、Yの学問の自由を侵害し、憲法23条に反しないかということが問題となる。
 しかしながら、決定②は、「地域経済論」の不合格者の成績評価を取り消し、Y以外の教員が再試験、再評価を行うという内容の決定であって、Y自身の行為に対して、何らかの制約を加える内容の決定ではなく、Yの権利を制約するものではないため、憲法23条に反しないといえる。

⑵ また、仮に、Yの権利に対する制約があったとしても、決定②は合憲である。

 ア 学問の自由は、その重要性に鑑み、尊重されるべき権利ではあるものの、無制限に尊重されるというわけではなく、公共の福祉に基づく制約を受けることはあり得るところ、本件において、Yが担当している「地域経済論」は、B学部の必修科目として位置づけられている以上、当該科目はB学部の指揮統制を受け得るものであり、当該科目の内容について、Yに完全な自由が認められているとはいえない。
 そして、Yに対する制約の内容も、当該科目の不合格者に対して、他の教員による再試験、再評価を実施するというものであり、Yの行為に、直接の制約を加えるわけではなく、その制約の態様は緩やかであるといえる。
 そこで、決定②の合憲性については、合理性の基準によって判断すべきであり、目的が正当で、目的と手段との間に合理的関連性があれば、合憲であるといえる。

 イ 決定②の目的は、学術的観点からなされるべき大学の成績評価の妥当性を担保することにあり、この目的は正当であるといえる。
 また、Y以外の教員によって、「地域経済論」の不合格者を対象に、再試験、再評価を行うという手段は、Y以外の教員によって、不合格者について再検証を行うための手段であり、目的との間で、合理的な関連性があるといえる。

 ウ したがって、決定②は合憲である。

 
 第2 設問2
 
 1 決定①について

⑴ 上記X大学の立場からの主張に対するYの反論としては、Yの研究助成金の交付を受けながら研究活動を行う権利が、憲法23条によって保障されていること及び学問の自由の重要性に鑑み、当該権利への制約が合憲であるか否かは、厳格な基準によって判断されるべきであり、その結果、決定①は違憲であるという主張が考えられる。

⑵ 私見

 ア まず、Yの研究助成金の交付を受けながら研究活動を行う権利が、憲法上保障されるかということが問題となる。
 たしかに、自由権は、本来的に、その自由権を妨害する国家行為に対する不作為請求権を意味することに鑑みれば、本件の、研究助成金の交付を要求するような、請求権的側面は、憲法上保障されていないとも考えられる。
 しかしながら、研究活動の自由が含まれている学問の自由が、憲法23条によって保障されていることに鑑みれば、Yの、「地域経済の振興に資する研究活動を支援する」という目的により交付されている本件の研究助成金を受けることのできる地位は、実質的に、Yの研究活動に影響を及ぼすものであり、法的保護に値する人格的利益であるといえる。
 したがって、Yの研究助成金の交付を受けながら研究活動を行う権利は、学問の自由として、憲法23条により保障されているものと考える。

 イ そして、決定①によって、Yの研究活動に重大な支障が生じることから、決定①は、Yの学問の自由を制約しているといえる。

 ウ 学問の自由には、研究の自由のみならず、研究の成果を発表する自由も含まれていると解され、自己実現に資する重要な権利であるといえる。
 また、決定①は、Yの研究活動に重大な支障を生じさせるほどの、重大な制約であり、発表の自由に対する萎縮効果も生じさせ得る制約であるといえる。
 そこで、決定①が合憲であるか否かは、厳格な基準に基づいて判断すべきであり、目的が必要不可欠で、手段が必要最小限度である場合にのみ、合憲とするべきである。

 エ 決定①の目的は、研究助成金の適正な運用にあるところ、研究助成金の原資が県費であることから、民間で使われる資金よりも、より適正な運用が求められるものであり、当該目的は、必要不可欠であるといえる。
 しかしながら、上記目的を実現するに当たっては、Yに研究助成金の使途の改善を命ずるなどして、研究助成金の適正な使用を促せば事足りると考えられ、Yに対する研究助成金の交付を行わないことが、上記目的を達成するための手段として、必要最小限度であるとは言い難い。

 オ よって、決定①は違憲である。

 
 2 決定②について

⑴ Yとしては、Yは、X大学の教授として、その研究の成果を講義等によって教授する自由を有しており、この自由は、研究発表の自由として、学問の自由に含まれ、憲法23条によって保障されるのであり、学生を評価する権利も、Yが適切に教授を行う手段として、学問の自由に包含される権利であるといえると主張することが考えられる。
 そして、学問の自由は重要な権利であり、決定②は、その学問の自由に含まれる、学生を評価する権利を、Yから実質的に奪ったといえるのであるから、決定②が合憲か否かは、厳格な基準によって判断すべきであり、その結果、決定②は違憲であると、Yは主張することが考えられる。

⑵ 私見

 ア まず、教授が学生を評価する権利は、教授が学生を適切に教育するために不可欠な権限なのであって、研究の成果を発表する自由と密接に関連しており、学問の自由に含まれ、憲法23条によって保障されると解する。

 イ そして、決定②は、Yが講義を行った、「地域経済論」を受講した学生に対する成績評価を覆すこととなるため、Yの学生に対する成績評価の権利を制約することとなるといえる。

 ウ 学問の自由は、その性質上、高度の自律性が確保されていなければならず、また、個人の人格形成に資する重要な権利であるといえる。
 一方、決定②は、Yが行った成績評価を、再び他の教員が再試験、再評価するというだけのことであって、すでにYによる教授は終えていることからしても、決定②による、Yの権利に対する制約の態様が、重大であるとはいえない。
 そこで、決定②が合憲であるか否かは、厳格な合理性の基準によって判断すべきであり、目的が重要で、目的と手段の間に実質的な関連性がある場合に、合憲であると判断することとなる。

 エ 決定②の目的は、学術的観点からなされるべき大学の成績評価の妥当性を確保することにあり、この目的は、本件で問題となっている「地域経済論」がB学部の必修科目であり、B学部の学生に単位取得を実質的に強制していることからも、より一層重要な目的となっているといえる。
 そして、本件で、「地域経済論」を不合格となった学生に対して、他の教員が再試験を行い、再評価を行うことは、上記の目的である、当該科目の成績評価の妥当性を確保することと、実質的な関連性を有しているといえる。

 オ よって、決定②は合憲であるといえる。

以 上

 
【解答例原案作成者コメント】

・問題の設定として、Ⅹ大学は、県公立大学という設定であるが、Ⅹ大学の行為に憲法がどのような形で適用されるかについては、特段言及しなくてもよいのだろうか。

・第1の1の⑵アにおいて、権利の重要性を低下させたかったが、どのような記載がよいかが悩みどころ。

・設問2の、Yからの反論部分は、どれくらいのスケール感で論じるべきであるかが疑問。フルスケールで書こうとすると、時間は足りないと思われる。このくらい省略しててもよいか。

4 素材判例・参考文献等

・中富公一「講座会議は教員の成績評価権を制約できるか」岡山大学法学会雑誌68巻1号(2018年)P.166~125

・曽我部真裕「学問の自由」法学教室495号(2021年)P.70~77

・木下昌彦「法律案の違憲審査において審査基準の定立は必要か―2020年度司法試験論文式試験【憲法】における出題形式の問題点」法学セミナー797号P.48~55

  この木下論文の概要は、木下昌彦ほか「特集・学界回顧2021 憲法」法律時報93巻13号P.19(高田倫子執筆)に端的にまとめられているので、以下引用する。
 「立法者による違憲審査への関心と、違憲審査の一元的な理解への懐疑が、引き続き看取される。木下昌彦『法律案の違憲審査において審査基準の定立は必要か』(法セ797)は、司法試験論文式の相談型に一石を投じる形で、この問題に取り組む。すなわち、相談型においては、立法段階において法律案の合憲性への助言が求められるが、ここでも訴訟段階と同様に審査基準の定立が必要か、という問いを投げかける。2020年の問題の『出題の趣旨』は、職業選択の自由に対する規制の合憲性判断において審査基準の定立を求めるが、木下は、明白性の基準のような審査基準は、裁判所の判断能力の限界を前提としており、かかる判断を行う適格を備えた国会にとって、それは不要であるという。むしろ、国会は、憲法尊重擁護義務に基づき、憲法の客観的な意味に従った完全な憲法判断を義務付けられているとされる。国会による違憲審査を『完全な憲法判断』と称するかは意見が分かれると思われるが、裁判所にとっての憲法(審査基準)が、違憲審査の唯一の基準ではないとの指摘は至当であろう。」

●第2問 行政法

■公開:2022年06月02日/16:20

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
 
1 はじめに
 今年の公法系科目第2問(行政法)は、山林における施設の設置に関する開発行為について、C市が、別途、水道水源保護条例を制定して当該開発を阻止しようとした事例のもと、原告適格、狭義の訴えの利益等について検討させる出題でした。
 まず、〔設問1〕⑴、〔設問1〕⑵、〔設問2〕の配点の割合は、40:20:40と問題文冒頭に記載されています。また、問題文の頁数は8頁(実質7頁)で、昨年度と同数ですが、関係条文もよりシンプルなものとなっています。
 また、出題内容としては、森林法に基づく開発許可制度の構造についての理解を前提として、周辺住民等の原告適格の有無、工事の完了と訴えの利益の有無、そして開発許可の違法事由とそれへの反論の検討を求めるものでした。例年のとおり、取消訴訟の訴訟要件からの出題であり、設問1では訴訟要件の検討を、設問2では本案における処分の違法事由を問うものですが、論点を的確に捉えた上で、問題文の事例に即した論証が求められます。難易度は全体的に平年並みといえますが、昨年度よりも論点はより明快で、基本的な判例理論を理解していることがカギとなっています。なんにせよ、問題文で示された事実を丁寧に拾い上げることが重要となります。
 本問の素材裁判例として、最判平16.12.24(民集58-9-2536、行政判例百選Ⅰ〔第7版〕28事件)、名古屋地判平30.11.29(平30(行ウ)36号、開発許可差止請求事件)があります。
 
2 論点一覧
 1 原告適格
 2 狭義の訴えの利益
 3 裁量論
 4 裁量統制の方法
 
3 答案の形で読む解説<司法試験合格者原案作成、当研究所専門員監修>
 
 第1 設問1⑴

1 本件申請に係る許可(以下「本件許可」という。)の名宛人ではないE及びFは、「法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)9条1項)として、原告適格が認められるか。

2 「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するといえる。当該処分の相手方以外の者について法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、行訴法9条2項に従う。

3⑴ 森林法(以下「法」という。)10条の2第2項1号は、当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害防止機能に照らし、当該開発行為により当該森林の周辺地域で土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがないことを開発許可の要件としている。また、同項1号の2は、当該開発行為をする森林の現に有する水害防止機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがないことを開発許可の要件としている。
 これらの規定は、森林において必要な防災措置を講じないまま開発行為を行う場合、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害が発生して、人の生命、身体の安全等が脅かされるおそれがあることに照らし、開発許可の段階で開発行為の設計内容を審査し、かかる災害を発生させるおそれがない場合にのみ許可をすることとしている。
 ここで、同項1号及び1号の2から周辺土地の所有権等の財産権までを保護すべきと解することは困難である。また、同項2号は、水の確保という公益的な見地から開発許可の審査を予定する規定と解される。
そして、当該開発行為により土砂の流出又は崩壊、水害等の災害が発生した場合における被害は、当該開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民に直接的に及ぶことが予想される。
 そうすると、上記各号の趣旨目的並びに開発許可を通し保護する利益の内容・性質等に照らし、これらの規定は、上記災害防止機能という森林の有する公益的機能の確保を図るとともに、上記災害による被害が直接及ぶと想定される開発区域に近接する一定範囲の地域住民の生命、身体の安全を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解される。
 したがって、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者が、法律上の利益を有する者として原告適格を有する。

 ⑵ E及びFについて

ア たしかに、Eは本件開発区域に土地及び林を所有し、集中豪雨時には本件沢からの溢水等により本件開発区域外のE所有地の土砂が流出しE所有の立木の育成への悪影響があった。しかし、E所有林やE所有地に関する法益は、財産権を内容とするにとどまる。
 また、EはD山から30キロメートル離れたC市外に居住している。そのため、Eは、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者といえない。
 よって、Eは「法律上の利益を有する者」に当たらず、Eに原告適格は認められない。

イ Fは、本件開発区域の外縁から200メートル下流部の本件沢沿いに居住し、集中豪雨により本件沢から溢水等があった場合は浸水被害を受けた。本件開発行為は大規模な盛土や山林伐採等を含み、本件計画上の工事の間にも集中豪雨により土砂災害や水害が発生する可能性がある。そのため、Fは、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者といえる。
 よって、Fは「法律上の利益を有する者」に当たり、Fに原告適格が認められる。

 
 第2 設問1⑵

1 本件開発行為の工事完了後もなお、Fに狭義の訴えの利益が認められるか。

2 取消訴訟は、処分の効果を失わせることを目的とする訴訟である。そのため、処分の効果がなくなった場合、原則として狭義の訴えの利益は失われる。ただし、その場合にも、なお処分の取消しによって回復すべき法律上の利益がある者については、狭義の訴えの利益が認められる。

3⑴ 参考判例(最判昭和59年10月26日)
 完了検査も違反是正命令も、当該建築物が建築確認どおりかを基準としない。そのため、建築確認が取り消されても、違反是正命令発出等の法的拘束力は生じず、建築確認を受けなければ建築工事をできないという法的効果があるにすぎない。よって、当該工事が完了すると、建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われる。

 ⑵ 上記判例を参考としFについてみると、開発行為中止命令等(法10条の3)は、開発行為の工事内容が許可どおりかを基準とするものではない。そのため、開発許可を取り消さなくても、開発中止命令等の発出は法的に可能である。逆に、開発許可が取り消されても、開発中止命令等の発出の法的拘束力が生じない。したがって、開発許可を受けなければ開発行為ができないという法的効果があるにすぎず、開発行為に関する工事が完了した後においては、開発許可の取消しを求める訴えの利益は失われる。

 
 第3 設問2
  以下、本件許可の取消訴訟において、下記4点の違法事由に関わるFの主張及びB県の反論をそれぞれ検討する。
  1 裁量の有無について
   ⑴ Fの主張

  法10条の2第2項各号の意義は一義的に明らかであり、「許可しなければならない」(同項柱書)との規定があるから、B県知事に要件裁量・効果裁量は認められない。それにもかかわらず、B県知事は同号所定の要件該当性判断において裁量権を行使しているから、本件許可は違法である。

   ⑵ B県の反論

   ア 行政処分の裁量の有無は、法律の文言と処分の性質等に照らし判断される。

   イ まず、「各号のいずれにも該当しないと認めるときは」(法10条の2第2項柱書)の文言は、県知事に各号該当性判断の余地を認めるものといえる。
 また、「森林の保続培養」(法1条)が合理的かつ計画的に森林を維持改善することを意味するように、「災害の防止の機能」「その他の災害を発生させるおそれ」(同項1号)、「水源のかん養の機能」「水の確保に著しい支障を及ぼすおそれ」(同項2号)等の規定は、抽象的な文言といえ、不確定概念を含む。
 さらに、開発許可には、水源確保対策等の必要性や措置の妥当性の評価などに関する専門的技術的判断を必要とする上、公益の考慮も必要とする。
 よって、本件許可にはB県知事に要件裁量及び効果裁量が認められ、また、その裁量権行使の適法性は後述のとおり認められ、本件許可は適法である。

 2 本件許可基準第1-1-①の適合性について
  ⑴ Fの主張

 ア 裁量権が認められるとしても、無限定に許されるわけではない。裁量権行使の前提となる重要な事実の基礎を欠くか、又は判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等により社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合には、裁量権の逸脱・濫用が認められ、違法となる(行訴法30条)。
 具体的には、許可基準が合理的である場合、当該基準を機械的に適用するとかえって法律の趣旨・目的を損なうような特段の事情がない限り、当該基準に従った処分をすべきであり、それに反する処分は違法と解される。

 イ 本件許可基準は合理的であり、その趣旨は申請者に過度な負担を課さない点にあり、かかる趣旨・目的を損なうような特段の事情は見当たらない。そのため、B県知事は、権利者の同意数以外の他事を考慮せず、権利者の同意数をもって処分すべきである。そして、本件開発区域内の土地・立木を有するEが同意に転じる可能性は明らかでなく、Eの同意は見込めないといえる。よって、B県知事は許可すべきでなく、本件許可は違法である。

  ⑵ B県の反論

 ア 判断枠組は上記2⑴アと同様である。具体的には、許可基準を機械的に適用するとかえって法律の趣旨・目的を損なうような特段の事情がある場合、都道府県知事は、権利者数だけでなく所有林面積その他個別具体的事情に照らして許可を行うことが許される。

 イ 本件許可基準の合理性及び趣旨は、上記2⑴イと同様である。本件開発区域の総面積の98パーセントがA所有林である。残り2パーセントのE所有林について、Eが同意に転じる可能性が明らかでないだけで、Eの翻意の可能性はある。そのため、本件開発区域の多くの場所で本件開発行為が行われるなかその完了までにEが翻意しても不自然ではなく、Eの同意が見込まれる。そうすると、森林の合理的かつ計画的な維持改善を図る法1条の目的規定に照らし、また、開発許可後のEの翻意可能性を踏まえれば、開発許可時点での権利者の同意数のみで当該基準を機械的に適用することは法の趣旨・目的を損なう。むしろ、B県知事は、権利者数に限らない所有林面積の上記比率等の個別具体的事情を考慮して本件許可を行うことが許される。よって、本件許可は適法である。

 3 本件許可基準第1-1-②の適合性について
  ⑴ Fの主張

 ア 本件認定の適法性
 本件認定は、Aの土地使用を制限する処分である。本件認定は、本件条例7条3項に基づき、無効・違法事由はない。そのため、本件認定は適法である。

 イ 本件許可基準・本件申請との関係
 本件認定はAの土地使用を制限する効果を有するものである(本件条例8条)。そうすると、本件認定は、Aの土地使用を制限する効果を有する点で「土地の使用に関する制限等に抵触」(本件許可基準第1-1-②)に当たり、許可基準を満たさない。B県知事は、本件認定の適法性に関し考慮を尽くすべきところこれを怠り、裁量逸脱濫用の違法がある。よって、本件許可は違法である。

  ⑵ B県の反論

 ア 本件認定の違法性
 C市長は、本件認定に際しAと協議を尽くし水道水源の枯渇の問題が生じないよう適切に指導するなどAの地位に配慮すべきところ、これを怠り、本件計画阻止の意図を持ち、各々の主張に終始させたのであって、本件認定は違法である。

 イ 本件許可基準について
 行政庁の判断は公益的見地からなされるべきであり、異なる行政庁において要件該当性判断の裁量はそれぞれ認められる。具体的には、行政庁は、他の行政庁の行った行政行為の違法性についても独立して判断し、許可基準の適合性を判断することができる。
 本件では、B県知事は、本件申請が本件許可基準に適合するかを判断するに当たり、本件認定を取り消されるべき違法なものと判断し、本件申請は本件許可基準第1-1-②に適合すると判断できる。

 ウ 本件申請との関係
 よって、本件認定は本件申請との関係で本件許可基準第1-1-②の適合性の判断に影響せず、裁量逸脱濫用は認められず、本件許可は適法である。

 4 本件許可基準第4-1等の適合性について
  ⑴ Fの主張

 本件貯水池の容量は少なく、Fの生活用水に不足が生ずる。B県知事は、「当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれ」(法10条の2第2項2号)及び「必要な水量を確保するため必要がある」(本件許可基準第4-1)の判断において、水量の確保に関する評価の合理性が欠如している点で裁量逸脱濫用が認められ、本件許可は違法である。

  ⑵ B県の反論

 ア 本件貯水池の容量や費用は無限定でなく、「当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれ」及び「必要な水量を確保するため必要がある」の意義が問題となる。

 イ 法10条の2第2項2号の趣旨は、無秩序な森林開発を防止し、水源のかん養などの森林の持つ機能の発揮を阻害しない点にある(法1条参照)。そこで、「当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれ」及び「必要な水量を確保するため必要がある」は、合理的かつ計画的な森林の維持改善に照らして判断される。

 ウ 本件貯水池の容量について、Fが説明会において主張した容量の確保は技術的に難しく、実現には費用が掛かりすぎる。そのため、Fの主張は合理性を欠くものである。むしろ、本件計画において本件貯水池の容量がFら地域住民の水の確保に著しい支障を及ぼす事情は見当たらない。そのため、D山の合理的かつ計画的な森林の維持改善に照らし、本件貯水池の容量についてF主張の内容まで拡大する必要はないといえる。したがって、B県知事による上記要件該当性判断において、水量の確保に関する評価の合理性の欠如はないといえる。

 エ よって、裁量逸脱濫用は認められず、本件許可は適法である。

以 上

4 本問の分析<当研究所専門員作成>
 
 ※ 上記の「答案の形で読む解説」の監修者が本問の分析をして下さったので、以下に掲載致します。
 
〔設問1〕⑴

  本問では、B県知事がAに対し本件申請に係る許可をした場合を前提として、E及びFが同許可の取消訴訟を提起した場合の、それぞれの原告適格の有無を検討することが求められます。E及びFは許可処分との関係では第三者に該当することから、法律上の利益の有無が問題となるわけです。
 Eの土地の一部は本件開発区域の対象となっており、かつ、Eは本件開発区域に隣接する土地所有者です(なお、ここではEはAと協議中で、本件申請に当たってはEの同意は取り付けていないことになります。)。他方で、Fは本件開発区域の外縁から200メートル下流部に居住している者になります。
 会議録によれば、E及びFの原告適格を検討するに当たっては、ゴルフ場建設に関わる開発許可の取消訴訟に関する最判平13.3.13・民集55-2-283(行政判例百選Ⅱ〔第7版〕163事件。以下「平成13年最判」という。)を参考とするように指示されています。
 平成13年最判によれば、まず処分の根拠規定の分析・趣旨目的として「森林法10条の2第2項1号は、当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがないことを、また、同項1号の2は、当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがないことを開発許可の要件としている。これらの規定は、森林において必要な防災措置を講じないままに開発行為を行うときは、その結果、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害が発生して、人の生命、身体の安全等が脅かされるおそれがあることにかんがみ、開発許可の段階で、開発行為の設計内容を十分審査し、当該開発行為により土砂の流出又は崩壊、水害等の災害を発生させるおそれがない場合にのみ許可をすることとしているものである。」
 そのため、「これらの規定は、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害防止機能という森林の有する公益的機能の確保を図るとともに、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害による被害が直接的に及ぶことが想定される開発区域に近接する一定範囲の地域に居住する住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると、土砂の流出又は崩壊、水害等の災害による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有すると解するのが相当である」として、災害等により生命、身体の安全等への直接的な被害が想定される住民について原告適格を認めています。
 しかし他方で、「森林法10条の2第2項1号及び同項1号の2の規定から、周辺住民の生命、身体の安全等の保護に加えて周辺土地の所有権等の財産権までを個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むことを読み取ることは困難である。また、同項2号は、当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがないことを、同項3号は、当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがないことを開発許可の要件としているけれども、これらの規定は、水の確保や良好な環境の保全という公益的な見地から開発許可の審査を行うことを予定しているものと解されるのであって、周辺住民等の個々人の個別的利益を保護する趣旨を含むものと解することはできない」として、災害等により損害が生ずることが想定される地域に財産権を有するにすぎない者については、原告適格を認めていませんでした。
 ここから、Fについては、過去、(数十年に一度程度の規模とはいえ)集中豪雨による沢からの溢水のため、Fの住居に浸水被害が生じたこと、他方で、Eについては土地及び立木を所有するにすぎないことを踏まえて、上記の定式を参考にしつつ、「行訴法9条2項」に即して検討することになります。

