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短答式試験
2019年 短答式試験【分析】 公開 6/7  18:00
①論文式試験【公法系】 ・第1問 公開 6/3  11:15
  ・第2問 公開 6/3  11:45
②論文式試験【民事系】 ・第1問 公開 6/3  12:55
  ・第2問 公開 6/3  14:10
  ・第3問 公開 6/3  16:15
③論文式試験【刑事系】 ・第1問 公開

6/3  16:55

  ・第2問 公開

6/3  17:15

④論文式試験【選択科目】
・倒産法 公開 5/27 12:24
  ・租税法 公開 5/27 12:24
  ・経済法 公開 5/27 12:24
  ・知的財産法 公開 5/30 13:37
  ・労働法 公開 5/30 12:45
  ・環境法 公開 5/30 13:37
  ・国際関係法(公法系) 公開 5/27 12:24
  ・国際関係法(私法系) 公開 5/27 12:24
 
 ●2019年 司法試験 短答式試験【分析】
■公開:2019年06月07日/18:00
令和元年5月19日に司法試験の短答式試験が行われました。
司法試験の短答式試験の概要をまとめましたので,ご参考になさってください。
 
☆ 試験日程(令和元年短答式試験)
令和元年5月19日(日) 10:00~11:15(1時間15分) 短答式試験(民法)
12:00~12:50(50分)  短答式試験(憲法)
14:15~15:05(50分) 短答式試験(刑法)
☆ 問題数の比較〔注:民法が1問増えました。〕
憲法  20問〔昨年:20問〕
民法  37問〔昨年:36問〕
刑法  20問〔昨年:20問〕
合計  77問
 
☆ 配点の比較〔注:昨年と同じです。〕
憲法  50点満点〔昨年:50点満点〕
民法  75点満点〔昨年:75点満点〕
刑法  50点満点〔昨年:50点満点〕
合計  175点満点
 
☆ 解答欄番号の比較〔注:憲法が4つ減り,民法が1つ増えました。〕
憲法  №40まで〔昨年:№44まで〕
民法  №37まで〔昨年:№36まで〕
刑法  №36まで〔昨年:№36まで〕
 
☆ ページ数の比較〔注:憲法が2ページ増えました。〕
憲法〔1頁目除く〕  11ページ〔昨年:9ページ〕
民法〔1頁目除く〕 17ページ〔昨年:17ページ〕
刑法〔1頁目除く〕 12ページ〔昨年:12ページ〕
 
☆ 法務省発表による司法試験受験状況
1 出願者数   4,930人〔昨年:5,811人〕
2 受験予定者  4,899人〔昨年:5,726人〕
(1) 受験資格
ア 法科大学院課程修了の資格に基づいて受験する者
  4,506人(91.98%)〔昨年:5,284人(92.28%)〕
イ 司法試験予備試験合格の資格に基づいて受験する者
  393人(8.02%)〔昨年:442人(7.72%)〕
(2) 受験回数
  1回目  1,805人(36.84%)〔昨年:2,032人(35.49%)〕
  2回目  1,077人(21.98%)〔昨年:1,254人(21.90%)〕
  3回目   858人(17.52%)〔昨年:1,088人(19.00%)〕
  4回目   705人(14.39%)〔昨年: 815人(14.23%)〕
  5回目   454人( 9.27%)〔昨年: 537人( 9.38%)〕
3 受験者 4,466人〔昨年:5,238人〕
4 受験率  91.2%〔昨年:91.5%〕
  (注)ここでいう受験率とは,受験予定者に占める受験者の割合です。
5 短答合格者数 3,287人〔昨年:3,669人〕
6 短答合格率  73.6%〔昨年:70.0%〕
7 受験者全体平均点 119.3点〔昨年:116.8点〕
  科目別平均点
  憲法:30.5〔昨年:33.2〕,民法:57.4〔昨年:47.8〕,刑法:31.4〔昨年:35.9〕
8 短答合格者平均点 129.3〔昨年:128.1〕
9 科目別最低ライン(40%)未満
   憲法 180人〔昨年: 94人〕
   民法  82人〔昨年:375人〕
   刑法 368人〔昨年:159人〕
 
☆ 短答合格率等の推移
  受験者数 合格点 短答合格者 合格率
(対受験者)
令和元年度
4466人 108点 3284人 73.6%
5238人 108点 3669人 70.0%
5967人 108点 3937人 66.0%
6899人 114点 4621人 67.0%
8016人 114点 5308人 66.2%
8015人 210点 5080人 63.4%
7653人 220点 5259点 68.7%
8387人 215点 5339人 63.7%
8765人 210点 5654人 64.5%
8163人 215点 5773人 70.7%
7392人 215点 5055人 68.4%
6261人 230点 4654人 74.3%
4607人 210点 3479人 75.5%
2091人 210点 1684人 80.5%
平成30年度
平成28年度
平成27年度
平成26年度
平成25年度
平成24年度
平成23年度
平成22年度
平成21年度
平成20年度
平成19年度
平成18年度
   
☆ 令和元年司法試験(短答式試験)の結果(令和元年6月6日法務省発表)
1 受験者数等
 (1) 受験者数   4.466人(途中欠席37人)
 (2) 採点対象者数 4.429人
2 短答式試験の合格に必要な成績
(1) 成績判定
 短答式試験の各科目において,満点の40%点(憲法20点,民法30点,刑法20点)以上の成績を得た者のうち,各科目の合計得点が108点以上の成績を得たものは,短答式試験の合格に必要な成績を得た者とする(令和元年6月5日司法試験委員会決定)。
(2) 合格に必要な成績を得た者
  対象者  3,287人
  平均点  129.3点
 3 短答式試験の得点
得  点 最高点 最低点 平均点 最低ライン
(40%)未満
合計得点
(175点満点)
169 37
119.3
 
科目別得点 憲法
(50点満点)
48 7 30.5 180人
民法
(75点満点)
75 12 57.4 82人
刑法
(50点満点)
50 0 31.4 368人
 
☆ 全体の傾向について
     全体的な出題傾向は,例年通りといえますが,以下のような変化がありました。
   平均点は,昨年度比では3点弱,一昨年より6点弱上がり,一昨年より前の水準(平均点120点)に近くなっております。これは,民法の平均点が昨年より10点弱上がった一方で,憲法の平均点が3点弱,刑法の平均点が4点強下がったことによります。上記難易度の変化を受けて,各科目の最低ライン(40%未満)は,民法が昨年の375人から82人に減少する一方,憲法は昨年の94人から180人に,刑法は昨年の159人から368人に増加しております。
   憲法は,人権が10問,憲法総論が3問,統治が7問出題されており,割合としては例年とほぼ同様になっております。目立った特徴としては,bの記述がaの記述の根拠となっているかを問ういわゆるab問題が復活し,3問も出題されたことが挙げられます(第1問,第6問,第13問)。第6問は重要な最高裁判例を素材とする一方,第1問と第13問は受験生の学習が手薄な分野を素材としており,現場での論理的思考力を試す意図が強く感じられます。また,人権分野を中心に最高裁判例が多く問われる点では従来通りですが,大法廷判決については百選の判旨部分に明示されていない箇所まで問われている(第4問肢ウ,第5問肢ウ,第16問肢イ)ため,基本書や判例集を用いた丁寧な学習が求められているといえます。憲法総論や統治の出題はほぼ従来通りであり,過去問をベースに基本的な条文を丁寧に押さえる学習が有効であると思われます。

     民法は,出題数が37問となり,昨年より1問増加しました。出題割合では,物権が9問から11問に増加し,親族分野が2問から4問に増えた点が主な変更です。この2分野は,今年及び来年施行の民法改正に関して,ほぼ改正点がないことが共通しています。全体として例年通り条文知識を中心とする知識を問う問題が出題されていました。
   複雑な計算を要求される出題はなく,事例問題も昨年同様多くありませんでした。昨年は物権分野で非常に細かい条文知識を求められ,正解率がかなり低い問題が多くありましたが,今年は問題数が増加したにもかかわらず,細かい知識を問われた問題は多くありませんでした。もっとも他分野では,第1問,第3問,第30問,第32問,第34問で細かい条文知識を問う問題が出題されており,条文知識が最重要という傾向に変化はありません。

     刑法は,従来通り総論分野と各論分野の割合がバランスよく問われており,記述5個の通常形式が11問,特殊形式が9問である点も昨年と同様です。通常形式では,特別公務員暴行陵虐罪(第9問),公務員職権濫用罪(第10問),証人等威迫罪及び虚偽告訴罪(第18問)など受験生の学習が手薄な犯罪が出題されており,中には下級審判例の事案をベースとした記述もあるため,一見幅広い学習が求められているともいえますが,それ以上に,限られた時間の中でどの程度の時間と労力を割けば正解し得るかを見極めることが,(普段の学習でも試験の現場でも)重要になってくると思われます。
   特殊形式では,最高裁判例とは異なる学説の根拠,批判,あてはめなどを問う問題(第3問,第5問,第6問,第12問,第13問など)が出題されており,現場での論理的思考力,事務処理能力が求められているといえます。また,事例を通じて複数の財産犯の成否を具体的に検討させる問題(第2問,第16問,第20問)も出題されており,犯罪構成要件及び最高裁判例に対する適切な理解が求められているといえます。

 
 ●第1問 憲法
■公開:2019年06月03日/11:15
1 はじめに
     今年の公法系科目第1問(憲法)は,フェイク・ニュース規制法(案)の事例のもとで,SNSと虚偽表現,SNSと事業者の表現の自由,適正手続保障などを問うております。全体の難易度は例年並みかと思われます。
   まず,問題文は5頁(実質4頁)です。
   また,公法系第1問の設問形式は,昨年から従来の主張・反論・私見を問う設問形式ではなく意見書を書かせる形式に変わりましたが,今年も昨年の設問形式を踏襲しております。
  なお,フェイク・ニュースに関する文献としては,鈴木秀美「ドイツのSNS対策法と表現の自由」慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所紀要68号P.1~12,水谷瑛嗣郎「思想の自由市場の中の『フェイクニュース』」慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所紀要69号P.55~68,成原慧「フェイクニュースの憲法問題―表現の自由と民主主義を問い直す」法学セミナー772号P.18~22などがあります。
 
2 問題文
    令和元年5月20日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験公法系の問題文はこちら
 
3 本問の分析
 

(1) 前提

     本問は,フェイク・ニュース規制法(以下,「法」という。)における,立法措置①及び立法措置②の違憲性の検討(法令違憲の検討)が求められている問題です。
 また,〔設問〕において,答案構成の指標となる項目が示されています。すなわち,(1) 「参考とすべき判例があれば,それを踏まえて論じる」こと,(2) 「判例の立場に問題があると考える場合には,そのことについても論じる」こと,さらに,(3)「立法措置のどの部分が,いかなる憲法上の権利との関係で問題になり得るのかを明確にする」こと,(4)「自己の見解と異なる立場に対して反論する必要があると考える場合は,それについても論じる」ことが示されているので,(1)~(4)の項目を指標として答案を構成すべきでしょう。
 そうしますと,答案構成の大枠は,立法措置①の合憲性と立法措置②の合憲性に大きく分かれ,それぞれの合憲性の検討の中で,(1)~(4)の項目を必要に応じて検討するというのが,一般的な答案構成になると考えます。
  (2) 立法措置①の合憲性
     法は,2条1号,6条,25条において,SNS上での「虚偽表現の流布」そのものを一般的に禁止・処罰することから,SNSユーザーの表現の自由を制約する法律といえます。そこで,法2条1号,6条,25条の違憲性が,表現の自由という憲法上の権利との関係で問題となります。
    イ 保護範囲の検討
       保護範囲の検討では,SNSユーザーの「虚偽表現」を流布する自由(法2条参照)が,表現の自由を保障する憲法21条1項で保障されるか否かを検討します。
 ここでは,「虚偽表現」という保障する価値に乏しいとも考えられる表現が,果たして,表現の自由として憲法上保障されるのかがポイントになると思われます。
 参考とすべき判例としては,破壊活動防止法のせん動罪と表現の自由についての最高裁判例(最判平2.9.28刑集44巻6号463頁)が考えられます。この判例は,政治的なせん動行為に関するものであり,本問の事案とは異なるものですが,広い意味で社会的に危険な行為という点で共通します。この判例は,政治的なせん動行為は「社会的に危険な行為であるから,公共の福祉に反し,表現の自由の保護を受けるに値しない」と判示しています。虚偽表現の危険性と犯罪行為のせん動との差異を踏まえて,自己の見解を展開する論述が考えられます。
    ウ 制約の有無
       前述のごとく,法は2条1号,6条,25条により,SNSユーザーの表現の自由を制約しているといえます。
    エ 正当化
      (ア) 審査基準の設定
         審査基準を厳しくする要素としては,制約を受けている権利が表現の自由という重要な権利であること,虚偽表現という表現内容に着目して規制がなされ,公権力による濫用のおそれが高いこと,虚偽表現の流布そのものを端的に禁止・処罰する直接的規制であること,罰則があること等が挙げられます。
 他方,審査基準を緩やかにする要素としては,虚偽表現という保障する価値に乏しいとも考えられる表現への規制であること,「公共の利害に関する事実」と限定することで,適用範囲について一応の限定があること等が挙げられるでしょう。
 LRAの基準,もしくは狭義の厳格審査基準を採用する受験生が多いと思われますが,いずれにせよ,上記判断要素等を踏まえ,自己とは異なる見解への反論を加えながら,自己の審査基準の決定過程を論理的に論述する必要があるでしょう。
      (イ) あてはめ
         目的の審査としては,立法措置①の目的である「社会的混乱が生じることを防止する」こと(法1条)について検討することになります。すなわち,LRAの基準を採用したのであれば,「社会的混乱が生じることを防止する」との目的が重要であるかについて,狭義の厳格審査基準を採用したのであれば,やむにやまれぬほどに重要であるのかについて価値判断を論述することになります。
 手段の審査としては,LRAの基準からは,虚偽表現の流布そのものを端的に禁止・処罰する手段以外に,より制限的でない上記目的達成のための手段が存在するかどうかが,狭義の厳格審査基準からは,上記目的達成手段として必要不可欠であるかを検討することになります。その際には,〔刑法における名誉毀損罪・信用毀損及び業務妨害罪の規定や公職選挙法の規定で対処できるか〕,〔甲県化学工場の爆発事故における混乱状況〕,〔法6条・25条が「公共の利害に関する事実」との限定のみで,「虚偽表現」を流布することそのものを端的に処罰するものであること〕などの問題文記載の立法事実を指摘・評価する必要があるでしょう。さらに,SNSの特性(誰もが容易に参加・発言が可能,虚偽情報の訂正も容易,二次的利用による弊害の拡大など)の指摘・評価といった教科書知識以外の知識・知見を活用した論述もできるとよいでしょう。
 あてはめでも,自己とは異なる見解に対する反論を加えつつ,自己の見解を論述することが必要でしょう。
  (3) 立法措置②の違憲性
     法は,9条1項・2項,26条,27条において,「特定虚偽表現」の削除義務及び削除命令に違反した場合の罰則を規定することから,SNS事業者の表現の自由を制約する法律といえます。そこで,法9条1項・2項,26条,27条の違憲性が,立法措置①と同様,表現の自由という憲法上の権利との関係で問題となります。
     保護範囲の検討では,SNS事業者の「特定虚偽表現」をする自由(法9条1項参照)が,表現の自由を保障する憲法21条1項で保障されるか否かを検討します。
 まず,SNSではユーザー発言がそのまま掲載されることから,SNS事業者固有の表現の自由の存否等が問題となり得ます。この点,他のSNSユーザーの知る権利を充足 するという観点からの論述も考えられるでしょう。
さらに,立法措置①と同様,「特定虚偽表現」(法9条1項)という保障する価値に乏しいとも考えられる表現が,表現の自由として保障されるかも問題となります。
    制約の有無
 前述のごとく,法は9条1項・2項,26条,27条により,SNS事業者の表現の自由を制約しているといえます。
    正当化
      (ア) 審査基準の設定
         審査基準を厳しくする要素としては,立法措置①と同様,制約を受けている権利が表現の自由という重要な権利であること,虚偽表現という表現内容に着目して規制がなされ,公権力による濫用のおそれが高いこと,罰則(法26条,27条)があること等があります。
 そして,審査基準を緩やかにする要素としては,虚偽表現という保障する価値に乏しいとも考えられる表現への規制であること等は,立法措置①と共通です。
 もっとも,立法措置②では,立法措置①とは異なり,「特定虚偽表現」は,「選挙運動の期間中及び選挙の当日」「虚偽表現であることが明白であること」「選挙の公正が著しく害されるおそれがあることが明白」といった限定があります。また,立法措置②における罰則は,立法措置①とは異なり,削除命令(法9条2項)に違反して初めて科される罰則であり(法26条),ワンクッション挟んで科される罰則といえます。
 このように立法措置②では,上記立法措置①との相違点に留意しつつ,自己が採用する審査基準の決定過程を論理的に論述する必要があるでしょう。
      (イ) あてはめ
         目的の審査としては,立法措置②の目的である「選挙の公正を確保」(法1条)することについて検討することになります。LRAの基準を採用したのであれば,「選挙の公正の確保」との目的が重要であるかについて,狭義の厳格審査基準を採用したのであれば,やむにやまれぬほどに重要であるのかについて,自己の価値判断を論述することになります。
 手段の審査としては,LRAの基準からは,「特定虚偽表現」の削除義務及び削除命令違反に対する罰則という手段以外に,より制限的でない上記目的達成のための手段が存在するかどうかが,狭義の厳格審査基準からは,「特定虚偽表現」の削除義務及び削除命令違反に対する罰則という手段が,上記目的達成手段として必要不可欠であるかを検討することになります。その際には,〔公職選挙法の規定で対処できるか〕,〔乙県の知事選挙での現職知事の落選〕との問題文記載の立法事実や,前述の〔SNSの特性〕を指摘・反論・評価する必要があるでしょう。
 また,前述のごとく,立法措置②における罰則は,削除命令に違反して初めて科される,ワンクッション挟んだ罰則であることの指摘・評価も重要です。具体的には,削除命令は,フェイク・ニュース規制委員会(以下,「委員会」という。)によりなされる命令であることから,委員会の所掌事務(法16条),委員の任命権者,任命要件,委員の任期等(法15条)の点から,委員会の中立性・専門性などを検討することになるでしょう。ここで参考となる判例として,広島市暴走族追放条例事件(最判平19.9.18刑集61巻6号601頁)が挙げられます。この判例では,「これを行うことを直ちに犯罪として処罰するのではなく,市長による中止命令等の対象とするにとどめ,この命令に違反した場合に初めて処罰すべきものとするという事後的かつ段階的規制によっていること等にかんがみると」として,合憲との結論を導いています。本問でも,委員会による削除命令に違反した場合に処罰対象とするという,事後的かつ段階的規制であることから,判例を踏まえた論述が可能となるでしょう。
 さらには,法20条において行政手続法の適用除外が定められていることについて指摘・反論・評価をすべきです。
  (4) その他
     立法措置①では,上記(2)における実体審査の他に,文面審査として,法6条・25条について,明確性の原則(憲法21条1項,31条)が問題となり得ます。
     立法措置②でも,上記(3)における実体審査の他に,文面審査として,法9条・26条について,明確性の原則が問題となり得ます。
 さらに,手続審査として,行政手続法の適用除外を定める法20条が,憲法31条に反しないかについて問題となり得ます。ここでは,成田新法事件判決(最大判平4.7.1民集46-5-437)を参考とした論述が可能です。
         
4 的中情報★★★
 
スタ論【スタート】2019憲法1
    辰已専任講師・弁護士 福田俊彦先生御担当
「インターネット上で意見交換サイトを運営する自由等」★★
 同じインターネット関連の出題で,受講生の皆様には有益であったと思われます。
     