〔設問1〕⑵

  本問では、Eが本件開発行為に同意したとして、Fのみが同許可の取消訴訟を提起した場合に、訴訟係属中に工事が完了した後においてもFが許可処分の取消しを求める訴えの利益を有するか否かを検討するよう求められています。
 会議録によれば、Fの訴えの利益の有無を検討するに当たっては、建築確認の取消訴訟係属中に工事が完了した際の訴えの利益の有無に関する最判昭59.10.26・民集38-10-1169(行政判例百選Ⅱ〔第7版〕174事件。以下「昭和59年最判」という。)を参考とするよう指示されています。
 昭和59年最判は、「建築確認は、建築基準法6条1項の建築物の建築等の工事が着手される前に、当該建築物の計画が建築関係規定に適合していることを公権的に判断する行為であって、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果が付与されており、建築関係規定に違反する建築物の出現を未然に防止することを目的としたものということができる。しかしながら、…特定行政庁の違反是正命令は、当該建築物及びその敷地が建築基準法並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合しているかどうかを基準とし、…当該建築物及びその敷地が建築確認に係る計画どおりのものであるかどうかを基準とするものでない上、違反是正命令を発するかどうかは、特定行政庁の裁量にゆだねられているから、建築確認の存在は、…違反是正命令を発する上において法的障害となるものではなく、また、たとえ建築確認が違法であるとして判決で取り消されたとしても、…違反是正命令を発すべき法的拘束力が生ずるものではない。したがつて、建築確認は、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果を付与されているにすぎないものというべきであるから、当該工事が完了した場合においては、建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われるものといわざるを得ない。」としています。
 地域森林計画の対象となっている民有林における開発行為については、無許可の場合には罰則が科せられ(森林法206条1号)、また、無許可や不正に許可を受けて開発行為をした者に対し、中止命令や復旧に必要な行為をすべき旨を命じることができるとしています(同法10条の3)。この点、許可要件を欠いた工事を行った者に対しては、同法に基づいて命令等を行うことができるため、林地開発許可処分の存在は、監督処分を行うに当たって法的障害となるものではありません。また、たとえ林地開発許可処分が違法であるとして、判決で取り消されたとしても、監督処分を行うべき法的拘束力を生ずるものでもないといえます。そうすると、開発許可は、それを得なければ適法に開発行為を行うことができないという効果を有するにすぎず、開発行為に関する工事が完了した後は、その取消しを求める法律上の利益を基礎付ける理由も存しないため、訴えの利益を欠くことになります(岐阜地判平6.9.22・判時1542-57及びその上告審である最判平7.11.9・判時1551-64参照)。

〔設問2〕

  本問では、B県知事がAに対し本件申請に係る許可をし、これを不服としてFが同許可の取消訴訟を提起した場合に、Fによる当該許可処分の違法事由の主張を検討した上で、それらに対するB県側の反論を検討することが求められています。ただし、Fの主張する違法事由としては、森林法10条の2第2項1号及び同項1号の2に規定する要件該当性は除外されており、また、B県の側としても、Fの主張に対し、自己の法律上の利益とは関わりのない違法を主張するもの(行訴法10条1項)との反論であるか否かについては考慮する必要はありません。そこで、許可要件において中心的に検討すべきは、森林法10条の2第2項2号に規定する、開発行為により森林が現に有する水源のかん養の機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあるか否かの判断になります。確かにその規定ぶりからは、この「おそれ」の判断は行政庁の裁量に委ねられていると解されますが、そこでは森林の保続培養及び森林生産力の増進に留意すべきものとされます(森林法10条の2第3項)。また、この保続培養については、会議録によれば、森林の無秩序な開発により森林の持つ機能発揮を阻害しないように、合理的かつ計画的に森林を維持改善することを意味するものとされます。
 森林法施行規則では、開発許可の申請に際して、開発行為の施行の妨げとなる権利を有する者の相当数の同意を得ていることを証する書類の提出が求められます(4条2号)。この点、B県の許可基準第1-1-①では、開発行為の妨げとなる権利を有する全ての者の3分の2以上の者から同意を得ており、同意を得ていない者についても同意を得ることができると認められる場合を指すとされます。本件においては、本件開発区域に土地を有する者はAとEの2名であるところ、Eは説明会においても反対意見を述べており、3分の2以上の者の同意を得てはおらず、許可すべき場合に当たらないことが主張できそうです。また、Eが反対である以上は、本件開発行為の完了を見込むことができません。さらに、E所有林の部分においては本件貯水池の設置等が予定されているところ、こうした水資源の確保のために必要な措置が取れない以上、合理的かつ計画的に森林を維持改善することができないともいえそうです。
 この点について、B県としては、本件開発区域におけるEの割合は2パーセントにすぎず、全体からすればごく小さなものであるため、上記のような法の仕組みを前提とすれば、所有権者の数のみに着目するのは相当ではなく、個別の事情を考慮して所有林面積の割合を考慮することも認められると反論することが考えられます。また、Aによれば、AとEは現在も協議中であって、同意を取り付ける可能性が認められるとも言いうるでしょう。さらに、貯水池に関しては、本件開発区域全域に井戸や貯水池を設置予定であることも考慮要素となりそうです。
 次に、本件条例との関係です。水道水源の保護のために制定された本件条例に基づき、本件計画により設置する予定の施設は規制対象事業場に認定されています。そのため、本件条例の規定(8条)により、本件計画に従って施設を設置することはできず、許可基準第1-1-②に基づき、法令等による土地の使用に関する制限等に抵触することになります。
 また、本件条例によれば、規制対象事業場は、水道に係る水源の枯渇をもたらし、又はそのおそれのある工場その他の事業場ですが、Aとの協議の上で、審議会への諮問手続を踏まえて判断されたものです。その結果、本件開発行為は水源の枯渇をもたらすものであって、水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められることから、許可要件を満たさないことが主張できそうです。さらに、Fとすれば、本件貯水池の容量が少なく、Fの生活用水に不足が生じることから、許可基準第4―1を満たしていないとして許可処分をしてはならない旨を主張することになりそうです。
 そこで、本件条例に基づく本件認定が違法であって取り消されるべきものであれば、許可基準第1-1-②を満たすことになりますが、この点について、最判平16.12.24・民集58-9-2536(行政判例百選Ⅰ〔第7版〕28事件)は、類似の事例において、「本件条例は、水源保護地域内において対象事業を行おうとする事業者にあらかじめ町長との協議を求めるとともに、当該協議の申出がされた場合には、町長は、規制対象事業場と認定する前に審議会の意見を聴くなどして、慎重に判断することとしているところ、規制対象事業場認定処分が事業者の権利に対して重大な制限を課すものであることを考慮すると、上記協議は、本件条例の中で重要な地位を占める手続であるということができる。そして…本件条例は、…上告人が町の区域内に本件施設を設置しようとしていることを知った町が制定したものであり、被上告人は、上告人が本件条例制定の前に既に産業廃棄物処理施設設置許可の申請に係る手続を進めていたことを了知しており、また、同手続を通じて本件施設の設置の必要性と水源の保護の必要性とを調和させるために町としてどのような措置を執るべきかを検討する機会を与えられていたということができる。そうすると、被上告人としては、…上告人と十分な協議を尽くし、上告人に対して地下水使用量の限定を促すなどして予定取水量を水源保護の目的にかなう適正なものに改めるよう適切な指導をし、上告人の地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務があったものというべきであって、本件処分がそのような義務に違反してされたものである場合には、本件処分は違法となるといわざるを得ない」としています。
 そうすると、C市長としては、Aの権利に配慮すべきことが要請されるところ、協議においては互いの主張を述べるにとどまっており、協議や行政指導等を通じて、Fの主張するコストの高い容量の確保の他に、地下水の使用量を水源保護に支障をきたさない適正量に改めさせることで水源保護の目的が達せられるものといえ、丁寧に協議等を行うことによって、本来であれば、規制対象事業場に認定されることはなかったと反論することができそうです。

5 的中情報★★★

・2022スタンダード論文答練(第1クール)公法系1第2問(福田俊彦先生担当)
「原告適格、裁量論」★★★

・2022スタンダード論文答練(第2クール)公法系1第2問(西口竜司先生担当)
「原告適格、裁量論」★★★

・2022スタンダード論文答練(第2クール)公法系3第2問(金沢幸彦先生担当)
「原告適格、裁量論★★★

・2022福田ファイナル予想答練公法系第2問(福田俊彦先生担当)
「原告適格、裁量論★★★
 
 上記のように、2022対策のスタンダード論文答練と福田ファイナル予想答練では、原告適格と裁量論を繰り返し出題し、ズバリ的中致しました。これは、出題の周期性から、今年、原告適格の出題可能性が高いことと、令和4年に行政法の司法試験考査委員が大幅に入れ替わり、令和元年から令和3年までと異なりオーソドックスな出題が予想されたことから、これらのテーマについて敢えて集中的に出題致しました。受講生の皆様には極めて有利であったと思われます。

●第1問 民法

■公開:2022年06月02日/16:20

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
 
1 はじめに
 今年の民事系科目第1問(民法)は、オーソドックスな出題がされました。典型基本論点から民法(債権法)改正関連のテーマまでが問われ、受験生の民法の力を試すのにふさわしい良問と評価できます。
 本問の特色として挙げられるのは、短答式試験と同様に、民法総則から相続法に至るまでの知識がバランスよく問われたことです。これは、民法が法曹実務における最重要科目であることから、知識・理解の穴を作らないようにさせたいという司法試験考査委員の意図かもしれません。ちなみに、令和4年司法試験考査委員(学者委員、出題委員)4名の方は、民法の各領域の専門家をバランスよく配置しているといえます。この4名の考査委員は、沖野眞已・窪田充見・佐久間毅編著『民法演習サブノート210問』(弘文堂、第2版、2020)の著者であり、概ね本問で出題された領域を分担執筆しています(もっとも、考査委員執筆部分と類似の事例はないと認められます。)。今後の民法の対策としては、短答式試験対策をしながら条文と判例の知識をインプットするとともに、上掲書や代表的な基本書などで民法の主要論点の知識・理解に関する穴をなくし、事例で民法の条文と判例を使いこなせることが重要であると思われます。
 
2 論点一覧
 
 1 民法94条2項、110条の類推適用
 2 背信的悪意者からの転得者と民法177条の「第三者」
 3 二重譲渡と詐害行為取消請求
 4 債権者への登記請求の可否
 5 不動産の賃貸人たる地位の移転(民法605条の2)
 6 不動産譲渡担保
 7 死因贈与における遺贈の規定の準用の可否(撤回)
 
3 答案の形で読む解説<司法試験合格者原案作成、弁護士監修>
 
 第1 設問1⑴

 Cは、Aに対し、所有権に基づく甲土地引渡請求をする。それに対して、契約①は、虚偽の契約であり、AからBには甲土地の所有権が移転しないため、Aは、無権利者Bからの譲受人Cの引渡請求を拒むことができないか。甲土地の所有者AがBに対して不動産に関する権限を与え、BがAに無断で自己が甲土地の所有者であるという不実の登記を作出した場合に、不実の登記を信頼して甲土地をBから買ったCが、Aに対し、甲土地の引渡請求をすることができないかが問題となるが、甲土地の引渡請求をすることはできない。以下、その理由を述べる。

1 民法(以下、省略する。)94条2項類推適用の可否
 94条2項の趣旨は、虚偽表示によって権利外観を作出した本人の帰責性に照らして、これを信頼した第三者の取引安全を図ることにあるから、虚偽の外形の作出・存続につき本人の意思関与がある場合には本人にその責任を負わせて善意の第三者を保護すべきである。
 そこで、権利帰属があるかのような外形があること、真正権利者が自らの意思でその外形を作出又は存続させたこと及び外形が虚偽であることについて第三者の善意という3つの要件を充足する場合には、94条2項類推適用に基づき、第三者を保護すべきである。
 本件では、第三者Cが信頼した不実の登記の作出・存続は、BがAに無断で行ったものであり、また真正権利者Aの承諾がないため、真正権利者が自らの意思で外観を作出・存続させたとはいえないので、94条2項類推適用は認められない。

2 94条2項、110条の類推適用の可否
 権利外観法理は、取引の安全と真正権利者の帰責性によって基礎づけられるものであるから、真正権利者に不実登記の承諾と同視しうるほどの重い帰責性があるときは、94条2項、110条の類推適用により、善意無過失の第三者を保護すべきである。なぜなら、真正権利者から不動産に関する広範な代理権を与えられた者が権限外の不実登記を作出しており、しかもその権限外行為を容易になしうる状況を権利者が作り出していた点に、110条における本人の帰責性との類似性が認められるからである。
 本件では、Aは、Bに対し、甲土地の抵当権の登記の抹消を依頼し、Bの抵当権の抹消登記手続に必要であるとの言葉を信じて所有権移転登記手続に必要な書類等を交付した。このAの行為は、多少不注意であるとはいえるものの、不動産取引の経験のなかった者が、信頼する元不動産業の友人から求められるままに書類等を提出したのみであり、94条2項、110条の類推適用を認めた判例のように、求められるままに売買契約書に署名押印をし、実印を交付し、登記申請書の記入を漫然と見ていた事案とは異なる。
 したがって、Aには、不実登記の承諾と同視しうるほどの重い帰責性は認められず、94条2項、110条の類推適用の前提を欠く。

3 結論
 よって、Cは甲土地の所有権を取得できず、Aは、Cからの引渡請求を拒むことができる。

 第2 設問1⑵

1 DのCに対する甲土地の所有権に基づく請求の可否
 Dは、Cに対し、登記なく甲土地の所有権の取得を対抗できない。その理由は、以下のとおりである。
 Bは、DがAから契約③により甲土地を買ったことを知っており、かつ、Dに損害を与える目的でAとの間で契約④を締結しているため、背信的悪意者といえ、177条の「第三者」、すなわち、当事者若しくはその包括承継人以外の者で、物権変動について登記の不存在を主張する正当の利益を有する者には当たらない。したがって、Dは、Bに対しては、登記なく甲土地の所有権の取得を対抗できる。
 もっとも、背信的悪意者Bからの転得者であるCは、契約③の存在は知っていたものの、BのDを害する意図を知らなかったので、背信的悪意者とはいえず、177条の「第三者」に当たる。なぜなら、Bは、Dとの関係で信義則違反があるために登記不存在の主張をすることが許されないだけであり、甲土地の所有権自体は有効に取得しており、転得者は、自らが背信的悪意者といえない限り、甲土地の所有権を承継取得できるからである。

2 DのCに対する詐害行為取消請求の可否
 Dは、Cに対しては甲土地の所有権の取得を主張できない結果、契約③に基づくAのDに対する甲土地の引渡債務及び登記移転義務が履行不能となり、Aに対して4000万円の損害賠償債権(415条1項本文)を有し、契約④を詐害行為として取り消すことができる(424条)。以下、その理由を述べる。
 詐害行為取消権は債務者の一般財産の保全を目的とする以上、被保全債権は、原則として金銭債権に限定される。しかし、特定物債権であっても、それが不履行となれば損害賠償請求権に転じ、債務者の一般財産によって担保されることは金銭債権と同じである。したがって、特定物債権も、取消権行使の時点で金銭債権に転じていれば、詐害行為として取り消せると解する。このように解しても、詐害行為取消請求をするためには債務者の無資力の要件が必要であるので、177条とは抵触しない。
 本件では、DがAに対して有する4000万円の損害賠償債権は、契約④がされた令和2年4月12日より前の同月5日の契約③に基づいて発生したものである(424条3項)。また、Aには甲土地が唯一のめぼしい財産であったので、Aは無資力といえる。さらに、Bは、Aの事業を支援することを申し向け、2000万円で甲土地を買い取ったものの、4000万円の半額では「相当の対価」とはいえないので、424条の2は適用されない。したがって、契約④は、詐害行為といえる。
 そして、Bは詐害行為時点、Cは転得時点において、契約③の存在とAの無資力を知っていたため、債務者A(424条1項本文)、受益者B(424条1項ただし書)及び転得者C(424条の5第1号)は、債務者Aがした契約④が債権者Dを害することを知っていたといえる。
よって、Dは、424条の5第1号に基づき、Cに対し、詐害行為取消請求をすることができる。

3 請求1の可否
 424条の9は、金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものに限り、債権者自身への直接の引渡しを認める。同条の反対解釈により、本件のような不動産においては、Dは、Cに対し、自己に登記を移転するよう請求することはできず、請求1は認められない。

4 請求2の可否
 Dは、Cに対し、財産返還請求として債務者Aに甲土地の登記を移転するよう請求することができる(424条の6第1項、第2項)ので、請求2は認められる

 第3 設問2

1 下線部㋐の主張の根拠
 Gは、契約⑥に基づき乙建物の引渡しを受けており、建物の賃貸借の対抗要件を備えているところ(借地借家法31条)、FからHに乙建物が「譲渡」されたときは、賃貸人たる地位も譲受人Hに移転する(605条の2第1項)。そして、乙建物につきFからHへの所有権移転登記がされたことから、Hは、賃貸人たる地位の移転を賃借人Gに対抗することができる(605条の2第3項)。したがって、Gが賃料支払義務を負うのはHのみであり、Fに対しては賃料支払義務を負わない。

2 下線部㋑の主張の根拠
 FH間の乙建物の譲渡は、債務αを担保する目的でされたものであり、不動産譲渡担保といえる。不動産譲渡担保は、債権担保の目的の範囲内で不動産の所有権を譲渡担保権者に移転させるにすぎず、確定的に不動産の所有権を移転させるものではないから、605条の2第1項の「譲渡」には当たらない。

3 下線部㋒の主張の根拠
 契約⑦において、Fが債務αの弁済期が経過するまで乙建物の使用収益をする旨の合意がある。この合意は、賃貸人たる地位をFに留保する旨の合意及びHがFに乙建物を賃貸する旨の合意といえるから、賃貸人たる地位はHに移転せず、Fに留保されている(605条の2第2項前段)。

4 Fの反論の当否及び請求3の可否
 605条の2第1項は、「譲渡」と規定するのみであり、譲渡担保を排除しているとはいえない。また、605条の2第2項前段によって、譲渡人に賃貸人たる地位を留保する旨の合意をすれば、債権担保目的の譲渡担保において譲渡人から使用収益権を奪わないことが可能である。そうすると、譲渡担保を605条の2第1項の「譲渡」に含まないと解釈すべきではなく、「譲渡」に含めた上で、同条第2項の問題とすべきである。したがって、譲渡担保であっても、605条の2第1項の「譲渡」に当たる。
 次に、契約⑦において、HはFに対し、債務αの弁済期が経過するまでは使用収益権限を与える旨の合意があるから、605条の2第2項に定める内容の合意が存在するといえ、乙建物の賃貸人たる地位は、債務αの弁済期が経過するまではFに留保されている。令和5年5月分の賃料は、債務αの弁済期経過前に発生しているため、Fは、Gに対し、同年5月分の賃料を請求することができる。
 それに対して、同年6月分の賃料は、債務αの弁済期経過後に発生したものである。契約⑦における合意は、債務αの弁済期が経過するまでであるので、弁済期経過後は、HとFとの間の賃貸借が終了したといえる。したがって、605条の2第2項後段により、Fは、Gに対し、同年6月分の賃料を請求することができない。

 第4 設問3

1 下線部㋓の主張の根拠
 契約⑧は、贈与者Kの死亡によって効力を生じる死因贈与であり、554条により、「その性質に反しない限り」、遺贈に関する規定を準用する。遺言の撤回に関しては、遺言はいつでも撤回できるし(1022条)、前の遺言と後の遺言が抵触するときは、抵触する部分について前の遺言を撤回したものとみなされる(1023条1項、2項)。これは、できるだけ死に近い時点での遺言者の最終意思を尊重しようとする考え方による。そして、死因贈与においても、贈与者の最終意思を尊重すべきであるから、1022条は、遺言の方式に関する部分を除いて準用されるべきである。
 本件では、Kが契約⑧締結後に丙不動産をN県に遺贈する旨の遺言をしたことにより、丙不動産をMに与える旨の契約⑧は撤回されている。

2 考えられるMからの反論
 KとMは、契約⑧を「書面」によって締結しており、解除は制限されるべきである(550条本文反対解釈)。また、死因贈与は贈与者と受贈者との契約であるのに対し、遺贈は遺言者の遺言という単独行為によってされる処分(964条)であるので、法的性質が異なる。そして、死因贈与の場合には、契約の相手方である受贈者の条件付権利を尊重する必要がある。
 したがって、死因贈与には、遺言の撤回に関する規定である1022条を準用することができず、契約⑧の撤回は認められない。

3 請求4の当否
 死因贈与は、契約ではあるものの、死亡してはじめて受贈者の期待が法的に保護されるべきものといえる。また、直ちに贈与をすることもできたにもかかわらず、それをせずに、死亡時に効力を生ずる死因贈与をした贈与者の最終意思こそ尊重すべきである。
 本件では、Kは、Mに死因贈与することにしていた丙不動産について、N県に遺贈する旨の自筆証書遺言をした以上、Kの最終意思は、遺言によって前の死因贈与を撤回する意思と解するのが合理的である。
 よって、契約⑧の撤回は認められ、請求4は認められない。

以 上

【解答例原案作成者コメント】

 ・問題一つ一つの難易度は普通だがとにかく時間がない。
・配点を見て気楽に一つ一つ処理していくべき問題という感じ。
・深く考えようと思うと、結論はどちらもあり得る問題ばかりだが、そこで合否は決まらないし、考査委員(採点者)に伝わるかもよく分からないのでとにかく解ききるのが重要か。

4 素材判例・参考文献等
 
〔設問1⑴〕

 ・最判平18.2.23(民集60-2-546、民百選Ⅰ〔第8版〕22事件)
・佐久間毅『民法の基礎1 総則』(有斐閣、第5版、2020)P.121~147

〔設問1⑵〕

 ・最判平8.10.29(民集50-9-2506、民百選Ⅰ〔第8版〕61事件)
・佐久間毅『民法の基礎2 物権』(有斐閣、第2版、2019)P.75~81
・沖野眞已・窪田充見・佐久間毅編著『民法演習サブノート210問』(弘文堂、第2版、2020)P.81~2「41 177条の『第三者』」(横山美夏執筆)
・最大判昭36.7.19(民集15-7-1875、民百選Ⅱ〔第8版〕15事件)
・内田 貴『民法Ⅲ 債権総論・担保物権』(東京大学出版会、第4版、2020)P.357~393

〔設問2〕

 ・最判平11.3.25(判時1674-61、改正前民法時代の判例)
・中田裕康『契約法』(有斐閣、新版、2021)P.445~456
・沖野ほか前掲書P.225~6「128 賃貸目的不動産の譲渡」(山城一真執筆)
・田髙寛貴・白石大・鳥山泰志『担保物権法』(日本評論社、第2版、2019)P.125~145(田髙寛貴執筆)

〔設問3〕

 ・前田陽一・本山敦・浦野由紀子『民法Ⅵ 親族・相続』(有斐閣、第6版、2022)P.400、415~9(浦野由紀子執筆)

5 的中情報★★★

・2022スタンダード論文答練(第2クール)民事系1第1問(福田俊彦先生担当)
「譲渡担保」★★

・2022司法試験全国公開模試「令和4年主要考査委員紹介&出題予想」(福田俊彦先生担当)
「横山美夏教授の紹介 二重譲渡」

●第2問 商法

■公開:2022年06月02日/16:20

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
 
1 はじめに
 今年の民事系科目第2問(商法)は、近時の下級審裁判例を素材にして、会社法及び商法総則の分野から主要な論点を万遍なく問う出題がされました。そして、予備試験では何度か問われたことがありましたが、司法試験で会社法以外である商法総則の分野から問われるのは珍しいといえます。
 司法試験論文式試験においては、従来、創作性の強い事案のもと、細かい条文の知識・理解がメインに問われていましたが、昨年あたりから近時の下級審裁判例を素材とした判例理論の知識・理解を問う出題傾向に変化した感があり、今年も、出題内容と素材裁判例を見る限り、昨年の傾向を踏襲しているといえます。この傾向が続くのであれば、『私法判例リマークス(法律時報別冊)』(日本評論社)を検討するか、又は辰已法律研究所のスタンダード論文答練を受講するかなどをして、本試験の素材となりそうな近時の裁判例を確認しておくことも、論文対策としては有益でしょう。
 また、令和元年から令和3年までは、著者の一人である久保田安彦教授が司法試験考査委員であったためか、髙橋美加・笠原武朗・久保大作・久保田安彦『会社法』(弘文堂、第3版、2020)がタネ本と思われる出題がされていましたが、今年は、久保田教授が考査委員を外れたためか、同書をタネ本とまでは評価できないといえます(もっとも、同書が会社法の基本書として良書であることに変わりはなく、令和4年予備試験においては、著者の髙橋教授及び笠原教授が専任の考査委員であり、タネ本とされる可能性が高いと思われます。)。
 さらに、近時の裁判例などを参考に執筆されている、黒沼悦郎編著『Law Practice商法』(商事法務、第4版、2020)は、後記のように、本問の解答に非常に有益であったと思われます。
 
2 論点一覧
 

 1 取締役の任期を短縮する旨の定款変更により退任させられた取締役に対する損害賠償責任(会社法339条2項類推適用)
2 取締役を再任しなかったことについての「正当な理由」(同項)
3 退任させられた取締役の「損害」(同項)
4 取締役の任務懈怠責任(会社法423条1項)
5 取締役の善管注意義務違反(会社法330条・民法644条)
6 経営判断原則
7 譲渡会社の商号を続用した譲受会社の責任(会社法22条1項)
8 商標の続用(同項類推適用)

 
3 答案の形で読む解説<司法試験合格者原案作成、研究者監修>
 
〔設問1〕
 
 1 法律構成及び損害に関する主張

⑴ Dは、取締役の任期途中に任期を短縮する旨の定款変更がなされて本来の任期前に退任させられ、その後、正当な理由なく取締役として再任されることがなかったとして、甲社に対し、会社法(以下、省略する。)339条2項類推適用により、損害賠償を請求することが考えられる。

⑵ 「損害」に関しては、Dは、任期とされていた2028年6月の定時株主総会の日までの報酬である3840万円を主張する。

 2 主張の当否

⑴ア 本条の趣旨は、株主に解任の自由を認める一方で、取締役の任期に対する期待を保護する点にある。
 そうすると、株主が、取締役の任期の途中で取締役の地位を解いた場合も、当該取締役の任期に対する期待が害されるといえ、これを保護する必要がある。
 したがって、株主が取締役の任期の途中で取締役の地位を解いた場合も、「解任」に当たると考える。

 イ 本件では、Dは、2018年6月20日の定時株主総会で取締役に選任されていたことから、変更前の定款規定によれば、2028年6月の定時株主総会の終結の時まで取締役の任期が認められていた。
Aは、定款変更議案及び取締役選任議案を提出して、2020年6月25日に株主総会決議を行った(466条、309条2項11号、341条)。これにより、Dは、任期途中に任期を1年に短縮する旨の定款変更がなされたため任期の途中で取締役を退任させられ、その後、取締役に再任されなかった。

 ウ したがって、Dは、取締役の任期の途中で実質的に取締役を解任されたといえる。

⑵ 「正当な理由」
 取締役の解任についての「正当な理由」とは、任期に対する期待が保護に値しない事情、具体的には、職務遂行上の法令違反行為や経営能力の著しい欠如、心身の故障により職務執行に支障がある場合を意味する。
 本件では、Dには、甲社の取締役就任以来、法令違反行為や職務執行に支障がある事情は認められない。むしろ、Dは、Aらが事業拡大を図る東北地方進出について、2年連続で営業損失を計上していることを理由にこれに反対しており、甲社の経営のため適切な判断を行ったものといえる。しかし、甲社の取締役5名のうち、4名が再任されたにもかかわらず、Dのみが取締役に再任されなかった。
 したがって、Dを取締役として再任しなかったことについて「正当な理由」は認められない。

⑶ 「損害」

 ア 上記本条の趣旨より、「損害」とは、取締役の任期に対する期待を償うためのもの、すなわち、取締役が解任されなければ在任中得られた利益の喪失と解する。

 イ 本件では、Dの役員報酬は月40万円であったことから、定款変更前の任期10年を基準とすると、Dの残任期間は8年である。しかし、8年間もの長期にわたり、40万円の月額報酬を受領し続けることができたと推認することは困難である。
 乙社出身の取締役については、選任から4年で退任するのが慣例となっていた。この慣例を前提とすると、Dが退任されなければ在任中得られた利益は、残任期間の2年間の報酬相当額と考えることができる。

 ウ したがって、Dが取締役として再任されなかったことによって被った損害額は、月額40万円の24か月分である960万円と認められる。

⑷ よって、Dは、甲社に対し、960万円を請求することが認められる。

 
〔設問2〕
 
 1 Jの主張

 Jは、Gに対し、乙社のデュー・ディリジェンス(以下「DD」という。)を行わずに本件事業譲渡契約を締結する旨の判断をして実行したことが、戊社の取締役としての善管注意義務(330条、民法644条)に違反することを理由に、戊社に対する損害賠償責任(423条1項)として4000万円を請求することが考えられる(847条)。

 2 請求の当否

⑴ 「取締役」(423条1項)
 Gは、戊社の代表「取締役」である。

⑵ 任務懈怠(同項)

 ア 取締役は、「その任務」として善管注意義務を負う。
 取締役の経営判断が萎縮することは株主の利益にならないから、将来予測にわたる経営上の専門的判断が必要とされる事項の決定については、行為当時の状況に照らし、事実の認識に不注意な誤りがなく、また、その事実に基づく経営判断の過程・内容に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務違反にはならないと解する。

 イ(ア) まず、Gが、本件事業譲渡契約を締結する旨の判断をして実行したことは、乙社の事業を救うことにより、戊社の事業の継続を図ろうとしたものであり、当該Gの行為は、戊社の将来にわたる経営上の専門的判断が必要とされる事項である。

  (イ) 本件事業譲渡契約に際して、GはFより、乙社が前年から業績が悪化し、同契約の日における資産が6000万円まで減少していることや丁銀行に対し、3000万円の残債務を負っていること等の事実を知らされている。
 したがって、Gは、本件事業譲渡契約の締結に当たり、事実の認識に不注意な誤りはなかったといえる。

  (ウ) Gは、本件事業譲渡契約において、乙社のDDを行っていない。その理由としては、戊社の親会社である甲社代表取締役のAより、乙社の事業が立ちゆかなくなると甲社の事業に大きな影響が及ぶこと及び乙社代表取締役Fより、1か月程度で交渉がまとまらない場合は乙社の法的整理も検討することを述べられたことが挙げられる。乙社の事業の継続が戊社の親会社の経営に関わることからすれば、乙社のDDを行わないことの合理性が認められるとも思える。
 しかし、会社が事業の買収を行う際にはDDを行うことが実務上広く行われていること及びGが乙社の経営状況について上記(イ)の事実を認識していたことから、乙社のDDを行うことは、戊社の経営において必要なものといえる。
 また、GはAから、本件事業譲渡を実現できなければ、かつて甲社従業員であり戊社の取締役に就任しているG及びIの再任をしないと述べられていることも、本件事業譲渡契約に当たり乙社のDDを行っていない理由にあるといえる。これらの事情は、戊社ではなくG本人の地位に関する事情であり、戊社の経営判断に適当でないものといえる。
 そうすると、本件事業譲渡契約において乙社のDDを行わないというGの経営判断の内容は著しく不合理であるといえる。

  (エ) そして、Gは、本件事業譲渡契約の締結に際し、取締役会において、本件事業譲渡契約を行わないと、戊社の売上総利益の半数を支える甲社との取引に影響が及ぶ旨、事実を述べているものの、自身の取締役としての地位が脅かされる事実については述べていない。
 また、Gは、戊社のメインバンク出身の取締役Hから、同銀行という業界の事情を知る知人及び弁護士が、うまくいっていない事業の買収を行う場合にはDDを行った方がよいとの指摘をしたことを聞いている。そうであるにもかかわらず、GはDDを一切行っていないことから、その判断の過程には著しい不合理があるといえる。

  (オ) したがって、Gには、善管注意義務違反が認められる。

⑶ 「損害」
 「損害」は、任務懈怠「によって」生じたものが当たる。
本件事業譲渡契約に際し、乙社のDDを行っていれば、乙社の問題点を発見することができ、本件事業譲渡契約を締結しなかったか、仮に締結したとしてもその対価は1000万円以下となるはずであった。
 そうすると、Gの任務懈怠によって、戊社には、少なくとも本件事業譲渡契約の対価4000万円と1000万円との差額3000万円の損害が生じたといえる。

 
〔設問3〕

1 丁銀行は、戊社に対して、22条1項の類推適用に基づき、乙社の残債務の弁済を請求することが考えられる。

2 戊社は、本件事業譲渡契約に基づき、乙社の「事業を譲り受けた」(同項)。

3⑴ しかし、戊社は、乙社の登録商標Pを続用したにすぎず、「商号」を続用したわけではない。「商号」でない商標の続用には、22条1項を直接適用できないが、類推適用できないかが問題となる。

 ⑵ 本条の趣旨は、商号続用により生ずる同一事業主体による事業継続や債務承継の外観に対する信頼を保護する点にある。そこで、「商号」以外の続用であっても、それが譲渡会社の事業主体を表示するものとして用いられている場合には、特段の事情のない限り、上記外観が生じる危険が高いから、同条が類推適用されると考える。

 ⑶ 本件では、たしかに、事業を譲り渡した乙社は、そもそも登録商標Pを使用した商品を製造して卸売を行うだけで、消費者等に直接販売したことはなかったことから、登録商標Pがすなわち乙社であることを示していたものとは認め難い。
 しかし、戊社は、自社の経営するスーパーマーケットで従前乙社の商品を取り扱ったことはなく、「乙」の文字や登録商標Pと共通する文字を使用したことはなかったにもかかわらず、本件事業譲渡完了後、同スーパーマーケットの店舗内において、登録商標Pを描写した看板を複数の入口という人通りの多い場所に掲げて、登録商標Pを使用した日用品を販売した。また、戊社は、誰もが目にすることのできる、自社のウェブサイトにおいて、「Pが新たに生まれ変わり、当店で扱うことになりました。」と宣伝し、登録商標Pを掲載していた。
 登録商標Pが乙社の製造卸売事業において用いられていたものであったことから、登録商標Pを従前全く用いてこなかった店舗内やウェブサイトにおいて使用し、その販売を実施することは、登録商標Pを譲渡会社の事業主体を表示するものとして用いているものと認められる。
 したがって、戊社による登録商標Pの使用には、22条1項の趣旨が妥当し、乙社の「商号を引き続き使用する場合」に準ずるものといえる。

4 「譲渡会社」乙社「の事業」は、本件事業譲渡後も業績が改善せず、丁銀行に残債務を弁済することができていないことから、当該債務は、乙社「の事業によって生じた債務」に当たる。

5 よって、丁銀行の請求は認められる。

以 上

【解答例原案作成者コメント】

 ・問題一つ一つの難易度は普通だがとにかく時間がない。
・全体を通して、問題となる論点は明らかであったと思う。ただ全体を通して、事実が詳細に記載されているので、これを拾い切り、適切に評価することが難しいと感じた。
・論点については明らかであるので、規範の正確さ、具体的検討の丁寧さで差が出る問題であると思う。
・設問1及び設問3は、条文の直接適用が認められないが、その趣旨に遡って、文言解釈をするという、法的思考の基本を問う問題であった。
・設問2についても、423条1項が問題となることが明らかであるが、経営判断原則を正面から検討することが、求められており、精緻な分析が必要であった。

4 本問の分析<研究者作成>
 ※ 上記の「答案の形で読む解説」の監修者が本問の分析をして下さったので、以下に掲載致します。
 
〔設問1〕
 Dは、甲社の取締役を事実上解任されたと主張して、会社法339条2項の類推適用により、甲社に対し損害賠償請求することが考えられる。
 
事実上の取締役の解任
 事実6①の定款変更議案の可決及び②のうちDを取締役に選任する議案の否決により、Dは甲社の取締役を事実上解任された。
 
東京地判平27.6.29・判時2274-113
 〔判 旨〕
「会社法339条2項は、株主総会の決議によって解任された取締役は、その解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる旨定めているところ、その趣旨は、取締役の任期途中に任期を短縮する旨の定款変更がなされて本来の任期前に取締役から退任させられ、その後、取締役として再任されることがなかった者についても同様に当てはまるというべきであるから、そのような取締役は、会社が当該取締役を再任しなかったことについて正当な理由がある場合を除き、会社に対し、会社法339条2項の類推適用により、再任されなかったことによって生じた損害の賠償を請求することができると解すべきである。
 これを本件についてみると、原告らは、本件定款変更によって本来の任期よりも前に取締役から退任させられ、取締役として再任されることもなかったのであるから、被告が原告らを再任しなかったことについて正当な理由がある場合を除き、被告に対し、損害賠償を請求することができることとなる。」
 
名古屋地判令元.10.31・金判1588-36
 甲が乙株式会社の取締役及び代表取締役に就任し、取締役在任中に、取締役の任期を10年から1年に変更する旨の定款変更がなされた場合において、その地位が生活保障のために与えられた地位であり、甲が乙会社の取締役に就任している期間を通じて、生活保障のために与えられたという地位に変化がなく、また、その在任中、生活保障としては十分な金銭を得ているといえるときには、甲を乙会社の取締役として選任した目的は、右定款変更による任期が終了した時点で既に達成しており、甲を乙会社の取締役に再任しなかったことについては、「正当な理由」があるといえる。
 
本問の検討
 甲社の取締役であったA、B、C及びEは2010年の定時株主総会で取締役に選任されていたから、取締役の任期を1年に短縮する定款変更がなくとも、2020年6月25日の定時株主総会の終結をもって退任することとされていた。
Dは、2018年6月20日の定時株主総会で取締役に選任されていたことから、変更前の定款規定によれば、2028年6月の定時株主総会の終結まで取締役の任期が認められていたが、2020年6月25日の定時株主総会において、任期途中に任期を1年に短縮する旨の定款変更がなされたため、本来の任期前に取締役から退任させられた。
2020年6月25日の定時株主総会において、A、B、C及びEは取締役に再任されたが、Dのみが再任されなかった。
甲社がDを再任しなかったことについて「正当な理由」が認められなければ、Dは、会社法339条2項の類推適用により、甲社に対し損害賠償を請求することができる。
 
損害賠償額の算定
前掲東京地判平27.6.29・判時2274-113
〔判 旨〕
 「平成23年1月20日当時に原告らが得ていた取締役報酬は、原告aにつき月額60万円、原告bにつき月額29万5000円であったことは…記載のとおりである。
 この点、原告らは、原告らが取締役を退任した日の翌日である平成23年1月21日から本件定款変更前の本来の任期の終期である平成28年6月末日までの間の得べかりし取締役報酬相当額が損害となる旨主張する。
 しかしながら、平成23年1月から平成28年6月までの5年5か月以上もの長期間にわたって、被告の経営状況や原告らの取締役の職務内容に変化がまったくないとは考えがたく、原告らが平成28年6月までの間に上記の月額報酬を受領し続けることができたと推認することは困難であって、その損害額の算定期間は、原告らが退任した日の翌日から2年間に限定することが相当である。
 以上によれば、原告らが取締役に再任されなかったことによって被った損害額は、原告aにつき1440万円(60万円×24か月分)、原告bにつき708万円(29万5000円×24か月分)であると認められる。」
 
本問の検討
 Dの役員報酬は月40万円であった。
 定款変更前の任期10年を基準とすると、Dの任期は8年残っているが、8年間もの長期にわたり、40万円の月額報酬を受領し続けることができたと推認することは困難である。乙社出身の取締役については、選任から4年で退任するのが慣例となっていることから、当該慣例を前提とすると、残任期間の2年間の報酬相当額を損害と考えることができる(他の考え方もあり得る)。
 したがって、Dは、甲社に対し、40万円×24か月分=960万円を請求することができる。
 
〔設問2〕
 Jは、Gに対し、本件事業譲渡契約を締結する旨の判断をして実行したことが戊社の取締役としての善管注意義務(会社法330条、民法644条)に違反するとして、戊社に対する損害賠償責任を追及することが考えられる。
 
経営判断原則の適用の当否 → 善管注意義務違反の有無
東京地判平16.9.28・判時1886-111
〔判 旨〕
 「取締役の業務についての善管注意義務違反又は忠実義務違反の有無の判断に当たっては、取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況及び会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢の下において、当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として、(A)前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か及び(B)その事実に基づく行為の選択決定に不合理がなかったか否かという観点から、当該行為をすることが著しく不合理と評価されるか否かによるべきである。」
 
最判平22.7.15・判時2091-90(会社法判例百選〔第4版〕48事件)
〔判 旨〕
 「本件取引は、AをBに合併して不動産賃貸管理等の事業を担わせるという参加人のグループの事業再編計画の一環として、Aを参加人の完全子会社とする目的で行われたものであるところ、このような事業再編計画の策定は、完全子会社とすることのメリットの評価を含め、将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられていると解される。そして、この場合における株式取得の方法や価格についても、取締役において、株式の評価額のほか、取得の必要性、参加人の財務上の負担、株式の取得を円滑に進める必要性の程度等をも総合考慮して決定することができ、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではないと解すべきである。」
 
 多くの下級審裁判例は、上記東京地判と同様に、「(A)前提しての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か」について言及しているところ、上記最判は(A)の部分に言及していないことが学説上議論されている。もっとも、上記最判を担当した金築誠志氏によれば、この判決はあくまで事例判断という位置付けであり、「この事件では、誰の意見を聴いていたとか、そういう決定の過程は問題になっていますけれども、決定の前提となった事実認定や事実認識の点は、まったく問題になっていないのです」と述べている(金築誠志=森本滋「対談・裁判官四方山話」江頭憲治郎=森本滋編『拾遺会社法(会社法コンメンタールしおり・付録集)』 (商事法務、2021)P.109)。したがって、本問の検討に当たっては、(B)のみに言及する上記最判よりも、(A)及び(B)に言及する上記東京地判の規範を引用した方が適切であると思われる。
 
本問の検討
代表取締役Gについて
(A)事実としての認識
 事実8、9
(B)行為の選択決定(その決定の過程、内容)
 デュー・ディリジェンスを実施しなかった(事実14)。
 取締役Hの指摘(事実15)
 デュー・ディリジェンスを実施しなかった理由(事実16)
 取締役会の決定方法(事実17)
Gには取締役として善管注意義務違反が認められる(反対の結論もあり得る)。
 
損害額の算定
 仮にGの善管注意義務違反が認められるとすると、Gの任務懈怠と相当因果関係のある戊社の損害額はどのように算定されるか。
 本件事業譲渡契約で定められた対価4000万円と、デュー・ディリジェンスを実施していれば算定された1000万円以下との差額とすること、または対価4000万円全額を損害とすることなどが考えられる。
 
〔設問3〕
 丁銀行は、戊社に対して、会社法22条1項の類推適用により、乙社の残債務の弁済を請求することが考えられる。
 
東京地判平27.10.2・金判1480-44 標章の続用のケース
〔判 旨〕
 「会社法22条1項が、営業譲渡の譲受会社のうち、商号を続用する者に対して、譲渡会社の債務を弁済する責任を負わせた趣旨は、営業の譲受会社が譲渡会社の商号を続用する場合には、従前の営業上の債権者は、営業主体の交替を認識することが一般に困難であることから、譲受会社のそのような外観を信頼した債権者を保護するためであると解するのが相当である(最高裁昭和29年10月7日第一小法廷判決・民集8巻10号1795頁、同昭和47年3月2日第一小法廷判決・民集26巻2号183頁参照)。
 前記認定事実によれば、被告は、デザインワークスプロジェクトがかねてより英語表記の略称として用いていた『DWP』という名称を商号とし、また、デザインワークスプロジェクトがかねてより使用していた本件標章を使用しているものであるところ、『DWP』という名称はデザインワークスプロジェクトという営業主体を表すものとして業界で浸透し、ブランド力を有するに至っており、また、本件標章はそのブランドの象徴として利用されてきたものと認められる。そして、一般に標章には、商号と同様に、商品等の出所を表示し、品質を保証し、広告宣伝の効果を上げる機能があるということができるところ、被告は、本件標章を従業員の名刺、ホームページのほか、顧客に交付する提案資料等に表示していたことが認められ、被告が、デザインワークスプロジェクトの略称である『DWP』を商号の主たる部分としていたことと相まって、デザインワークスプロジェクトという営業主体がそのまま存続しているとの外観を作出していたものということができる。
 そうすると、デザインワークスプロジェクトの略称である『DWP』を商号の主たる部分とする被告が、デザインワークスプロジェクトが使用していた本件標章を引き続き使用したことは、商号を続用した場合に準ずるものというべきであるから、被告は、会社法22条1項の類推適用により、デザインワークスプロジェクトの原告に対する債務を弁済する責任を負うものと解するのが相当である。」
 