 
2019直前フォロー答練公法系第1問
    「忘れられる権利・プライバシーと表現の自由」★★
 インターネット関連は,平成31年司法試験考査委員の曽我部真裕教授の関心分野であることから出題可能性が高いと判断し,敢えて直前フォロー答練で出題致しました。
 
 ●第2問 行政法
■公開:2019年06月03日/11:45
1 はじめに
      今年の公法系科目第2問(行政法)は,土地収用法に基づく収用に関する事例のもと,違法性の承継,無効等確認訴訟の訴訟要件等をテーマとして検討させる出題でした。
 まず,〔設問1〕,〔設問2〕(1),〔設問2〕(2)の配点の割合は,35:30:35と問題文冒頭に記載されております。また,問題文の頁数は8頁(実質7頁)で,頁数自体は昨年より減少しています。
 また,出題内容としては,土地収用法の仕組みの理解を前提に,違法性の承継の検討,無効等確認訴訟の成立要件,及び処分の違法性の判断を問うものでした。例年問われてきた取消訴訟の訴訟要件,あるいは行訴法9条2項を利用した原告適格の検討が出題されず,この意味で,表面上,難易度自体は例年ほどではなかったとの印象を受けます。しかし,処分が無効である場合の争い方を正確に理解しているか否かが重要なポイントとなること,また,これまでとは異なった無効等確認訴訟からの出題であったという点で,全体的な難易度はおおむね例年並みであったといえます。
 裁量審査の定式とあてはめについては,例年通りのオーソドックスなものでありますが,問題文で示された事実を丁寧に拾い上げることが求められます。
 さらに,本問の素材裁判例として,東京地判平30.4.27(平28(行ウ)31号・平29(行ウ)134号,事業認定無効確認・収用裁決(権利取得裁決)無効確認・土地所有権確認等請求事件,追加的併合事件)があります。
 
2 問題文
    令和元年5月20日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験公法系の問題文はこちら
 
3 本問の分析

〔第1問〕
   本問では,AがB県を被告として本件権利取得裁決の取消訴訟を提起した場合に,Aが本件取消訴訟において,本件事業認定の違法性を主張することができるか,つまり,「違法性の承継」が認められるか否かが問われています。なお,設問において言及されている通り,本件権利取得裁決は平成30年5月11日に出されている一方で,弁護士Dに相談したのは令和元年5月14日ですから,取消訴訟の出訴期間を徒過しておりますが,この点は行訴法14条1項及び2項にいう「正当な理由」があるものとして検討することになります。
   連続して行われる行政処分について,対象となる行政処分それ自体には違法性がないとしても,それに先行する行政処分が違法であるため,当該行政処分も違法性を帯びるという「違法性の承継」について,従来,先行処分と後行処分とが一つの単位を構成している場合には認められるものとされてきました。そのため,B県としては,本件事業認定も処分性が認められる行為であることから,本件事業認定の違法性を争うならば,当該事業認定の取消訴訟によるべきであって,出訴期間を徒過して不可争力が生じている以上,そもそも本件取消訴訟において本件事業認定の違法性を争うことはできない。加えて,事業認定と権利取得裁決は名宛人も手続も異なる別個独立の行政処分であって,違法性の承継は認められない,と主張することが考えられます。
   これに対し,Aは,行政処分相互の一体性のみならず,権利利益の救済をも加味し,違法性の承継を認めるべき事案であることを主張することが考えられます(最判平21.12.17民集63-10-2631,行政判例百選Ⅰ(第7版)84事件)。
   前者について,起業者は公共の利益となる事業のために土地を収用し,又は使用しようとする際に事業認定を得なければならず(法16条),事業認定の告示から一年以内に収用又は使用の裁決の申請をしなければ,事業認定は効力を失うこととなるとされ(法29条1項),そして,収用又は使用の裁決の申請をした場合には,告示された事業と異ならない限り,収用委員会は使用または使用の裁決,つまり権利取得裁決又は明渡裁決をしなければならないとされます(法47条及び47条の2第1項)。そのため,事業認定も権利取得裁決も,「公共の利益となる事業に必要な土地等の収用」(法1条)のためになされるものであって,一体性が認められると主張することが考えられます。
   後者について,確かに,起業者は,事業の認定を受けるに際し,あらかじめ説明会等で利害関係人に事業の内容等について説明しなければならず(法15条の14),また,事業認定後,都道府県知事は,認定の理由を付して事業の内容等について告示しなければならず(法26条),起業地の図面を縦覧に供する(法26条の2)ものとされ,さらに起業者は補償等について周知させる措置を講じなければなりません(法28条の2)。しかし,それでもなお,「事業認定が起業者の申請認容処分でありながら,事業区域内の土地所有者および関係人に大きな影響を与える二重効果的処分であるのに,当該行政行為が土地所有者および関係人にもたらす不利益に対する手続的権利保障が十分とはいえないこと」(宇賀克也『行政法概説Ⅰ-行政法総論』(有斐閣,第6版,2017)P.351~2)を指摘し,本件取消訴訟において,本件事業認定の違法性を主張することになるでしょう。
他方で,上記の規定によって,手続的保障が十分に整備されているとの立論も可能でしょう。
 
〔第2問〕(1)
   本問では,本件権利取得裁決に無効の瑕疵がある場合に,Aは,B県を被告として本件権利取得裁決の無効確認訴訟を提起することが可能であるか否かが問われております。
   取消訴訟との関係においては,出訴期間を徒過しているか否かが選択の分かれ目となりますが,本問においては,無効等確認訴訟の訴訟要件を定めた行訴法36条の「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないもの」という部分についてのみ検討することが求められています。つまり,当事者訴訟又は争点訴訟との比較において,抗告訴訟たる無効等確認訴訟が認められる場合に該当するか否かを検討することになります。
   この点,本問において,本件権利取得裁決が無効であれば,C市へ本件土地の所有権が移転する原因が失われることになります。そのため,Aとしては,起業者たるC市を被告として,本件土地の所有権が自己にあることの確認,そして所有権抹消登記・所有権移転登記を求める訴訟を提起することができることになります。これらは,本件権利取得裁決の無効を前提とする訴訟,具体的には争点訴訟となります。すなわち「私法上の法律関係に関する訴訟において,処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無が争われている場合」(行訴法45条1項)に該当します。
   そこで問題は,行訴法36条のうち前述部分の解釈となります。B県からは,当該規定は,現在の法律関係に関する訴えに引き直すことが不可能である場合を指すもの(法律関係還元不能説)として,上記のようなC市に対する争点訴訟が提起することができるのであるから,無効確認訴訟は提起できないと反論することが考えられます。他方で,現在の法律関係に関する訴えが想定できるとしても,それでは十分に目的が達成できない場合には無効等確認訴訟を認めるとする考え方があります(目的達成不能説)。判例もまた,「処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟によっては,その処分のために被っている不利益を排除することができない場合はもとより,当該処分に起因する紛争を解決するための争訟形態として,当該処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟との比較において,当該処分の無効確認を求める訴えのほうがより直截的で適切な争訟形態であるとみるべき場合をも意味する」としています(最判平4.9.22民集46-6-571,行政判例百選Ⅱ(第7版)181事件)。
   そのため,Aの訴訟の目的が,Aの本件土地に対する所有権の保全にあるとして,上記争点訴訟の認容判決の効力によりその目的を達成することができると解することも考えられます。他方で,事業区域内の複数の土地所有者に影響が及ぶ事業認定の性質や,後の明渡裁決がなされることを防止するという観点から,無効確認訴訟を提起する方が,目的達成にとって「直截的で適切な争訟形態」であると主張することも考えられるでしょう。

〔第2問〕(2)
   本問では,Aは,本案において,本件事業認定が法20条3号の「事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものである」との要件に合致しないとの主張を展開することが求められております。
   法1条は,その目的として,「公共の利益の増進と私有財産との調整を図り,もって国土の適正且つ合理的な利用に寄与すること」としていることから,法20条3号の要件を満たすには,対象となる土地が事業の用に供されることによって得られる公共の利益と,当該土地がその事業の用に供されることによって失われる利益とを比較衡量し,前者が後者に優越する場合をいうと解されます。そして,法20条3号の文言が非常に抽象的なものであることから,事業がこの要件に該当するか否かの判断は,認定を行う行政庁の裁量に委ねられていると解されます。
   そのため,行政庁の判断が,その基礎とされる重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情をしないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解されます(最判平18.11.2民集60-9-3249,行政判例百選Ⅰ(第7版)75事件)。
   この点,B県からは,得られる利益として,「道路ネットワークの形成」,「通行者の安全性の確保」,「地域の防災性の向上」の3つが指摘されています。さらに,調査結果から交通量の増加による周辺環境への影響は大きくなく,近隣小学校への影響を考慮してルートが定められたこと,本件土地には貴重な生物や絶滅のおそれのある生物が生息している事実はなく,加えて,本件事業による地下水への影響はないため,失われる利益はそれほど大きくないとの反論がなされるものと考えられます。
   これに対し,Aは,交通量についての調査が十分ではないこと,交通量の増加によって良好な住環境に悪影響を与える可能性があること,本件土地の自然環境の保護が考慮されておらず,代替ルートの検討もされていないこと,道路工事による地下水や防災目的の井戸水への影響について十分な調査がなされていないこと等の要素を丁寧に拾い上げ,本件事業認定についてのB県の判断が,必要かつ適切な調査を尽くしていない等,考慮すべきことを考慮しておらず,裁量権の逸脱濫用に当たると主張することになるでしょう。

 
4 的中情報★★★
 
2019スタンダード論文答練(第1クール)公法系1第2問
    辰已専任講師・弁護士 松永健一先生御担当
「土地収用法,違法性の承継,裁量論」ズバリ的中★★★
本問の個別法である土地収用法,論点である違法性の承継,裁量論がズバリ的中致しました。受講生の皆様には,極めて有利であったと思われます。
 ●第1問 民法
■公開:2019年06月03日/12:55
1 はじめに
    今年の民事系科目第1問(民法)は,建築請負契約における建物の所有権の帰属,土地工作物責任(設問1),不動産の賃貸人たる地位の移転,将来債権の譲渡性(設問2),免責的債務引受,動機の錯誤(設問3)など,財産法の分野全体から比較的著名な論点が多く出題されました。
 問題文は,3頁(実質的には2頁)であり,昨年とは異なり,図表などの掲載はされておりません。設問数は3つであり,設問1から設問3までの配点の割合は35:30:35と問題文冒頭に明記されております。難易度は,親族法・相続法からの出題がなかったこと及び比較的著名な論点から多く出題されたことから,昨年の民事系科目第1問と比べると若干易化しているといえるでしょう。
 まず,昨年の民事系科目第1問と同様に,『民法判例百選Ⅰ総則・物権(第8版)』,『同Ⅱ(第8版)債権』(有斐閣,2018)に掲載されている重要基本判例の理解が多く問われた点が特徴的です。
 また,昨年の民事系科目第1問設問1の危険負担と同様に,不動産の賃貸人たる地位の移転(改正後民法605条の2以下),将来債権の譲渡性(改正後民法466条の6),動機の錯誤(改正後民法95条)及び免責的債務引受(改正後民法472条以下)という平成29年民法(債権法)改正に関連するテーマが出題されております。
 さらに,昨年の民事系科目第1問設問1の危険負担と同様に,千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編『Law Practice民法Ⅱ【債権編】(第3版)』(商事法務,2017)を使用していると,有利であったと思われます。例えば,「18 賃貸目的物の所有権の譲渡」(同書P.101~111),「21 請負における所有権の帰属」(同書P.118~124),「38 将来債権の譲渡」(同書P.222~227),「53 工作物責任」(同書P.315~321が参考になります。また,千葉恵美子・潮見佳男・片山直也編『Law Practice民法Ⅰ【総則・物権編】(第3版)』(商事法務,2017)には,「12 動機の錯誤」(同書P.66~71)も掲載されており,参考になります。
 
2 問題文
    令和元年5月20日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験民事系の問題文はこちら
 
3 本問の分析

〔第1問〕(配点35点)
1 本件事故が発生した時点における甲建物の所有者
  本件事故が発生したのは,甲建物が完成した後,注文者Aへの引渡前の時点です。そこで,建物建築請負契約において注文者の土地の上に請負人が建物を建築した場合には,建物の所有権は誰に帰属するのかが問題となります。この問題については,注文者帰属説と請負人帰属説があります。
  判例は,材料の提供者が完成建物の所有権を取得するという考え方に基づき,請負人が材料の全部又は主要部分を提供した場合には,請負人が所有権を取得し,引渡しによって注文者に移転するとしています(大判大3.12.26民録20-1208)。ただし,請負人が材料を提供していても,特約があれば,竣工と同時に注文者の所有物となり(大判大5.12.13民録22-2417),注文者が代金の全部又は大部分を支払っている場合には,特約の存在が推認され,特段の事情のない限り,建物所有権は完成と同時に原始的に注文者に帰属するとしています(大判昭18.7.20民集22-660〔代金の全額が支払済みの事案〕,最判昭44.9.12判時572-25〔代金の半額以上が支払済みの事案〕)。
  本問では,請負人Bが必要な材料を全て自ら調達して甲建物を完成し,引渡前であることから,上記判例の立場に従いますと,Bに甲建物の所有権が帰属するようにも思われます。しかし,注文者Aは,本件契約に従って既に代金の80%を支払っており,代金の大部分を支払っているといえます。そのため,特約の存在が推認されますし,特段の事情が認められない本件では,完成と同時に原始的にAに甲建物の所有権が帰属するといえるでしょう。
  よって,本件事故が発生した時点における甲建物の所有者は,Aといえるでしょう。

  
2 土地工作物責任(民法717条)の追及の可否
   仮に本件事故が発生した時点における甲建物の所有者が注文者Aであるとした場合,本件事故により負傷したCは,Aに対し,甲建物の所有者としての責任を追及して,本件事故による損害の賠償を請求することができるでしょうか。
   甲建物の所有者としての責任追及の法的根拠としては,土地工作物責任(民法717条1項)が考えられます。土地工作物責任の趣旨は,危険責任です。
   本件事故は,震度5弱の地震によって甲建物の一部が損傷して落下し,Cを負傷させたものです。甲建物の一部損傷をもたらした原因は,甲建物の建築資材の欠陥にあったことから,「土地の工作物」である甲建物が通常有すべき安全性を欠いているといえますので,甲建物の「設置」に「瑕疵」があるといえます。
   では,甲建物に「瑕疵」があることによって「他人」であるCが負傷して治療費の支出という「損害」の発生を余儀なくされたことから,瑕疵と損害の発生との間に因果関係が認められるでしょうか。地震という自然力が競合していることから問題となります。
   この点について,司法試験考査委員の前田陽一教授は,『債権各論Ⅱ〔不法行為法〕(弘文堂NOMIKA)(第3版)』(弘文堂,2017)P.174~5において,次のように述べておられます。
   「例えば,震度5の地震によって塀が倒壊して他人が負傷した場合,仮に少なくとも震度5程度の震度を想定した安全性が要求されるべきだとすれば(仙台地判昭56・5・8判時1007-30参照),自然力が競合したとはいえ,その塀の瑕疵によって損害が発生したことになる。そして,自然力との関係で瑕疵があると認められた以上は,自然力の競合を理由に減額すべきではない(名古屋高判昭49・11・20高民27-6-395〔飛騨川バス転落事故事件〕参照)。」もっとも,この瑕疵と損害の発生との間の因果関係の要件があることから,「相当程度の震度を想定した安全性が確保されておらず《瑕疵が存在した場合であっても》,極めて異常な大きさの震度による地震によって仮に瑕疵がなかったとしても同じ損害が発生したであろう場合については,《因果関係が否定されることもありうる》(もちろん,相当程度の震度を想定した安全性が確保されていたが,それを超えた震度による地震で損害発生した場合は,瑕疵自体が否定される)。
   では,相当程度の震度を想定した安全性が確保されていたとしても(瑕疵がなかったとしても)損害は発生したが,瑕疵がなければ損害が少なく済んだ(瑕疵の存在によって損害が拡大した)場合はどうか。損害が拡大した限度で瑕疵と相当因果関係ある損害として責任を認めるべきだろう。」
   本問では,地震は震度5弱であり,極めて異常な大きさの震度とはいえないでしょう。前田教授の上記見解に従いますと,自然力が競合したとはいえ,甲建物の瑕疵とCの損害の発生との間に因果関係は認められるでしょう。
   したがって,CのAに対する土地工作物責任に基づく損害賠償請求権は発生するでしょう。
   これに対して,Aは,土地工作物の所有者は二次的責任を負うにすぎず,甲建物の引渡前の本件では,一次的責任を負う土地工作物の占有者Bがいることを抗弁として主張することが考えられます。すなわち,民法717条1項ただし書にいう「占有者」Bが「損害の発生を防止するのに必要な注意をした」といえるかが問題になります。
   甲建物に用いられていた建築資材は,定評があり,多くの新築建物に用いられていたこと,及び,その製造業者の検査漏れにより,必要な強度を有しない欠陥品が出荷され,甲建物にはたまたまそのようなものが用いられたことからしますと,土地工作物の占有者Bは,損害の発生を防止するのに必要な注意をしたといえます。そうすると,Bは,土地工作物責任を負わないことになります。
   よって,Aの抗弁は認められず,Cは,Aに対し,損害の賠償を請求することができます
 
〔第2問〕(配点30点)
1 下線部㋐を根拠付けるためにHがすることが考えられる主張
 Hは,DからEに賃貸されている乙建物について,Dから本件売買契約によって所有権を取得したことによって賃貸人たる地位の移転が生じることを根拠に,賃借人Eから本件賃貸借契約に係るそれ以後の賃料の支払を受けることができると主張することが考えられます。
 不動産の譲渡人と譲受人の間に,不動産の譲渡の合意とともに不動産の賃貸人たる地位の移転の合意もある場合には,後者は契約上の地位の移転の合意の性質を有するため,契約の相手方である賃借人の承諾があれば,不動産の賃貸人たる地位は譲受人に移転します。また,賃借人の承諾がない場合であっても,判例(最判昭46.4.23民集25-3-388,百選Ⅱ〔第8版〕41事件)・通説は,特段の事情のない限り,譲渡人と譲受人との合意により不動産の賃貸人たる地位が移転するとしています。
 本問では,D,G及びHの間で行われた協議で乙建物の賃料収入についても述べられていることから,DH間で乙建物の賃貸人たる地位の移転の合意もあると認められれば,Hに乙建物の賃貸人たる地位は移転します。
 これに対して,不動産の譲渡人と譲受人の間で不動産譲渡の合意はあるが,不動産の賃貸人たる地位の移転の合意がないと認められる場合には,賃借人の不動産賃借権の対抗力の有無によって区別されます。本問のように,賃借人Eが借地借家法31条1項にいう乙建物の引渡しを受けたことにより対抗力を備えた建物賃借権が存在する場合には,判例(大判大10.5.30民録27-1013,最判昭39.8.28民集18-7-1354)は,賃貸不動産の所有権が譲渡されれば,不動産の賃貸人たる地位も,これに伴って譲受人に移転すると考えています。
 本問では,Hに乙建物の賃貸人たる地位が移転します。
 次に,新賃貸人が不動産の賃貸人たる地位を賃借人に主張するための要件として不動産登記を要するかが問題になります。
 この問題については,登記必要説と登記不要説の2つの説があります。登記不要説のなかでも有力なのは,債権譲渡説であり,これは債権譲渡の対抗要件を備えていればよいという説です。判例(大判昭8.5.9民集12-1123)・通説は,登記必要説に立っています。
 本問では,判例・通説に従うならば,Hは,乙建物の所有権移転登記を備えることによって,Eに対し,乙建物の賃貸人たる地位を主張することができます。
 よって,Hは賃借人Eから本件賃貸借契約に係るそれ以後の賃料の支払を受けることができることになるでしょう。