東京地判平31.1.29・金判1566-45 標章の続用のケース
〔判 旨〕
 「(1)会社法22条1項が、事業譲渡の譲受会社のうち、商号を続用する者に対して、譲渡会社の債務を弁済する責任を負わせた趣旨は、事業の譲受会社が譲渡会社の商号を続用する場合には、従前の営業上の債権者は、事業主体の交替を認識することが一般に困難であることから、譲受会社のそのような外観を信頼した債権者を保護するためであると解するのが相当である(最高裁昭和29年10月7日第一小法廷判決・民集8巻10号1795頁、同昭和47年3月2日第一小法廷判決・民集26巻2号183頁参照)。
(2)ア Aは、Aの店舗あるいは商品を表す名称として、『HH』、『HL』、『SC』の名称をブランドとして用いて事業展開をしていた…。一般に、標章には、商号と同様に、商品等の出所を表示し、品質を保証し、広告宣伝の効果を上げる機能があるといえるところ、上記各名称に対応する標章についても、Aのブランドの象徴として、事業主体を表示する機能を果たしてきたということができる。
イ 被告は、Aのブランドの象徴として、事業主体を表示する機能を有する標章である『HL』の一部である『L』をその商号である『Y』に用いており…、別紙標章目録記載2の『HL』の標章と別紙標章目録記載4の『Y』の標章とは類似している…。
また、被告は、本件営業譲渡契約により、Aの上記ブランド名である『HH』、『HL』、『SC』に係る商標権を譲り受け、それらのブランドの標章を使用して、ハワイアン雑貨等を販売する事業を展開し、Aが倉庫又はオフィスとして使用していた建物等を、オフィスとして使用している…。
(3)したがって、被告は、本件事業譲渡を受け、Aが利用していた標章の一部をその商号として用いており、Aが利用していた各標章を用いて、同一の店舗等において、Aのブランドと同名称のブランドを展開して、Aと同様にハワイアン雑貨等を販売しており、Aという事業主体がそのまま存続しているという外観を作出しているということができる。
 以上によれば、被告によるAの標章の使用等は、会社法22条1項の趣旨が妥当し、Aの商号を引き続き使用する場合に準ずるものということができ、被告は、会社法22条1項の類推適用によって、原告に対し、本件債務をAと連帯して支払う責任を負うというべきである。」
 
会社法22条1項の趣旨
 上記裁判例が判示するように、いわゆる外観保護説が判例の立場である。これに対し、営業財産担保説ほか、様々な学説が主張されている(商法百選17事件(鈴木千佳子)、18事件(小林量)参照)。
 本問において、判例の採る外観保護説が妥当するかは疑問なしとしない。乙社に対し融資していた丁銀行が、戊社が乙社の商標を続用しているからといって、乙社から戊社への事業主体の交替を認識することが困難であったとはいえないからである。これに対し、たとえば、営業上の債務は企業財産が担保になっていると認められることから、会社法22条1項は企業財産の現在の所有者である譲受人にも責任を負わせた規定であると解する見解(営業財産担保説)や、外観保護と営業財産が担保となっていることの双方に根拠を求める見解などによると、債権者が銀行である場合にも、同項による保護が成り立ち得ると考えられる。
 
「登録商標P」の続用
戊社が乙社の「登録商標P」を使用した日用品を販売したことなどが、乙社の商号を続用した場合に準じて捉えることができるとする事情を丁寧に論述する必要がある(事実19、20参照)。
以上
 
5 参考文献
 上記に掲げたものの他、

・黒沼悦郎編著『Law Practice商法』(商事法務、第4版、2020)P.117~182「問題32 取締役の解任」(福島洋尚執筆)、P.226~230「問題41 経営判断の原則」(黒沼悦郎執筆)、P.329~334「問題59 事業譲渡と商号続用者の責任」(中東正文執筆)

・髙橋美加・笠原武朗・久保大作・久保田安彦『会社法』(弘文堂、第3版、2020)P.174~6、192~199、220~224

・近藤光男『商法総則・商行為法』(有斐閣、第8版、2019)P.110~122

6 的中情報★★★

・2021スタンダード論文答練(第2クール)民事系3第2問(宍戸博幸先生担当)
「定款変更による取締役の任期短縮」★★★

・2022スタンダード論文答練(第1クール)民事系2第2問(本多諭先生担当)
「経営判断原則」★★★

・2022スタンダード論文答練(第2クール)民事系2第2問(稲村晃伸先生担当)
「経営判断原則」★★★

●第3問 民事訴訟法

■公開:2022年06月02日/16:20

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
 
1 はじめに
 今年の民事系科目第3問(民事訴訟法)は、設問1及び設問2では、民事訴訟法の著名な論点が問われたものの、設問3では、USBメモリと民事訴訟法231条該当性という、通常の受験生が考えたことがないであろうテーマが出題されました。
 一方で、民事訴訟法の著名な論点が問われた設問1及び設問2に関しては、『民事訴訟法判例百選』(有斐閣)に掲載されている判例を素材としていますので、今後の論文対策としても、同書に掲載されている重要判例を検討するのがよいといえます。また、設問2の主観的追加的併合は、平成20年新司法試験論文式試験民事系科目第2問(大大問)で出題されていますので、過去問対策も、できる限り行った方がよいといえます。
 他方で、設問3に関しては、一応、大阪高決昭53.3.6(判タ359-194)が素材と思われます(本裁判例の「磁気テープ」を「USBメモリ」に置き換えたものと思われます。)。そして、司法試験考査委員(出題委員)の菱田教授が関連する論文(「書証と電子データの取調べ」ジュリスト1549号P.60~66)を近時執筆されていることから考査委員の関心分野と思われること、及び、平成30年以降、考査委員が執筆者の一人でいわゆるタネ本と言われている、三木浩一・笠井正俊・垣内秀介・菱田雄郷『民事訴訟法』(リーガルクエスト)(有斐閣、第3版、2018)P.313~4で「新種証拠」が解説されていることから、設問3の出題がされたものと推測されます。しかしながら、「共通的な到達目標モデル(第二次案修正案):民事訴訟法」(法科大学院協会HP)には、「書証の意義を理解し、申出方法の種類を説明することができる。」と記載されているだけであること、及び、複数の民事訴訟法の基本書を調査した結果、「新種証拠」が記載されていないものもあることから、法科大学院課程で通常学習するテーマであるかについては、疑問を覚えるところがあります。批判の大きい出題内容、傾向、形式は、次年度に踏襲されていないことが多いことから、来年以降の司法試験対策としては、設問3は、気にし過ぎない方がよいように思われます。
 なお、今年の司法試験も、平成30年以降の司法試験と同様に、設問1及び設問2の理論面の記載の充実度や設問3の「新種証拠」の解説などを見ると、三木ほか・前掲書を使用していると比較的有利であったといえます。
 
2 論点一覧
 
 1 当事者の確定
 2 自白の成否
 3 自白の撤回
 4 主観的追加的併合
 5 USBメモリと民事訴訟法231条該当性
 
3 答案の形で読む解説<司法試験合格者作成>
 第1 設問1
  1 課題1
   ⑴ 被告が甲となる見解

ア 被告が甲となる見解としては、意思説が考えられる。この説では、当事者とは、判決の名宛人となる者をいい、原告が相手方であるとの認識で訴えを提起した相手方が当事者となるため、原告の意思を基準として当事者を確定すべきと考える。

イ 本件訴訟は、賃貸借契約の終了に基づき、本件事務所の明渡しを求める訴訟である。本件賃貸借契約は、原告と甲との間、令和2年4月10日、賃料を月額30万円、期間を2年とする契約である。そして、甲の代表取締役であるAは、原告に対して本件事務所の所在地を甲の本店とする本店移転の登記がなされたことを伝えていた。また、代表者事項証明書には本店所在地、代表者の資格、氏名及び住所の記載はあるが、会社の設立年月日の記載がないことから、本件賃貸借契約の時点から本店が移転しておらず会社も新しくなっていないと認識することになる。そして、実際、本件訴訟の提起時において、Xは乙を甲と誤認していたのであるから、Xの意思に基づけば当事者は甲となる。
 以上の事実関係からすれば、本件訴訟の被告は甲であると確定することができる。

   ⑵ 被告が乙となる見解

ア 被告が乙となる見解としては、形式的表示説が考えられる。この説では、誰が当事者なのかは被告の普通裁判籍、訴状の送達の相手方(民事訴訟法(以下、省略する。)138条1項)を決する上で重要であるため、訴訟開始時点において確定し、また基準が明確なものが望ましい。そこで、訴状の当事者の欄の記載を基準とすべきと考える。

イ 本件訴訟では、訴状において株式会社Mテックが被告として表示されており、現在の乙の名義で表示されているという事実関係からすれば、本件訴訟の被告は乙であると確定することができる。

  2 課題2
   ⑴ 自白の成否

ア 裁判上の自白とは、口頭弁論又は争点整理手続期日において、相手方が主張する自己に不利益な事実を認める、弁論としての陳述をいう。
 「不利益」な事実とは、基準の明確性から、相手方が証明責任を負っている事実をいい、民事訴訟では実体法の規定を適用して権利義務の存否が決せられることから一定の法律効果を主張する者がその効果の発生を基礎付ける事実につき証明責任を負う。
 また、裁判上の自白の成立する「事実」は、主要事実に限られる。間接事実・補助事実は証拠と同様の機能を有するため、これに自白の拘束力を認めると、裁判官に不自然な事実認定を強制し、自由心証主義(247条)に反するおそれがあるからである。

イ Aの陳述は、第2回口頭弁論期日において請求原因事実⑴、⑵及び⑶という主要事実を認める旨の陳述である。そして、Xは、賃貸借契約終了に基づく本件事務所の明渡しを求めているのであるから、明渡しを求める者が賃貸借契約の締結、これに基づく引渡し及び終了原因となる解除を証明する責任を負っている。Aの陳述は、これら相手方であるXが証明責任を負っている事実を認める陳述である。

ウ したがって、乙の代表者としてのAの陳述につき、自白が成立している。

   ⑵ 自白の撤回の取り扱い

ア 裁判上の自白は、179条の効果から不要証効が生じ、不要証とされた自白事実と異なる認定をされる不意打ちを防止する観点から審判排除効が生じ、相手方の信頼保護の観点から不可撤回効が生じる。

イ では、自白の撤回は認められるか。
 自白の撤回は、不可撤回効が認められるため原則として許されないが、相手方の同意がある場合、刑事上罰すべき他人の行為により自白がなされた場合、自白が真実に反し、かつ、錯誤に基づく場合には、例外的に自白を撤回できる。
 本件では、Aは、第2回口頭弁論期日におけるXの主張を認める旨の陳述は事実に反すること、乙はXとの間で本件賃貸借契約を締結しておらず、乙はXに対していかなる債務も負わないとして弁論の再開を申し立て、第3回口頭弁論においても同旨の主張をしている。被告の乙が設立されたのは令和3年4月2日で、本件賃貸借契約が締結されたのは令和2年4月10日であるから、かかる主張は、真実に反するといえる。しかし、乙はAがXの訴えを空振りにさせて時間稼ぎできるようにして設立された会社であり、錯誤が生じているとはいえない。
 したがって、自白の撤回は認められない。

 第2 設問2

1 主観的追加的併合とは、係属中の訴訟において当事者を追加することをいう。
 主観的追加的併合は、①旧訴訟の訴訟状態を利用できるかは疑問であり訴訟経済に資するとはいえないこと、②訴訟を複雑化させること、③被告の間違いや被告の脱漏が判明しても、原告は被告を追加できるため、軽率な提訴等が誘発されるおそれがあること、④新訴の提起の時期によっては訴訟遅延のおそれがあることから認められないとされている。
 もっとも、主観的追加的併合を認める必要性があり、かつ上記許容しない理由に該当しない場合には、主観的追加的併合は認められると解する。

2 本件訴訟においてⅩが被告の追加を求めるに至った原因が、甲が被告にならないように乙を設立して甲の旧商号を乙に使用させたAの一連の行為にあり、甲を被告とする新訴は、甲の商号を変更した後の会社を相手方にするものの、旧訴の被告である乙とは商業登記簿上の本店所在地、目的等が同一である。そして、本件訴訟は、賃貸借契約の終了に基づく本件事務所の明渡しであり、賃貸借契約の一方当事者は甲であるため、このままであれば、本件訴訟は請求棄却となりAの思惑どおりとなってしまう可能性が高いので、そのような判決のみをするくらいであれば、これまでの手続を少しでも利用して、甲を被告とする判決ができるようにすべきであるといえ、訴訟経済(上記①)は問題にすべきではない。
 Aの策略で被告となるべきでない者が被告となっていたところに、本来被告となるべき者を被告として追加するものである以上、複雑化の弊害(上記②)はそもそも問題にすべきではない。
 本件訴訟では、Aの策略で乙が被告となっているのだから、本件の事案で本来被告となるべき甲を被告とする主観的追加的併合を認めたからといって、一般にも軽率な提訴等が誘発されることにはならないため、上記③に該当しない。
 本来は甲が被告となるべきなのに、Aの策略で乙が被告となっているのであるから、訴訟の遅延(上記④)はそもそも問題にすべきではない。
 さらに、主観的追加的併合が認められないとすると、訴えを空振りさせて時間稼ぎをするために行ったAの一連の行為により訴えは不適法となり、Xにとっては酷すぎるといえ、必要性も認められる。

3 したがって、主観的追加的併合を認める必要性があり、かつ上記許容しない理由が本件では該当しないため、甲を被告に追加するXの申立ては認められる。

 第3 設問3

1 「文書でないもの」
 文書とは、文字その他の記号の組み合わせにより人の意思、判断、報告、感想等を表現する外観を持つ有形物をいう。
 USBメモリは、情報を電磁的に記録する媒体であり、情報の読み出しにはコンピュータやプリンター等の出力機器により出力することを要するため、媒体そのものから視覚によって記録内容を認識することができず、一定の装置を介在させる必要がある点で、伝統的な紙の媒体とは異なる。また、USBメモリは、その中に記録された文字情報等を取り調べるのであり、USBメモリ自体は記録媒体にすぎず、文字により人の意思等を表現する外観を持つものとはいえない。
 したがって、USBメモリは「文書」とはいえず、「文書でないもの」に当たる。

2 「情報を表すために作成された物件」
 USBメモリに記録された内容としては、文字情報をプリントアウトして閲読する方法が適切であり、書証によらないとすると、文字情報で記録された内容について取り調べる際に文字や記号等を認識することが困難となるため、USBメモリの取調べは書証によるべきである。
 231条が録音テープとビデオテープを例示しているのは、法廷において適切な装置を用いて再現すれば文書と同じく裁判官が直接的に認識することができる点にある。確かに、録音テープ等は、再生装置から再現された音声や映像を直接的に認識するものである。他方、コンピュータ用の記録媒体は、その記録される内容が基本的には文字情報であり、一般的に紙にプリントアウトして閲読する方法がとられる。
 裁判官の証拠調べの対象としては、人の認識や判断が文字等の記号によって記録された内容である。また、その方法としては、有体物に表現されている文字や記号等をそれが記録された有体物からプリントアウトして閲読して読み取る方法でなされている。
 そのため、音声や映像を認識するか、文字を認識するかの違いにすぎず、裁判官は直接的に認識する点で差異があるとはいえない。
したがって、USBメモリは「情報を表すために作成された物件」に当たる。

3 以上より、USBメモリは、録音テープ等と同様に取り調べることが許容される。

以上

【解答例原案作成者コメント】

・設問1から設問3であり、配点割合は45:30:25である。そして、後述の通り、設問2は誘導文に沿って検討する問題であり、設問3は現場思考問題であることから、ほぼ半分の配点割合である設問1が合否に差が出ると感じた。

・設問1課題1は、被告が甲となる見解と乙となる見解をそれぞれ一つ取り上げ、見解に従ってそれぞれ論じることが求められている。当事者の確定では、意思説、行動説、表示説、規範分類説などがあり、これらをそれぞれの見解に用いて検討することが求められていると思われる。もっとも、これらの学説の正確な知識がなくとも、受験生の多くが採用すると思われる実質的表示説とこれに対する結論となる見解を採用し、論理的かつ説得的に説明をすることができれば十分であると感じた。また、「見解をそれぞれ一つ取り上げ」とあり、基準となる手続の時点に差異がないことから、規範分類説のみを採用し、手続の進行面(行為規範)では表示説を採用し、既に手続が進行した後(評価規範)では行動説を採用し、それぞれ指摘するという論述は難しいと考えられる。
 まず、Xは、株式会社Mテック(甲)との間で本件賃貸借契約を締結している。そして、本件賃貸借契約から本店所在地が変わっていないこと、Xが乙を甲と誤認していたことからすると、Xは、甲を被告とする意思で本件訴訟を提起していたといえる。また、Aは、第1回口頭弁論期日では請求棄却を求める答弁書を提出し、第2回口頭弁論期日では請求原因事実⑴、⑵及び⑶を認める旨の陳述をしており、Aが当事者として行動している。そして、Aが甲の代表取締役ではないことからすると、甲が訴訟上当事者らしく行動した者を当事者とする行動説を採用するのは難しいと考えられる。そのため、甲を当事者とする見解としては、意思説が妥当すると思われる。
 次に、乙となるような見解としては、本件訴訟の被告が「株式会社Mテック」と表示されており乙の名義で表示されていたことから表示説が妥当すると思われる。実質的表示説を採ったとしても乙の商業登記簿上の本店所在地、目的等が甲と同一であることなどを踏まえれば乙が被告になると思われる。

 ・設問1課題2は、自白の成否を論じた後、自白の効力を明示して自白の撤回について検討するように思われる。

 ・設問2の主観的追加的併合の論点は過去にも出題されており、特に判例では主観的追加的併合が認められていないが本件では認められる余地があるという問題は過去問を解いていれば対応できたと思われる。過去問の重要性を感じる問題であった。具体的な内容は、誘導文で第1から第4まで指摘されているため、この4点が本件では該当しないことを指摘することが求められていると思われる。もっとも、どれをどの程度論じるのかは難しいのではないかと感じ、差が付きにくい問題に当たると思われる。

・設問3は、USBメモリが231条の「情報を表すために作成された物件で文書でないもの」に該当し、同条を適用できる理由を明らかにすることが求められる。その際、①「文書」の意義を明示してUSBメモリが「文書でないもの」に当たるとし、②USBメモリを録音テープ等と同様に取り調べることが許容される理由を論じることが誘導文によって求められている。
 いわゆる新種証拠について、231条をUSBメモリに適用することができるかどうかについては、今まで検討したことがないと思われる。そのため、本問は現場思考問題といえる。そこで、上記誘導文に沿って、それぞれ丁寧に論じることが必要である。配点25点と少なくはないことから、「文書」の意義を明示して当てはめをし、231条の趣旨から規範を定立し、録音テープ等と同様に取り調べることができることを論じる必要があると思われる。

・現場思考で難しいとは思われるが、発想は刑事訴訟法を参考にすればいけそうと感じた。

4 素材判例・参考文献等
 〔設問1〕

・最判昭48.10.26(民集27-9-1240、百選7事件)

・堀野出「判批」民事訴訟法判例百選(第5版)P.18~9

・名津井吉裕(令和4年司法試験考査委員)「訴訟開始段階における当事者確定について(1)」民商法雑誌153巻3号P.1~26、同「(2・完)」民商法雑誌153巻4号P.1~27。

・和田吉弘『基礎からわかる民事訴訟法』(商事法務、第2版、2022)P.90~103、297~309

・三木浩一・笠井正俊・垣内秀介・菱田雄郷『民事訴訟法』(有斐閣、第3版、2018)P.94~8(垣内秀介執筆)、231~246(三木浩一執筆)

 〔設問2〕

・最判昭62.7.17(民集41-5-1402、百選96事件)

・安西明子「判批」民事訴訟法判例百選(第5版)P.202~3

・平成20年新司法試験論文式試験問題出題趣旨民事系科目第2問より
https://www.moj.go.jp/content/000006426.pdf
「設問3は、取締役解任の訴えが、被告側の固有必要的共同訴訟であることを理解した上で、原告の立場から、主観的追加的併合(原告による被告の追加)が許容されるべきことの主張を具体的な事案に即して行わせるものである。周知のとおり、主観的追加的併合が理論的に許容されるか否かは、民事訴訟法の著名な論点の一つであるが、そこで論じられていることを踏まえつつも、より実務的な観点から、少なくとも本件の具体的な事例の下においては主観的追加的併合が許容されるべきことを示すことが必要になる。具体的には、取締役解任の訴えが被告側の固有必要的共同訴訟であって、訴訟共同と合一確定が要請される場面であることを考慮すべきであることはもとより、取締役解任の訴えにおいては、出訴期間が法定されており、本件においては、改めて再訴を提起する方法によっては期間徒過により対応できないということ、そして被告追加の申立てがされたのが、訴訟の極めて初期段階にあること、といった本件固有の事情を的確に抽出し、それを最高裁判決摘示の理由に対する反論の形で展開していくことが求められる。」

・和田・前掲書P.545~6

・三木ほか・前掲書P.557~560(菱田雄郷執筆)

 〔設問3〕

・大阪高決昭53.3.6(判タ359-194、下記裁判所HP裁判例情報)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=22370

・梅本吉彦「判批」民事訴訟法判例百選Ⅱ(新法対応補正版)P.300~301

・菱田雄郷(令和4年司法試験考査委員)「書証と電子データの取調べ」ジュリスト1549号P.60~66

・上田竹志「電磁的記録の証拠調べについて」法政研究(九州大学)88巻1号P.220~183

・三木ほか・前掲書P.313~4(三木浩一執筆)

・伊藤 眞『民事訴訟法』(有斐閣、第7版、2020)P.435~7

5 的中情報★★★

・2022福田ファイナル予想答練民事系第3問(福田俊彦先生担当)
「裁判上の自白の成立」★★

●第1問 刑法

■公開:2022年06月02日/16:20

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
 
1 はじめに
 今年の刑事系科目第1問(刑法)は、設問1として横領罪、設問2として正当防衛、誤想過剰防衛などの刑法学における重要論点を問うており、難易度としては、例年並みかと思われます。
 まず、設問1に関しては、小問形式で横領罪の構成要件該当性のみを問うており、平成30年の本試験以降続いた主張・反論形式では問われませんでした。この点、辰已のスタンダード論文答練などでも本試験に準拠して主張・反論形式の設問を多々出題してまいりましたが、総じて出来が悪いことから、この形式での出題の限界を感じていたところ、ようやく出題形式が変更されました。
 また、設問2においては、正当防衛における侵害の急迫性の有無と問われているところ、令和4年司法試験考査委員である橋爪隆教授が複数の判例批評等を執筆している、最決平29.4.26(刑集71-4-257、百選23事件)を関連判例としているものと思われます。そして、辰已では、下記の「答案の形で読む解説」の原案の監修後に、再度、橋爪隆「判批」論究ジュリスト29号P.200~203に準拠して、同判例の具体的考慮要素①~⑨に本問の事実をあてはめ直したところ、下記の「答案の形で読む解説」のようにきれいにあてはめることができました。このことから、出題趣旨や採点基準は、上記判例の具体的考慮要素を全て挙げて丁寧にあてはめることを求めているものと推測できます。
 なお、上記・最決平29.4.26を素材とした設例として、井田良・佐伯仁志・橋爪隆・安田拓人『刑法事例演習教材』(有斐閣、第3版、2020)P.264~9掲載の「51 けんかをやめて 二人をとめて」(本書第3版追加設例)があります。令和3年本試験の「同時傷害の特例」類似の設例も同書P.259~263「50 夜の店Yの悲劇」(本書第3版追加設例)でした。著者の佐伯仁志教授が司法試験委員会委員長、橋爪隆教授が司法試験考査委員(出題委員)という状況に加え、同書の「第3版のためのはしがき」に「ある司法試験合格者から、合格発表の夜、ボロボロになった本書を手に取り、涙があふれて止まらなくなった、という話を聞き、著者冥利に尽きると感じたこともあった」との記載から、本書第3版追加設例は、司法試験のタネ本となる宿命だったのかもしれません。
 
2 論点一覧
 
 1 横領罪において、窃盗犯人からの寄託が委託信任関係に基づくものといえるか
 2 横領罪において、隠匿行為が「横領」(不法領得の意思の発現行為)といえるか
 3 正当防衛(侵害の急迫性)
 4 誤想過剰防衛
 5 不法領得の意思(窃盗)
 6 自招危難
 
3 答案の形で読む解説<司法試験合格者原案作成、研究者監修>
〔設問1〕
 
 第1 ⑴の主張について

1 Aは本件バイクを自由に乗り回したいという不法領得の意思を持って所有者Bに無断で発進させ、自己の占有下に置いており、「窃取」したといえるので、Aには本件バイクに対する窃盗罪(刑法(以下、省略する。)235条)が成立する。

2 では、本件甲は、本件バイクを窃盗犯人であるAから預かるよう頼まれているが、この場合でもこれを横領すれば横領罪(252条1項)が成立するか。横領罪の構成要件として委託信任関係に背くことが必要であるところ、窃盗犯人からの寄託も横領罪により保護すべき委託信任関係といえるのかが問題となる。
 ⑴の立場は、窃盗犯人は本件バイクに対する所有権は有しないものの、占有を完全なものとしており、その者からの委託信任関係も保護しようと考える見解である。
 しかし、横領罪においては、所有者の間接的利用や返還への期待を保護すべく委託信任関係に背くことをその構成要件としているところ、窃盗犯人のように所有者でない者、返還への期待を保護すべきでない者からの寄託を保護の対象としていないと解するのが相当である。

3 以上より、窃盗犯人からの寄託に関し、保護すべき委託信任関係がないため、本件では横領罪が成立しないので、⑴の見解は不当である。

 第2 ⑵の主張について

1 横領罪の成立には「横領した」といえること、すなわち不法領得の意思の発現行為が必要である。そして、横領罪は所有権の諸機能を保護法益とするから、本罪における不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに、所有者でなければできない処分をする意思をいう。

2 ⑵の立場は、本件バイクを移動させて隠した行為、すなわち隠匿行為も所有者でなければできない処分と解するものである。
 しかし、横領罪と器物損壊罪との法定刑の違いはその利欲犯的性格の違いにある。よって、横領罪における不法領得の意思においても、窃盗罪と同様に、利用処分意思が必要であるものと解する。よって、隠匿行為は利用処分意思が欠けるため不法領得の意思の発現行為とはいえないと解するところ、甲は、本件バイクを物置内に移動させた後どうするかは考えておらず、当該行為は隠匿行為にすぎず、利用処分意思が欠ける。

3 以上より、隠匿行為は「横領した」といえず、横領罪が成立しないので、⑵の見解は不当である。

〔設問2〕
 
 第1 乙が本件ナイフでAを突き刺し、傷害を負わせた行為について

1 まず、乙は、Aの右上腕部を狙って本件ナイフを強く突き刺し、Aに加療約3週間を要する右上腕部刺創の傷害を負わせており、人の生理的機能を害しているといえるので「傷害」したといえる。よって、本件乙の行為は傷害罪(204条)の構成要件に該当する。
 なお、乙は刃体の長さ18センチメートルという殺傷能力の高い武器を用いてAを突き刺しているものの、身体の枢要部を狙ったわけではないので、殺人未遂罪は成立しない。また、乙はとっさに甲を助けようと考えて本件行為に及んでおり、甲との間に現場共謀はないため、甲との間で共同正犯ともならない。

2⑴ もっとも、本件で乙は甲を助けようと考えて、本件行為をしている。そこで、乙に正当防衛(36条1項)が成立しないか。正当防衛が成立するためには、甲を防衛すべき状況にあったことが必要である。すなわち、甲に正当防衛が成立するような状況であれば、乙の本件行為にも正当防衛が成立しうる。そこで、甲に正当防衛が成立する状況か否かを以下検討する。

 ⑵ 正当防衛が成立するためには「急迫不正の侵害」が存在しなければならない。この「急迫の侵害」とは、法益の侵害が現に存在しているか、または間近に押し迫っていることをいう。本件では、甲は本件包丁を準備してAを待ち構えており侵害を予期しているが、この場合でも急迫性が認められるかが問題となる。

 ⑶ 刑法36条は、急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに、侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したものである。したがって、行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合、侵害の急迫性の要件については、侵害を予期していたことから、直ちにこれが失われると解すべきではなく、対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべきである。具体的には、事案に応じ、①行為者と相手方との従前の関係、②予期された侵害の内容、③侵害の予期の程度、④侵害回避の容易性、⑤侵害場所に出向く必要性、⑥侵害場所にとどまる相当性、⑦対抗行為の準備の状況(特に、凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等)、⑧実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同、⑨行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮し、行為者がその機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときなど、前記のような刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には、侵害の急迫性の要件を充たさないものというべきである。

 ⑷ 本件では、甲とAは従前から友人関係にあるものの、同月5日に電話で激しい口論となり、同月10日にもAは、甲の発言を聞いて激怒し、近時、険悪な関係にあった(①)。また、甲は、高校時代にAと同じ不良グループに所属しており、Aが短気で粗暴な性格で、過去にも怒りにまかせて他人に暴力を振るったことが数回あったことを知っていたため、Aの前に姿を現せば、Aから殴る蹴るなどの暴力を振るわれる可能性が極めて高いと予期していた(②③)。そして、甲は、C公園に行かなければ侵害を容易に回避でき(④)、敢えてC公園に出向く必要もなく(⑤)、Aが「お前、ふざけんなよ。ボコボコにしてやるからな。」と怒鳴り声を上げた以降に侵害場所にとどまることは相当でなかった(⑥)。さらに、甲は刃体の長さ15センチメートルの殺傷能力のある本件包丁を準備している(⑦)。また、Aから殴る蹴るなどの暴力を振るわれることを予期しつつ、実際にAは右手の拳を突き出して甲の顔面を殴打しようとしていることから実際の侵害行為の内容と予期された侵害は同じといえる(⑧)。そして、甲は、Aの発言に頭に血が上っており、C公園に出向きAを待ち構え、Aの拳をかわしながら、本件包丁をベルトから抜いて、Aに向けて突き出している(⑨)。以上から、刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえず、侵害の急迫性の要件を充たさない。

 ⑸ 以上より、乙の本件行為に正当防衛は成立しない。

3 もっとも、乙は、Aが甲に対して一方的に攻撃を加えようとしていると思い込んでAに傷害を負わせており、正当防衛の状況にあると思っている。また、乙は、Aが甲を殴打しようとしているのを目撃しており、Aが素手であることを認識している以上、本件ナイフを用いる行為は過剰な防衛行為であるとの認識もある。そこで、本件行為が正当防衛状況にあるものと誤信して過剰な防衛行為を行った誤想過剰防衛に当たり、故意責任は阻却されないか。
 故意責任の本質は反規範的態度に対する道義的非難である。故意責任を問うには、反対動機の形成が可能な程度の犯罪事実の認識が必要である。
 本件では、乙は、Aによる殴打行為に対して、本件ナイフを突き刺しており、その行為が過剰であることを認識している以上、反対動機の形成は可能である。よって、本件では故意責任は阻却されない。
 もっとも、36条2項の趣旨が緊急状況下における興奮・狼狽・恐怖等により、責任が減少する点にあることを考えると、誤想過剰防衛の場合もこのような行為者の主観面については共通性が認められるから、36条2項を準用して刑を任意的に減免できるものと解する。

4 以上より、本件行為について乙には傷害罪が成立するが、誤想過剰防衛として刑を任意的に減免できる。

 第2 Dに無断で本件原付を発進させた行為について

1⑴ まず、乙は、Dがエンジンを掛けたままであり、占有の意思がある本件原付を発進させることでその占有を自己の下に移しており、「窃取」している。

 ⑵ もっとも、乙は本件原付を使ってAの追跡を振り切り、安全な場所まで移動したら本件原付をその場に放置して立ち去るという一時使用の目的で本件行為をしている。そこで、このような一時使用の場合にも窃盗罪(235条)において要求される不法領得の意思のうち、権利者排除意思があるといえるか否かが問題となる。そして、権利者排除意思の存否の判断に当たっては、返還の意思の有無、一時使用の時間的長短、当該無断使用によって権利者の被った損害等も考慮する。
 乙は本件原付を放置して立ち去ろうと考えており、返還の意思はない。安全な場所まで移動したら本件原付を放置しようと考えていた以上、時間的には短いとも考えられるが、原付を運転して安全な場所まで逃げる以上、一時使用の時間もそれなりのものであると想定される。そして、権利者であるDは飲食物の宅配業務に従事しており、これからも配達業務が続くことが考えられるところ、その業務の続行が不可能になるので、当該無断使用によってDが被った損害は軽微なものとはいえない。
 以上より、本件行為につき、権利者排除意思があるといえる。
 また、上記権利者排除意思の他、バイクに乗って移動するという利用処分意思もあることから、不法領得の意思が肯定できる。

 ⑶ 以上より、乙の本件行為は窃盗罪の構成要件に該当する。

2⑴ もっとも、乙は、乙を痛め付けようと考えているAの追跡を振り切るために本件行為をしている。そこで、緊急避難(37条1項)が成立しないか。
 まず、Aは乙を捕まえて痛め付けようと考え、乙を追跡していることから、乙の身体という「自己」の「身体」に対する法益侵害が切迫しているといえ、「現在の危難」はある。そして、乙は安全な場所まで逃げるために本件行為をしている以上、「避けるため」に行ったといえる。また、Aは乙よりも足が速く、乙がAの追跡を振り切るためには本件原付を運転して逃げることが唯一採り得る手段であったことから「やむを得ずにした行為」といえ、さらに乙の身体と本件原付の占有侵害では乙の身体の安全が優越し、法益の権衡があるといえるので、「これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えな」いといえる。

 ⑵ もっとも、本件では、そもそもAが乙を追い掛けたのは、乙がAに本件ナイフを用いて傷害を負わせたからである。このような自招危難の場合にも、緊急避難が成立するか。
 緊急避難において違法性が阻却されるのは、緊急避難行為が社会的に相当であるからである。よって、形式的に緊急避難の要件を満たしている場合でもその行為が社会的に相当といえない場合には、緊急避難は認められない。
 本件では、そもそも乙が本件ナイフを用いてAに傷害を負わせたためにAが乙を追い掛けたというものである。また、原付は一般的に数万円もする高価なものであって、上述のように一時使用とはいえ、Dが宅配業務を継続できないという事態も招くことから、本件乙の行為が社会的に相当なものとはいえない。

 ⑶ 以上より、本件では緊急避難は成立しない。

3 以上より、本件行為について乙には窃盗罪が成立する。

 第3 罪数処理
  以上より、乙には①Aに対する傷害罪、②Dに対する窃盗罪が成立し、①と②は併合罪(45条前段)となる。
 
【解答例原案作成者コメント】

・設問1の横領罪に関して、普段あまり考えたことのない論点を聞いてきたという印象である。問題文に簡潔に論じなさいとあるのでどこまで絞って書くか迷うところであるが、論点自体は明白なので、あまり長くならないように心がけた。

・設問2に関しては、問題文の事情を網羅できるように心がけた。

・その他、設問2に関しては典型論点だったように思う。問題文の事情をどれだけ使えるかが勝負の分かれ目と感じた。特に原付については幅広く事情を拾えるとよいと思った。

4 素材判例・参考文献等
 〔設問1〕

・松原芳博(令和4年司法試験考査委員)『刑法各論』(日本評論社、第2版、2021)P.325~351

・大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦『基本刑法Ⅱ 各論』(日本評論社、第2版、2018)P.277~313

 〔設問2〕

・最決平29.4.26(刑集71-4-257、百選23事件)

・橋爪 隆(令和4年司法試験考査委員)「判批」論究ジュリスト29号P.198~203

・同「判批」刑法判例百選Ⅰ(第8版)P.48~9

・同『刑法総論の悩みどころ』(有斐閣、2020)P.78~145

・井田良・佐伯仁志・橋爪隆・安田拓人『刑法事例演習教材』(有斐閣、第3版、2020)P.264~9「51 けんかをやめて 二人をとめて」

・大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦『基本刑法Ⅰ 総論』(日本評論社、第3版、2019)P.167~215、245~8

・同『基本刑法Ⅱ 各論』(日本評論社、第2版、2018)P.144~150

・松原芳博『刑法各論』(日本評論社、第2版、2021)P.216~228

 
5 的中情報★★★

・2022スタンダード論文答練(第2クール)刑事系3第1問(松永健一先生担当)
「正当防衛」★★★

・2022司法試験全国公開模試刑事系第1問
「正当防衛」★★★

・2022司法試験全国公開模試「令和4年主要考査委員紹介&出題予想」(福田俊彦先生担当)
「橋爪隆教授の紹介 正当防衛」★★★

・2022スタンダード論文答練(第2クール)刑事系1第1問(本多諭先生担当)
「不法領得の意思」★★

 
 正当防衛は、令和4年司法試験考査委員の橋爪隆教授の関心分野であり、出題の周期性に鑑みても、今年出題される可能性が高いと判断して、直前期に敢えて出題致しました。受講生の皆様には、非常に有利であったと思われます。

●第2問 刑事訴訟法

■公開:2022年06月02日/16:20

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
1 はじめに
 今年の刑事系科目第1問(刑法)は、設問1としておとり捜査、設問2として訴因変更の要否などの刑事訴訟法における重要論点を問うており、難易度としては、例年並みかと思われます。
 まず、設問1は、重要判例である最決平16.7.12(刑集58-5-333、百選10事件)の知識・理解を前提に、東京高判平19.6.1(高刑速(平成19年)240)などの初見性の強い下級審裁判例などを加味して、応用力を問うたものと思われます。そして、本問の分析には、令和4年司法試験考査委員である川出敏裕教授執筆の『刑事手続法の論点』(立花書房、2019)P.76~96「第4講 おとり捜査」が非常に有益であり、この文献を参考にして作問された可能性があります。
 また、設問2は、これも重要判例である最決平13.4.11(刑集55-3-127、百選45事件)の知識・理解と応用力を問うたものと思われますが、平成29年司法試験予備試験論文式試験刑事訴訟法設問2とほぼ同内容を問うていると思われます。そこで、本問設問2の分析には、平成29年予備試験設問2の素材と思われる家令和典「訴因の特定と訴因変更の要否」松尾浩也・岩瀬徹編『実例刑事訴訟法Ⅱ 公訴の提起・公判』(青林書院、2012)P.17~31が有益かと思われます。
 なお、後記の的中情報のように、今年の刑事訴訟法は、設問1のおとり捜査と設問2の訴因論ともにズバリ的中致しました。この点、刑法は、考査委員の関心分野から出題される傾向が強いのに対し、刑事訴訟法の後半分部などは、考査委員の関心分野を避けて出題される傾向があると考え、出題の周期性等に鑑み、おとり捜査や訴因論の出題可能性が高いと判断した結果です。とりわけ、恒例の「令和4年司法試験刑事訴訟法出題大予想」では、福田俊彦先生監修の平成29年予備試験論文式試験刑事訴訟法の答案などをもとに、西口竜司先生が中日講義を行い、受験生の皆様から非常に感謝されました。
 
2 論点一覧
 
 1 おとり捜査
 2 「強制の処分」該当性
 3 任意捜査の限界
 4 訴因変更の要否
 5 争点顕在化措置
 
3 答案の形で読む解説<司法試験合格者原案作成、研究者監修>

第1 設問1

1 事例1記載の捜査は、捜査機関の依頼を受けた者がその意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働きかけ、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕をしたというおとり捜査(以下「本件おとり捜査」という。)であるところ、このような捜査手法が「強制の処分」(刑事訴訟法(以下省略する。)197条1項但書)に当たるか。当たる場合には強制処分法定主義及び令状主義に反するため問題となる。

2⑴ 「強制の処分」とは、①相手方の明示又は黙示の意思に反して②相手方の重要な権利利益を制約・侵害する処分をいう。

 ⑵ 本件おとり捜査は、甲の黙示の意思に反する。また、本件おとり捜査の内容は、Pが司法警察員という身分を秘して犯罪を実行するように働きかけるものである。この事実は、相手方が犯罪を実行するよう働きかけた者の身分を誤信したにすぎないことを意味する。そのため、甲の意思決定の自由を侵害しているとはいえず、相手方の重要な権利利益を制約・侵害しているとはいえない。

 ⑶ よって、本件おとり捜査は「強制の処分」に当たらない。

3⑴ もっとも、本件おとり捜査が任意捜査であっても、無制限に許されるものではない。また、おとり捜査は一種の詐術を用いて相手方を犯罪へと導くことから捜査の公正に反したり、おとり捜査によって法益侵害が生じる恐れがある。そこで、①おとり捜査を許すべきといえるだけの必要性があり、かつ、②捜査の公正さ及び刑罰法規が保護する法益の侵害という要因を考慮した上で具体的に相当であるといえるかを検討すべきである。この点、おとり捜査に即して判断する場合、犯罪の発覚がしにくい被害者のない犯罪であったり、放置することによる害悪の拡散の危険性が高い犯罪であるか、通常の捜査方法だけでは摘発が困難であるかなどから、おとり捜査の必要性の有無を判断し、機会があれば犯罪を行う意思がある者を対象に限定するなどから相当性を判断するのが妥当と考える。

⑵ア ①について
 本件おとり捜査の内容は、PらがAを介してPを大麻の買い手として甲に紹介させた上、1回目の取引では少量の大麻をサンプルとして持参させ、2回目の取引において甲が多量の大麻を持参した際にPらが甲を逮捕することである。
 大麻や覚せい剤などの法禁物は、被害者のない犯罪で密行化しやすい上、当該大麻等を取得した暴力団が利用することで当該暴力団の資金源となったり、大掛かりな大麻密売によって、不特定多数の人々の手に大麻がわたることになり、新たな犯罪が発生しうる。これらの事実からすれば、甲を早急に検挙する必要がある。
 また、甲は契約名義の異なる携帯電話を順次使用しており、身元や所在地は関係者の供述からも不明であった。この事実からすれば、一般の捜査方法では大麻密売の事実を証明する証拠を得ることが著しく困難であったといえる。さらに、Aはかつて自身が取得した大麻は甲から入手したものであり、先日甲から出所祝いの電話があったことからすれば、またAに対して大麻を販売する可能性があることを述べている。この事実は、甲がAに接触する可能性は極めて高く、Aを介した上でPらが司法警察員という身分を秘して大麻密売の捜査を進めることが必要不可欠であることを意味する。
 よって、本件おとり捜査を許すべきといえるだけの必要性があるといえる(①)。

 イ ②について
本件では、11月23日に甲はPに対してサンプルとして大麻100グラムを販売している。この事実は、サンプル交付があった23日の時点で甲を大麻密売の罪で逮捕することは可能であり、甲を追尾するなどの方法により大麻の隠匿場所を捜査することも必ずしも不可能とはいえず、25日の取引時に甲を逮捕するという一連のおとり捜査の必要性がなかったとも考えられる。また、24日に甲はPに対して「明日の取引は取りやめたい。」と述べているのだから、同日時点で甲には大麻密売を行う意思が既になかった可能性がある。そうだとすると、確かに、本件おとり捜査は捜査の公正さに対する影響が大きい上、甲への働きかけが大きく、相当ではないとも思える。
しかしながら、甲の追尾などが必ずしも奏功するとはいえない上、そもそも甲は再びAに大麻を販売する可能性があったのだから、甲には機会があれば大麻密売を行う意思は十分にあった。また、23日の時点で甲が自ら「10キロ程度なら扱うこともある。」旨の話をしており、Pは5キロと同単価で大麻を購入することを示唆したにすぎない。そうだとすれば、本件おとり捜査による捜査の公正さに対する影響は小さいといえる。また、大麻密売による直接の被害者は認められないため、法益侵害が大きいとは言い難い。さらに、Pは甲に対して事前に「大麻を5キロ欲しいが、まずは100グラムをサンプルとして手に入れて、その質を確認したい。」と依頼し、甲は承諾している。この事実からすれば、甲は当初から多量の大麻を売却することを企図していたといえるし、23日のサンプル交付は後日行われる大麻売却のための準備行為にすぎなかったといえる。したがって、サンプルの所持だけで現行犯逮捕しなかったとしても、新たな犯罪の意思を誘発したものともいえず、相当ではないといえない。

 ウ よって、本件おとり捜査は相当であるといえる(②)。

⑶ 以上によれば、本件おとり捜査は任意捜査として適法である。

 
第2 設問2小問1

1 裁判所は、資料1の「公訴事実」に対して資料2の「罪となるべき事実」を認定し判決をすることが312条1項に反せず適法といえるか。

2⑴ 訴因の機能は①裁判所に対して、他の犯罪事実と識別し、審判対象を明確化させる点及び②被告人に対して防御範囲を明示する点にある。そして、審判対象は、検察官が主張する構成要件に該当する具体的事実たる訴因である。そこで、事実に重要な変化がある場合、すなわち、①審判対象を画定するために必要不可欠な事実に変化がある場合、②①に変化がない場合であっても、検察官が訴因として明示した場合には、判決においてそれと異なる認定をすると、被告人の防御にとって一般的に不利益となるといえるため、原則として訴因変更を要する。もっとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に訴因変更は不要であると解する。