2 下線部㋑を根拠付けるためにFがすることが考えられる主張
 Fは,Dとの間で締結した,DのEに対する賃料債権の譲渡契約を根拠に,Eから賃料の支払を受けることができると主張することが考えられます。
 まず,DF間の債権譲渡は,平成28年9月分から平成40年(令和10年に相当)8月分までの将来の12年間にわたる債権に関するものであり,債権が発生するかがわからないため,無効ではないかが問題となります。
 判例(最判平11.1.29民集53-1-151,百選Ⅱ〔第8版〕26事件)は,8年3か月の間に医師が支払を受けるべき診療報酬債権の譲渡契約につき,債権発生の可能性を要件とせず,期間の始期と終期を明確にするなどして債権が特定されている限り,有効に譲渡することができる旨判示しています。
 本問でも,DF間の債権譲渡は,有効であるといえます。
次に,将来債権の譲渡がなされた場合には,将来生ずべき債権は,確定的に譲渡されており,債権譲渡について第三者対抗要件を具備するためには,債権譲渡の対抗要件(民法467条2項)の方法によることができるというのが,判例(最判平13.11.22民集55-6-1056,百選Ⅰ〔第8版〕100事件)です。
 判例に従うならば,DF間の将来債権の譲渡は,平成28年8月4日に内容証明郵便での通知がEに到達することによって,民法467条2項の第三者対抗要件を具備しています。
よって,Fは,Eから本件賃貸借契約に係る賃料の支払を受けることができることになるでしょう。

 3 下線部㋐と下線部㋑のいずれが正当であるか
 DH間の本件売買契約は平成30年2月14日に締結され,同月20日にDからHへの乙建物の所有権の移転の登記がされています。
 これに対して,DF間の本件譲渡契約は,それより前の平成28年8月3日に締結され,その通知は,2で述べたように,同月4日に内容証明郵便でEに到達しています。
 そうすると,平成28年8月4日時点で,Fは,第三者対抗要件を具備していることから(上掲最判平13.11.22),本件売買契約にかかわらず,本件賃貸借契約に係る賃料の支払を受けることができます。
 よって,下線部㋑が正当であるでしょう。

〔第3問〕(配点35点)
1 錯誤無効(民法95条本文)の主張
 仮に【事実】13の下線部㋑が正当であるとした場合,Hは本件債務引受契約の無効を主張することができるでしょうか。
 Hは,Gとの間で,DのGに対する本件債務に係る免責的債務引受契約を締結しています。債権者Gと引受人Hが免責的債務引受契約を締結し,Gが債務者Dに対し,本件債務引受契約を締結した旨を伝えたことから,免責的債務引受の要件を満たしているといえます。また,Hは,免責的債務引受契約を締結しようと考えて,そのとおりの表示をしたため,Hに意思の不存在があるとはいえません。
 しかし,Hが本件債務引受契約の前提とした【事実】10の合意①では,DH間の本件売買契約における乙建物の売却価格は,その収益性を勘案して6000万円とされたところ,【事実】13の下線部㋑が正当であるとした場合,Hは,乙建物からの収益を見込むことができませんので,Hには本件債務引受契約の効果意思を形成する動機に錯誤があります。そこで,Hは,動機の錯誤があると主張して,民法95条本文に基づき本件債務引受契約の無効を主張することができるでしょうか。
 判例(最判平28.1.12民集70-1-1,百選Ⅰ〔第8版〕24事件参照)は,動機の錯誤でも意思表示の効力が否定される余地があること,その際,錯誤がなかったならば表意者が意思表示をしなかったであろうと認められること,動機の錯誤については,これに加えて,動機が相手方に表示されて法律行為あるいは意思表示の内容となる必要があることを,要件としています。そして,動機が「意思表示(法律行為)の内容になる」ためには,そのことによって利益を受ける表意者の一方的な表示では足りず,不利益を引き受ける相手方の同意(意思表示〔法律行為〕の内容とすることの同意)が必要になると考えられます。
 本問では,Hは,D及びGとの間で,【事実】10の①から④までの合意に従って本件売買契約と本件債務引受契約を締結したため,本件売買契約における乙建物の価格が収益性を勘案した6000万円であるという動機は,Hが一方的に表示しているだけでなく,相手方Gも意思表示の内容とすることに同意しているといえ,意思表示の内容になっているといえます。
 また,民法95条本文が適用されるためには,「法律行為の要素」に錯誤があることが必要です。「法律行為の要素」に錯誤があるか否かは,その点について錯誤がなかったならば,表意者はその意思表示をしなかったと考えられ(主観的因果関係),通常人が表意者の立場にあったとしても同様である(客観的重要性)か否かによって判断されます。
 本問では,Hは,乙建物からの収益を見込むことができないのであれば,本件債務を引き受ける意思表示をしなかったと考えられますし,通常人がHの立場にあったとしても同様であるといえるでしょうから,「要素の錯誤」といえるでしょう。
2 重大な過失(民法95条ただし書)
 しかし,HがD及びGとの間で協議をした際,DがEから取得する賃料に関してFとの間で本件譲渡契約をした旨述べたことから,表意者Hには「重大な過失」があると認められ,Hは,民法95条ただし書に基づき,自らその無効を主張することができないことにならないでしょうか。
 表意者に「重大な過失」があったことは,いわゆる規範的要件です。そして,規範的要件の主要事実はその規範的評価を基礎づける具体的な事実であるとする主要事実説の立場に立ちますと,重過失の評価根拠事実が抗弁となり,相手方において,表意者に重過失があったことを基礎づけるに足りる具体的事実を主張立証することになります。また,表意者が,当該意思表示をした状況のもとで,その職業,知識,経験を有する者として,取引の種類や目的などに応じてごく当たり前に要求されることすらしなかったときには,表意者に「重大な過失」があるとされます。
 本問では,Hの職業など具体的な事情は不明ですが,Hは,Dの6000万円という高額な本件債務の免責的債務引受の前提として,Dから乙建物を6000万円で購入していることから,Dが本件譲渡契約をした旨述べた以上,確実にEから賃料の支払を受けることができるのかについて法律家等に相談すべきであったといえ,「重大な過失」が認められるとすれば,自ら本件債務引受契約の錯誤無効を主張することはできないことになるでしょう。
 これに対して,表意者Hに「重大な過失」がある場合の錯誤無効の主張制限の趣旨は相手方を保護するためであることを重視し,相手方がその保護に値しないときは,原則に戻り,錯誤無効の主張を認めてよいと考えて,相手方が表意者の錯誤を知っていた場合において,相手方の(詐欺に至らない)言動により表意者の錯誤が惹き起され,相手方も同一の錯誤に陥っていたとき(これを「共通錯誤」といいます。)は,「重大な過失」がある表意者にも錯誤無効の主張を認めるべきであるとする見解もあります。
 この見解によりますと,本問では,D,G及びHの間で行われた協議において,Gが,乙建物を売りに出せば,その収益性の高さから相当な価格で容易に売れるのではないかと述べ,その売却によって得られる代金から本件債務を弁済するよう求めたこと,及び,この協議に基づいた【事実】10の①から④までの合意に従って,本件債務引受契約が締結されたことから,Gの(詐欺に至らない)言動によりHの錯誤が惹き起こされたとして,Hに「重大な過失」があっても,Hは,本件債務引受契約の錯誤無効を主張することができることになるでしょう。

  
4 的中情報★★★
 
2019辰已司法試験全国公開模試民事系第1問(民法)
    「動機の錯誤」ズバリ的中★★★
 今年の辰已全国公開模試がズバリ的中致しました。錯誤論は司法試験考査委員である佐久間毅教授の関心が強く,民法(債権法)改正関連で話題性も高いことから,全国公開模試で出題致しました。直前期に復習できた受講生の皆様には極めて有利であったものと思われます。
     
 
スタ論【スタート】2019民法1
    辰已専任講師・弁護士 福田俊彦先生御担当
「動機の錯誤」ズバリ的中★★★
 売買契約の目的物である自動車に盗難車歴があったことが「法律行為の要素」の「錯誤」に当たるか,重過失が認められるかが争われた事案で,盗難車であることが「法律行為の要素」の「錯誤」に当たり,表意者に重過失が認められないと判示した東京地判平20.2.27判時2013-90を素材とした問題を設問2で出題しており,ズバリ的中致しました。この問題は,動機の錯誤及び民法95条ただし書の「重大な過失」を詳細に検討する問題でしたので,直前期に復習した受講生の皆様には極めて有利であったものと思われます。
     
 
論文論文速まくり特訓講義2019民法
    辰已専任講師・弁護士 宍戸博幸先生御担当
「Theme12:請負契約」★★
 本問設問1で問われた「請負契約における完成目的物の所有権の帰属」について手堅くまとめており,直前期の知識確認に有益であったと思われます。
 
 ●第2問 商法
■公開:2019年06月03日/14:10
1 はじめに
    今年の民事系科目第2問(商法)は,株主による株主総会の招集と株主提案権(設問1),新株予約権無償割当て差止訴訟(設問2),定款自治の限界と経営判断(設問3)などを検討させております。問われている論点は,昨年と比較して基本的なものであったと思われます。
 まず,問題文は5頁(実質4頁)で,添付資料等はありません。また,設問は1から3で構成され,配点は,30:50:20と問題文冒頭に記載されております。
 なお,配点が大きい設問2に関しては,平成31年司法試験考査委員である久保田安彦教授が執筆した,髙橋美加ほか『会社法』(弘文堂,第2版,2018)P.509~515「敵対的買収とその防衛策」が非常に有益です。
 
2 問題文
    令和元年5月20日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験民事系の問題文はこちら
 
3 本問の分析
  〔設問1〕
 

1 甲社の臨時株主総会を自ら招集する場合の手続

     公開会社においては,総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6箇月前から引き続き有する株主は,取締役に対し,株主総会の目的である事項(議題)および招集の理由を示して,株主総会の招集を請求することができます(会社法297条1項,2項)。そして,その請求後遅滞なく株主総会の招集の手続が行われない場合,または請求の日から8週間以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集の通知が発せられない場合には,請求株主は,裁判所の許可を得て,自ら株主総会を招集することができます(297条4項)。本問では,甲社は,公開会社であるところ,乙社は,平成30年1月から遡って6箇月以前の平成29年5月の時点で,甲社の総株主の議決権の4%を保有し,平成30年1月の時点で15%を保有しているので,297条1項の要件を満たします。乙社は,甲社の取締役に対し,甲社の臨時株主総会の招集を請求することができ,また297条4項各号に該当する場合には,自ら臨時株主総会を招集することができます。そして,この場合の甲社の臨時株主総会における議題は,乙社が定めなければなりません(298条1項本文括弧書き)。
  2 甲社の定時株主総会において株主提案権を行使する場合の手続
     取締役会設置会社においては,株主総会の8週間前までに6箇月前から引き続き総株主の議決権の100分の1以上の議決権または300個以上の議決権を有する株主は,取締役に対し,一定の事項を議題とすることを請求することができます(303条2項)。この株主提案権は,少数株主の意見を取締役や他の株主に示し,会社経営に反映させる趣旨から設けられた制度です。
 本問では,甲社は公開会社であることから,取締役会設置会社です(327条1項1号)。そして,甲社は,定款において,毎年6月に招集される定時株主総会(定款12条)の基準日を毎年3月31日(定款13条)としています。乙社は,基準日たる平成30年3月31日から遡って6箇月以前の平成29年9月の時点で9.8%を保有しているので,平成30年3月31日において,甲社株主の総株主の議決権の1%以上または300個以上の議決権を保有していれば,議題を提案することが可能です。
  3 比較検討
    (1) 権利行使要件
       本問では,乙社は,平成30年1月の時点で総会招集請求権の要件を満たしているので,乙社は,甲社の臨時株主総会を招集することができます。また,乙社は,甲社の定時株主総会の開催にあたり株主提案権を行使する場合においても,定時株主総会の基準日において株主提案権の行使要件を満たす可能性は高いといえます。
    (2) 株主提案の議題上程の確実性
       乙社が裁判所の許可を得て甲社の臨時株主総会を招集する場合には,乙社が定めた議題が当然に臨時株主総会の議題となります(298条1項2号)。これに対し,乙社が定時株主総会の開催に当たり議題を提案した場合には,甲社がこの株主提案を無視するおそれがあります。会社が株主から適法に提案された議題を無視したときは,取締役等に過料の制裁が科されますが(976条19号),その議題に対する株主総会決議がない以上,決議取消の問題は生じません。
    (3) 株主総会の招集・開催の費用負担
       臨時株主総会の招集・開催に要する費用は,原則として少数株主の負担ですが,決議が成立した場合または取締役解任議案が否決された後に解任請求が認容された場合(854条1項)など,会社にとって有益な費用であったときは,株主は,会社に対し合理的な額を求償できると考えられます(民法702条)。これに対し,定時株主総会の開催に際して株主提案をするときは,株主の経済的負担は生じません。
   

(4) 結論

  

  〔設問2〕
 
 乙社の採るべき会社法上の手段としては,募集新株予約権発行の差止請求に関する247条の類推適用により,本件新株予約権無償割当ての差止めを請求することが考えられます。新株予約権無償割当ては,同一内容の新株予約権が持株数に応じて株主に割り当てられる(278条2項)制度であるため,株主を害する危険性はないと考えられ,新株予約権無償割当ての差止めについては明文規定がありません。しかし,割り当てられる新株予約権の内容として,特定の株主について差別的行使条件が定められた場合には,当該特定株主の地位に変動が生じ,当該特定株主が害される危険性が生じます。そこで,行使条件により,特定株主が害される危険性が生じた場合には,247条の類推適用により対処すべきであると解されています。
 
 247条は,当該新株予約権の発行が法令…に違反する場合(1号,法令違反)と,当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法による場合(2号,不公正発行)を,差止事由として規定しています。そこで,本件会社提案による本件新株予約権無償割当てが,上記差止事由に該当するのかを検討することになります。
 本件株主提案を受けて開催された甲社取締役会において,乙社に甲社の財産を切り売りする危険性や甲社経営陣の入れ替える可能性が指摘されていることからすると,甲社取締役は乙社を敵対的買収者として認識していると考えられます。そうすると,本問の検討に際しては,敵対的買収防衛策について争われた最決平19年8月7日(民集61?5?2215,ブルドックソース事件(百選100事件))を参考にすべきでしょう。
 
 法令違反の有無について
 
(1)  上記ブルドックソース事件最高裁決定では,法令違反の有無に際し,株主平等原則(109条1項)を検討しています。最高裁は,決定要旨において,「特定の株主による経営支配権の取得に伴い,会社の存立,発展が阻害されるおそれが生ずるなど,会社の企業価値がき損され,会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には,その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても,当該取扱いが衡平の理念に反し,相当性を欠くものでない限り,これを直ちに同原則の趣旨に反するものということはできない。」と判示しています。
 そして,本件会社提案は,甲社総株主の議決権の90%を有する株主が出席した本件株主総会において,出席株主の67%の賛成により可決されたことからすると,特別決議以上の承認が得られたとの評価も可能であり,甲社株主のほとんどが,乙社による経営支配権の取得が甲社の企業価値をき損し,甲社の利益ひいては甲社株主の共同の利益を害することになると判断したと認められます。
    (2) 必要性の要件について
   
 最高裁は,「…会社の企業価値がき損され,会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合」か否かは,「最終的には,会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものであ」り,「株主総会の手続が適正を欠くものであったとか,判断の前提とされた事実が実際には存在しなかったり,虚偽であったなど,判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない限り,当該判断が尊重されるべき」と判示しています。
   
 本問では,公開会社である乙社は,本件取締役会決議のみで本件新株予約権無償割当ての発行が可能であるところ,あえて本件株主総会を開催し,株主が判断する機会をあえて付与しています。
 そして,本件会社提案は,甲社総株主の議決権の90%を有する株主が出席した本件株主総会において,出席株主の67%の賛成により可決されたことからすると,特別決議以上の承認が得られたとの評価も可能であり,甲社株主のほとんどが,乙社による経営支配権の取得が甲社の企業価値をき損し,甲社の利益ひいては甲社株主の共同の利益を害することになると判断したと認められます。
 また,本件株主総会の招集の手続及び議事は適法であったことからすると,本件株主総会の手続に適正を欠くとものであったとは評価できません。本件株主の判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵は存在しないと認められるでしょう。
 さらに,上記判断は,乙社が比較的短期間で株式を売買し,その売買益を得る投資手法を採っている事実,敵対的な買収により対象会社の支配権を取得し,経営陣を入れ替え,対象会社の財産を切り売りする投資手法を採った事実,SNSで「デジタル化に伴い,事務用品は早晩なくなるであろう」と述べるなど,甲社事業に対する無理解を示す事実といった,乙社が甲社の株式を買い増し,経営陣を入れ替える可能性を示す事実によると伺われることからすると,上記判断に,その正当性を失わせるような重大な瑕疵は認められないと考えられます。
 したがって,本問においては,上記必要性の要件が認められるといえるでしょう。
    (3) 相当性の要件について
   
 相当性の要件に関し,最高裁は,まず,敵対的買収者が「本件新株予約権…を行使することも,取得の対価として株式の交付を受けることもできず,その持株比率が大幅に低下することにはなる。しかし,本件新株予約権無償割当ては」,敵対的買収者も「意見を述べる機会のあった本件総会における議論を経て」,敵対的買収者以外のほとんどの既存株主が,敵対的買収者による「経営支配権の取得に伴う」対象会社の「企業価値のき損を防ぐために必要な措置として是認したものである」と判示しています。
 本問でも,丙社は平成30年3月31日の時点で甲社総株主の議決権の20%を保有していたところ,本件株主総会では甲社総株主の議決権の90%を有する株主が出席したことから,丙社も本件株主総会に出席したと推認されます。とすると,敵対的買収者とされる丙社も本件株主総会において意見を述べる機会を有していたといえるでしょう。
 したがって,丙社以外の既存株主のほとんどが企業価値のき損を防ぐために必要な措置として是認したといえます。
   