⑵ア ①について
 資料1の「公訴事実」と裁判官の心証を得た資料2の「罪となるべき事実」とのそれぞれの訴因の間では、放火の対象となる家屋、放火の犯行日時について違いはなく、着火方法のみが違っているが、着火方法の違いは、他の犯罪事実との識別に影響を及ぼすものではなく、審判対象を画定するために必要不可欠な事実に当たらない。

 イ ②について
 検察官は資料1の「公訴事実」において、「点火した石油ストーブを倒して火を放ち、」と記載し、点火方法を訴因として明示している。点火方法は、審判対象を画定するために必要不可欠な事実ではないが、検察官が訴因として明示した場合に当たる。この事実からすれば、確かに、訴因変更が必要であるとも思える。
 もっとも、第1回公判期日の冒頭手続において、乙は「放火はしていない。灯油をまいてもいない。」等と弁解し、弁護人も同旨の主張をしている。この主張は、着火方法を争うのではなく、着火をしたという実行行為自体を否定するものである。また、裁判所が補充尋問において、石油ストーブを倒す方法以外での着火の可能性について質問すると、証人は、「例えば、可燃物に火をつけて散布された灯油に着火させることも可能と考えられる。」旨証言している。さらに、同証人尋問終了後、裁判所は検察官及び弁護人に対し、放火の態様に関して追加の主張、立証の予定があるかを確認したが、いずれもその予定はない旨回答している。このような事実経過に照らせば、本件公判期日では、着火方法について弁護側に十分検討する機会は与えられていたといえる。
 したがって、審理の経過に照らして、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められる。また、ストーブを蹴り倒して着火するという方法とその他の着火方法とを比較した際、ストーブを蹴り倒す以外の方法であれば被告人に量刑も含めて不利益となる「実行行為」が存在すると想定できないことから、訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない。

⑶ よって、例外的に訴因変更は不要である以上、資料2の「罪となるべき事実」を認定し判決をすることが許される。

 
第3 設問2小問2

1 裁判所が、甲及び乙の共謀が成立したのは11月2日である旨説示した上で、資料3の「公訴事実」と同じ内容で罪となるべき事実として認定し、判決をすることは312条1項に反し違法となるか。

2 まず、検察官は、裁判所からの求釈明に応じて、冒頭陳述で、共謀が成立した日時を令和3年11月1日と明らかにしている。そこで、検察官の明らかにした事項が訴因の内容となっているといえるか。

⑴ 共謀の本質は共犯者が相互に物理的心理的因果性を及ぼしあい結果への寄与をする点にあると考える。そうだとすると、共謀(謀議)の日時、場所や内容の詳細は訴因の記載として必要不可欠な事実ではない。

⑵ よって、検察官の明らかにした事項は訴因の内容となっているとはいえない。

3 次に、裁判所は心証に基づき、検察官の主張する令和3年11月1日の甲及び乙の共謀(謀議)の事実を認定せず、同月2日の共謀の事実を説示した上で、訴因変更等の手続をせずに、甲乙間の共謀共同正犯の成立を認めることは許されるか。

⑴ 訴因の機能は①裁判所に対して審判対象を他の犯罪と識別し、明確化させる点及び②被告人に対して防御範囲を明示する点にある。そして、審判対象は、検察官が主張する構成要件に該当する具体的事実たる訴因である。そこで、事実に重要な変化がある場合、すなわち、①審判対象を画定するために必要不可欠な事実に変化がある場合、②①に変化がない場合であっても、検察官が訴因として明示した場合には、判決においてそれと異なる認定をすると、被告人の防御にとって一般的に不利益となるといえるため、原則として訴因変更を要する。もっとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に訴因変更は不要であると解する。

⑵ 第3、2⑴の通り、共謀(謀議)の日時は訴因の記載として必要不可欠な事実ではない。また、本件は、検察官が訴因として甲及び乙の共謀(謀議)の日時を明示した場合には当たらない。

⑶ よって、本件では訴因変更は不要である。

4 もっとも、本件では被告人及び弁護人は令和3年11月1日のアリバイを主張し、検察官及び裁判所も同日中の行動について甲に質問している。そこで、検察官、被告人及び弁護人が何らの主張立証もしていない令和3年11月2日の共謀を裁判所が認定することは許されるか。

⑴ 裁判所は、被告人の防御権を保障する観点から、争点として顕在化させた上で、十分な審理を遂げる必要があると考える。

⑵ 本件では、被告人側は、11月1日の共謀成立に対する検察官の主張に対し、その日は共謀場所に訪れていないとしてアリバイ主張で反証をしている。このような被告人側の防御行為を前提にすれば、11月2日に共謀が成立するかどうかについては、同日のアリバイ主張を新たに追加する必要が生じるのは明らかである。裁判所は共謀(謀議)が令和3年11月1日又は同月2日に成立したか否かについて争点として顕在化させ、2日についても被告人側において反証する機会を与えねばならないところ、裁判所はこの点で何らの争点化もしていないため、被告人側に十分な防御行為を尽くさせる機会を与えていないといえる。

⑶ よって、裁判所は、共謀が成立したのは令和3年11月2日である旨説示した上で、資料3の「公訴事実」を罪となるべき事実として認定し判決をすることは許されない。

以 上

【解答例原案作成者コメント】
 ・設問1

  おとり捜査の限界の枠組みとしてどのような規範を定立すべきかという点で、少し悩みました。また、本件おとり捜査が相当といえるか否かの判断にあたって、23日のサンプル交付と25日の大麻交付行為の関係性を意識した上で自分なりの評価・結論を示すことが重要であるように感じました。

 ・設問2

  本問は、平成29年予備試験論文式試験刑事訴訟法の問題の焼き直しだと思いました。
 仮に、事前に当該予備試験の問題を事前に解いていなかったとしても、共謀(謀議)の日時について訴因の内容に含まれるかという問題(=訴因とは何か)を現場で考えることが出来れば、一定程度の答案を書きあげることは可能かと思います。

 【補足】

  おとり捜査の適法性については、機会提供型であっても、執拗な働きかけがあった場合には違法とする見解が有力です。この見解に依拠した場合には、問題文の事例5の第1段落の事実を丁寧に評価して結論を出す必要があると思われます。

 
4 素材判例・参考文献等
〔設問1〕

・最決平16.7.12(刑集58-5-333、百選10事件)

・東京高判平19.6.1(高刑速(平成19年)240)

・川出敏裕(令和4年司法試験考査委員)『刑事手続法の論点』(立花書房、2019)P.76~96「第4講 おとり捜査」

・宇藤崇・松田岳士・堀江慎司『刑事訴訟法』(有斐閣、第2版、2018)P.180~184

〔設問2〕

・最決平13.4.11(刑集55-3-127、百選45事件)

・最決平24.2.29(刑集66-4-589、平成24年度重判刑事訴訟法4事件)

・最判昭58.12.13(刑集37-10-1581)

・家令和典「訴因の特定と訴因変更の要否」松尾浩也・岩瀬徹編『実例刑事訴訟法Ⅱ 公訴の提起・公判』(青林書院、2012)P.17~31

・平成29年司法試験予備試験論文式試験刑事訴訟法(下記法務省HP)
https://www.moj.go.jp/content/001267367.pdf

・宇藤ほか・前掲書P.250~258

5 的中情報★★★

・2022スタンダード論文答練(第2クール)刑事系1第2問(本多諭先生担当)
「訴因変更の要否」★★★

・2022福田ファイナル予想答練刑事系第2問(福田俊彦先生担当)
「訴因論」

・2022司法試験全国公開模試「令和4年主要考査委員紹介&出題予想」(福田俊彦先生担当)「川出敏裕教授の紹介 おとり捜査、訴因変更の要否」★★★

・令和4年司法試験刑事訴訟法出題大予想(西口竜司先生担当、福田俊彦先生答案監修)
「おとり捜査、訴因論に関する平成29年予備試験論文式試験刑事訴訟法」★★★

●倒産法

■公開:2022年06月21日/13:00

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
1 はじめに
 本年度倒産法の第1問は、破産法からの出題でした。破産法72条の相殺禁止に関する相殺の可否、抵当権者による別除権行使後の不足額について配当手続に参加するための手続、不足額責任主義、開始時現存額主義といった破産法の重要項目や破産手続に関する基本事項が出題されました。
 第2問は、民事再生法からの出題でした。再生手続開始条件という基本問題を趣旨を踏まえて論じる問題、及び、商事留置権に関する最高裁判例の理解が問われる出題がなされました。
 内容としては破産法と民事再生法の両方からの出題がなされた点、倒産実体法と倒産手続法の双方にわたる出題がなされた点、また、重要判例の理解が求められた点では例年通りの出題であり,難易度も例年並みと思われます。
 
2 問題文
 法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
 
3 本問の分析
 
〔第1問〕

1 設問1について

 破産者A社に対して債務を負担するB社が、破産手続開始後に取得した破産債権を自働債権とする相殺の可否が問われています。
 小問⑴において、B社はA社の破産手続開始後に、C社から譲り受けた破産債権を自働債権として相殺を主張していますので、破産法72条1項1号を検討することになります。なお、C社はB社のグループ会社とされていますので、同一グループの複数の会社がそれぞれ破産者に対して債権を有し、債務を負担する際の相殺の可否(最判平成28年7月8日、倒産百選6版71事件参照)も問題となります。最高裁判例に従えば相殺を否定する方向となりますが、論理的に各自の帰結を論じるべきでしょう。
 小問⑵は、破産者(A社)より委託を受けた保証人(B社)が、破産手続開始後に保証債務を履行した場合の求償債権を自働債権とした相殺の可否が問われています。
 また、小問⑶は、B社が無委託保証人である場合に、保証債務履行後の求償債権による相殺の可否が問われています。小問⑵⑶は、重要判例である最判平成24年5月28日(倒産百選6版70事件)を踏まえると、小問⑵は相殺を認める方向、小問⑶は相殺を否定する方向になりますが、単に結論を述べるだけではなく、破産手続開始後に他人の破産債権を譲り受けた事例(小問⑴)との比較の視点など、結論に至る論理をしっかり示す必要があります。

2 設問2について

 小問⑴は、別除権者であるE銀行が、別除権行使によって弁済を受けることができない債権額(不足額)を破産債権として行使して、配当手続に参加するための手続の説明が求められています。E銀行は破産法の規定に従い破産債権の届出をしていますので、最後配当の除斥期間内に不足額を証明する必要があります(破産法第193条第3項)。
 小問⑵では、E銀行は、破産者所有財産(乙建物)及び物上保証人所有財産(甲土地)に設定された抵当権を実行し、売却代金から弁済を受けていることを前提として、その後の破産手続における配当額計算の基礎となる破産債権の額が問われています。破産者所有財産について別除権を行使して弁済を受けた場合には、不足額についてのみ破産債権者として権利行使することになり(破産法第108条第1項、不足額責任主義)、他方で、物上保証人所有財産について抵当権を実行して弁済を受けた場合には、破産法第104条第5項が準用する同条第2項により、開始時現存額主義が適用されることを踏まえて、破産債権の額を算定することになります。

 
〔第2問〕

1 設問1について

 本問では、民事再生法第25条の再生手続開始条件(棄却事由)の検討が求められています。
 小問①は、まず、A社所有不動産の売却代金が、再生計画に基づく弁済額よりも高額になることが期待できる点に関して、民事再生法第25条第2号の棄却事由に該当するかが問題となります。本問では、C信金がA社について破産手続開始申立てをした段階であることから同号の「破産手続が係属」に該当するかを検討し、また、同号の趣旨である清算価値保障原則を踏まえて、本問の事案が同号に該当するか論じるべきでしょう。
 さらに、A社のメインバンクであるC信金が、A社について破産手続開始の申立てをしていることから、民事再生法第25条第3号の「再生計画案可決の見込みがないことが明らか」に該当するかも問題となります。
 以上の検討を踏まえて再生手続開始決定の可否について結論を導くことになります。
 小問②は、A社が検討している事業譲渡の代金額は一般優先債権である租税債権の額にも満たない状況であるという事情、一方で、延滞税について分納合意の見込みがあり、かつ、事業譲渡代金の増額見込みが十分あるという事情を踏まえて、民事再生法第25条第3号の「再生計画案可決の見込みがないことが明らか」に該当するか検討する必要があります。
 その際には、同号が棄却事由を「見込みがないことが明らか」な場合に限定している趣旨を踏まえて再生手続開始決定の可否について論じるべきでしょう。

2 設問2について

 D銀行がA社から取立委任を受けて留置していた手形の取立金をA社債務の弁済に充当することに可否について、再生手続と破産手続における商事留置権の取扱いの相違を踏まえて論じることが求められています。倒産手続における商事留置権の取扱いについては、破産手続に関する最判平成10年7月14日(倒産百選6版53事件)、及び、再生手続に関する最判平成23年12月15日(倒産百選6版54事件)という重要判例が存在しますので、これらを意識して論じるべきでしょう。
 商事留置権は、破産法上は「特別の先取特権とみなす」(破産法第66条第1項)と定められ、優先弁済権が認められています。他方で、民事再生法上は別除権を認める規定はあるものの、優先弁済権を認める明文の定めはありません。上記最判平成23年の結論と同様に取立金による弁済充当を認める結論、逆に、弁済充当を否定する結論のどちらをとるにしても、商事留置権に関する破産法と民事再生法の規定の相違、及び、最高裁判例を踏まえつつ、取立金の弁済充当の可否について、各自の論理構成を示す必要があります。

 
4 的中情報★★★

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●租税法

■公開:2022年06月21日/13:30

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
1 はじめに
 全体的に所得税法の出題がやや多かった点や、所得の具体的な金額を問う出題が複数みられた点はやや特徴的であるものの、所得税法・法人税法について基本的なテーマが問われていること、条文・基礎知識・判例についての理解を問う設問がバランスよく出題されていること、解答すべき内容が概ね具体的に指定されていることなどから、出題傾向・形式、難易度は概ね例年通りと考えられます。
 なお、第1問においては、設問2⑶が「幾らか」と問うているのに対し、設問2⑴⑵、設問3は、譲渡益が「どのように計算されるか」「どのようにBの課税総所得金額に算入されるか」と異なる問い方をしています。論述に当たっては、この点にも留意したいところです。
 
2 問題文
 法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
 
3 本問の分析
 以下では、条文を示すに当たり、所得税法を「所」、所得税法施行令を「所令」、法人税法を「法」とそれぞれ略記します。
 
〔第1問〕

1 設問1⑴

 乙土地については、その貸付けに係るBの不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されます(所37条1項)。他方、甲土地については、例外規定である所56条の適用により、Dの事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されます。

2 設問1⑵

 P説では、民法909条から、Bが相続開始時に甲土地を単独相続したと捉えます。
 譲渡益の定義は所33条3項柱書にあるところ、まず、売却額2000万円(低額譲渡には当たらない。)が総収入金額に算入されます。
 次に、取得費(所38条1項)については、①所60条1項1号の適用により1500万円(Aの取得価額)が取得費に算入されます。②相続登記費用も、増加益に対する課税繰延べという同号の趣旨に照らせば、同号の文理にかかわらず、資産取得のための付随費用として取得費に算入されます(最判平17・2・1参照)。
 譲渡所得の金額は、所33条3項ないし5項に従い計算されます。そして、本問の譲渡益は長期譲渡所得(同条3項2号)に該当するため、その1/2相当額が総所得金額ひいては課税総所得金額に算入されます(所22条2項2号、21条1項3号)。

3 設問2⑵

 Q説では、遺産分割協議成立時に、CからBへの共有持分権譲渡が対価900万円で行われたと捉えます。すなわち、Bが、1/2持分を平成22年1月1日に単独相続し、残1/2持分を同年4月1日に900万円でCから取得したと構成します。
 資産の保有期間に応じて異なる取扱いを定めた所33条3項の条文構造上、譲渡所得の金額の計算は、上記持分ごとにそれぞれ行う必要があります。基本的な計算ルール自体は⑴と同様ですが、売却額・相続登記費用の按分処理や、相続登記費用に関する条文の適用関係が、⑴とは異なります。
 課税総所得金額への算入も、小問⑴で述べた根拠条文に従い処理することになります。

4 設問2⑶

 P説では、BC間にそもそも「資産の譲渡」がなく、譲渡益は生じません。
 Q説では、⑵の構成から、売却額900万円-取得費750万円=150万円が譲渡益となります。

5 設問3

 譲渡益は1100万円(=売却額2600万円-取得費1500万円)となるのが原則ですが、行使不可能となった求償権の金額1000万円については、実質的な担税力に配慮した所64条2項の適用により、譲渡所得の金額の計算上、なかったものとみなされます(同条3項の手続要件を満たす必要あり。)。この場合、譲渡益を100万円として長期譲渡所得の金額を計算し、その1/2相当額が課税総所得金額に算入されます。

 
〔第2問〕

1 設問1

 事業所得と給与所得のいずれに該当するかが問題となります。両所得の区別基準に関する最判昭56.4.24(弁護士報酬事件)や、本問の同種事案(電気検針員の委託手数料の所得区分)に関する福岡高判昭63.11.22の判断枠組みに照らして、問題文第1段落の事実を評価し、事業所得という結論を導くこととなります。

2 設問2

 解決金は、Aにとって業務関連性のある支出であり、事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されるのが原則です(所37条1項)。もっとも、その内実は不法行為を原因とする損害賠償金であるところ、本問では例外規定である所45条1項8号、所令98条2項の要件に該当するため、必要経費への算入が否定されます。

3 設問3

 過大に支払った電気料金は、法22条3項3号(又は2号)により、令和2年度に損金算入されます(この構成自体の当否も検討の余地あり。)。他方、C社には不当利得返還請求権が法律上発生しているのでその額が益金算入されますが(同条2項。いわゆる両建て)、令和2年度又は令和3年度のいずれに帰属するかが問題となります。
 法22条4項の公正処理基準に照らし、権利確定時に益金算入を肯定すべきところ(なお、不当利得返還請求権に法22条の2の適用はないと考えられます。)、最判平4.10.29(相栄産業事件)の判断枠組みを踏まえれば、本問でも、精算金に係る返還合意が成立した令和3年度に権利確定を肯定できます。

4 設問4

 過大に収受した電気料金については、法22条4項の解釈・適用上、益金算入されるのか、また、どの年度に帰属するかが問題となります。私法上無効な利得であっても既収分については所得実現を肯定すること(最判昭46.11.9参照)から、上記料金は令和2年度に益金算入されます。
 精算金については、令和3年度に損金算入されるのか、それとも更正の請求を通じて令和2年度の益金算入を修正すべきことになるのかが問題となります。最判令2.7.2(クラヴィス事件)などを参考に、設問3との整合性に留意しながら、法22条4項の解釈論の検討が求められます。

5 設問5

 退職所得の趣旨・目的については、最判昭58.12.6などを踏まえ、累進課税制に言及しながら説明することが考えられます。
 そのうえで、Dの退職所得の金額((1000万円-40万円/年×13年)×1/2=240万円。所30条2項以下)と、源泉徴収手続の概要(所199条、201条、203条)を簡潔に説明することになるでしょう。

 
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●経済法

■公開:2022年06月21日/13:50

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
1 はじめに
 いずれの問題も、経済法の基本的な理解を問うもので、基本的な条文・判例理解に基づいて事実関係の当てはめをする能力が求められています。また、例年と同様、近年出された重要審判決において示された論点が問われており、直近で出されたものを含め重要審判決をしっかりと理解することが求められています。
 
2 問題文
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3 本問の分析
 
〔第1問〕

  第1問は、アフターマーケットにおける反競争的行為という典型論点について事例に則した分析をさせる問題です。インクジェットプリンターメーカーが、非純正品インクを使用した場合にエラーメッセージを出すなどした行為が抱き合わせ販売に該当するとした東京地判令和3年9月30日(令和3年度重要判例解説223頁)を参考にした出題と考えられます。
 まず、適用条文として、Yによる本件行為を抱き合わせ(一般指定10項)として論じるか、取引妨害行為(一般指定14項)として論じるかを検討する必要があります。本件行為によって、Y社甲製品購入者は実質的に純正品を購入せざるを得ないことになることを踏まえ、抱き合わせを適用することも可能ですし、本件行為によって需要者とD社・E社との取引を妨害していることを捉え取引妨害として論じることも可能といえます。
 次に、問題文記載のYの主張をどのように評価するかを織り込みながら「不当」性(公正競争阻害性)を検討することが求められます。Y主張前半は、自由競争減殺性を論じる前提として本件の市場をどのように捉えるかを論じさせるものといえます。甲製品の需要者としては、購入した甲製品に利用するための乙を購入することになる(甲製品のメーカーに囲い込まれている)ことを踏まえると「Y社製甲製品向け乙」として市場を画定することとなり、当該市場でのY社のシェアは40%であることからYの主張は採用できないことになります。これに対して、甲製品の需要者として、甲製品と乙製品とを一体として商品選択をしている(乙の純正品が高くなるのであれば中長期的に甲製品の乗り換えを積極的に行っていく)といえるのであれば、乙製品を含めた甲製品市場として市場を画定することはあり得ます。この点について、問題文記載の事実関係(例えば、甲製品は乙製品と比して高価であること、甲製品の購入の際に需要者は乙製品の費用、交換頻度等を認識していないこと等)を丁寧に拾って論じることになるでしょう。後半は、公正競争阻害性において安全性をどのように論じるかという典型的な論点であり、アフターマーケット問題の事例でもある東芝エレベーター事件(大阪高判平成5年7月30日)などの事例を踏まえて論じることになるでしょう。
 また、独占禁止法24条の差止請求についての検討も必要となります。仮にYの行為が独禁法違反であったとしても、Xによる差止請求まで認められるか、より具体的には、X社に「著しい損害」が発生したか否かを論じる必要があります。

〔第2問〕

  第2問は、再販売価格拘束行為及び販売方法の制限の独占禁止法上の評価を問う問題で、極めて基本的な問題といえます。基本的な論点に関する条文、判例等における解釈を踏まえ、具体的な事実関係に則して丁寧に当てはめをすることが求められます。
 ⑴では、再販売価格の拘束(独禁法2条9項4号)に該当するか否かを検討することになります。ここでいう「拘束」の意義・解釈を論じた上で、問題文に記載されたX社の行為が「拘束」に該当するか否かを論じる必要があります。「販価」を提示してそれを守らなかった場合に出荷を制限する行為は「拘束」に該当する典型的な行為ですが、その後参考価格として「希望小売価格」に戻した行為をどのように評価するか等、現場での当てはめの説得力、丁寧さが求められる問題といえます。
 ⑵は、対面説明の義務付けが不当な拘束条件付取引(一般指定12項)に該当するかという典型的な論点についての問題といえます。資生堂最高裁判決(最判平成10年12月18日)における規範(それなりの合理的な理由及び制限の同等性)を論じた上でしっかりと当てはめを論じればよい基本的な問題といえます。