(ア)
 さらに,最高裁は,「上記対価は」,敵対的買収者が「自ら決定した本件公開買付けの買付価格に基づき算定されたもので,本件新株予約権の価値に見合うものである」という認定をした上で,「本件新株予約権無償割当てが,衡平の理念に反し,相当性を欠くものとは認められない」と結論付けています。
 本問では,本件新株無償割当ての概要?は,非適格者たる乙社(概要?)からの取得については,取得対価1円の提供で足りるとしているので,上記最高裁の判旨によると,相当性の要件を欠くことになるとも考えられます。
      (イ)  もっとも,上記最高裁判旨については,対象会社による対価の提供により,相当性の要件が認められるとすると,グリーンメーラーからの株式の高値買取りを助長する結果となるとの批判もなされているところです。この批判については,敵対的買収者に対し「撤退可能性」を保障すれば,対価提供がなくとも相当性は認められるとの見解も示されています。
 本問では,上記概要?において,乙社が甲社株式の買い増しを行わない旨を確約した場合には,甲社の取締役会は,取締役会が別に定める日に,その決議により,本件新株予約権無償割当てにより株主に割り当てた新株予約権の全部を無償で取得できることが規定されていることからすると,乙社が甲社株式の買い増しをしないことを確約することにより,乙社の持株比率の低下という不利益を解消することができるので,「撤退可能性」が保障されているとも考えられます。この点については,学説の見解も定まっていないところであり,受験生各自の見解を展開することが求められているといえるでしょう。
   不公正発行について
 不公正発行についても,前述の法令違反におけるのと同様の議論がなされています。
  〔設問3〕
  本件決議1の効力について
    (1)  本件決議1は,議題1についての決議です。したがって,本件決議1の効力は,議題1の内容が会社法上認められるかによります。
 会社法上,「重要な財産の処分」に関する権限は取締役会の専権事項として規定されています(362条4項1号)。したがって,甲社財産の処分権限は,甲社取締役会にのみあるのが原則です。もっとも,議題1は,甲社財産の処分権限を,株主総会も決定できるとすることを内容とするものです。そこで,取締役会の専権事項である財産処分権限を,株主総会の権限ともすることが会社法上認められるのかが問題となります。
    (2)  295条2項は,取締役会設置会社における株主総会の権限について,「この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り,決議をすることができる」としていることから,定款の定めにより,株主総会の権限を拡張させることを認めています。
 もっとも,無制限に拡張させることは認められず,会社法の趣旨に反する場合には,拡張は認められないと解されます。そこで,取締役会設置会社において,株主総会の決定権限が縮小された295条2項の趣旨や,重要な会社財産の処分を取締役会の権限とした362条4項1号の趣旨に反しないかを検討することになります。
    (3)  取締役会非設置会社の場合に,株主総会は「株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる」(295条1項)のに対し,取締役会設置会社の場合には,「この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り,決議をすることができる」として,株主総会の決定権限が縮小された趣旨は,通常は,経営の意思も能力も乏しいと考えられる株主が経営に介入せず,経営について専門的知識を持つ取締役に委ねることが,株主の利益や株主の合理的意思に合致すると考えたことにあります。
 また,重要な会社財産の処分を取締役会の権限とした362条4項1号の趣旨は,重要な財産処分は会社の事業活動に重大な影響を及ぼすことから,その処分権限を,代表取締役や業務執行取締役といった個々の取締役に委ねることを認めず,取締役会での審議・決議に委ね,重要な財産処分の妥当性を確保することにあります。
 かかる法の趣旨を踏まえて,甲社財産の処分権限を,株主総会の権限ともすることの可否を判断することになるでしょう。上記趣旨を踏まえた検討がなされていれば,どちらの結論になるとしても,相応の評価を得られると思われます。
   甲社の代表取締役社長Aの423条1項責任について
    (1)  423条1項は,取締役の任務懈怠責任を規定しています。取締役は,善管注意義務(330条,民法644条)・忠実義務(会社法355条)を負うことから,かかる義務に違反する場合には,任務懈怠責任を負うことになります。
 以下,本件決議1の効力の有無について場合を分けて検討します。
    (2)  本件決議1が無効な場合
 本件決議1が無効であるとすると,甲社株主総会は,財産処分について権限を有しないことになります。したがって,本件決議2は,法令違反を内容とする決議であり,無効(830条2項参照)になると考えられます。
 他方,甲社では,本件株主総会とは別に,取締役会が開催され,本件決議2に従いP倉庫を売却する旨の議案が可決されています。そこで,取締役会に当該議案を提案しかつ賛成した代表取締役社長Aについて,善管注意義務違反が認められるかが問題となります。そして,善管注意義務違反の有無の検討に際しては,経営判断原則の適用があると考えます。
 本問では,大地震により,甲社所有のQ倉庫が倒壊し,P倉庫を維持しなければ,競合他社に多数の顧客を奪われるなど,50億円を下らない損害の発生が見込まれるという事情が存在します。他方,P倉庫の近隣の不動産価格が下落する兆候は伺われないことからすると,平成29年12月の時点で約15億円であったP倉庫の市場価格は,未だ同程度の価格を有しているという事情も存在します。さらに,無効の決議であるにせよ,株主総会においては,P倉庫を売却すべきであるとの株主の意向が示されたという事情もあります。
 そこで,かかる事情を踏まえて,P倉庫を売却するという取締役の判断の過程及び内容について,著しい不合理があるか否かを検討することになるでしょう。
  Aについて,取締役の判断過程及び内容に不合理がある場合には,善管注意義務違反が認められ,任務懈怠を構成します。その結果,Aは,甲社が被った損害の賠償責任を負うことになります。他方,不合理がない場合には,Aは損害を賠償する責任は負いません。
    (3) 本件決議1が有効な場合
       本問では,前述のごとく,甲社取締役会が開催され,本件決議2に従いP倉庫を売却する旨の議案が可決されています。
 さらに,本件決議1が有効であるとすると,甲社株主総会も取締役会とは別途に,財産処分について決議することが可能となります。
 したがって,本件決議2も有効な決議であると考えられます。
 このように,本問では,取締役会及び株主総会と両方の決議が存在します。
 そこで,いずれの決議が優先させるのか,若しくは,いずれの決議も優先しないのか検討の余地があります。
       取締役会の決議が優先すると考えた場合には,上記?の本件決議1が有効な場合における議論を展開することになります。
       株主総会の決議が優先すると考えた場合には,株主総会決議にしたがって,業務執行の義務(363条1項1号)を負う代表取締役Aは,本件決議2に基づいて,遅くとも平成30年度中にP倉庫を近隣の不動産価格に照らし適正な価格で売却する義務を負うことになります。
 本問では,Aは平成30年度中にP倉庫を近隣の不動産価格に照らし適正な価格で売却したことから,任務懈怠は認められないとの結論を導くことができます。
       いずれの決議も優先しないと考えた場合には,大地震によりQ倉庫が倒壊したのは,本件決議1及び2が決議された本件株主総会後の平成31年1月であり,大地震による事情を考慮して決議された取締役会決議が甲社における意思決定と考えることも可能です。このように考えた場合,上記?の本件決議1が無効の場合における議論を展開することになります。
       どのように考えるにせよ,その根拠を明示し,それぞれの見解に従った論理的な論述を展開する必要があると考えられます。
         
4 的中情報★★★
 
2019スタンダード論文答練(第1クール)民事系1第2問
    辰已専任講師・弁護士 柏谷周希先生御担当
「株主提案権の行使と権利の濫用」★★
本問設問1の株主提案権が的中致しました。
     
 
2019スタンダード論文答練(第2クール)民事系3第2問
    辰已専任講師・弁護士 原孝至先生ご担当
「東京高決平17.3.23判時1899-56」
本問設問2の関連判例を解説書に掲載しております。
     
 
2019スタンダード論文答練(第1クール)民事系2第2問
    辰已専任講師・弁護士 西口竜司先生御担当
「役員の対会社責任と経営判断原則」★★
本問設問3の論点が的中致しました。
 
 ●第3問 民事訴訟法
■公開:2019年06月03日/16:15
1 はじめに
   今年の民事系科目第3問(民事訴訟法)は,「管轄の合意の解釈(課題⑴),専属的合意管轄と移送(課題⑵)(設問1)」,「裁判上の自白の成立要件,訴えの追加的変更と自白(設問2)」,「文書提出義務(設問3)」など,民事訴訟法の著名な論点を問うております。全体の難易度は例年並みかと思われます。
 まず,問題文は5頁(実質4頁)です。また,設問は1から3で構成され,配点の割合は,35:40:25と問題文冒頭に記載されております。添付資料等は,掲載されておりません。
 また,設問1に関する参考文献として,平成31年司法試験考査委員の安西明子教授執筆の「当事者間の衡平を図るための移送」判例タイムズ1084号P.4~11,山本和彦「17条移送」大江忠ほか編『手続裁量とその規律―理論と実務の架橋をめざして』(有斐閣,2005)P.75~91(三角比呂「コメント」P.91~6)(なお,この書籍は,平成31年司法試験考査委員である笠井正俊教授も執筆者の一人です。)。
 また,設問2については,三木浩一・笠井正俊・垣内秀介・菱田雄郷『民事訴訟法』(リーガルクエスト)(有斐閣,第3版,2018)P.231~248,518が非常に参考になります。
 さらに,設問3については,昨年の設問2同様に,安西明子教授の関心分野かと思われます(同『民事訴訟における争点形成』(有斐閣,2016)の「第2部 文書提出命令」参照。)。
   
2 問題文
    令和元年5月20日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験民事系の問題文はこちら
  
3 本問の分析
  〔設問1〕
 

1 課題(1)

  (1)  本問は,「本件定めがA地方裁判所を本件契約に関する紛争の管轄裁判所から排除することを内容とすると解釈している」Yによる移送申立てを,「Yの解釈の根拠も踏まえつつ」,「本件定めの内容についてYの解釈とは別の解釈を採るべきだとの立論」を考える問題です。
  (2)  「本件契約に関する一切の紛争は,B地方裁判所を第一審の管轄裁判所とする」との本件定めは,合意による管轄の定めです(民事訴訟法(以下,省略する。)11条)。Yの主張は本件定めを根拠としていますから,本件定めが専属的合意管轄である旨の主張と考えられます。本件定めは「専属的」である旨明示されていないため,合意の解釈問題となります。Yの解釈の根拠としては,「ことさら個別に管轄の合意をし特定の裁判所を管轄裁判所と定めている限りは,それが法定管轄裁判所であろうとなかろうと,他の法定管轄裁判所での訴訟はむしろ念頭にないのが普通であろうから,合意の解釈としては専属的合意とみるべきであろう」(兼子一ほか『条解 民事訴訟法』(弘文堂,第2版,2011)P.114)とする見解が参考になるでしょう。
  (3)  以上のYの主張に対し,Xとしては,「本件定めがそのような内容の定めではない」とする主張として,本件定めが付加的合意管轄を定めたものである旨を主張することが考えられます。札幌高決昭45.4.20下民集21-3・4-603(民訴百選〔第2版〕9事件)は,普通保険約款中の合意管轄条項について,疑わしい場合は「一般契約者の利益に」解釈すべきであるとして,付加的合意管轄が定められていると解しています。また,「競合する法定管轄裁判所のうち一つを特定して管轄裁判所とすることを合意し,そのほかの管轄を排除することが明白である等の特段の事情のないかぎり,当該合意は後者,すなわち競合的合意管轄を定めたものと解するのが相当である。」とする東京高決昭58.1.19判時1076-65及び「本決定の重点は,右に引用した説示〔注:上記決定要旨の引用部分〕の後段部分にあったというべきである。そしてその趣旨は,法定管轄裁判所のうち一つを特定して指定したこととは別に,他の管轄を排除することが明白である等の特段の事情を要求していると理解しなければならない。このように考えると,本決定はその点を明示的には問題としていないけれども,付加的合意とする結論は,実質的には,約款又は定型的な契約書による管轄の合意であることを考慮した結果であるといえる」(上原敏夫「判批」民訴百選Ⅰ〔新法対応補正版〕P.63)と述べる同決定評釈が参考となるでしょう。
   
  2 課題(2)
  (1)  本問は,「Yの解釈を前提とするとしても」とあるので,本件定めが専属的合意管轄であることを前提としても,「本件訴訟はA地方裁判所で審理されるべきであるとの立論」を考える問題です。
  (2)  専属的な管轄の合意は指定した裁判所以外の法定の管轄権を排除するので,専属的合意にもかかわらず,他の裁判所に訴えを提起した場合には,16条によって管轄違いに基づく合意管轄裁判所への移送が原則となります。しかし,この原則にもかかわらず,17条の(類推)適用により,移送しないことが許されると解されています(「17条の趣旨を尊重すれば,移送しないことを認めるべきである」(伊藤眞『民事訴訟法』(有斐閣,第6版,2018)P.87))。
   
  〔設問2〕
 
 本問は,裁判上の自白に撤回制限効(「不可撤回効」「撤回禁止効」等と呼ばれることもありますが,本解説では「撤回制限効」と呼びます。)があるのを前提に,裁判上の自白の成立要件を検討した上で,要件事実④について,元の請求及び追加された請求のそれぞれにおいて,裁判上の自白に当たるかを検討する問題と考えられます。
 なお,本問では,会話文の丁の最後の発言の「なお」書で,反事実・錯誤等の自白の撤回の要件の検討は不要となっています。
 
 裁判上の自白については,撤回制限効があります。本問では,裁判上の自白について撤回制限効があることが前提ですので,記述する必要はありませんが,その根拠を確認しておきます。
 撤回制限効の根拠についても諸説ありますが,自白は,㋐その結果として審理排除効及び判断拘束効が生じることから,相手方に審理の予定・証拠確保の不要性などに関する信頼を与えること,㋑争点整理における効率的な審理という公益を生じさせる行為であること等を理由に,撤回が制限されると考えられています(三木浩一ほか『民事訴訟法』(有斐閣,第3版,2018)P.244)。
 
裁判上の自白の成立要件
 
(1)
 裁判上の自白の成立要件は,一般的に,①口頭弁論または弁論準備手続における弁論としての陳述であること,②事実についての陳述であること,③相手方の主張との一致があること,④自己に不利益な陳述であること,となっています(三木ほか・前掲書P.233)。このうち,争いがあるのは,②及び④の内容です。本問では,②についての説明が書けていればよいと考えられますが,以下では,②及び④について確認しておきます。
 
(2)
 ②「事実」について
     事実については,主要事実,間接事実,補助事実がありますが,②の「事実」の意義が問題となります。ここでも諸説ありますが,判例は,自白の効果が生じるのは,主要事実のみであり,間接事実及び補助事実には,裁判所拘束力も当事者拘束力もないとの立場を採っていると理解されています(最判昭31.5.25民集10-5-577,最判昭41.9.22民集20-7-1392(民訴百選〔第5版〕54事件,最判昭52.4.15民集31-3-371)(三木ほか・前掲書P.235~6)。本問も,判例の立場で記述すればよいでしょう。
 一般に,間接事実及び補助事実は,主要事実の証明手段として証拠資料と同様の機能を有するにすぎないところ,仮に裁判所拘束力を認めた場合には,主要事実についての心証形成が強制されてしまい,自由心証主義(247条)に反する結果となることを理由としています。
 
(3)
 ④「不利益」について
     「不利益」の意義について,判例は,相手方が証明責任を負う事実を他方の当事者が認める場合をいうとする証明責任説の立場を採ると理解されています(大判昭8.2.9民集12-397等)。
  ④の事実の位置付け
 
(1)
 元の請求の場合
 元の請求の訴訟物は,履行遅滞による売買契約の解除に基づく原状回復請求権です。通常の履行遅滞による売買契約の解除に基づく原状回復請求権の請求原因は,㋐当該債務の発生原因である契約の成立,㋑㋐に基づく目的物の引渡し又は金員の交付,㋒催告,㋓催告期間の経過,㋔解除の意思表示,となります。
 もっとも,本件では,Yは本件車両を納入日に引き渡しているところ,本件車両が本件仕様を有していなかったのであって,実質は不完全履行です。そこで,不完全履行による売買契約の解除に基づく原状回復請求権の請求原因は,ⅰ)当該債務の発生原因である契約の成立,ⅱ)ⅰに基づく目的物の引渡し又は金員の交付,ⅲ)当該債務の履行が不完全であったこと,ⅳ)追完の催告,ⅴ)催告期間の経過,ⅵ)解除の意思表示,となります。
 問題文の①の事実が,上記のⅰ)に当たります。
 問題文の②の事実が,上記のⅱ)に当たります。
 問題文の③及び⑤の事実が,上記のⅲ)に当たります。
 問題文の⑥の事実が,上記のⅳ),ⅴ),ⅵ)に当たります。
  以上の事実によって,解除に基づく原状回復請求権が発生するのですから,以上の事実は主要事実ということになります。
 これに対し,問題文の④の事実は何に当たるのでしょうか。問題文の④の事実は,本件事故が起きた事実であり,子供3人が本件車両の上段ベッドに乗ったところ,この上段ベッドシステムと車本体の接合部分が破損して上段ベッドが落下したという事実です。本件仕様を有する場合には,子供3人が乗っても上段ベッドが落下することはないはずですから,④の事実は,本件車両は本件仕様を有していなかったことを推認させる事実,すなわち⑤の事実を推認させる間接事実ということになります。
 
(2)
 追加された請求の場合
 追加された請求の訴訟物は,売買契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権です。ここでも,本件では,Yは本件車両を納入日に引き渡しているところ,本件車両が本件仕様を有していなかったことに起因して本件損壊事実が生じているのであって,実質は不完全履行です。
 そこで,不完全履行に基づく損害賠償請求権の請求原因は,ⅰ)当該債務の発生原因である契約の成立,ⅱ)当該債務の履行が不完全であったこと,ⅲ)損害の発生及び額,ⅳ)ⅱとⅲの因果関係,となります。
 問題文の①の事実が,上記のⅰ)に当たります。
 問題文の③及び⑤の事実が,上記のⅱ)に当たります。
 問題文の⑧及び⑨の事実が,上記のⅲ)に当たります。
 問題文の④の事実が,上記のⅳ)に当たります。
 本件では,本件車両が本件仕様を有していなかった事実→本件事故が起きた事実→本件損壊事実という因果関係が生じています。そこで,④の事実は因果関係に関する主要事実と考えることができるでしょう。そうすると,④の事実は,追加された請求においては,主要事実になると考えられます。
  訴えの追加的変更がされた場合
 
(1)
 本件では,追加された請求においては,④の事実は主要事実になっています。裁判上の自白の成立要件に当てはめると,④の事実は,第1回口頭弁論期日において,Yによって認める旨の陳述がされているところ,追加された請求においては主要事実であり,また,Xが主張立証責任を有する事実であるから,Yの認める旨の陳述は,裁判上の自白に当たります。よって,撤回は制限されるといえそうです。
 
(2)
 そして,本件では,Xは,Yに対し,本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求として100万円の支払を求める請求を追加しているところ,訴えの追加的変更の場合,元の請求についての訴訟資料は,特に援用がなくても追加された請求についての訴訟資料になります。よって,本来元の請求における④の事実の主張と認否は,追加された請求においてもそのまま訴訟資料になります。
 仮に④の事実についてのYの認める旨の陳述が撤回された場合,その撤回を認めるときには,追加された請求については,主要事実が認められていないことになり,Xによる立証が必要になります。しかし,Xからしてみると,Yが,すでにこの点を争わないとしていたので,審理の予定もなく,証拠確保の必要性もないと信頼していたのに,その信頼が害されることになります。よって,実質的にも,Yの撤回は制限されるといえます。
 以上から,Xが訴えの変更をした後にYが認否の撤回をした点が影響しないと考えれば,本問においては,追加された請求においては裁判上の自白が成立し,Yは④の事実を認める旨の陳述を自由に撤回することができないことになるでしょう。
 
(3)
 これに対し,Yからしてみると,Xが訴えの変更をしたことによって④の事実は間接事実から主要事実になったのであるから,④の事実を認めたことの意味が変わったといえます。
 そこで,自白対象事実の位置付けが訴えの変更で変わった場合には,争わない旨の意思を再確認すべきであるとして(高橋宏志『民事訴訟法概論』(有斐閣,2016)P.178,297),本問においては,Xが訴えの変更をした後にYが認否の撤回をした点が影響すると考えて,Yは④の事実を認める旨の陳述を撤回することができるとの結論をとることもできるでしょう。
   
  〔設問3〕
   本問は,Zが本件日記の文書提出義務を負うかどうかを判断する際にどのような観点からどのような事項を考慮すべきかを検討する問題です。なお,Jの最初の発言から,文書提出義務の有無についての結論までは示す必要はありません。
   まず,文書提出義務の根拠条文に照らして検討する必要があるとされているところ,それは220条に定められています。そして,本件日記は,文書提出義務の除外事由である「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」(220条4号ニ,本解説では「自己利用文書」と呼びます。)に該当するかが問題となります。
 自己利用文書が除外事由とされるのは,およそ外部の者に開示することを予定していない文書は,いかに真実発見という司法の利益があるとはいえ,提出を強制されるべきではないという考慮に基づく,とされています(高橋・前掲書P.206)。
   しかし,この4号ニに掲げる除外事由は,文書の作成目的を主要な要素とするため,運用によっては一般提出義務の広範な例外を認めることにもつながりかねず,現在では,自己利用文書の範囲を制限することを意図した判例準則が打ち立てられています(三木ほか・前掲書P.329)。
 最決平11.11.12(民集53-8-1787,民訴百選〔第5版〕69事件)は,自己利用文書の該当性は,①文書の作成目的,記載内容,所持に至る経緯,その他の事情から判断して,専ら内部の者の利用に供する目的で作成され,外部の者への開示が予定されていないこと(外部非開示性),②開示されると個人のプライバシーが侵害されたり,個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど,開示によって所持者に看過し難い不利益が生ずるおそれがあること(不利益性),③自己利用文書の該当性を否定する特段の事情がないこと(特段の事情の不存在)をすべて満たした場合にのみ,認められるとして,一般的な準則を定立しています。
 まず,①外部非開示性の要件について,判例では,それが法令によって作成が義務付けられているものであるかどうかを考慮し,これが義務付けられている場合には,外部への公開が予定されているものと判断する傾向がうかがわれます(最決平16.11.26民集58-8-2393,最決平19.11.30民集61-8-3186など)。また,所持者の変更は一般に外部の者への文書の開示を伴うので,当初作成者のもとで外部非開示性を有した文書でも,現所持者のもとでは外部非開示性を失うことがありますが(上野泰男「判批」民訴百選〔第5版〕P.147),ZはTの唯一の相続人として本件日記を所持しているのであるから,いまだ文書が外部に開示されたとの評価はできないといえるでしょう。
 次に,②不利益性の要件について,不利益の内容としてどのようなものを考えるのか(とりわけ団体の自由な意思形成の阻害は保護利益と解することができるのか),不利益性の要件を判断する際に,保護利益とその他の事情(とりわけ当該文書の証拠としての重要性)を比較衡量するべきかといった点については学説が分かれています(上野・前掲書P.148)。不利益性の内容について,裁判例は,個人のプライバシーの侵害と団体の自由な意思形成の阻害の2つを主たる内容とする傾向にあります。不利益性の判断に際して保護利益とその他の事情を比較衡量するべきかという点については,文書の記載内容と訴訟の目的,証拠としての重要性とを比較して,争いとなる事実を明らかにするため当該文書が不可欠かどうかを判断して行うべきとする見解が多いとされています。この見解によるならば,保護利益(プライバシー)と本件日記の証拠としての重要性を比較衡量して判断していくことになるでしょう。
  最後に,本件では,③特段の事情は特に認められないでしょう。
   また,本件の文書提出命令の申立書には,「Zとしては,本件日記の詳しい内容はプライバシーに関わるから言えないし,その内容を直接見せたり証拠として提供したりすることもできない」((ウ)の事情)が記載されているとあります。そこで,Zが本件日記の文書提出義務を負うかどうかを判断する際に以下の点も考慮すべきであると思われます。
 文書提出命令では,証拠調べの必要性のない部分又は提出義務が否定される部分を除いた文書の一部のみを提出させることができます(223条1項後段)。また,裁判所は,自己利用文書(220条4号ニ)の該当性を判断するため必要があると認めるときは,インカメラ手続を用いて裁判所だけがその文書を閲読することができます(223条6項)。そこでは,一部提出とすべきかも判断されます。
     
4 的中情報★★★
 
スタ論【スタート】2019民事訴訟法3
    辰已専任講師・弁護士 福田俊彦先生御担当
「合意管轄,移送」ズバリ的中★★★
 若干マイナーなテーマですが,その実務上の重要性に鑑み,敢えて出題致しました。受講生の方は非常に有利であったものと思われます。
     
 
2018スタンダード論文答練(第1クール)民事系2第3問
    辰已専任講師・弁護士 稲村晃伸先生御担当
「裁判上の自白,間接事実の自白,自白の撤回」★★
 自白に関して正面から問うており,受講生の方は有益であったと思われます。
 ●第1問 刑法
■公開:2019年06月03日/16:55
1 はじめに
   今年の刑事系科目第1問(刑法)は,詐欺罪の成否(設問1),事後強盗罪と脅迫罪の区別と共同正犯(設問2),防衛行為の結果が第三者に生じた場合の処理(設問3)など,昨年と比較して著名なテーマを問うております。全体の難易度は例年並みかと思われます。
 まず,問題文は3頁(実質2頁)です。また,刑事系第1問の出題形式は,昨年から従来の罪責検討型ではなく設問形式に変わりましたが,今年も昨年の設問形式を踏襲しており,昨年同様1から3の設問で構成されております。
 なお,各設問の配点割合の記載はなく,添付資料等は,掲載されておりません。
   
2 問題文
    令和元年5月20日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験刑事系の問題文はこちら
  
3 本問の分析
  〔設問1〕
   甲がAから本件キャッシュカード等を受け取り封筒に入れ,これをダミー封筒とすり替えた行為について,詐欺罪(刑法(以下,省略する。)246条1項)と窃盗罪(235条)のいずれが成立するかが問題となります。両罪は交付行為の有無で区別されますが,それはあくまで詐欺罪における「人を欺」く行為の要件の中で検討しなければならない点に注意する必要があります。したがって,詐欺罪の成否の検討から始めるのがよいでしょう。なお,交付行為については,交付意思に基づいていたといえるかを検討する必要があります。
 
(1)  両罪の客体はいずれも「財物」ですから,本件キャッシュカード等のうち,暗証番号が記載されたメモ紙にも財物性が認められるかが問題となりますが,暗証番号は,キャッシュカードと結び付くことで預金を引き出せるため財産的価値が認められますから,これが記載されたメモ紙も「財物」に当たると考えてよいでしょう。
    (2)  詐欺罪における「人を欺」く行為は,交付行為に向けられていなければなりません。交付行為とは,交付意思に基づき,財物の占有すなわち事実上の支配を相手方に移転させることをいいます。交付意思は,占有の外形的移転の認識があれば認められます。本件では,Aが甲に本件キャッシュカード等を手渡した時点でその事実上の支配が甲に移転したと評価した場合には,この外形的移転についてAは当然認識していたといえますから,Aの交付行為が認められます。これに対し,その時点ではまだ本件キャッシュカード等の事実上の支配が甲に移転しておらず,その後,甲が本件キャッシュカード等を入れた封筒をダミー封筒とすり替えた時点でその事実上の支配が甲に移転したと評価した場合には,Aはこの外形的移転を認識していませんから,Aの交付行為は認められません。いずれにしても,本件事例中の具体的事実に即して丁寧に検討する必要があります。後者のように考えた場合には,詐欺罪ではなく窃盗罪の成否が問題となります(実務では窃盗として処理されている例が多いようです。)。以下では,前者のように評価した場合を検討します。この場合には,甲がAに,本件キャッシュカード等を手渡させるために,「キャッシュカードを証拠品として保管しておいてもらう必要があります。後日,お預かりする可能性があるので,念のため,暗証番号を書いたメモも同封してください。」と言ったことが「人を欺」く行為に当たると考えられます。
    (3)  Aは,甲が単に本件キャッシュカード等を封筒に入れるだけだと思ったからこれを甲に手渡したのであり,これをダミー封筒とすり替えるつもりであった甲の本心を知っていたら本件キャッシュカード等を甲に手渡さなかったはずですから,Aの交付の判断の基礎となる重要な事項について錯誤が認められます。そして,Aがこのような錯誤に陥ったのは,(2)で述べた甲の「人を欺」く行為が原因であるといえます。
Aは,この錯誤に基づいて前述の交付をし,これによって本件キャッシュカード等が甲に移転したといえますから,詐欺罪の成立を認めてよいでしょう。
 
 甲がAのキャッシュカードを用いてATMから現金を引き出そうとした行為については,窃盗未遂罪の成否が問題となります。しかし,その客体であるATM内の現金についてはB銀行の支店長が占有しており,法益主体はB銀行の支店長であると考えますと,本問で論じることが求められているのはあくまでAに対する罪責ですから,上記犯罪の成否について論じる必要はないことになります。
    
  〔設問2〕
   乙に甲との間で事後強盗の罪の共同正犯(60条,238条,243条)が成立するかを検討することになります。共同正犯の本質については,通説・判例の部分的犯罪共同説に立つのが無難でしょう。その上で,事後強盗罪(238条)の構造をどのように理解するかによって,乙の罪責の範囲が異なってくることに気付かなければなりません。本問ではこの点が問われているのです。同罪を構成的身分犯(65条1項)と解した場合には,事後強盗の罪の共同正犯となり,加減的身分犯(65条2項)と解した場合には,脅迫罪(222条1項)の限度で共同正犯となります。他方,結合犯と解した場合には,承継的共同正犯の成否を検討することになります。肯定説からは事後強盗の罪の共同正犯となり,否定説からは脅迫罪の限度で共同正犯となります。
 そうすると,本問の①の立場からは,事後強盗罪を構成的身分犯と解する説明,又は結合犯と解した上で承継的共同正犯を肯定する説明が考えられます。他方,②の立場からは,事後強盗罪を加減的身分犯と解する説明,又は結合犯と解した上で承継的共同正犯を否定する説明が考えられます。そして,これらに言及した上で,上記の見解の中から自身の見解を選び,その根拠を挙げて説明することが求められています。
   本問では,乙の罪責について論じることが求められていますので,この点を忘れないようにしましょう。以下では,①の立場から検討します。甲がATMから現金を引き出そうとした行為には,窃盗未遂罪(235条,243条)が成立していますから,甲は,事後強盗罪における「窃盗」に当たります。また,乙は,甲が万引きをしたと思い,甲がショルダーバッグ内の商品を取り返されないようにしてやるため,Cに向かってナイフを示しながら,「ぶっ殺すぞ。」と言って,Cの反抗を抑圧するのに足りる程度の害悪の告知をしていますから,事後強盗罪における所定の目的(財物の取返しを防ぐ目的)での「脅迫」も認められます。実際は,甲は,万引きではなく,Aのキャッシュカードを使ってATMから現金を引き出そうとしたのであり,自分がその場から逃げるために乙に助けを求めたのですから,窃盗の具体的事実と脅迫の目的について錯誤が生じています。もっとも,前者については,いずれの事実であっても事後強盗罪の「窃盗」に当たりますし,後者についても,いずれであっても事後強盗罪における所定の目的には当たりますから,同罪の共謀は認められるでしょう。この共謀に基づいて,乙は上記脅迫をしていますから,共謀に基づく実行行為も認められます。したがって,乙に事後強盗の罪の共同正犯が成立すると考えてよいでしょう。
 ②の立場からは,甲と乙の共謀については脅迫の限度で成立することを認定すれば足ります。
   
  〔設問3〕
   丙が甲に向かって投げつけたボトルワインがDの頭部に直撃し,Dが傷害を負ったことから,Dの傷害結果に関する刑事責任としては,丙がボトルワインを投げつけたことについて,傷害罪(204条)や過失傷害罪(209条1項)などの罪責が考えられます。そして,本問では,丙がこれらの刑事責任を負わないようにするために考えられる理論上の説明及び各説明の難点について論じることが求められています。犯罪論の体系に沿って,構成要件該当性,違法性,責任の各段階ごとに順に検討していくことになります。
   まず,傷害罪の構成要件該当性から検討します。
    (1)  丙は,甲に向かってボトルワインを投げつけていますから,人に対する有形力の行使が認められます。そして,丙が投げつけたボトルワインがDの頭部に直撃し,Dは加療約3週間を要する頭部裂傷の傷害を負っていますから,傷害の結果も生じ,因果関係も認められます。したがって,客観的構成要件の該当性を否定することはできそうもありません。
    (2)  次に,構成要件的故意について検討することになります。
 有形力の行使については,丙が認識・予見していた客体は甲であったのに,実際にボトルワインが直撃したのはDであったことから,方法の錯誤が認められます。事実の錯誤について,具体的符合説に立てば,法益主体の食い違いは重要なので,構成要件的故意が阻却されることになります。もっとも,この説については,客体の錯誤と方法の錯誤を区別できないなどの批判がされています。そのため,通説・判例である法定的符合説に立つと,上記の食い違いがあったとしても,人に対する有形力の行使という要件内で符合していますから,構成要件的故意は阻却されないことになります。
 傷害結果については,傷害罪には故意犯の場合と暴行罪(208条)の結果的加重犯の場合の2つの類型があることに着目します。そして,後者の場合には,判例によれば傷害結果の故意・過失は不要となります。本件で,丙は,ボトルワインを甲に向かって投げつけていますが,甲,Dのいずれに対しても傷害を負わせることになるとは思っていなかったし,その可能性もなかったと評価できれば,Dの傷害結果について,丙の故意・過失は認められませんから,暴行罪の結果的加重犯の場合に当たると評価するしかありません。この場合には,(暴行の)故意が阻却された場合に,過失犯の成否が問題となりません。なぜなら,過失暴行は不可罰だからです(38条1項参照)。他方,本件の事実関係の下ではこのように評価することには無理があると考えれば,傷害罪の故意犯の場合に当たると考えざるを得ず,この場合には,故意犯(傷害罪)が否定されたとしても,過失犯(過失傷害罪)の成立の余地が残ることになります。
   2で法定的符合説に立った場合には,構成要件的故意が阻却されないため,次に,違法性が阻却されないかを検討することになります。以下は,大塚裕史教授の説明に基づいています。
 まず,正当防衛(36条1項)の成否について検討する必要があります。第三者に対する法益侵害も不正の侵害者に対する防衛行為から生じている以上,正当防衛を認めるべきだとする見解もあります。しかし,正当防衛が緊急行為として正当化されるのは,防衛行為が反撃行為として不正の侵害者に向けられるからであって,付随的とはいえ,第三者の正当な法益の侵害をも正当防衛に含めることは妥当ではありません。
 そこで,第三者に危険を転嫁したことによって危難を回避したことを根拠に緊急避難(37条1項)の成立可能性を認める見解が有力です。ただ,緊急避難が成立するためには補充性の原則を満たす必要があり,緊急避難の成立が認められる場合は多くはないように思われます。また,その点は別としても,緊急避難は,避難行為者と危難を転嫁される第三者との間に利益衝突状況,すなわち,危難を受忍するか転嫁するかという二者択一関係が存在することが前提となりますが,このような関係は認められないので緊急避難の成立は困難であるという批判も有力です(大塚裕史ほか『基本刑法Ⅰ―総論』(日本評論社,第3版,2019)P.182~3(大塚裕史執筆))。
 本件では,ボトルワインを投げつける行為が丙の採り得る唯一の手段であったことから,補充性の原則は充足します。ただし,上記のような二者択一関係は認められませんので,緊急避難を認めるのは難しいと思われます。
   違法性が阻却されない場合には,次に,責任が阻却されないかを検討することになります。この点について,大阪高判平14.9.4(判タ1114-293,刑法判例百選Ⅰ[第7版]28事件)は,本件と同様の事案において,第三者に結果を生じさせた防衛行為について,正当防衛と認識して行為している以上,誤想防衛の一種として故意責任を肯定することはできないとしています。この考え方によれば,本件でも誤想防衛の一種としてとらえ,責任故意を阻却することは可能だと考えられます。もっとも,丙には急迫不正の侵害者がDであるとの誤想はなく,Dに対する侵害が正当防衛を構成するとの誤想もありませんから,これを誤想防衛の一種と呼ぶことは適切ではないかもしれません(山口厚『新判例から見た刑法』(有斐閣,第3版,2015)P.56)。
   本件を傷害罪の故意犯の場合と解した場合には,故意犯の成立を否定できたとしても,過失傷害罪(209条1項)の成否の問題が残ります。構成要件該当性の段階では,同罪の成立を否定することは難しいと考えられます。次に,違法性の段階では,故意犯で検討したことがそのまま当てはまります。違法性が阻却されないと考えた場合には,責任の段階で検討することになりますが,前記大阪高判が「過失責任を問い得ることは格別」と述べていることから,同判決の考え方によっても,やはり過失犯の成立の可能性が残ると考えられます。
     
4 的中情報★★★
 
2019スタンダード論文答練(第2クール)刑事系1第1問
    辰已専任講師・弁護士 福田俊彦先生御担当
「事後強盗と共犯,承継的共同正犯」ズバリ的中★★★
 本問設問2のテーマがズバリ的中致しました。受講生の皆様には,非常に有利であったと思われます。
 
 ●第2問 刑事訴訟法

■公開:2019年06月03日/17:15

1 はじめに
    今年の刑事系科目第2問(刑事訴訟法)は,事例を読んで〔設問1〕から〔設問2〕まで解答させる問題で,設問数は昨年と同じです。そして,別件逮捕・勾留の適法性(設問1),公判前整理手続後の訴因変更の可否(設問2)を検討させています。
  まず,問題文は6頁(実質5頁)で,5頁に資料1として捜査経過,6頁に資料2として公訴事実1及び2が掲載されております。
  また,本問の設問形式は,従前のように事例を当てはめるだけではなく,反対説も論述させるという点で,やや旧司法試験の設問と似通っているといえます。ただ,このような設問形式は,学説と実務とが熾烈に争われている本件のような別件逮捕勾留など(例えば,接見指定や新しい捜査手法など)が出題されやすいといえるでしょう。
  そして,難易度としては,設問1で異なる理論構成を想定した出題をしていることや,設問2で訴因変更に関する出題をしていることから,昨年より高かったと思われます。
  なお,設問1の別件逮捕・勾留については,古江頼隆『事例演習刑事訴訟法』(有斐閣,第2版,2015)P.84~99が参考になります。また,設問2の訴因変更については,司法試験考査委員の堀江慎司教授執筆の宇藤崇・松田岳士・堀江慎司『リーガルクエスト刑事訴訟法』(有斐閣,第2版,2018)P.248~251,酒巻匡『刑事訴訟法』(有斐閣,2015)P.288~9が参考になります。また,事例としては,井上正仁ほか編『刑事訴訟法判例百選』(有斐閣,第10版,2017)P.130~131が類似しています。
   
2 問題文
    令和元年5月20日(月)に法務省HPにて公開された論文式試験刑事系の問題文はこちら
  
3 本問の分析
  〔設問1〕
   小問1について
  甲の本件業務上横領の被疑事実(以下,「別件」という。)による身柄拘束が本件強盗致死事件(以下,「本件」という。)の捜査を目的とした別件逮捕・勾留の適法性が問題となります。
  最初に,別件逮捕・勾留の定義,そして何故その逮捕・勾留の適法性が問題となるかについて論じます。
  次に,別件逮捕・勾留の適法性を判断するための基準を示す必要があります。この場合,別件基準説を採用する立場では,その論拠と,その効果について論じる必要があります。
  別件基準説の立場に立つ場合,主として本件の取調べを目的とする場合であっても,別件について身柄拘束の要件が具備されている以上,裁判官の令状発付及びそれに基づく逮捕・勾留は適法であり,別件逮捕・勾留中の取調べは,余罪取調べの限界として判断することを示す必要があります。
  まず,別件の逮捕が通常逮捕(刑事訴訟法(以下,省略する。)199条1項)の要件を満たすかを検討する必要があります。
  次に,別件が被疑者勾留(207条1項,60条1項)の要件を満たし,その後の勾留延長(207条2項)の要件を満たすことを端的に認定する必要があります。
  そして,余罪取調べの限界について,余罪取調べは原則として禁止されるとまでは言えないが,それが令状主義を潜脱する程度にまで至れば違法となるとする見解等,自己の判断枠組みを示す必要があります。
  本問では,甲には,甲名義のナンバーの原動機付自転車が目撃されていたことや,犯行日時の甲名義の銀行口座には1万円しかなく,無職であったにもかかわらず30万円の振り込みがなされた等の事情から本件に関与した疑いがあり,別件の身柄拘束の機会においても余罪である本件の取調べを行う必要がありました。
  また,本件の取調べは,別件の取調べの2倍の時間を割いて行われているものの,同時並行的に別件の捜査も継続され,本件及び別件のいずれにおいても,その直後に甲は借金の返済を行っていること等も明らかとなっています。
したがって,別件の勾留延長期間まで甲の身柄を拘束したとしても,令状主義の潜脱とまでは言えないとの結論を導くことができ,本問の別件逮捕・勾留は適法といえます。
  これに対し,実体喪失説に拠る場合には,別件による身柄拘束が実体を失い,実質上本件を取り調べるための身柄拘束となっている場合には,その間の身柄拘束は令状によらない違法な身柄拘束であるとの基準を示して,同様の結論を導き出せると考えられます。
  なお,本件基準説の立場に拠っても,別件を被疑事実とする逮捕・勾留の期間が,主として本件の捜査のために利用されている場合には,別件による身柄拘束がその実体を失い,本件による身柄拘束と評価できるときは,違法であると考えることは可能であり,このように実体喪失説と親和性のある見解であれば,上記と同様の結論を導き出せると考えられます。
 