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●知的財産法

■公開:2022年06月21日/14:30

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
1 はじめに
 第1問(特許法)では、これまで出題されていない分野を含む問題が、第2問(著作権法)では、近時の知財高裁の著名裁判例に近い事案を含む事例問題が出題された点では、例年と同様である。ただし、いずれも小問数が多く、例年と比較するとより高い事務処理能力が必要とされたといえよう。
 
2 問題文
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3 本問の分析
 
〔第1問〕

  1.⑴は、Yは、104条の2により、自己の行為の具体的態様を明らかにすることができない相当の理由があるときを除いて、これをしなければならないところ、この特許法上の義務を果たすものといえるかについて検討することになる。⑵は、Xは、104条「その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないこと」を主張立証することにより同条の推定が及ぶことを主張することができる。
 2.いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームについての最判平27.6.5(百選4事件)について問うものである。⑴は、製法限定説でなく物同一説を採れば、技術的範囲に属することとなろう。⑵では、Yの抗弁の具体的内容は、X特許権1は36条6項2号の明確性要件を充足せず、123条1項4号の無効事由があるとするものである。これに対して、Xは、上記最判にいう「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するとき」にあたるとして、明確性要件に適合すると主張することとなる。
 3.Yは、104条の3第1項・123条1項2号・29条1項2号「公然実施」に当たると主張することとなる。妥当性を論ずるにあたり留意すべきXの反論は、1袋も売れていなかったのであるから、知高判平28.1.14(百選59事件)にいう「発明の内容を不特定多数の者が知り得る状況でその発明が実施されること」には当たらず、公然実施ではないというものとなるから、それに当たるかどうかを、X発明1とX発明2のそれぞれについて検討することとなる。
 4.Yは、104条の3第1項・123条1項2号・29条の2(拡大先願)にあたると主張することとなる。妥当性を論ずるにあたり留意すべきXの反論は、知高判平20.3.27(百選60事件)にならい、出願βの願書に最初に添付した明細書の記載に接した当業者が、本件明細書にX発明1が実質的に記載されていると理解すべき事情があるといえないから、拡大先願には当たらないとするものである。そこで、出願βが炊飯方法の発明についての特許出願であることや、出願βの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面のいずれにも当該記載以外に米の製造や精米方法に関連する記載はないこと、成分Aについての言及もないこと等をふまえ、Yの主張の妥当性を検討することとなる。

〔第2問〕

1 設問1について

 まず、人物甲のイラストについて、Xの単独著作物であるか、漫画全体がXYの共同著作物(2条1項12号)でありその一部であるか、もしくはXYの共同著作物であるネームの二次的著作物(同条項11号)であるかを検討しなければならない。ところで、キャンディ・キャンディ事件(最判平13.10.25、百選49事件)で原著作物とされたものは小説形式の原稿であり、漫画のためのネームではないから、必ずしも上記最判の認定をなぞる必要はなく、本問の事実関係をもとに積極的に検討する姿勢が必要である。
 ⑴は、Xはいずれの構成にせよ著作権者であるから(ただし共同著作物の一部であるとすると、権利行使にはYとの合意が必要である(65条2項)。)、Bに対し、模型βの作成が翻案権(27条)侵害、学園祭で観覧に供したことが展示権(28条・25条)侵害に当たるとし、差止請求(112条1項)及び損害賠償請求(民法709条)を行うことができるかが問題となる。このうち、展示権は45条1項で制限されるとしても、そのための翻案は認められないから(47条の6参照)、請求は認められる。なお、Yも著作権者であるとする場合には、Yの請求額との関係にも軽く触れると良い(共同著作物とする場合には117条1項)。Yについては、上記の権利帰属の検討結果により、何も請求できないか、Xと同じ請求ができることとなる。
 ⑵は、Xは、Cに対し、フィギュアの制作が複製権(28条・21条)侵害、販売が譲渡権(28条・26条の2第1項)侵害に当たるとして、差止請求、在庫廃棄請求(112条2項)及び損害賠償請求を行うことができるかが問題となる。このうち差止と廃棄請求には故意・過失は必要ないが、損害賠償請求には過失が要件となる。この点、Cは玩具製造業者であるから、学生Bから模型βの譲渡を受ける際に権利関係を確認しなかったことは、過失があるといえるであろう(東地判平16.6.25(百選91事件)参照)。Yについては、⑴と同様に権利帰属の検討結果による。

2 設問2について

 Yは、共同著作物の権利行使には共有者全員の合意が必要であるところ(65条2項)、自己の承諾なく映画γを配信することは公衆送信権(28条・23条1項)の侵害に当たると主張する。Dは、Yが合意の成立を妨げる正当な理由(65条3項)がなく、したがって侵害には当たらないと反論する。
 Dの主張については、正当な理由について判断の視点を示して検討すべきである(大高判平25.8.29(百選102事件)解説参照)。この点、中山名誉教授が、「妥当な対価の申し出をしたということは、正当な理由の有力な要素となり得る」(『著作権法』第3版279頁)とされていることが参考になる。次に、正当な理由がないことが侵害訴訟の抗弁たり得るかという問題があるが、これについては意思表示を命ずる判決を得る必要があるとすることが一般的理解である(前掲百選解説、中山)。この点において、Dの主張は失当であり、結局、Yの主張が正当となる。

3 設問3について

 ⑴は、FがコピーすることがXの複製権(21条)の侵害、スライドに映し出すことが上映権(22条の2)の侵害、コピーを配布することが譲渡権の侵害(26条の2)となるかが問題となる。このうち、上映については「公に」すなわち、公衆に直接見せることを目的とした(22条)ものといえるかが問題となるが、音楽教室事件(知高判令3.3.18)は、音楽教室の生徒は不特定であるから「公衆」にあたり、生徒の前で講師が演奏することは演奏権の「公に」要件を充たすとしており、本問でも同様に解することになろう。また、民間の漫画教室は営利目的といえるから、35条1項と47条の7、38条1項の適用はない。その他、引用(32条1項)該当性を検討しても良いが、これに当たるというのも難しい。
 ⑵は、Xは、生徒に模写をさせることは複製権の侵害にあたると主張すべきであり、Fは模写の主体は生徒であるから、私的使用目的複製(30条1項)により許容されると反論することが考えられる。前掲知高判では、「生徒は,専ら自らの演奏技術等の向上のために任意かつ自主的に演奏を行っており,控訴人らは,その演奏の対象,方法について一定の準備行為や環境整備をしているとはいえても,教授を受けるための演奏行為の本質からみて,生徒がした演奏を控訴人らがした演奏とみることは困難といわざるを得ず,生徒がした演奏の主体は,生徒であるというべきである。」と述べており、これに従えば、Fの反論が妥当であることとなる。

 
4 的中情報★★★
〔第1問〕

設問2⑴⑵
・集中答練第5回第1問論点④「PBPクレーム」★★★
・集中答練第7回第1問論点①「実施可能要件とサポート要件の関係」

〔第2問〕

設問1
・スタ論第1回第1問論点①「建築の著作物の著作者」

設問3⑴⑵
・集中答練第7回第2問論点⑤「侵害主体」★★★
・集中答練第1回第2問論点③「侵害幇助者に対する差止請求」★★
・集中答練第4回第2問論点②「複製機器提供者の複製権侵害の幇助侵害責任」★★
・集中答練第5回第2問論点③「侵害幇助者に対する差止請求」★★
・集中答練第7回第2問論点④「侵害幇助者に対する差止請求」★★
・集中答練第4回第2問論点③「私的使用目的の複製の要件(特に、複製主体の要件)」

●労働法

■公開:2022年06月21日/16:00

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
1 はじめに
 論文本試験の労働法の設問については,第1問が個別的労働関係に関する出題であることは一貫しています。これに対し,第2問については,集団的労働関係に関する出題されるか,もしくは個別的労働関係に関する論点と集団的労働関係に関する論点との融合問題が出題される傾向にあります。本年度については,第1問は,例年通り,個別的労働関係に関する出題がされました。一方,第2問では,小問1については労働協約に関する出題となっているものの,小問2については,パート有期法8条の解釈が問われる設問となり,全体としてみれば,集団的労働関係に関する出題のウェイトが下がる出題形式になりました。過去にも,上記の通り,第2問において個別的労働関係法に関する論点と集団的労働関係法に関する論点の融合的な出題がされたことがあり,集団的労働関係法を無視することはできないものの,平均的にみれば,やや個別的労働関係法を重視する傾向にあるといえるでしょうか。
 なお、近年は、比較的直近に注目される裁判例が示されているテーマや、学会で注目されているテーマがしばしば出題される傾向にあります。昨年度は,第1問、第2問ともに、古くから存在する論点からの,比較的オーソドックスな出題なされましたが,本年度の第2問目では,2018年に改正が行われたばかりのパート有期法(しかも,2020年秋の最高裁判決で論点の1つとなった,賞与に関する格差)が問われる論点が出題されました。今後とも,直近の法改正や議論となった(下級審判決を含む)裁判例,学界で議論となっている論点については,きちんとフォローをしておく必要がありそうです。同時に,近年は,特定の出題委員が執筆した体系書においてのみ言及されている論点や,特定の出題委員が近年精力的に議論を行っている論点が出題される傾向もみられます。出題委員の問題関心が本試験における出題にどの程度影響しているのかは分かりませんが,今後,出題委員の最近の問題関心をフォローしておくことも必要かもしれません。
 また、解答に際して問われる能力についても留意すべき点が見られます。一昨年度までは、きわめてオーソドックスかつシンプルな論点を提示しつつ、事例中における事実関係を適切に抽出し、あてはめを構成する能力が問われる出題がしばしばみられました。しかし、昨年度は、問われる論点そのものがややマイナーな論点であったり、大まかなくくりでいえばメジャーな論点ではあるものの、設問レベルでは、当該論点についての一定以上の深い理解や、応用力がなければ対応することが難しい出題がなされていました。本年度についても、答案の構成によってはいずれの結論も取り得る設問が多くみられるものの、事実の摘示及びその評価というよりは、当該事例において、法的にどのような理屈で問題を検討し、処理することが必要になるのかという、法理論的な構成力が問われる設問となっています。その意味で、事例の中から適切な事実を抽出し、評価を行う「あてはめ」の能力というよりは、個々の論点についての深い理解や、応用的な考察力が問われる出題であったように思われます。今後もこうした傾向が続くようであれば、事例の事実関係を処理する能力だけでなく、法的な論点についての深い理解や考察力を高める学習が必要になってくるかもしれません。
 
2 問題文
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3 本問の分析
 
〔第1問〕

1 設問1について

  第1問の設問1は、設問文にあるように、配置転換命令の有効性が問題となります。配転命令の有効性判断については、使用者に配転命令権が存することを前提に、配転命令権の濫用に該当するか否かが問われるというのがもっともオーソドックスなパターン(東亜ペイント事件最判参照)です。これに対し本問においては、その前提たる配転命令権の存否をめぐり、X1が運行管理業務に職務を限定した労働契約をY社と締結していたかどうかが問題となります。そして、その上で、X1に対する配転命令権が認められる(職務限定契約ではない)場合に、今度は、配転命令権の濫用に該当するか否かが問題となります。このように、配転命令権の存否(職種限定合意の有無)の検討と、配転命令権(が存する場合)の権利濫用の有無の検討とについて、2段階にきちんと分けて論じることができているかどうかが、解答に対する評価の最初の分かれ目となったでしょう。
 次に、配転命令権の有無(職種限定合意の有無)については、配転命令権の濫用の有無に比べ、ややマイナーな論点だけに、フォローが十分でなかった受験生もいたかもしれません。ここでは、検討すべき主なポイントとしては、職種限定の合意の有無・形式(契約書における職種限定の不記載、口頭で「当面は」の合意)、採用の経緯(X1の経験・資格に着目した採用)、いわゆる新卒正社員ではなく中途採用であることでしょう。なお,一般に,職種限定の合意は認められにくいとの評価がありますが,そこには,いわゆる日本的雇用慣行に基づく長期雇用が前提として存在します。したがって、中途採用の事案である本件において,長期雇用を前提に職種限定を認めない(使用者の配転命令権限を広く認める)立論は適切ではない点に注意する必要があります。職種限定を否定する方向で答案構成をする場合は,書面上に職種限定の記載がなく,また口頭においても明確に職種を限定する合意がなく,X1が職種限定と認識していた事情が明確には存在しない点を強調するほかないでしょう。むしろ,採用の経緯などからは,職種限定の合意が存在したと構成する余地もありそうです。もっとも,この場合には,次の,配転命令権の濫用の論点に結び付けることが難しくなる点が難題になります(「仮にX1に対する配転命令権が認められるとして」という形でつなぐ手もある)。
 配転命令権の濫用については,業務上の必要性の有無,不当な動機目的の有無は,あまり問題にはならないでしょう(X1のやる気をそぐような部署に配置したことにつき,退職に追い込む不当な動機・目的の有無の問題として扱う余地もあります)。そこで,X1に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じるかどうかが問題となります。この点,X1の基本給が下がっているわけではないことから,「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」と評価するのは難しいように思えます。もっとも,最近の裁判例の中には,嫌がらせ的な目的で,それまでのキャリアとまったく無関係な部署に移動する配転命令について,精神的な不利益などを捉え,「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」を認め,配転命令権の濫用とする下級審判決も散見されます。このような論理で,配転命令を無効と構成する余地もありそうです(上記の通り、「不当な動機・目的」の問題として処理する方法もあり得る)。
 なお,配転命令権を否定(職種限定合意を認定)しつつ,運行業務管理に不向きであることを捉え,解雇回避目的としての配転として構成するという立論もないわけではありません。しかし,職種限定の合意がありながら,(解雇回避の目的とは言え)労働者の同意なく配転命令の効果を認めることは,理論的にはかなり無理があります。このような判断を行った下級審裁判例は存在するものの,それらはかなり特殊な事案であり,試験に際してこのような答案構成を行うのは、あまり適切ではないでしょう。配転命令権の存在を肯定(職種限定の合意を否定)する立論をうまく構成しながら,配転命令権の濫用の有無として処理をするのが,最も無難な答案構成であったと思われます。

2 設問2について

  本問が,有期労働契約の雇止め(労働契約法19条)をめぐる問題であることは、大半の受験生が分かったと思います。また、事例から、更新限度条項が設けられている場合の、労契法19条に係る「雇用継続の合理的な期待」をどのように判断するのかが問われている点も、多くの受験生が気づいたと思います。問題は、この「雇用継続の合理的な期待」をどのように判断するかについてです。この点、裁判例および多数説によれば、更新限度条項や不更新条項が設けられていた場合についても、当該条項の有効性の有無を判断するのではなく、書面上におけるそれらの条項の存在をも、「雇用継続の合理的な期待」を判断するうえでの1要素としたうえで、「合理的期待」の有無を判断すると解されています。このことをきちんと理解していれば、X2が倉庫業務に合意の上で異動したことをもって,更新限度条項の有効性が直ちに左右されるわけではなく、それらの経緯も,X2が雇止めされた段階で,雇用継続の合理的な期待が存するか否かを判断する一要素に過ぎないことが分かるでしょう。あとは、事例の中の事実から、「雇用継続の合理的な期待」を裏付ける事実が認められるか否かについてあてはめを行い、いかに論理的に結論に導けるかどうかがポイントとなります。事例を見る限り,倉庫部門への異動に際して,更新限度がリセットされるといった説明はされておらず,また当初の更新限度の設定についても,必ずしも職務の限定と結びついたものとはなっていないこと,1年前の段階でも,さらなる更新は難しいと説明をされていたこと等を考慮すると,雇用継続の合理的な期待は認められず,X2の主張は認められないという結論になる可能性が高いでしょうか(X2のやりがい云々は、あくまでもX2の主観であり,必ずしも法規範的な意味での雇用継続への期待に結び付くとは言えないかと思われます)。なお、仮に雇用継続の合理的な期待が認められると立論した場合,Y社がX2を雇止めする合理的な理由は見当たりませんので、X2の主張は認められることになるでしょう。

〔第2問〕

1 設問1について

  第2問の設問1は、直接的には、労働協約による労働条件の不利益変更の有効性が問われています。もっとも、その(X1の主張の)前提として、そもそも、(仮に労働協約による(不利益変更の)拘束力が認められないとして)X1に賞与として基本給月額2か月分の支払いを求める法的な根拠が存在するかどうかを明らかにする必要があります。
 X1が賞与として基本給月額2か月分を請求する根拠として、まず、A組合との合意が考えられます。しかし、労働協約が規範的効力を有するには、労働組合法14条により、書面化されていることが必要となります(書面化されない労使合意の規範的効力を否定するものとして、都南自動車教習所事件(百選第90事件))。本件では、労使合意が書面化されていないため、その規範的効力は認められません。そこで、労使慣行としての効力が認められるかが問題となります。ここでは、八戸ノ里ドライビングスクール事件最判が示す規範にもとづいて、労使慣行の成立を判断することになります。本問の場合、就業規則には賞与の支給額に関する定めがなく、これを補充する機能を有すること、30年間労使双方から異議なく実施されてきたことを踏まえると、基本給2か月分を賞与として支給する旨の労使慣行が成立していたとみるのが妥当と思われます。
 そこで、次にY社とA労働組合との間で締結された、賞与の支給額を1.8か月分とする労働協約の拘束力が問題となり、これが「労働組合の目的を逸脱する」と言えるかどうかが問題となります(朝日火災海上保険(石堂)事件最判参照)。労働協約による労働条件の不利益変更については、判断にあたり、内容の合理性を重視する見解と、手続の合理性を重視する見解に学説が分かれており、判例も、いずれの立場を採用しているかははっきりしていません。そこで、いずれの立場をとるか、理由と共に自説をきちんと示すことがまず大事になるでしょう。なお、内容の合理性を重視する見解に立つ場合、契約社員にも賞与を支給するための原資の確保という目的や、減額の幅がそれほど大きくないことから、合理性を認める結論に導きやすいものと思われます。他方、手続の合理性を重視する見解に立つ場合、事例中においては、Y社とA組合との交渉が重ねられたことは記されているものの、A組合内部での意見集約手続については一切言及がないため、場合分けを行うか、あるいは、適切な意見集約手続がなされた事実がないことを理由に、協約の拘束力を否定する結論に導く余地もあるでしょう。なお、協約の拘束力を否定する立論をとった場合、本件協約締結前は、協約ではなく労使慣行により基本給2か月分という賞与の支給額が裏付けられていた(つまり、協約で定められていた条件の不利益変更ではない)ことから、次に、就業規則の不利益変更の問題として検討を行う必要が生じます(協約の拘束力を認める立論の場合、協約>就業規則であることから、この論点は言及しなくてよい(というより、すべきではない))。この段階では、変更の必要性、X1らの不利益がさほど大きくないこと、労働組合との交渉を重ねたという手続きの適切性から、変更の合理性を認める結論に導くのが穏当かと思われます。
 ということで、本問については、さまざまなアプローチが考えられつつも、結論として、変更の有効性は認められるという結論になる可能性が高いでしょう。解答に対する評価としては、上記のような多様なアプローチがあり得る中で、法的にどのような構成を採用し、その場合にどのような立論をとる必要があるのかという、法的思考の論理性が問われた設問であったといえると思います。

2 設問2について

  設問2は、有期契約労働者であるX2と無期契約労働者の労働条件(賞与)の格差が、いわゆるパート有期法にもとづく、違法な労働条件の格差に当たるかどうかが問われていることは、多くの受験生が気づいたと思います。また、Y社における正社員については、有期契約労働者に比して、配置の変更の範囲に違いがあることから、同法の9条ではなく、8条(「不合理な労働条件の格差」に該当するか)の問題であることも、多くの受験生が気づいたと思います。
 そこで、この設問では、X2の賞与の支給額と、正社員の支給額との格差が「不合理な格差」と言えるのかという問題になります。この設問は、この点について、事例中の事実を的確に評価し、以下に論理的に結論に導くのかという「あてはめ」の能力が端的に問われた設問と言えるでしょう。
 検討すべき主なポイントとしては、従前はそもそも賞与を支給していなかったところ賞与を支給することとしたこと、支給額については労働組合と協議して決定したこと(なお、X2ら有期契約労働者はA組合に加入していないことを問題にすることができますが、その際は、X2らがユニオンショップ協定の対象外ではあるものの、規約上、組合員資格が奪われているわけではない(加入しようと思えば加入できる)点には注意する必要があります。なお、そもそも、パート有期法による規制は労働組合との合意によって正当化しえないという立論もあり得ます)、X2の業務が入社3年目の正社員と同等であること、正社員は幹部候補として人材育成され、配置転換があるのに対し、契約社員には異動がないこと、契約社員から正社員への登用制度がないこと、といった点でしょう。これらの事実は、格差を正当化しうる事実もあれば、格差を不合理と評価しうる事実もあります。そこで、どのような事実を重視し、なぜその事実を重視すべきであると考えるのかを示しながら、論理的に結論に導くことが重要です。なお、最高裁は、幹部候補として長期的な人材育成を行う者であることは、有期契約労働者よりも厚遇を与えることを正当化する根拠となり得るとしています。また、職務内容が一時的に同一のものであることをもって、労働条件の格差が直ちに不当になるわけではないという立場も示しています(メトロコマース事件最判参照)。これに加え、本問において、格差が不当であるとしても、職務内容に差異がある以上、どの程度の労働条件の格差をもって不当と評価することが難しいこともあって、本問については、格差は正当→X2の主張は認められないという結論をとるのが無難であったように思われます。もっとも、学説上は、上記したような判例の考え方に対し、(職務内容とは直ちに結びつかない)長期雇用を理由とした労働条件格差の是正こそがパート有期法8条の目的であるとしてこれを批判する見解も有力です。したがって、格差が不当であるとしてX2の主張を認める見解も取り得ないわけではないでしょう。いずれにしても、事例中の事実について、(自己の立場に不利な事実も含め)過不足なく摘示し、どのような論理で結論に導くのかが、評価の分かれ目となったと思われます。

4 的中情報★★★

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●環境法

■公開:2022年06月21日/16:30

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
1 はじめに
 第1問は,大気汚染防止法の制度理解,関係法令の解釈・適用,規制の手法・内容並びに行政訴訟の救済手段が問われています。
 第2問は,水質汚濁防止法、土壌汚染対策法の制度理解,関係法令の解釈・適用,規制の手法・内容の他,並びに民事訴訟の救済手段が問われています。
 