 小問2について
  小問1とは異なる結論を導く理論構成として,本件基準説が挙げられます。ここで,本件基準説の論拠及びその効果についても論じることになります。この見解は,令状審査段階における捜査官の意図・目的が主として本件取調べ目的である場合には,司法審査を経ることなく実質的には本件について逮捕・勾留していることとなり,令状主義に反して違法となる,というものです。本件では,司法警察員Pは,本件で甲を逮捕するには証拠不十分であったことから,別件の被害者であるX社社長が被害届の提出を渋ったにも関わらず,繰り返し説得を続けて被害届の提出をさせるなど,甲を別件で逮捕・勾留可能な状況を作出していることから,Pの令状審査段階の意図は,主として本件取調べ目的である場合といえます。
  したがって,令状主義に反して違法との結論が導けます。なお,本件基準説に立っても,違法となる逮捕勾留が別件なのか,本件なのかについても争いがあり,後者の場合(再逮捕が違法であるとする)には,本設問が別件の逮捕・勾留の適法性を問うていることから,結論は分かれることになります。
  この本件基準説を採用しない理由として,実質的に本件について逮捕・勾留していることになって,令状主義に反するかどうかは,令状請求時の捜査官の主観的な意図・目的が重要なわけではなく,逮捕・勾留が主として本件に対する捜査に用いられたかという身柄拘束中の捜査の実態を判断すべきであること等が考えられます。
  なお,現在の学説では,本件基準説を基本に据えても,別件基準説による上記批判に反論して,別件の逮捕・勾留請求に対する判断が裁判官にとって困難であるので,その逮捕・勾留期間中の具体的な捜査状況を別件のためか本件のためかを判断し,「可分的に」本件のためにのみ捜査が行われていた場合には,その後の逮捕・勾留だけを違法とする見解もあります。それゆえ,この視点から本問の具体的事情を考慮して検討することも十分可能です。
    
  〔設問2〕
     本問では,下線部②の訴因変更の請求について,公判前整理手続を経ていることを踏まえつつ,裁判所はこれを認めるべきかを論じる必要があります。
  検討に当たっては,①訴因変更の可否及び②これが可能である場合,裁判所は常にこれを許さなければならないかが問題となります。
  ①訴因変更の可否については,「公訴事実の同一性」の意義及びその判断基準が問題となります。なお,その前提として,審判対象を訴因であるとする立場を採用するとしても,新旧両訴因の何について比較するのかが問題となります。ここで,訴因の本質を「事実記載説」に立って,いかなる判断基準により判断するかを論じることになります。
  「公訴事実の同一性」の判断基準については,判例の見解に拠れば,新旧両訴因の間に法益侵害結果ないし行為に共通性が認められることを前提とし,基本的事実関係の同一性を検討することになります。なお,この判断基準に立つとしても,その判断要素として,被告人の防御を中心に考えるか(防御説=具体的防御説,抽象的防御説),審判対象の範囲を画定する機能を重視し,その上で,被告人の防御を考慮するかの2つの立場に分かれますので,自説を展開する必要があります。
  資料2によれば,公訴事実1は「甲が,平成30年11月20日,Aから業務上預かり保管する3万円を着服して横領した」旨の内容であり,公訴事実2は「甲は,平成30年11月20日,G市J町1番地所在のA方において,Aに対し,甲がX社の売掛金を集金するかのように装って,Aを誤信させ,これによってAから3万円の交付を受けた」旨の内容になります。そうすると,公訴事実1と公訴事実2はともに,平成30年11月20日,A宅において3万円を対象に行われた甲のAに対する犯罪事実であり,金員の提供者,収受者,日時,場所,金員の額が同一であり,基本的事実関係は同一であるといえ,審判の対象としては同じ事実を対象にしており,被告人の防御の観点からも詐欺罪であっても基本的に法定刑が変わらないなど,特段被告人の防御に不利益が生じる要素も認められないので,公訴事実の同一性は認められるといえます。
  よって,本件での訴因変更は可能です。
  ②の訴因変更の許否については,訴因変更が必要であることを前提に(この点,訴因変更の許否と可否は明確に分ける必要があります),信義則との関係上,本件の訴因変更は検察官の信義則違反・訴因変更権限の濫用であるのではないかが問題となります。ただ,本問では,検察官が訴因変更を申し立てているので,訴因変更の要否については,あまり問題ではないので,バランスのある論述をするべきでしょう。
  まず,訴因変更の時期については明文の制約はなく,原則として,検察官は起訴後のいかなる段階においても訴因を変更することができることを述べる必要があります。
  しかし,検察官は公判前整理手続の目的である策定された計画通りの審理の進行を迅速に行うことができるよう協力する義務を負っていることからすれば(316条の2第1項,316条の3第2項),この趣旨を没却するような訴因変更請求は,許されないとする一般的基準を立てる必要があります(東京高判平20.11.18参照)。
  この点について,西野吾一「公判前整理手続後の訴因変更」井上正仁ほか編『刑事訴訟法判例百選』(有斐閣,第10版,2017)P.130~131では,検察官の帰責性を問題とし,「公判前整理手続において検察官が訴因変更請求を検討する契機があり,予備的にでも訴因変更を請求しておくべきであったにもかかわらず,そのような対応を怠って公判段階で訴因変更を請求し,それを許可すると公判前整理手続の目的を害することになる場合,その請求は権限濫用・信義則違反と評価してよいと解される」との見解を示しており,当てはめの際の参考となると考えられます。
  本問では,公判前整理手続において,各公訴事実に争いはなく,量刑のみが争点となっており,甲の集金権限に関する主張はなく,甲に集金権限がなかったとの事実についても公判段階でAが供述したことではじめて判明したものです。また,本件の訴因変更は,公判段階で判明した上記事実によって必要が生じたために行ったにすぎません。さらに,検察官及び弁護人から追加の証拠調べ請求はなかったことからすれば,訴因変更によって,計画どおりに審理進行ができなくなるともいえず,公判前整理手続の目的を害するともいえないといえます。
  したがって,本問における検察官の訴因変更請求を権限濫用と評価することはできないと判断できると考えられます。
     
4 的中情報★★★
 
スタ論【スタート】2019刑事訴訟法3
    辰已専任講師・弁護士 福田俊彦先生御担当
  別件逮捕・勾留の適法性,公判前整理手続後の訴因変更の可否,訴因変更の可否」
ズバリ的中★★★
  捜査,公判ともに,本問の主要テーマがズバリ的中致しました。受講生の皆様は,極めて 有利であったと思われます。
     
 
2019スタンダード論文答練(第2クール)刑事系2第2問
    辰已専任講師・弁護士 柏谷周希先生御担当
「別件逮捕・勾留の適法性」ズバリ的中★★★
  近時の刑事系論文式試験においては,理論面の知識・理解を問う出題が多いことと,出題の周期性に鑑み,スタンダード論文答練で別件逮捕・勾留の適法性を出題し,ズバリ的中致しました。
     
 
2019司法試験論文本試験刑事訴訟法出題大予想
    「公判前整理手続後の訴因変更」ズバリ的中★★★
  平成28年の論文本試験では,初めて公判前整理手続が問われました。この点,東京高判平20.11.18(高刑集61-4-6)は,公判前整理手続の制度趣旨から公判前整理手続後の訴因変更に関して判示しており,平成28年の出題趣旨と重なるところがあり,出題可能性があるものと判断して掲載し,ズバリ的中致しました。
 
 ●倒産法
■公開:2019年05月27日/12:24
1 はじめに
     例年通り,破産法と民事再生法から1題ずつ,又,倒産実体法と倒産手続法の双方にわたる出題がなされました。重要論点と現場での対応が求められる論点の双方が出題された点も例年通りで,難易度は例年並みと思われます。
   第1問については,租税債権の代位弁済者による権利行使,双方未履行の請負契約の処理,開始時現存額主義といった倒産実体法の重要論点が出題されており,しっかり勉強した受験生であれば,一定レベルの答案を作成できたと思われます。
   第2問のうち,再生計画案の不認可事由(設問1)については,論点になじみがない受験生もいたかもしれませんが,問題文の事情から問題点を抽出して,論理的な答案を作成することが求められます。又,設問2では手続法の理解が求められており,試験現場で必要な条文を抽出した上で,再生手続に関する正確な記述が求められます。
 
2 問題文
    法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
 
3 本問の分析

〔第1問〕
1 設問1について
   A社の依頼に基づき租税債権を納付(代位弁済)したB社が,破産手続において租税債権の優先性を主張できるかが問われています。B社としては上記代位弁済によりA社に対して委任事務処理費用の償還請求権とともに,弁済による代位により原債権(租税債権)を取得したとして,破産手続によらずに財団債権としての原債権を行使すると主張すると考えられます。これに対し,租税債権に優先性が認められた趣旨は国の租税収入の確保にあり,私人である代位弁済者が優先性を主張することはできないとの破産管財人の主張が想定されます。この点について,労働債権に関して代位弁済者の優先性を認めた最判平成23年11月22日と本問との比較,租税債権が財団債権とされた趣旨を踏まえつつ,B社の優先性を認めるか否かについて,論理的に論じることが求められます。
2 設問2について
   設問2では,請負契約において双方未履行の状態で請負人が破産した場合の契約関係の処理が問われています。
   小問(1)では,A社による工事完成が可能,かつ,それが破産財団の利益となると判断されており,破産財団の増殖の観点から請負契約の履行を選択すべき事案と考えられます。論点として,双方未履行の請負契約に破産法53条が適用されるかが問題となりますが,最判昭和62年11月26日を参考に,A社により完成が可能である本問においては破産法53条の適用を認める結論が一般的と思われます。
   小問(2)では,破産管財人が請負契約を解除した場合に,注文者はどのような権利行使ができるかが問われています。まず,解除の範囲が問題となりますが,本件工事は可分であり,注文者Cが既履行部分の給付に関して利益を有していると考えられ,解除の範囲は請負契約の未履行部分に限られると考えるのが一般的と思われます(最判昭和56年2月17日参照)。
   次に,破産管財人Xの解除により注文者Cに発生する損害賠償請求権は破産債権として扱われますが(破産法54条1項),この損害賠償請求権の範囲が問題となります。この点については,D社に残工事を発注したことによる請負代金の増加分とA社が放置した建築廃材の撤去費用について損害賠償請求できるか論じる必要があります。
3 設問3について
   A社の連帯保証人FがAの債務について,破産手続開始前に300万円,開始後に200万円弁済しています。この点,開始時現存額主義に関する破産法104条1項,同条2項に基づきFの破産債権額を論じる必要があります。
 
〔第2問〕
1 設問1について
   再生計画案に不認可事由(民事再生法174条2項)が存在する場合には,裁判所は再生計画案を付議することができません(民事再生法169条1項3号)。そこで,本問のC社の主張が民事再生法174条2項の不認可事由に該当するかを検討する必要があります。
   C社の主張(a)は再生計画案が清算価値保証原則に違反しているというものですから,民事再生法174条2項4号に該当するかが問題となります。本問では,財産評定完了時点と再生計画認可決定日とで予想清算配当率が異なることから,清算価値算定の基準時をいつにすべきか論じた上で,本件再生計画案が清算価値保証原則を満たすか否か検討することになります。
   C社の主張(b)はA社の破綻に責任のある親会社B社の再生債権を劣後して扱うべきとの主張ですから,本件再生計画案にA社の破綻の責任のあるB社について不平等取扱いが定められていないことが,民事再生法174条2項1号の「再生計画が法律の規定に違反」するといえるか論じることになります。本問と類似の事案として東京高決平成23年7月4日(判タ1372号228頁)が参考になります。
2 設問2について
   小問(1)では,再生計画によらない事業譲渡手続についての説明が求められています。再生手続開始後に裁判所の許可を得て事業を譲渡する手続(民事再生法42条1項),及び,本問では親会社B社が事業譲渡に反対しており株主総会で承認を受けることが困難なことから,株主総会の承認に代わる裁判所の許可(代替許可)手続(民事再生法43条1項)について説明する必要があります。
   小問(2)では,債権者集会において再生計画案について過半数の債権者の同意を得られなかった場合の手続について問われています。まず,過半数の債権者の同意が得られずに,再生計画案が否決された場合は,原則として,裁判所は職権で再生手続廃止の決定をしなければなりません(民事再生法191条3号)。この場合は,A社に破産手続開始原因事実があれば,裁判所は再生手続を破産手続に移行させることができます(民事再生法250条1項)。
   他方で,A社の立場に立てば,C社の同意を得られる内容の再生計画案に変更し,破産手続への移行を回避することを検討すべきであり,この点については,再生計画案の変更(民事再生法172条の4),又は,続行期日の指定(民事再生法172条の5)によりC社の同意を得られる内容に変更した再生計画案の決議を求めることが考えられます。

 
4 的中情報★★★
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 ●租税法
■公開:2019年05月27日/12:24
1 はじめに
     所得税法・法人税法の双方からの出題がなされていること,条文操作・事案の当てはめを問う問題と理論面を問う問題の双方の出題がなされていること,論ずべき事項が問題文で明確に指示されていることなど,出題傾向・形式は基本的には例年通りです。ただし,本年度においては,例年出題されていた,所得税法上の所得分類を問う出題はありません。
  また,本年度では,所得税法と法人税法が交錯する場面が多く出題されていますが,租税法の基本的理解が問われているという点は例年と変わるものではありません。難易度は,例年通りあるいはやや易化したと考えられます。
なお,以下では,所得税法,同法施行令,法人税法,同法施行令を,それぞれ所法,所令,法法,法令と略記します。
 
2 問題文
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3 本問の分析

〔第1問〕
1 設問1
  本問の売却は低額譲渡に当たります。低額譲渡は法法22条2項の「有償……による資産の譲渡」に当たるところ,反対給付を伴わない譲渡であっても譲渡時における適正価額に相当する収益を認識すべきという同項の趣旨に照らすと,譲渡対価(本件では3000万円)に加え,これと適正価額との差額(本件では1000万円)も益金算入されます。したがって,本件では計4000万円が益金の額に計上されます。
2 設問2
  第1に,譲渡原価3000万円が損金算入されます(法法22条3項1号)。
  第2に,これと適正価額との差額1000万円は,実質的には乙への退職給与と評価できるため,「一般管理費」として損金算入されるのが原則です(同項2号)。もっとも,恣意的な所得調整を防止する趣旨から,特殊関係使用人への過大な退職給与は損金不算入とされています(法法36条)。乙は特殊関係使用人に該当するため(法令72条1号),法令72条の2括弧書に基づき算定される「相当であると認められる金額」(本問の事情のみでは算定しかねますが,基本的には退職金規程上の金額相当額)の限度でのみ損金算入が認められます。
3 設問3
  雑損控除の適用があることを,所法72条1項の要件に即して論じます。その際には,全ての要件につき,必要に応じて意義を明らかにしつつ,丁寧に当てはめをしていきます。特に,①本件建物が,関連する裁判例に照らせば所令178条1項2号に該当しないこと,②「事業」用資産(所法70条3項,51条1項)にも該当しないこと,③本件の暴風雪が所令9条所定事由に該当すること,④本件建物は所法38条2項所定の資産であるため所令206条3項に従い損失の金額が計算されることなどへの言及が重要でしょう。
  本件では,所法72条1項1号に基づき,7万円の雑損控除が認められます。
4 設問4
  法法では,損失全額が損金算入されます(法法22条3項3号)。これに対し,所法では,損失に係る資産の性質に応じて,所法51条1項又は4項に基づき必要経費に算入される場合と,所法72条に基づき雑損控除される場合の2種類の費用化パターンが規定されているところ,それぞれにおいて費用化できる損失の額が異なり,常に損失全額の費用化が認められているわけではありません。これは,法人には専ら経済活動のみが観念されるのに対し,個人には経済活動以外にも生活・消費活動が観念されるからです。
 
〔第2問〕
1 設問1
  本問の売却では,時価による譲渡とみなして譲渡所得を計算します(所法59条1項2号,所令169条)。したがって,時価2500万円が譲渡所得の総収入金額に算入されます(所法33条1項,3項柱書,36条)。
  また,取得費(所法38条)については,第1に,Aの取得費が引き継がれるため(AX間売買につき所法60条1項2号,59条2項),1400万円が算入されます。第2に,事実③の所有権移転登記費用(付随費用)の算入可否が,60条の文言上問題となりますが,ゴルフクラブ会員権事件判決(最判平成17年2月1日)の理解に照らせば,算入を肯定すべきです。
  そして,甲土地に係る譲渡所得は長期譲渡所得に該当するところ,長期譲渡所得はその1/2相当額が総所得金額に算入されます(所法33条3項2号,22条2項2号)。
2 設問2
  B社は時価2500万円の資産を1000万円で低額譲受けしているため,差額1500万円を受贈益と認識して益金算入しなければ,課税の公平を損なう結果となります。
  この点,低額譲渡を有償による資産譲渡とした南西通商事件判決に照らせば,低額譲受けも「有償による資産の譲受け」と捉えるのが整合的です。しかしそうすると,法法22条2項のどの文言にも該当せず,受贈益の益金算入が認められなくなってしまいます。そこで,適正価額による取引の場合との課税公平を図るとの同項の趣旨に照らし,低額譲受けを同項の「無償による資産の譲受け」と解して受贈益相当額を益金算入するとの解釈が考えられます。あるいは,X側で所法59条1項により時価譲渡が擬制されることとの平仄から,「時価2500万円での売買+1500万円の贈与」と取引を2段階に引き直す解釈も考えられ,この場合には後者が「無償による資産の譲受け」に該当して益金算入されます。
3 設問3
  Xの見解は,借用概念論に基づくものと考えられます。そこで,まずは借用概念論の内容を説明する必要があるでしょう。
  次に,「医薬品」に借用概念論が妥当するかを論じることになります。例えば,①借用概念論は私法関係を念頭に置いた議論であるため,行政法規である薬機法について直ちに借用概念論が妥当するわけではないこと,②薬機法の目的(同法1条)と医療控除制度の趣旨(担税力減少の補填)とでは目的が異なることなどを重視すれば,両法の「医薬品」を同義に解すべきではないとの結論が導かれるでしょう。

 
4 的中情報★★★
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 ●経済法
■公開:2019年05月27日/12:24
1 はじめに
     今年の経済法の第1問は,典型的な入札談合事件の事実関係を前提に,参加者ごとに不当な取引制限(独占禁止法3条後段,2条6項)の成否を問うものです。スタンダードな問題ですが,全体的に事実関係が詳細に記載されているので,あてはめでどこまで事実関係を拾って丁寧に論じることができるかが重要になると考えられます。
  第2問は,競合する事業者間の企業結合(一般に「水平型企業結合」と呼ばれます。)について独占禁止法上の分析(設問1)を行い,当事会社が提案するいわゆる問題解消措置についての検討(設問2)を行うもので,特に設問2については実務的な問題といえます。
 
2 問題文
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3 本問の分析

〔第1問〕
1 Bについて
  Bについては,入札談合の基本合意に参加していることと事実関係から認定しつつ,平成30年6月15日の会合でのやり取りからの一連の流れにおいて,入札談合からの離脱が認定できるか,認定できるとしていつであるか(6月15日の会合での出来事で離脱を認定するか,8月1日の除名をもって離脱を認定するか,離脱を全く認定せずに公取委の立入検査の時点を入札談合の終期とするか)などを検討していくことになります。入札談合からの離脱に関する東京高裁判決(岡崎管工事件:東京高判平成15年3月7日)の規範を前提にすると,B社が受注調整行為からの決別を宣言した6月15日をもって離脱が成立し,7月30日の入札案件についてはBは違反者とはいえないという結論になります。
2 Jについて
  Jについては,そもそも基本合意に参加した事業者であるかを事実関係に即して丁寧に論じていく必要があります。Jは基本合意の内容について話し合われた最初の会合には参加しておらず,自社で受注できる案件については低価格で入札をしようと思っていたものの,他の種類の工事については7社の協力を得たいため,要請があれば7社間での入札談合に協力することを考えていたという事実関係について,相互拘束性を有する意思の連絡が認められるかを中心に論じていくことになります。

〔第2問〕
1 設問1について
  設問1では,Y社とX社との合併が,「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」(法15条1項1号)に該当し,独禁法上禁止されるかを事案に即して検討することになります。
  まず,「一定の取引分野」の画定については,需要の代替性の観点から針甲の製造販売分野を一定の取引分野として確定することになるでしょう。
  次に「競争を実質的に制限することとなる」か否かについては,単独行動による競争の実質的制限と協調行動による競争の実質的制限の両者を検討することがポイントです。単独での競争制限については,当事会社の合算シェアが55%と比較的高いこと,有力な競争事業者であるA社は存在するものの供給余力がなく有効な牽制力として機能しないおそれがあること,国内の承認制度や使い慣れの問題などにより針甲の輸入・参入障壁が高いことなどを総合的に考慮した上で判断することになります。また,協調による競争制限については,以上の要素に加えて,市場におけるプレーヤーが3社から2社になり寡占が進むこと,顧客が頻繁に製品変更をしないため事業者間の競争が活発な市場であるとはいえないことなどを考慮し,判断していくことになります。結論として,単独・協調いずれの観点からも独禁法上問題となりそうな案件といえます。
2 設問2について
  設問2では,上記の案件で独禁法上問題であると判断された場合,付加された事実関係の下でどのような問題解消措置をとることが考えられるかを検討させる問題です。
  企業結合案件において独占禁止法上の問題点が指摘された場合に当事会社がとる措置(問題解消措置)としては,大きく分けて,事業譲渡等構造的に問題を解消する措置と,ライセンスの付与等当事会社間の行動によって問題を解消する措置があり,前者が原則とされています。そこで,まずは,M社に対する全部又は一部の事業譲渡を行い,独立した競争単位として存続させて競争状態を維持することが考えられます。M社が針甲の事業を営む強いインセンティブを有し,製造設備・人材を得れば独自に事業を営むことができるという事情の下では,事業譲渡によってM社が有力な競争事業者となることが想定され,問題解消措置としては適当なものと判断されることになります。
  また,行動的措置として,事業としては譲渡しないものの,M社に対して針甲を一定量当事会社からコストベースの価格で買い受けることができる権利を与えることも考えられます(このような措置が認められた代表例として,新日鉄・住金事件(平成23年度主要な企業結合事例2)があります。)。この点についても触れられると高得点を狙えるのではないかと思われます。

 
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 ●知的財産法
■公開:2019年05月30日/13:37
1 はじめに
     第1問は,受験生が得意ではないと思われる「方法の発明」についての出題でした。もっとも,問題文に争点が明示されており,著名な判例を基にする問題が多かったことから,事案に即して冷静に対処すれば適切な解答をすることは難しくなく,例年より易しめな問題だと考えられます。
  第2問は,創作性判断や消尽論など,司法試験の著作権法の問題としては,あまり典型的とはいえない論点が出題されました。そのため,例年よりもやや難化したと考えられます。明確な答えがあるというよりは,限られた事実と事案の特徴に注視し,自分なりの結論を出すことを要求されていたといえるでしょう。著名な裁判例を題材に採りつつ,正確な条文操作や事案に即した思考力をも見る良問といえます。
 
2 問題文
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3 本問の分析

〔第1問〕
1 設問1について
  本設問では,Yは,本件発明の特許を受ける権利は甲に属していたとして,権利行使制限の抗弁(特許法〔以下略〕104条の3第1項・123条1項6号)を提出します。本件発明が職務発明(35条1項)に該当しなければ,特許を受ける権利はXに帰属しなかったこととなりますが(35条2項),甲はXの研究開発部門に所属しており,勤務時間中にXの施設内でXの資材を用いて完成させたという事実からは,たとえ上司に反対されていたとしても「職務に属する発明」といえ,Yの反論は認められないことになるでしょう(東地判平14.9.19〔青色発光ダイオード事件中間判決〕参照)。
2 設問2について
  小問(1)では,Yは,当初発明は公用であったから無効事由があり,補償金請求は認められない(65条6項・104条の3・123条1項2号・29条1項2号)と反論します。
  小問(2)では,Yは,当初発明にもとづく警告を受けただけで,補正後に再度の警告を受けていないから,「特許出願に係る発明の内容を記載した書面」による「警告」(65条1項)がなされていないと反論します。補正後の再度の警告の要否に関する最判昭63.7.19〔アースベルト事件〕によれば,「第三者の実施している物品が補正の前後を通じて考案(発明)の技術的範囲に属するとき」には再度の警告を要しないとしており,これによれば再度の警告は不要とも思われます。しかし,同判例は,警告ないし悪意を要件とした立法趣旨を「第三者に対して突然の補償金請求という不意打ちを与えることを防止するため」としているところ,Yは,当初発明は公用で新規性がないから拒絶され,設定登録されることはないから補償金請求もなされない(65条2項)と考えて実施を継続したところ,補正によって設定登録がなされたのであって,補正後に再度の警告がなされなければ,不意打ちとなります。したがって,Yの反論は妥当と解されます。
3 設問3について
  本設問では,本件方法の発明の実施にのみ用いられる物である物の製造販売は,間接侵害となる一方(101条4号),輸出は間接侵害とならないところから,全量がZにより輸出されるMのYによる製造販売は間接侵害となるのかを考えさせる問題です。
  輸出が間接侵害とならない理由は,直接侵害に該当する行為は外国で行われるから,輸出を間接侵害とすることは我が国特許権の効力を海外にも拡張してしまうものであることによります。そこで,全量が第三者によって輸出されることが確実である場合には,そのための製造販売は間接侵害とならないという立場もあり得ますし,国内で製造販売することは,その時点で101条4号の文言に該当する間接侵害に該当するものであって,その後の物の流通状況によって間接侵害該当性が変化することは合理性がないから間接侵害が成立するという立場もあり得ます。結論はいずれでもよいでしょう。

〔第2問〕
1 設問1について
  前段では,仏像彫刻作品Aは仏教美術の仕来りに従ったもので,創作性を認めることが可能かが問題となり,外観の表現αにおいて,X1独自の世界観・宗教観が反映されていれば,これを認めることができると考えます。
  後段では,Bは実用品でなく応用美術とは言い難いですが,量産品であることから,応用美術に関する創作性の議論と同様に,高度の美的特性を要求すべきか,知高判平27.4.14〔TRIPP TRAPP事件〕と同様に個別具体的に作者の個性が発揮されていればよいかについて述べることとなるでしょう。
2 設問2について
  小問(1)では,まずY1境内は「一般公衆に開放されている屋外の場所」(著作権法〔以下略〕45条2項)に該当し,Aの利用は原則としては許されていますが(46条柱書),Y1による絵はがきPの製造と販売は46条4号に該当するため,複製権(21条)及び譲渡権(26条の2第1項)の侵害であることが前提となります。したがって,譲渡権は消尽(26条の2第1項1号)しておらず,Y2の販売行為は,譲渡権の侵害となります。もっとも,Y2は,P2の購入時に消尽していないことについて善意であることから,113条の2の適用があるようにも思われますが,同条は「無過失」をも要求しているため,同条によっては正当化されず,X1は差止めを請求できます。
  小問(2)では,X1の許諾があるので,Y1の販売により譲渡権は消尽しています。Y1が許諾料を支払っていない点は,契約違反にすぎず,許諾を無効とするものではありません。したがって,X1は差止めを請求できません。
3 設問3について
  本設問は,知高判平22.3.25〔駒込大観音事件〕を題材にしたものです。X1が生きているとしたならば同一性保持権(20条1項)の侵害となるべき行為(60条本文)であり,20条2項4号にも60条ただし書にも当たらないことを指摘した上で(みなし侵害(60条本文・113条7項)をも指摘してもよい。),名誉回復等措置(115条)のうち,何が認められるべきかについて論じたいところです。前記裁判例では,原審が仏頭部の原状回復を認めたのに対して,知財高裁は,Y1が信仰の対象とする目的でX1に制作を依頼した仏像であり仏頭部のすげ替えは本来の目的に即した補修行為の一環であると評価することもできることなどから,原状回復は適当でなく,訂正を含む謝罪広告をもって,X1の名誉声望の回復措置としては十分だとしました。

 
4 的中情報★★★

〔第1問〕
・2019司法試験全国公開模試(知的財産法)第1問
「職務発明」★★
・2019選択科目集中答練第2回(知的財産法)第1問
「補償金支払請求における警告後の補正の際の再度警告の要否」★★★
・2019選択科目集中答練第3回(知的財産法)第1問
「間接侵害と従属性」★★★
「特許法101条1号の『にのみ』要件」★★
・2019選択科目集中答練第5回(知的財産法)第1問
「職務発明該当性」★★★

〔第2問〕
・2019司法試験全国公開模試(知的財産法)第2問
「応用美術の著作物性」★★★
・2019スタンダード論文答練(知的財産法2)第1問
「消尽と交換部分の取替え」★★
「ライセンス契約による制限の違反」★★
・2019スタンダード論文答練(知的財産法2)第2問
「著作権の利用許諾」★★
・2019選択科目集中答練第1回(知的財産法)第2問
「応用美術の著作物性」★★★
・2019選択科目集中答練第3回(知的財産法)第1問
「特許権の消尽と新たな製造」「所有権の留保(特許製品の一部の貸与)と消尽」★★
・2019選択科目集中答練第5回(知的財産法)第2問
「著作権法第60条及び第116条」★★★
「著作権法第46条と公開美術著作物の利用」★★★
「著作権法第113条の2及び第113条」★★★
・2019選択科目集中答練第8回(知的財産法)第2問
「著作者の死後における遺族による著作者人格権(同一性保持権)の行使/著作権の相続」★★★
「著作権法20条2項4号にいう『やむを得ないと認められる改変』」★★

 ●労働法
■公開:2019年05月30日/12:45
1 はじめに
    論文本試験の労働法の設問については,第1問が個別的労働関係に関する出題であることは一貫していますが,第2問については,集団的労働関係に関する出題がされるか,もしくは個別的労働関係に関する論点と集団的労働関係に関する論点との融合問題が出題される傾向にあります。本年度は,第1問が個別的労働関係に関する出題,第2問が集団的労働関係に関する出題と,オーソドックスな出題形式になりました。
  なお,近年は,労働組合法上の労働者概念,派遣法違反と派遣先の雇用責任など,比較的直近に注目される裁判例で示されているテーマがしばしば出題される傾向にありましたが,本年度は,第2問が2018年の注目裁判例をほぼそのまま下敷きにしたような事例が出題されました。受験生としては,直前の年も含め,近年の注目される裁判例をチェックしておくことが重要であることが改めて示されたといえそうです。
 
2 問題文
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3 本問の分析

〔第1問〕
  第1問は,普通解雇の有効性についてストレートに問われる出題でした。特に,設問1については労働契約法16条に基づく解雇権濫用法理を当てはめればよいだけであり,判断枠組みや判例の考え方に対する深い理解などは問われない,シンプルな設問といえます。他方で,解答に当たっては,事例の中の事実をどのように構成するのかなど,実際的な答案の構成力が試される出題となりました。
1 設問1について
  設問1は,「Xから解雇を争いたいという相談を受け」,「本件解雇の適法性や効力について」どのように考えるべきか,と問われていますから,直接的にはY社によるXの解雇について検討すればよいことになります。
  まず注意すべきは,「解雇を争う」,「解雇の適法性や効力」について考えるとされ,さらに請求や主張の仕方に触れる必要があるとされている点でしょう。
  このことから,本件解雇について予告がなされず,解雇予告手当が支払われていない点について,労働基準法20条違反の問題に触れつつ,同条の違反の有無だけでなく,違反とされた場合にどのような効果となるのか(どのような請求が可能か)をきちんと検討する必要があると考えられます。
  次に,Xに対する解雇の有効性(労働契約法16条)が問題となります。ここでは,「主張の仕方」の触れることが設問文において示されていることから,Y社側からいかなる反論がありうるのかという点を意識して,答案を構成することが求められていると考えられます。例えば,就業規則32条2号との関係でいえば,単にXについて勤務上の問題点が些細なものであることを指摘するだけでなく,Y社から,Xの勤務成績が低下していること及び成績評価については使用者(Y社)に裁量がある旨を主張してくるであろうことを意識しつつ,それへの反論を念頭に解答を構成する必要があると考えられます。また,Xの解雇の直接の契機となった,文書を破り捨てた件についても,形式的には就業規則32条4号に該当しうることを意識しつつ,これを理由とする解雇が社会的相当性を欠くことについて,単に関係する事実を並べるだけではなく,論理的・説得的な答案を構成できるか否かが高得点の答案となるか否かを左右したものと思われます。
2 設問2について
  設問2では,Y社によるXの解雇がなされた以降に,新たに解雇事由となりうる事実が判明したことが問題となっています。この点,解雇時に被解雇者に対して示された解雇事由とは異なる事由を裁判において主張できるかという点については,最高裁判例は存在せず,学説の評価も分かれています(追加的な主張の可能性を許容する立場として,菅野和夫『労働法(第11版補正版)』753頁(同頁の注には,追加的主張を許容した下級審判決も例示されている。)。他方,これに否定的な立場として,土田道夫『労働法概説(第4版)』278頁がある。)。したがって,Xの経歴に虚偽が含まれていることについては,そもそもこれを解雇理由としてXに対して主張しうるか否かについて検討する必要があるでしょう。なお,上記の通り,最高裁判例が存在せず,学説の評価も分かれていることから,結論はいずれでもよく,その理由付けが適切であるか否かがポイントになると考えられます。あえていえば,労働基準法22条の制度趣旨から容易に導くことができる消極説の方が答案は書きやすいものと思われます。なお,後から判明した事由の追加主張の可否ということで,受験生としてはうっかり山口観光事件(最一小判平8.9.26)を援用したくなるところですが,同判決は,懲戒処分について,二重処分が問題となった例であり,普通解雇である本件については,同事件の最判の理屈は当てはまらない点に注意する必要があります。
  そのうえで,仮に後から判明した事由について,解雇理由として主張しうるとした場合,本件経歴詐称が解雇を正当化する事由に該当するか否かが問題となります。経歴詐称が懲戒事由や解雇事由となりうることについては一般に肯定されていますが,それが解雇を正当化する事由となるには,詐称が重大であることを要するとされます。本問の場合,当初は契約社員として採用され,その後働きぶりを評価されて常勤スタッフとなった経緯を考慮すると,Xの経歴はY社がXを採用し,登用した理由において大きな比重を占めていないと評価することもでき,これをもって解雇を正当化する事由と評価できるかは微妙なところでしょう。ここでも,結論そのものの当否ではなく,事実関係の適切な把握,相手方の反論を意識したうえで,論理的な答案が構成できているかどうかが評価の分かれ目となると考えられます。

〔第2問〕
1 設問1について
  設問1は,静岡県・県労委(JR東海〔組合掲示物撤去〕)事件(東京高判平29.3.9)について,多少のアレンジを施したうえで,ほとんどそのまま設問化したものであり,この事件の高裁判決をきちんと勉強していれば,簡単に解答できたと思います。他方,上記裁判例を知らなかった受験生は,掲示物の撤去という事実から,使用者の施設管理権の問題であると早合点してしまい,本問の本質がわからないままに終わってしまった人もいるでしょう。
  本問では,使用者の施設管理権と組合活動の権利の調整それ自体が問われているのではなく,施設管理権の行使に当たり,労働協約で定められた撤去事由の該当性について,どのように判断するのか,という点が問題となっています。その意味では,第1問と同様,設問中の事実関係と,そこから導かれる法的な問題点を適切に抽出する能力こそが問われた設問ともいえるでしょう。すなわち,本件掲示物の内容が,労働協約の29条に該当するか,ひいては28条に該当するか,51条の内容も踏まえつつ,評価検討することが重要だということになります。確かに,労働協約51条で禁止されている,苦情委員会での内容を掲示板に記すことは,形式的には同条に違反することにはなりますが,他方で,苦情処理委員会を含めた使用者の対応に抗議することは,組合活動として正当と考えられ,抗議のためには苦情処理委員会での実際の対応について記すことは不可欠であること,またY社側の主張も示して,一方的な誹謗や事実に反する内容とはなっていないと考えられることから,本件撤去は労働協約29条に該当せず,支配介入の不当労働行為を構成するという結論になると考えられます。
  なお,不当労働行為の救済方法については,裁判所による司法救済と労働委員会による行政救済の2つの手段が考えられること,また救済内容として具体的にどのような申し立てをするのかについては,基本的な点ですので多くの受験生が対応できたものと思われます。
2 設問2について
  設問2は,チェック・オフの中止が支配介入の不当労働行為を構成するかどうかという点が論点になります。これについても,直近の国・中労委(大阪市〔チェック・オフ〕)事件(東京高判平30.8.30)で重要な判断が示されています。同判決によれば,使用者は,チェック・オフの廃止に当たっては,団体交渉等の労使協議の中で十分に議論を尽くし,チェック・オフ廃止の理由を具体的に説明するとともに,労働組合に与える不利益の程度等に応じて,不利益緩和措置等について吟味すべきであり,そうした労使協議等を十分に尽くさない場合には,手続的配慮を欠くものとして支配介入を構成するとしています。同事件の判決を知っていれば,こちらも容易に解答できたと思われますが,仮にこれを知らなかったとしても,チェック・オフがあくまでも使用者による便宜供与にとどまり,法的な義務ではない一方,こうした便宜供与についても,すでに従前から供与している便宜を一方的に中止することは,正当な理由がなければ組合活動に打撃を及ぼすものとして支配介入を構成しうることは,便宜供与と支配介入の成否についてきちんと勉強していれば考え付いたと思われます。こうした点を踏まえたうえでの解答ができていれば,十分,及第点には達したものと思われます。

 
4 的中情報★★★

〔第1問〕
・2019選択科目集中答練第6回(労働法)第1問
「懲戒処分の有効性」

〔第2問〕
・2019スタンダード論文答練(労働法1)第2問
「チェック・オフの中止申入れ拒否(=チェック・オフの不当継続)」「チェック・オフの不当継続と支配介入(労働組合法7条3号)」★★
・2019選択科目集中答練第8回(労働法)第2問
「チェックオフ申請拒否と支配介入の成否」★★

 ●環境法
■公開:2019年05月30日/13:37
1 はじめに
     第1問は,実務上提起され得る水質汚濁防止法等の解釈・運用について,分野横断的な視点から問うものです。水質汚濁の効果的な対策を促進するうえで重要となる,基準に関する適切な制度設計の理解,及び関係法令の解釈・適用,並びに政府・都道府県・市町村の各場面に応じた理解が問われています。
  第2問は,実務上提起され得る廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)等の解釈・運用について,様々な具体的場面に即した見地から理解を示すことを求めるものです。
 