2 問題文
 法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
 
3 本問の分析
 
〔第1問〕

1 設問1について

 〔設問1〕は,ばい煙規制制度のうち、K値規制制度の趣旨について問う内容です。
本問で問われている説明は、たとえば、排出口における濃度規制の従来の規制方式に加えて最大着地濃度を一定以下に抑えるK値規制方式が導入された背景に関する内容が考えられます。
 具体的には、ばい煙のひとつ、いおう酸化物の大気汚染防止法上の規制の特徴として、煙突の高さに着目した規制が挙げられます。かかる規制の背景として、いおう酸化物が高い煙突から排出され希釈化されたとしても、やがて着地した先では人がいおう酸化物を直接吸入せざるをえず、着地濃度に着目して排出される物質の量をコントロールする必要があることが考えられます。

2 設問2について

 〔設問2〕は,ばい煙規制制度のうち、法令違反に関する行政対応について問う内容です。
 まず、いおう酸化物はばい煙に当たります。そのため、本問で問われる行政対応として、ばい煙規制制度に基づく行政の対応を検討することになります。
 次に、C工場では基準値の10倍のいおう酸化物の値が恒常的に測定されるようになった事情から、ばい煙の排出の制限(同法13条1項)に反するといえます。そのため、行政対応として、B県知事による改善命令・一時停止命令(同法14条1項)が考えられます。
 また、C工場における測定及び記録の保存が中止された事情から、ばい煙の測定・記録・保管義務(同法16条)違反が考えられます。かかる違反には直罰制が採用されています(同法35条3号)。そのため、B県知事はかかる違反について刑事告発することが考えられます(刑事訴訟法239条2項)。
 さらに、C工場における炉の老朽化の放置といった事情から、B県知事による改善命令・一時停止命令(同法14条1項)が考えられます。

3 設問3について

 〔設問3〕は,大気有害汚染物資対策及び指定物質規制の法令違反に関する行政対応について問う内容です。
 まず、ベンゼンは大気有害汚染物資に当たると同時に、指定物質に当たります。その上で、設問文の誘導に従って答えることが求められています。
 まず、大気有害汚染物資対策制度が設けられた趣旨については、予防原則・予防アプローチ・任意的アプローチを挙げることができます。科学的知見の充実により十分な規制根拠があるという立法事実がつくられれば、附則対応ではなく、強制手法を基調として法律本則での対応になる理解を回答できればなおよいと考えられます。
 次に、指定物質規制制度に基づく行政の対応を検討することになります。B県知事は、健康被害防止のために必要があるときは、指定物質排出施設の設置者に対し、指定物質抑制基準を勘案して、排出・飛散の抑制につき必要な勧告ができます(附則10項)。また、B知事は、上記勧告に必要な限度で、施設の状況その他必要事項の報告徴収ができます(附則11項・13項)。

4 設問4について

 〔設問4〕は,行政対応の公表前の段階で事業者が選択肢として検討すべき法的請求について問う内容です。
 まず、A社としては、ベンゼンの基準値超過は解消されているという認識を有し、B県の調査を問題視しています。そのA社は、B県が設問3での行政対応を実施しようとする場面、及び、B県がその対応の公表を計画している場面に直面しています。
 ここで、仮の救済の検討は求められていません。A社としては、差止訴訟や取消訴訟が考えられるところ、勧告及び公表が処分性を有するのかがまず問題となります。その上で、各行政訴訟の類型のうち、各々の訴訟要件が充足されるかの検討が求められています。

〔第2問〕

1 設問1について

 〔設問1〕は,地下水汚染防止の水質汚濁防止法上の義務について問う内容です。
 まず、トリクロロエチレンが「有害物質」(同法2条2項1号)に該当することの検討が求められています。かかる該当性判断においては、資料1の水質汚濁防止法施行令2条が手がかりとなります。
 次に、地下水汚染といえば土壌汚染対策法及び水質汚濁防止法が関わってきますが、設問文の誘導に従い、トリクロロエチレンを使用・処理する特定施設設置者の水質汚濁防止法上の義務を検討することが求められています。
 具体的には、地下水汚染防止のための義務の言及が求められています。そのため、構造基準等の遵守義務(同法12条の4)、汚染状態の測定(同法14条1項)、事故時の措置及び届出(水質汚濁防止法14条の2)等だけでなく、特定施設等の設置の届出義務(同法5条)、実施制限(同法9条)を記すことも考えられます。

2 設問2について

 〔設問2〕は,地下水汚染に関する行政対応並びに水質汚濁防止法及び土壌汚染対策法の地下水汚染に対する考え方の違いについて問う内容です。
 まず、トリクロロエチレンが「有害物質」(水質汚濁防止法2条2項1号)に該当することが、同法上の規制の仕組みだけでなく、土壌汚染対策法の規制の仕組みに関わることを押さえることが求められています。
 また、Aの施設から排出・漏洩したトリクロロエチレンにより、地下水が汚染され、周辺のD及びEの所有地も汚染された事情から、調査命令(土壌汚染対策法5条)、要措置地域の指定(同法6条)・汚染除去等計画の提出等(同法7条)、浄化措置命令(水質汚濁防止法14条の3)が選択肢として考えられます。もっとも、本問では地下水を飲用に利用している等の状況が記載されていないことをふまえた記載が求められます。
 さらに、水質汚濁防止法及び土壌汚染対策法の地下水汚染に対する考え方の違いとして、未然防止原則・予防原則を導入の有無、事後救済を柱とするか否か、調査制度の有無等を中心に説明することが考えられます。水質汚濁防止法に未然防止原則が導入されている点については、資料2の地下水汚染から人の健康を保護する視点から言及することが求められています。そして、土壌汚染対策法5条調査についても同じく資料2に言及することが求められています。
 加えて、かかる法制度の違いについては、汚染が水流(地下水の流動)に従って拡大すること、土壌汚染がストック型汚染と位置づけられること、公共用水域と私有地の違いなど、汚染状況や権利義務関係の理解にも目配せした記載ができればなおよいと考えられます。

3 設問3について

 〔設問3〕は,土地環境基準が強化された場合の汚染除去の追加的措置の可否について問う内容です。
 まず、資料3の内容に着目し、汚染の除去等の措置が講じられている場合に基準が見直される前の基準によって評価を行っていることのみを理由に当該措置の再実施を求めないことが適当であるという部分について検討することが求められています。
 その際、有害物質使用特定施設の廃止等が行われた場合に、基準が見直されたことのみを理由とした土壌汚染状況調査の再実施を求めることは適当ではないという部分を踏まえた検討を行うことが求められています。
 また、著名な基本書において、一旦浄化措置命令を発し,すでに事業者が浄化したものの,なお新基準値は超える有害物質が残っているときに,再度浄化措置命令を発出できるかが問われた箇所があり、その箇所ではその可否に関する明確な回答が記されていない例があります。そのため、本問では事前知識ではなく資料をてがかりとして、一定の論述をすることが期待されている、と考えられます。
 なお、追加的措置を可とする立場では、環境基準値の厳格化とともに地下水浄化基準値を厳格化するときは,一度浄化措置命令が出されていた場合に再度浄化措置命令を発出することとなり,行政の信義則上問題が生じるとされる発展的論点もあります。もっとも、本問ではそこまでの解答は原則求められていないと考えられます。
 また、上記可否の検討では浄化措置命令の対象の理解も関わりえます。もっとも、有害物質に関する浄化基準値が厳格化された場合が、有害物質が新たに指定された場合(「有害物質に該当する物質」(水質汚濁防止法14条の3第1項)の解釈参照)と同様に検討されることについても、本問ではそこまでの解答は原則求められていないと考えられます。

4 設問4について

 〔設問4〕は,排水基準が設定されていない物質の河川への排出が最終的に取水停止等の被害をもたらす事案での市の業者に対する法的請求について問う内容です。
 本問では、排水基準が設定されていない物質が河川に排出され、浄水場で塩素と反応し、ホルムアルデヒドが生成され、浄水場で取水が停止され、F市では断水等が発生し、水道事業者としてのF市は吸水車の出動など余儀なくされたことから、F市のAに対する請求は事後的なものと考えられます。
 ここで、水道事業者としてのF市と施設設置者Aとの間の契約関係を示す事情は見当たらないことから、不法行為に基づく損害賠償請求を検討することが求められています。
 本問の事例は過去の司法試験過去問と比べても見慣れない内容です。もっとも、類似の例が実在します。たとえば、平成24年5月、利根川水系でヘキサメチレンテトラミンが河川に排出され、浄水場で塩素と反応した結果ホルムアルデヒドが生成されてしまった等の例があります。このとき、1都4県は事業者に対して同年に損害賠償請求を行った他、その他複数の市も原告となって事業者に対して平成25年に損害賠償訴訟を提起しました。
 こうした事例は多くの受験生にとって従来見慣れない内容と考えられます。本問では条文の要件効果を意識した、基本に立ち返った論述を行うことが期待されていると考えられます。

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●国際関係法〔公法系〕

■公開:2022年06月21日/16:40

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
1 はじめに
 第1問は,主要判例を含む国際法の典型的論点を組み合わせた出題となっています。第2問は,カルロス・ゴーンやバルセロナ元首相など,近年話題となることの多い逃亡犯罪人引渡しに主眼が据えられた出題でした。いずれも,標準的な難易度の問題と考えられます。
 
2 問題文
 法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
 
3 本問の分析
 
〔第1問〕

1 設問1について

 自衛権の基礎を問う出題です。まず,A国については,個別的自衛権に基づき武力行使を正当化します。個別的自衛権の基本3要件は,武力攻撃の発生,必要性及び比例性(均衡性)です。より詳細には,国連憲章第51条の規定に基づき,①武力攻撃の発生,②暫定性(安保理が必要な措置をとるまでの間),③安保理への報告が要件とされ,慣習国際法上,④必要性(他にとりうる手段がないこと),⑤比例性(自衛に必要な範囲内であること),⑥急迫性(差し迫った脅威があること)が要件とされます。A国については,具体的事実に照らし,これら6つの要件を満たしていることを解答すれば足りるでしょう。
 次に,C国については,集団的自衛権に基づき武力行使を正当化します。集団的自衛権の行使にあたっては,個別的自衛権の6要件のほか,被攻撃国による⑦武力攻撃を受けた旨の「宣言」と,⑧集団的自衛権行使の「要請」が要件として求められます。集団的自衛権行使の前提条件として,「密接な関係」を求める学説や国内法(日本の武力行使の新3要件等)はありますが,国際法上密接な関係は必要ないとの見解もあります。また,仮に密接な関係が必要としても,基準は曖昧であり,少なくとも軍事同盟等の合意が必ず求められるわけではありません。C国としては,要件①~⑧を満たしていることを主張すべきでしょう。

2 設問2について

 国際司法裁判所の「ノッテボーム事件」と「訴追か引渡しかの義務事件」を素材とした出題と考えられます。解答にあたっては,①管轄権と②受理可能性が認められることを主張したうえで,引渡しか訴追かの義務を規定する拷問等禁止条約第7条1項に違反すると結論づけるのがよいと考えられます。
 ①管轄権については,拷問等禁止条約第30条の内容を具体的事実にあてはめ,国際司法裁判所への紛争付託の条件を満たしていると主張することになるでしょう。②受理可能性については,まずノッテボーム事件判決を批判し,Zは二重国籍でない以上,真正な連関基準は妥当ではなく,国籍国のC国に外交的保護権が認められると主張できます(外交的保護条文第4条参照)。そのえで,仮に外交的保護権が認められなくても,訴追か引渡しかの義務事件判決に従い,拷問禁止が締約国間対世的義務(obligation erga omnes partes)であることから,被害国以外にも原告適格が認められると主張すべきでしょう。

3 設問3について

 政府承継と収用の要件について問う出題と考えられます。まず,再び政権に就いたYは,クーデターにより成立した前政権の最高軍事評議会の行為については無関係と述べている点が問題となります。この政府承継については,教科書では短い記述しかないことが多いですが,政権交代が合法的か否かを問わず,新政府は旧政府の一切の権利義務を引き継ぐのが原則です。国際法は,基本的には(三権のうちの)政府間関係ではなく,(三権をあわせた)国家間関係を規律します。そのため,Yの主張は妥当ではないといえます。
 Zの資産は,補償なく収用されていますが,この事実は,収用の慣習国際法上の要件たる①公益目的,②無差別,③適切な補償のうち,③の要件に違反すると主張できます。そのため,設問2で論じた外交的保護権が行使できるのであれば,収用に関する慣習国際法違反に基づき,C国はB国に対して損害賠償を請求できると考えられます。

 
〔第2問〕

1 設問1について

 条約の終了に関する出題です。まず,B国は,「事情変更の原則(事情の根本的変化)」に基づき,犯罪人引渡条約の終了を主張しています。同原則は,①事情の変更を予見できず,②当該事情が条約への同意の不可欠の基礎であり,③当該変化が義務の範囲を根本的に変更する効果をもつ場合にしか,条約の終了の根拠として援用できません(条約法条約第62条1項,アイスランド漁業管轄権事件,ガブチコボ・ナジマロシュ計画事件)。本問では,少なくとも要件②と③は満たされていないと考えられるため,同原則に基づく終了は認められないと解答すべきでしょう。
 また,B国は,「条約の重大な違反」に基づく条約の終了も主張しています。条約の重大な違反とは,①条約の否定であって条約により認められないもの,及び②条約の趣旨及び目的の実現に不可欠な規定についての違反をいいます(条約法条約第60条3項)。A国の古い法律に犯罪人引渡しを禁止する条項があるとの事実は,①②いずれにも該当しないとの解答が順当と考えられます。他方で,B国がA国による犯罪人引渡し要請を約半年間無視した後に履行意思なしと連絡したことは,主に①に該当すると考えられます。そのため,A国は,条約の重大な違反を根拠として,犯罪人引渡条約を終了できるものと考えられます。

2 設問2について

 A国は日本と同じ国内法制度のため,自動執行条約を国内で直接適用できる一般的受容方式を採用していると考えられます。条約の自動執行性の要件は,①明白性と②当事国意思です。本問犯罪人引渡条約は,問題文に記載の通り,政治犯の詳細な規定を有しないため,明白性の要件を欠きます。そのため,自動執行性がなく,政治犯引渡しの規定を直接適用することはできないと主張しえます。
 YとZは,自らが政治犯であるため,政治犯不引渡しの条約規定に基づき引渡しできないと主張することが考えられます。その際,自動執行性のない条約に基づき政治犯か否かを判断することはできず,また逃亡犯罪人に関する国内法も制定されていないことから,両者を引き渡す法的根拠がなく,引渡しはできないと主張しうると考えられます。他方で,両者は,自らは難民であるため,ノンルフルマン原則に基づき引渡しできないと主張することも可能と思われます。

3 設問3について

 日本の判例たる張振海事件に依拠しつつ,「政治犯不引渡しの原則」について論じる出題と考えられます。まず,犯罪人引渡しの前提として,まず「特定性の原則」と「双方可罰の原則」が満たされている必要があります。この点,B国は,Yについては交通法,Zについては公共交通危険取締法でしか罰しないことを公式に表明しているため,特定性は満たされていると考えられます。また,これらの法律の量刑は,A国の法律とほぼ同等であるため,双方可罰性も満たされていると考えられます。
 続いて検討する政治犯罪は,絶対的政治犯罪と相対的政治犯罪に分けられます。そして,後者については,優越の理論に基づき,政治犯罪の要素が普通犯罪の要素に優越する場合には,不引渡しの対象となります。この点,Yについては,民主化デモへの参加が交通法違反の要素に優越する政治犯と考えられるため,不引渡しの決定が妥当と考えられます。他方で,Zについては,民主化デモへの参加に比して,ハイジャックという公共交通危険取締法違反が優越すると考えられるため,引渡しの決定がなされるものと考えられます。

 
4 的中情報★★★
〔第1問〕

・2022全国公開模試(国際関係法〔公法系〕)第1問
「締約国間対世的義務」★★★

・2022選択科目集中答練第5回(国際関係法〔公法系〕)第2問
「間接収用★★★
その他についても現在調査中です。判明次第,順次公開いたします。

〔第2問〕

・2022全国公開模試(国際関係法〔公法系〕)第1問
「条約の国内適用」★★★

・2022スタンダード論文答練(国際関係法〔公法系〕2)第1問
「条約の終了」★★★
その他についても現在調査中です。判明次第,順次公開いたします。

●国際関係法〔私法系〕

■更新:2022年06月21日/17:40

【本試験の分析(辰已法律研究所作成)】
1 はじめに
 今年度の問題も、第1問が国際家族法に関する問題(50点)、第2問が国際財産法に関する問題(50点)でした。昨年度に引き続き今年度の問題にも、過去に出題されたことがある論点を再び問う問題が複数ありました。ただ、第1問と第2問の両問とも、問題文が長く、また問題数も多かったため、論点がつかめなかったり、解答時間が足りなかったりした受験生が少なくなかったのではないかと感じました。
国際私法・国際民事手続法・国際取引法の区分でいうと、今年度は、全ての分野からの出題はあったということができるでしょう。
 
2 問題文
 法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
 
3 本問の分析
 
〔第1問〕
 1 設問1について

⑴ 1:国際裁判管轄権(以下、「管轄権」)について1
 まず、本問の後見開始の審判や成年後見人選任の審判について日本が管轄権を有するかは、「手続は法廷地法による」との原則から、日本の手続法によって判断されることを指摘する必要があります。
 そして、後見開始の審判についての日本の管轄権は、法の適用に関する通則法(以下、「通則法」)5条によって判断されることを指摘し、Aが日本に住所を有することから、日本が管轄権を有することを説明すればよいでしょう。
 これに対して、成年後見人の選任の審判の管轄権については、明文規定はなく、条理によって判断されることを指摘する必要があります。その上で、被後見人の住所地国管轄や、後見開始の審判の管轄国が成年後見人選任の審判の管轄国である等の考え(条理)に基づいて、日本が管轄権を有することを論じることになります。

⑵ 2:準拠法について
 本問の後見開始の審判は通則法5条、成年後見人選任の審判は、通則法35条2項2号に従って、それぞれ日本法によることを説明すればよいでしょう。

 2 設問2について

  まず、本問の未成年後見人選任の審判事件については、通則法35条1項に従って、Cの本国法である甲国法によることを説明する必要があります。その上で、甲国民法の②③に当てはめて、Cの後見人としてDを選任できると結論すればよいでしょう。
 なお、甲国民法②の規定に当てはめる際には、Cが「未成年者」であるかや、Cの「親権を行う者がないとき」に該当するかが問題になります。これらは先決問題であり、前者の要件を満たすかは同法4条1項、後者の要件を満たすかは同法32条によって判断されます。

 3 設問3について

⑴ 小問1
1: 本件遺言は有効に成立しているか

  まず、遺言の成立に関する問題のうち、遺言能力は、通則法37条1項に従い、Aの遺言時の本国法である甲国民法(⑤)によること、他方で、遺言の方式は、遺言の方式の準拠法に関する法律に従い、甲国民法と日本民法のいずれかによればよい(同法律2条)ことを説明する必要があります。
 また、遺言の効力発生時期は、通則法37条1項に従い、Aの遺言時の本国法である甲国民法(⑦)によることを説明する必要があります。その上で、遺言能力の要件と方式の要件を満たし、また、効力も発生しているということができ、本件遺言は有効に成立していると結論すればよいでしょう。

   2: 本件遺言による贈与は有効に成立しているか

  本件遺言による贈与(遺贈)は、通則法36条に従い、Aの死亡時の本国法である甲国民法④によることを説明し、有効に成立していると結論すればよいでしょう。

⑵ 小問2
 遺留分侵害額の請求の行使による権利回復の問題は、通則法36条に従い、Aの死亡時の本国法である甲国民法によることを中心に説明すれば、本問の解答ができあがります。その際、不動産所在地法である甲国法の要件を備えることも必要であるかについても論じることが求められていると思われます。

〔第2問〕
 1 設問1について

  まず、本件訴えについて日本が管轄権を有するかは、「手続は法廷地法による」との原則から、民事訴訟法によって判断されることを指摘する必要があります。
 次に、同法3条の4では、消費者契約に関する訴えについての特則が置かれていますが、Xは同条(1項括弧書)の消費者に該当しないことを説明しなければなりません。
 その上で、本件訴えが、同法3条の3第1号上段の「契約上の債務の不履行による損害賠償の請求…を目的とする訴え」に該当すること、そして、同号下段の「契約において定められた当該債務の履行地が日本国内にあるとき、又は契約において選択された地の法によれば当該債務の履行地が日本国内にあるとき」に該当するかを検討する必要があります。「契約において定められた当該債務の履行地」はないが、契約において選択された甲国契約法のQ条により、「当該債務の履行地が日本国内にある」ことを丁寧に説明すればよいでしょう。
 なお、本問にはウィーン売買条約は適用されないことから、本問では、契約債務履行地が同条約によって決定される可能性はないことになります。

 2 設問2について

⑴ 小問1
1:Xの入国直後に甲国内で外出禁止令が出された場合

  「本件契約は、甲国契約法P条の方式要件を満たしていないから、無効」という本問のXの主張が認められるかについての検討では、それがどの国の法によって判断されるかがまず問題になります。そのため、その問題は通則法によって判断されることを指摘することが必要になります。
 次に、同法11条では、消費者契約に関する特例が置かれていますが、Xは同条(1項括弧書)の消費者に該当しないことを説明しなければなりません。
 その上で、法律行為の方式の準拠法について定める同法10条の1項及び2項に従えば、甲国法によることになり、甲国契約法P条により、Xの主張は認められると結論すればよいでしょう。

 2:Xが甲国に渡航できなかった場合

  この場合も、通則法10条によることになりますが、この場合には、同法10条1項及び4項に従えば、甲国法又は日本法のいずれかの要件を満たしていればよいことになります。そして、日本法によれば本問の契約は方式上有効であるから、Xの主張は認められないと結論すればよいでしょう。

⑵ 小問2

  本件訴えでは本件契約が無効であることが前提とされていますが、そうであれば、本件契約の準拠法を甲国法とする合意も無効となり、通則法7条の「選択」はないことになるかが問題となります。これについて論じた上で、同法7条又は8条によって適用される法を決定することが求められていると思われます。

 3 設問3について

  本問の契約を締結する際には、Xは配偶者のプレゼントとして、ティーカップ・セットを購入するものである旨をYに伝えていたことから、ウィーン売買条約2条(a)で、同条約が適用除外とする「家族用」に購入された物品の売買に該当するから、同条約は適用されないことを説明すればよいでしょう。
なお、問題文には、「同条約第1条及び第2条の規定に触れつつ論じなさい」と書かれていることから、同条約1条の検討も必要になるでしょう。

4 的中情報★★★

現在調査中です。判明次第,公開いたします。

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