2 問題文
    法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
 
3 本問の分析

〔第1問〕
1 設問1について
  〔設問1〕は,水質汚濁に係る環境上の条件に関する基準の設定の仕方の相違,具体的には,人の健康の保護に関する環境基準と生活環境の保全に関する環境基準の設定の仕方がどのように異なるかを尋ねています。
  ここで,「政府は,…水質の汚濁…に係る環境上の条件について,…人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする」の規定(環境基本法16条1項)及びその背景に関する理解が問われています。
  この点について,【資料1】を参考にして,水質汚濁対策の対象水域及び達成期間等の相違を示した上で,水質汚濁に係る環境上の条件に関する基準の設定の仕方が異なる背景についての理解を示すことも求められています。
  具体的には,設定の相違の内容として,規制水域が全公共用水域かあるいは各公共用水域の特定の水域か,また,達成期間が設定後直ちに達成・維持されるように努めるものかあるいは可及的速かにその達成維持を図るにとどまるかといった点が挙げられます。かかる相違が,未然防止原則からどのように位置づけられるかの理解を示すことができるとなおよいといえるでしょう。
2 設問2について
  〔設問2〕は,水質汚濁防止法に基づく対策では閉鎖性水域の一部において特定の環境基準が達成されない場合を想定して,都道府県の採ることができる措置について尋ねています。
  ここで,自然的・社会的条件から判断して一律基準によっては水質汚濁防止が不十分と認められる水域に関する法制度の理解が問われています。
  まず,当該水域について,政令で定める基準に従い,条例で全国一律の排水基準に「かえて」適用される,より厳しい基準,上乗せ基準が素材となっていることが想起されます(水質汚濁防止法3条3項)。そこで,【資料2】を参考にして,同項所定の「条例」において定められるであろう,水質環境基準が維持されるため必要かつ十分な程度の許容限度に関する理解を示すことが求められています。
  具体的には,都道府県知事は,上乗せ基準を含む排出基準に違反しているおそれがある場合,改善命令・一時停止命令を行うことができます(水質汚濁防止法13条1項)。また,総量規制基準違反のおそれがある場合にも,処理方法の改善等を命ずることができます(同条3項)。これら都道府県が採ることができる措置は,「おそれ」の段階で命令できる点で,未然防止原則に対応しています。
3 設問3について
  〔設問3〕は,水質汚濁に係る環境基準が設定されていない物質を規制する場合を想定して,市町村の採ることができる措置について尋ねています。
  ここで,条例において規制対象項目等を増加させることを認める水質汚濁防止法上の条文(29条)及び条例制定の法制度(憲法94条参照)の理解が問われています。
  この点について,水質汚濁防止法29条各号の要件に留意し,同項所定の「条例」において定められるであろう,水質環境基準が維持されるため必要かつ十分な程度の許容限度に関する理解を示すことが求められています。
  具体的には,水質汚濁に係る環境基準が設定されていない物質の特性,当該物質を含む水を排出している特定事業場が多数存在する地域性を考慮し,29条1号該当性を判断し,同法の趣旨目的(1条参照)に照らし,同法は地方公共団体が条例で人の健康を害するおそれのあると報告されている物質を規制することを許容するとの立論が考えられます。

〔第2問〕
1 設問1について
  〔設問1〕は,再資源化に要する加工処理について,使用済み家庭用電気機器を集めて金属類を取り出してきた再資源化業者自らが行うか,別の再資源化業者に委託するかを対比させることで,廃棄物処理規制の法制度の理解を問うものです。
  ここで,自己処理において想定される法適用及び再資源化に関する適用除外に関する理解,並びに委託処理において別途考慮される法適用に関する理解が問われています。
  具体的には,テレビ等の使用済み家庭用電気機器を集めて再資源化する業者が,その解体時に生じる廃プラスチック片を加工処理する点で,産業廃棄物に関する法規制が適用されます(廃棄物処理法2条4項1号)。
  産業廃棄物については,排出事業者の自己処理が原則とされています(11条1項,3条1項)。自己処理の場合,その業態に応じて,新たに業許可(14条1項本文・6項本文)・施設設置許可(15条1項本文)を要するのか,再資源化の見地から当該許可を要しないか(14条1項但書・6項但書,15条1項但書)等の考慮が必要になります。
  そして,委託処理の場合(12条5項),自己処理が不法投棄の温床と指摘されてきたことから整備された法制度,すなわち産業廃棄物管理票制度(12条の3)を考慮する必要があります。たとえば,排出事業者の交付義務(同条第1項)や写しの確認義務・保存義務(同条第2項・第6項)等の考慮が必要となります。
2 設問2について
  〔設問2〕小問(1)は,家電機器の保管が適正でなかったことから人の健康または生活環境に係る被害が生じ得る段階で,都道府県知事の採ることができる措置について尋ねています。
  ここで,産業廃棄物の自己処理がしばしば不法投棄の温床となることが指摘されてきたことを受けて,不法投棄と原状回復に関する法制度の理解が問われています。
  まず,設問2小問(2)での「更に放置」という事情の前段階で,不法投棄既遂(16条,25条1項14号)または不法投棄未遂と解する場合(16条,25条2項),刑事告発(刑事訴訟法239条2項)の措置が考えられます(もっとも,この措置は事業者に対する措置としては原状回復措置に比べ迂遠と解される余地があり,検討を要しない可能性があります。)。
  次に,措置の対象が当該保管を行った者であること,保管が適正になされなかったことから,廃棄物処理法19条の3第2号に基づく改善命令が考えられます。また,これら事情に加えて生活環境の保全上支障が生ずるおそれがあると認められることから,廃棄物処理法19条の5第1項1号に基づく措置命令が考えられます。この措置命令の名宛人が当該命令に反する場合,同法19条の8第1項に基づく代執行が考えられます。
  〔設問2〕小問(2)は,異なる立場の者からの法的請求についてそれぞれ問うものです。各法制度の横断的な理解が問われています。
  まず,県知事の措置としては,山積みの家電機器の更なる放置という事情が加わっていることから,不法投棄既遂(16条,25条1項14号)として刑事告発(刑事訴訟法239条2項)の措置が考えられます。また,廃棄物処理法19条の3第2号に基づく改善命令,同法19条の5第1項1号に基づく措置命令,同法19条の8第1項に基づく代執行が考えられます。
  次に,山積み場所の周辺の農家の請求としては,人格権・所有権・環境権に基づく妨害排除請求または妨害予防請求が考えられます。また,主位的請求として19条の8第1項に基づき代執行の義務付けを求め,予備的請求として19条の5第1項に基づく措置命令の義務付けの訴えを提起することも考えられます(行政事件訴訟法37条の2)。
  なお,工場敷地内で山積みの家電機器が劣化等しその下から有害物質を含む液体が染み出しているという具体的事情において,有害物質を使用・貯蔵する施設が工場敷地内にある等の事情が明らかでない本問においては,当該工場が「特定事業場」(水質汚濁防止法2条6項)に当たるとして同法に基づく措置を想定することは容易でないと思われます。

 
4 的中情報★★★

〔第1問〕
・2019選択科目集中答練第6回(環境法)第2問
「水質汚濁の特質・排水基準の限界に着目した総量規制手法の理解」★★★
「水質汚濁に関する環境基準と排水基準規制の概要」★★
「水質汚濁防止法と上乗せ条例」★★

〔第2問〕
・2019スタンダード論文答練(環境法1)第2問
「『みだりに』(廃棄物処理法16条)の意義」★★★
「『捨て』る(廃棄物処理法16条)の意義」★★★
「廃棄物処理法に基づく措置命令等の検討」★★★
「行政の自主的な対応」★★★
・2019スタンダード論文答練(環境法2)第1問
「産業廃棄物管理票制度(マニフェスト制度)」★★★
・2019選択科目集中答練第6回(環境法)第1問
「非申請型義務付け訴訟の可否」★★
・2019選択科目集中答練第8回(環境法)第1問
「廃棄物処理法に基づく改善命令・措置命令・代執行等の検討」★★★
「廃棄物処理法16条の『みだりに』『捨て』るの意義」★★★

 ●国際関係法(公法系)

■公開:2019年05月27日/12:24

1 はじめに
     第1問は,スペイン対カナダ漁業管轄権事件(エスタイ号事件)を土台とした出題であり,近年の日本周辺のサンマ漁などの問題が背景にあるように思われます。第2問は,民族対立や武力行使がテーマとなっており,司法試験でしばしば出題されるタイプの事例といえます。出題の背景として,シリアやイエメンの問題が念頭にあるのかもしれません。2問とも,基本論点と現代的論点のセットとなっており,基礎的な点について確実に得点しておくことが求められる出題であったように考えられます。
 
2 問題文
    法務省HPにて公開された論文式試験選択科目の問題文はこちら
 
3 本問の分析

〔第1問〕
1 設問1について
   やや難問と考えられます。エスタイ号事件が本案まで進んでいれば,主たる争点となったであろう国家管轄権の域外適用に関する出題です。禁漁区の設定という立法管轄権と,拿捕・逮捕という執行管轄権に分けて論じる必要があります。漁業規制に関して,公海においては旗国主義が原則であり,属人主義も妥当します。本問A国の行為は,そのいずれにも該当しないため,内政干渉や他の国際法規則の違反にあたる場合には,その国内立法は許容されないと考えられます。そして,公海自由の原則に反する禁漁区の設定は,国際法上許容されないように思われます。他方で,公海上の拿捕等の執行管轄権の行使は,海賊行為の取締り等の一定の場合に限定されており,それらに該当しない本問の行為は許容されないといえます。緊急避難による違法性阻却も困難でしょう。競争法の効果理論や,GATT20条に関する米国マグロ輸入制限事件などが参考になります。
2 設問2について
   環境保護のためにオランダ船舶を妨害した行為が海賊行為と認定された,1986年のシリウス号事件が参考になります。本問では,まずXの行為が海賊行為ではないと主張すべきと考えられます。そのため,国連海洋法条約101条に基づき,シリウス号事件とは反対に,Xの環境保護行為は私的目的ではないため海賊行為ではないとの正当化を図ることが考えられます。そのうえで,仮に海賊行為だとしても,海賊行為の取締りは権利であり義務ではないため,B国の要請に従う必要はないといえます。
3 設問3について
   エスタイ号事件では,本件と同様の留保を許容し,管轄権なしと判断されています。同事件では,選択条項受諾宣言は,国家の一方的行為であり,条約法条約の解釈体系とは同一ではないと判示されています。そして,その国家の意思を十分に考慮して,受諾宣言と留保を一体のものとして解釈することで,公海漁業の執行措置に関する紛争を除外する留保を許容しています。国際法違反の国内法に関する責任追及を回避するための留保の修正は,非難はされるものの,許容されているのが現状といえます。本問はほぼ同様の事件であるため,留保に関する先決的抗弁は認められると考えられます。エスタイ号事件以外に,ニカラグア事件の際のアメリカのシュルツ書簡が参考になります。

〔第2問〕
1 設問1について
   外交的保護権の行使にあたっては,国際法違反以外も追及できますが,本問の解答は国際法上の主張に限定されています。まず,国内救済完了原則と国籍継続原則を満たすため,B国は外交的保護権を行使できます。実体的内容としては,恣意的な逮捕の禁止(自由権規約第9条1項),上訴の権利(同第14条5項),人種差別のない法の前の平等(同第26条,人種差別撤廃条約)などの慣習国際法に違反するかたちで甲の人権侵害がなされている旨主張できると考えられます。国外退去処分については,自由権規約第13条に規定がありますが,裁判によって決定されている以上,国際法違反を主張するのは難しいかもしれません。また,一連のA国の措置によって甲が経営破綻したことは,間接収用(しのびよる収用)といいうるため,適切な補償がなされていなければ収用に関する慣習国際法違反であると主張することができます。
2 設問2について
   ジェノサイド条約適用事件において,反政府勢力(スルプスカ共和国)の行為が外国政府(セルビア)に帰属するのは,「全般的支配」ではなく「実効的支配」(国家責任条文第8条)が及んでいる場合であると判示されています。実効的支配があるというためには,国家による指示,指揮または支配が反政府勢力に対してなされていることが要件となります。本問では,B国からY民族戦線に訓練や武器供与,財政支援が行われており,全般的支配は及んでいるといえますが,実効的支配があるとはいえません。そのため,Y民族戦線の行為はB国には帰属せず,B国が直接的にその行為の責任を問われることはないと考えられます。他方で,ジェノサイド条約第1条のような防止する義務が本件にも妥当するかは判断の難しいところであるといえます。ニカラグア事件のように,訓練・武器供与については武力行使禁止原則違反,財政支援については内政不干渉義務違反の責任を問うことが可能と考えられます。
3 設問3について
   武力行使禁止原則の例外として,①自衛権と②安保理の許可があり,③領域国の同意がある場合にも許容されるとする見解があります。本問では,②の許可はなく,B国内ではなくA国を空爆しているため,③も妥当しません。そのため,集団的自衛権として正当化できるかが問題となり,C国の立場からは,正当化できると解答する必要があります。武力攻撃の発生,必要性,比例性(均衡性)という個別的自衛権の要件に加え,武力攻撃を受けた旨の宣言と集団的自衛権行使の要請という集団的自衛権の2つの要件について検討し,いずれも該当するため,集団的自衛権として正当化されると解答すべきと考えられます。

 
4 的中情報★★★

現在確認作業中です。判明次第,公開いたします。

 ●国際関係法(私法系)

■公開:2019年05月27日/12:24

1 はじめに
     今年度の問題も,第1問が国際家族法に関する問題(50点),第2問が国際財産法に関する問題(50点)でした。国際私法・国際民事手続法・国際取引法という区分によれば,今年度も,国際取引法の分野からの出題がなかったといえます。
  もっとも,第1問と第2問とも,出題形式は例年と異なっており,また,第2問では,参考条文として,ベルヌ条約パリ改正条約が挙げられており,一瞬,戸惑った受験生もいたのではと感じました。しかし,解答すべきことの中心は,多くの教科書にも書かれていることであり,きちんと準備をして試験に臨んだ受験生にとっては,問題文を読んでいくうちに,論点が見えてきたと思われます。
  ただ,細かな論点もあり,それらについても丁寧に論じていると,解答の分量が多くなりすぎたり,解答時間が足りなくなったりする可能性もあったと感じました。要領よく解答をまとめることが必要であったと思われます。
 
2 問題文
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3 本問の分析

〔第1問〕
1 設問1について
  まず,養子縁組の成立の問題は,法の適用に関する通則法(以下「通則法」といいます。)31条1項によって判断されることを指摘する必要があります。その上で,同条の適用では,AB夫婦が共同でDを養子とする場合であっても,ADとBDとの養親子関係の成立を分けて考えなければならないことを指摘しなければなりません。
  ADの養親子関係の成立の検討では,はじめに,本問の養子縁組の方法は,通則法31条1項前段より,養親の本国法である甲国法に従って,家事裁判所の決定によらなければならないことを説明しなければなりません。そして,日本の家庭裁判所(家事裁判所を代行することになる)に申立てを行うことが必要となる旨を説明することになります。
  次に,ADの養子縁組は,通則法31条1項前段より,養親の本国法である甲国法上の成立要件を満たさなければならないこと,さらに,同項後段より,養子の本国法である日本法が定める特別養子縁組(なぜならば,通則法31条1・2項によれば,本問で成立が検討されている養子縁組は,決定型・断絶型の養子縁組であるから)の子・第三者の承諾・同意等の要件を満たさなければならないことを説明します。特に,Cも承諾していることから,民法817条の6の要件(父母の同意の要件)を満たすことを説明することが必要になります。以上のことを踏まえることで,日本の裁判所は,ADの養子縁組を有効に行うことができると結論すればよいでしょう。
  さらに,BDの養親子関係の成立も,ADについて述べたことと同じであるので,ADとBDについてこれまでに述べたことを踏まえて,ABは,日本の家庭裁判所に申立てを行えば,Dとの養子縁組を日本で有効に行うことができると結論すればよいでしょう。
2 設問2について
  本問でも,はじめに,養子縁組の成立の問題は,通則法31条1項によること,および,ADとBDとの養親子関係の成立を分けて考えるべきことを指摘する必要があります(ここでは,「設問1で述べたように」と述べ,簡単に指摘することで足りるでしょう。)。
  そして,ADの養親子関係の成立は,通則法31条1項の前段と後段によれば,日本法によることを説明しなければなりません。
  これに対して,BDの養親子関係の成立は,同項前段によれば,養親の本国法である甲国法によるほか,同項後段によれば,養子の本国法である日本法が定める子・第三者の承諾・同意等の要件も満たさなければならないことを説明しなければなりません。その上で,同項前段が指定する養親の本国法である甲国法からの反致(通則法41条本文)が成立するかを検討しなければなりません。つまり,ここでは,いわゆる,「隠れた反致」が成立するかについて論じる必要があります。
  「隠れた反致」が成立することになれば,本問の養子縁組の成立には日本法のみが適用されることになり,日本法が定める普通養子縁組の要件を満たすことで,ABは,CDの親子関係を維持する養子縁組(実親との断絶効については,通則法31条2項)を行うことができると結論すればよいでしょう。
3 設問3について
(1) 小問1
  本問でも,はじめに,養子縁組の成立の問題は,通則法31条1項によること,および,ADとBDとの養親子関係の成立を分けて考えるべきことを指摘する必要があることは,これまでの設問と同じです。
  次に,通則法31条1項によれば,ADとBDの養親子関係の成立については,養親の本国法である日本法(前段)のほか,子・第三者の承諾・同意等の要件については,養子の本国法である乙国法が累積的に適用される(後段)ことになります。
  もっとも,通則法31条1項後段に関しては,同法41条の反致条項の適用の有無,すなわち,セーフガード条項と反致の関係が問題になるので,これについて論じなければなりません。反致が成立すると考えれば,本問の養子縁組には日本法のみ,反致が成立しないと考えるのであれば,日本法に加えて,子・第三者の承諾・同意等の要件については,乙国法が累積的に適用されることになります。
(2) 小問2
  本問では,〔小問1〕で反致が成立しないことを前提に,Eが通則法31条1項後段の「第三者」に該当するかという論点について論じることになります。

〔第2問〕
 1 設問1について
  ①の請求は,通則法19条,②③の請求は,通則法17条本文によって判断されることを論じればよいでしょう。
  特に,②③について論じる際には,「加害行為の結果が発生した地」がどの地であるかを丁寧に論じる必要があるでしょう(③に関して論じる際に,ベルヌ条約パリ改正条約を踏まえることになります。)。
2 設問2について
(1) 小問1
  まず,本件外国判決について執行判決が認められるためには,民事執行法24条3項が定める要件を満たさなければならないことを指摘する必要があります。
  その上で,本問では,特に,本件外国判決のうちの懲罰的損害賠償を認める部分が,同項が定める要件の1つである民事訴訟法118条3号の要件(公序の要件)を満たすかという点を中心に,最高裁判決や学説を挙げながら論じればよいでしょう。
(2) 小問2
  本問でも,はじめに,本件外国判決について執行判決が認められるためには,民事執行法24条3項が定める要件を満たさなければならないことを指摘する必要があります。
  その上で,本問では,直接郵送が,同項が定める要件の1つである民事訴訟法118条2号の要件(送達の要件)を満たすかについて,最高裁判決や学説を挙げながら論じればよいでしょう。
  なお,日本は,2018年12月21日,ハーグ送達条約10条a号の直接郵送等について拒否宣言をしました。

 
4 的中情報★★★

現在確認作業中です。判明次第,公開いたします。

 
 
 
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